AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 27, 2006, Vol.314


粘液カビの分類を再考する(Rethinking Slime Mold Taxonomy)

細胞性粘菌はモデルシステムの1つとして注目を集めているが、これ以外のこの古代の形態学的に多様なグループの分子的データはほとんど無い。これらの分類は50年前に最初に記載されたが、これは純粋に形態学的な観察に基づいている。Schaap たち(p. 661)は、すでに認識されている90種以上の分子マーカーを含む2種の独立な分子マーカーを利用して、分子に基づく細胞性粘菌Dictyosteliaの分子系統樹を構築した。この系統樹は4つの主要な分類群に分かれるが、形態学的な系統樹とはほとんど似てない。(Ej,hE ,so)
Molecular Phylogeny and Evolution of Morphology in the Social Amoebas p. 661-663.

誰が結局勝利を得るのか?(Who Gains Wins?)

我々はみんな、情報技術はスパムメールや、オンライン詐欺、ウイルスなどで損なわれていることを知っている。コンピュータネットワークセキュリティは、内部が複雑で世界中に広がっている可能性のあるシステムを守る必要があるが、単に行政側がこれらの問題の解決から利益を受ける立場にないということのために、しばしば防御に失敗する。AndersonとMoore (p. 610)は、経済学の考えを情報セキュリティに適用し、攻撃に対するシステムの弾力性を強化するためだけではなく、peer-to-peer(不特定多数の個人間で直接情報のやり取りを行なうインターネットの利用形態またはそのためのアプリケーション)、プログラムテスト、オンラインプライバシー、デジタル著作権管理政策の最適化設計のために応用できることを述べている。(Ej,nk)
The Economics of Information Security p. 610-613.

昼と夜、それもうんと遠くの(Night and Day, Far Away)

恒星の近くを回る惑星の大気の温度は昼と夜とで温度差が大きい。Harrington たち(p. 623, 2006年10月12日オンライン出版、および表紙参照)は、Spitzer宇宙望遠鏡でアンロドメダ座のυ星(Upsilon Andromedae)の最も内側の惑星についてこの効果を観測している。彼らはこの惑星の5日間の温度の変化がサインカーブのようであったことを測定した。熱の伝播は大気全体には及ばないため、惑星自身の熱伝達特性が測定できた。(Ej,hE,Ym,nk)
Andromedae b p. 623-626.

ねじれ、ひっくり返るブラウン運動(Brownian Motion with Twists and Turns)

球状の粒子のブラウン拡散はよく理解されていて、この研究はアインシュタインとペリンの研究に遡ることができる。しかし、楕円形の粒子の場合は回転運動と並進運動が影響を及ぼしあうため、問題はもっと複雑だ。この問題は理論的には研究されてきたが、回転運動と並進運動の相互作用を直接実証することはできなかった。Hanたち(p. 626)は、楕円形粒子の理論と実験を組み合わせ、短時間の異方性運動から長時間の等方性拡散への変遷を観察した。(Ej)
Brownian Motion of an Ellipsoid p. 626-630.

燃え上がるディスク(Flaring Disk)

若い星の周りに形成されるディスクは、その後に続く惑星形成の場所を提供する。太陽よりも重く、それに相応したより明るい星においては、平たい円盤の代わりに端の方で膨れ上がったすそ広がりの円盤か星を取り巻くガス殻が形成されるのではないかと議論されてきた。Lagageたち (p.621,9月28日にオンライン出版; Telesco による展望記事を参照のこと) は、恒星 HD 97048の周りにすそ広がりのガス円盤を発見した。この星の質量は太陽質量の 2.5倍である。すそ広がり円盤をモデル化することにより、彼らは、その円盤中の塵とガスの量を評価し、このすそ広がり円盤は今後塵円盤へと進化する前の段階にあることを示唆している。惑星形成はこのディスクの重力のみでは困難であろうが、幾つかの惑星がその内側の領域で形成された可能性がある。(Wt,nk)
Anatomy of a Flaring Proto-Planetary Disk Around a Young Intermediate-Mass Star p. 621-623.
ASTRONOMY: Born with Flare p. 605-606.

海洋でのアミノ酸の誕生 (Oceanic Birth)

生命誕生前の、それ故に酵素発生前の世界で、アミノ酸はどのようにして作られたのだろう?HuberとWaechtershaeuser(p.630)は、鉄とニッケルの粒子が、100℃の高温下で高圧のCOと塩基性の水溶液中でメチルチオラートや/或いはシアン化化合物の水和反応によってα-アミノ酸とα-ヒドロキシ酸の合成を触媒することを示している。著者たちは、原始地球で海洋の火山性の噴火口において、このような条件が存在していただろうと述べている。この結果は、これらアミノ酸やより複雑な有機還元体生成物の金属中心への配位により、徐々にFe-やNi-を含むヒドロゲナーゼ酵素が形成されるというモデルと一致している。(KU)
-Amino Acids Under Possible Hadean, Volcanic Origin-of-Life Conditions p. 630-632.

