AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 22, 2006, Vol.313


リボザイムの喪失と発見(Rybozymes Lost and Found)

自己-切断RNAや他のリボザイムは生命の起源において、いわゆるRNAワールドという中枢の役割を持っていると考えられている(Beenによる展望記事参照)。KleinとFerre-D'Amare(p. 1752)は、グルコサミン-6-フォスフェート(GlcN6P)の合成を制御している glmSリボザイムの結晶構造を報告している。このGlcN6Pは細菌の細胞壁の鍵となる代謝前駆物質である。その構造には、競合的阻害剤であるグルコース-6-フォスフェートへの結合と結合していない二つの切断前の状態と切断後の状態を含んでいる。代謝産物の結合により高次構造の変化を誘発する事で活性を制御している他のリボスイッチと異なり、Glmsにおいては、このリボザイムの高次構造は三つの状態総てにおいて類似している。GlcN6Pは前もって形成された部位に結合し、補酵素として働くべく正確に位置決めされている。 自己-切断リボザイムは哺乳動物では殆んど見出された事が無く、進化の過程で失われたものと推定されている。Salehi-Ashtianiたち(p. 1788)は、ヒトゲノム中でD型肝炎ウイルスのリボザイムと生化学的な、かつ構造的な特質を分かち合う自己-切断リボザイムを同定した。(KU)
MOLECULAR BIOLOGY: Versatility of Self-Cleaving Ribozymes p. 1745-1747.
Structural Basis of glmS Ribozyme Activation by Glucosamine-6-Phosphate p. 1752-1756.
A Genomewide Search for Ribozymes Reveals an HDV-Like Sequence in the Human CPEB3 Gene p. 1788-1792.

小惑星Vestaから産まれた隕石(Spawned from Vesta)

隕石は、惑星形成の初期段階を垣間見せてくれる。石鉄隕石は2つの主要な種類、パラサイト(pallasites)とメソジデライト(mesosiderites)に分かれ、それらは似通った源を持っていると考えられていた。Greenwoodたち(p.1763; 2006年8月24日電子版で公開、Claytonによる展望記事参照)は、それらの酸素同位体の特性が異なっており、異なった場所から生じたことを示唆していることを発見した。メソジデライトの性質は、NASAのドーン計画 (Dawn Mission) が目標とする第3番目に大きな小惑星Vestaに由来することを示している。パラサイトは、粉砕された小惑星からのコア-マントルの混合物質から成り、このことは大規模な小惑星の変形(asteroid deformation)は初期太陽系における惑星付着(惑星の集積。planetary accretion。)の重要な部分であることを示している。(TO,tk)
Oxygen Isotope Variation in Stony-Iron Meteorites p. 1763-1765.
PLANETARY SCIENCE: Enhanced: Meteorites and Their Parent Asteroids p. 1743-1744.

一個のパルスショットで総てを見る(All in One Shot)

超高速レーザーの研究は、一個の光パルスで化学反応を起こし、二つ目のレーザーパルスでその結果を調べるという事に基づいている。この二つのパルス間の時間を段階的に長くしながら、このようなプロセスを連続的に繰り返す事で測定がなされている。この方法では数多くのレーザー光のパルスショットが必要となり、試料が容易に損傷し、十分なデータが得られる前に規則的に配列している結晶が崩壊したりする。PoulimとNelson(p. 1756, 8月31日のオンライン出版;Apkarianによる展望記事参照)は、単一のフェムト秒のプローブパルスを横切る遅延勾配を作ることで、10ピコ秒に渡っての化学反応をサブフェムト秒の分解能で追跡できる方法を開発した。彼らは、結晶性のI3-に関する光解離と再結合の挙動を測定し、対分子の再結合が結晶構造に極端に依存している事を見出した。(KU)
Irreversible Organic Crystalline Chemistry Monitored in Real Time p. 1756-1760.
CHEMISTRY: A Pixellated Window on Chemistry in Solids p. 1747-1748.

小さな空孔の強み(A Small Advantage)

キャパシター(コンデンサー)は、乾燥した非導電性の層によって分離された導電性の箔に電荷を蓄積することにより作用する。スーパーキャパシターも、また、静的な形態で電荷を蓄積するが、多孔性の導電体と電解液とを用いて電荷を蓄積し、伝導するるという点で、バッテリーとも似ている。より大きな空孔はアニオンとカチオンとの移動度を増加させるため、より優れた特性を示すと思われていた。しかしながら、Chmiola たち (p.1760) は、1nm以下の小さな空孔に対しては、異常な電気容量の増加が見られることを示している。このことは、より高いエネルギー密度のスーパーキャパシターへの発展につながる可能性がある。(Wt)
Anomalous Increase in Carbon Capacitance at Pore Sizes Less Than 1 Nanometer p. 1760-1763.