危険なるヒッチハイク(Dangerous Hitchhikers)

核廃棄物中の幾つかの危険な放射性核種は、可溶性のイオンとしてではなく、コロイドとして知られている小さな、ナノメートルサイズの粒子に結合して地下水中に運ばれる。しかしながら、プルトニウムを運ぶコロイドがどのような物なのか、かつどのぐらい移動しているのかは不確かであった。Novikovたち(p. 638)は、ロシアにおける主要な核廃棄物処理場でこれらの疑問の両方を解明した。そこでは、再処理に用いられたプルトニウム塩が地下水系と繋がっている湖を汚染していた。55年後に、プルトニウムは鉄-酸化物コロイドと結合して、4kmぐらい離れた場所に存在していた。(KU)
Colloid Transport of Plutonium in the Far-Field of the Mayak Production Association, Russia p. 638-641.

イオンチャネル複合体の形成(Formation of Ion Channel Complexes)

大きなコンダクタンスのCa2+と電圧-活性化のK+(BK[Ca])チャネルは、多くのニューロンの機能において多様で、重要な役割を果たしており、膜電位と細胞内カルシウムの間の結びつきを与えている。以前の研究では、ニューロン中でのBKチャネルとあるクラスの電圧-開閉Ca2+の間の強い機能的な関係を示唆している。しかしながら、このような結びつきの分子論的な基礎は不明である。Berkefeldたち(p. 615)は、BK[Ca]チャネルが電圧-開閉のCa2+と共に二分子の複合体を形成することを確かめた。この二分子複合体形成は、高速の局在化したCa2+-活性化K+シグナル伝達の基本であり、これがニューロン発火パターンと中枢神経系におけるホルモンと伝達物質の放出を制御している。(KU,so)
BKCa-Cav Channel Complexes Mediate Rapid and Localized Ca2+-Activated K+ Signaling p. 615-620.

蜂蜜ミツバチの生物学の進展(Advancing Honey Bee Biology)

西洋蜂蜜ミツバチApis melliferaのゲノムの配列決定が、最近完了し、蜂蜜ミツバチの生物学と進化の側面を解明する目的のさまざまな研究が始まっている(Pennisiによるニュース記事参照)。Whitfieldたちは、古世界(アフリカ、アジアとヨーロッパ)生まれの蜂蜜ミツバチの間の関係を再構築し、導入された新世界(北米および南米)のミツバチの、詳細なスケールでの集団遺伝学的解析を提示している(p.642)。Wangたちは、蜂蜜ミツバチにおいてDNAメチル基転移酵素相同分子種を同定し、その触媒作用活性を実証した(p. 645)。ゲノムやプロテオミクスによるアプローチと生物情報学的なアプローチを併用して、Hummonたちは、蜂蜜ミツバチのゲノム中に200個近くの神経ペプチド候補を同定したが、これはこの複雑な社会的生物の神経生物学を理解するための新しい手段を提供するものである(p. 647)。短信では、PoinerとDanforthが、琥珀の中に、彼らの被子植物受粉の役割に付随する花粉の痕跡と一緒に保存されていた100万年前の化石のミツバチについて記述している(p.614)。(KF)
Thrice Out of Africa: Ancient and Recent Expansions of the Honey Bee, Apis mellifera p. 642-645.
Functional CpG Methylation System in a Social Insect p. 645-647.
From the Genome to the Proteome: Uncovering Peptides in the Apis Brain p. 647-649.
A Fossil Bee from Early Cretaceous Burmese Amber p. 614.

アルツハイマーの酵素とミエリン形成(Alzheimer's Enzyme and Myelination)

β-セクレターゼ活性はアルツハイマー病における病理学的β-アミロイドの産生において非常に重要である。しかし、正常な生理学におけるその役割は、特にBACE1(β-部位アミロイド前駆タンパク質-切断酵素1)をノックアウトしたマウスにおいて明らかな表現型が存在しないという点で不明確である。Willemたちは、BACE1(ただし、その近い相同体BACE2は違う)が、ニューレグリン(NRG)に仲介される末梢神経ミエリン形成に必要となることを発見した(p. 664、9月21日にオンライン出版;またGlabeによる展望記事参照のこと)。NRG1はBACE1の生体内での基質であり、BACE-1をノックアウトしたマウスは、NRG1ヘテロ変異体マウスにおいて観察されるミエリン形成不全をその通りに表現型模写した。つまり、BACE-1はミエリン形成の発生の間で生理学的役割を担っているのである。(Kf,so)
Control of Peripheral Nerve Myelination by the ß-Secretase BACE1 p. 664-666.
BIOMEDICINE: Avoiding Collateral Damage in Alzheimer's Disease Treatment p. 602-603.

すべてのイオウはどこにいった?(Where Has All the Sulfur Gone?)

海洋のプランクトンは、巨大な量のdimethylsulfoniopropionateを産生するが、それは防御的な化学物質として、またオスモライトとして作用する。主要な崩壊産物の一つがジメチルサルファイド・ガスであり、これは気候に影響を与えるレベルでの大気中のエアロゾル形成に寄与している。増え続ける証拠からは、プランクトンにおける従属栄養細菌が、大気と海洋の間でのイオウ化合物の分配を制御するにあたって重要な役割を果たしていることが示されている(Malinによる展望記事参照)。Howardたちは、脱メチル化に関与する遺伝子を求めて、収集したメタゲノムを調査した(p. 649)。開かれた海洋では、Pelagibacterが最も重要な脱メチル化作用を持つものであるが、海岸の水辺では、Roseobacterがその役割を奪い取っている。Vila-Costaたちは、真核生物の珪藻やラン藻類もまた、プランクトンの食物ウェブの中でdimethylsulfoniopropionateを保持するよう働いていることを示している(p. 652)。この活動は光によって刺激され、季節性があり、イオウ化合物の輸送機構を含んでいるものらしい。(KF)
OCEANS: New Pieces for the Marine Sulfur Cycle Jigsaw p. 607-608.
Bacterial Taxa That Limit Sulfur Flux from the Ocean p. 649-652.
Dimethylsulfoniopropionate Uptake by Marine Phytoplankton p. 652-654.

嗅覚性の軸索の群れを導く(Herding Olfactory Axons)

哺乳類の嗅覚系において、感覚ニューロンはそれぞれたった1つの嗅覚受容体だけを発現し、同じ嗅覚受容体を発現するニューロンからの軸索は、何らかの方法で脳の単一の糸球体に収束するように処理されている。Imaiたちはこのたび、この問題に対して明快さと複雑さをもたらした(p. 657、9月21日にオンライン出版;またDulacによる展望記事参照のこと) 。軸索誘導は嗅覚受容体だけに依存していると考えられたが、今や、環状アデノシン 一リン酸(サイクリックAMP :cAMP)を含む分離されたシグナル伝達系が、前後軸にそった通常の位置まで軸索誘導に寄与しているらしい。(KF,so)
Odorant Receptor–Derived cAMP Signals Direct Axonal Targeting p. 657-661.
NEUROSCIENCE: Charting Olfactory Maps p. 606-607.

粒界に沿っての動き(A Walk Along the Grain Boundary)

多結晶物質における微細構造の進展は粒界の挙動に影響される。しかしながら、一個の粒界の移動度を測定することは困難であり、この現象を理解するにはシミュレーションの役割がますます重要となる。Trauttたち(p. 632)は、他の方法のほとんどが採用しているような大きな外力を負荷することなく、その代わりに局所的な拡散挙動の研究により外力ゼロの極限での平坦な一個の粒界の絶対的な移動度を測定できる技術を開発した。彼らは、以前報告された値よりもはるかに大きな移動度を見出したが、このことは不純物の存在が以前考えられた以上に、低速領域において移動度を高めている事を示唆するものであろう。(KU)
Interface Mobility from Interface Random Walk p. 632-635.

X-線による解離(X-ray Division)

圧力の増加と共に、水は数多くの相を形成するが、それにもかかわらずO-H結合は保持されている。Maoたち(p. 636)は、軟x-線を氷に照射すると、H2とO2に解離し、これらが一緒になって新しい固体の分子アロイを形成することを示している。このアロイは、驚いたことに圧力の変化や更なるx-線照射に対して安定である。(KU)
X-ray–Induced Dissociation of H2O and Formation of an O2–H2 Alloy at High Pressure p. 636-638.

紡錘チェックポイントをめぐる環(Ring Around the Spindle Checkpoint)

紡錘チェックポイントにおける中心体の分子的役割は、しばらくの間議論されてきた。Muellerたちはこのたび、核にある中心体タンパク質のサブセットの1つの機能、すなわち紡錘チェックポイントにおけるその関与について同定した(p. 654)。γチューブリン環タンパク質が、この経路における主要な2つのプレイヤー、BubR1とcdc20と共に、機能的かつ生化学的にチェックポイントの制御に組み込まれている。しかし、γチューブリン環要素の機能は中心体の統合性とは結びついておらず、またこの細胞小器官の局在性も必要としていない。(KF)
-TuRC Proteins in the Spindle Assembly Checkpoint p. 654-657.

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