ジッパーを開くに似た地震のメカニズム(Earthquakes Unzipped)

地震による破裂現象はクラックの伝播によって生じると思われていたが、最新の観測と理論によると、破裂のパルス状、あるいは、自己治癒モードの伝播によることが示唆される。一連のモデル実験によってLykotrafitis たち(p. 1765; Marone と Richardsonによる展望記事も参照)は、動的光弾性と、レーザー干渉技術を組み合わせ、摩擦によって保持された非干渉性の界面に沿って伝播する多様な破裂モードを観察し、現実的な状態での地震最中の断層における滑り現象を何が制御しているかを問うている。その結果、自己治癒的パルスが支配的であり、条件によるが、クラック様、あるいは、パルス様モードか、その両者が常に付随している。 (Ej,hE)
Self-Healing Pulse-Like Shear Ruptures in the Laboratory p. 1765-1768.
GEOPHYSICS: Do Earthquakes Rupture Piece by Piece or All Together? p. 1748-1749.

海洋表面の混合(All Mixed Down)

海洋の表面近傍の乱流は栄養分をより深い領域に運んだり、大気とのガス交換に役立っている。乱流混合に関する影響評価の多くは、風といった物理的な力に注目が集まっている。Kunzeたち(p. 1768: Kerrによるニュース記事参照)は、日中での深さ100mから黄昏時に表面へと動く大量のオキアミ(外洋の甲殻類の一種)の上昇が大きな乱流をつくり、入り江において他の時間帯で観測されたものより4桁も大きいものである事を報告している。このような影響が広範囲に起こっているとすると、生物学的な起因が有意に表面混合をもたらしているはずである。(KU)
Observations of Biologically Generated Turbulence in a Coastal Inlet p. 1768-1770.

対流圏での氷の形成(Icing Up)

巻雲は太陽からの短波長の光を反射し、反射された長波長の光を吸収する。これらの影響の大きさは巻雲を構成する氷の粒子の特性と、氷の粒子がどのように形成されて成長したかに依存する。Abbattたち(p. 1770, 8月31日のオンライン出版)は、氷が固体の硫酸アンモニウムのエアロゾル上での不均一な核形成により作られていることを示している。一般的な理論では、硫酸アンモニウムのエアロゾルは均一プロセスを介しての液体の状態から氷の核形成を行うと推定されていた。この知見は、今日自然発生的なアンモニア放出を上回る人為的なアンモニア放出が上部対流圏の氷の雲の形成にどのような影響を与えているかと言う問題に一石投じるものである。(KU)
Solid Ammonium Sulfate Aerosols as Ice Nuclei: A Pathway for Cirrus Cloud Formation p. 1770-1773.

気候と遺伝の変化(Climate and Genetic Change)

ある種の生物は通常温度以上の環境に晒されていると遺伝的変化を受ける。しかし、最近の世界的温暖化がすでにこのような変化を起こしているかどうかは不確かである。Balanya たち(p.1773)は、三大陸における26個のショウジョウバエ(Drosophila subobscura)集団について、13年から46年の範囲をカバーする期間における染色体の多形性(polymorphism)のデータをまとめた。ある期間と場所の気象記録によると、22個の集団において、最近の温暖化が遺伝子変化と関連しており、低緯度地方で遺伝的変化が多かった。(Ej,hE)
Global Genetic Change Tracks Global Climate Warming in Drosophila subobscura p. 1773-1775.

社会的経験と睡眠の必要性(Social Experience and the Need to Sleep)

睡眠は動物界で広く認められる現象であるが、これがなぜ有用であるのかは分かってない。ショウジョウバエを利用して、Ganguly-Fitzgerald たち(p. 1775)は、睡眠を必要とするその根底のメカニズム解明を目指した戦略を開発した。豊富な社会経験を有する個体は、この経験の少ない個体に比べて、長い睡眠時間を取っており、この経験依存の睡眠時間はドーパミンやcAMP(環状アデノシン一リン酸)シグナル経路のような学習や記憶処理に関与するプロセスによって促進される。17個の長期記憶遺伝子の変異が睡眠中の経験依存性変化を阻害することが分かった。(Ej,hE)
Waking Experience Affects Sleep Need in Drosophila p. 1775-1781.

感染性のアミロイド(Infectious Amyloid)

βアミロイドは、アルツハイマー病において鍵となる役割を果たしている。また、アルツハイマー病と狂牛病などのいわゆるプリオン病の間には、はっきりした病理学的類似性も存在している。Meyer-Luehmannたちはこのたび、大脳のβアミロイド-アミロイド症が、外来性のβアミロイドの豊富な脳抽出物の注入によって誘発されうること、また大脳のアミロイド誘導が、注入されるβアミロイド作用物とその注入物を受けたホストの、内因性の性質に依存していることを示している(p. 1781)。この結果は、プリオンの系統を思い出させるような様々な生物活性を有する多形性βアミロイド種の出現を示唆している。この知見は、タンパク質の凝集と組み立てに関わるいろいろな病気の間に共有性があることを強調するものである。(KF)
Exogenous Induction of Cerebral ß-Amyloidogenesis Is Governed by Agent and Host p. 1781-1784.

腫瘍が助けを求める(Tumors Send for Help)

固形腫瘍は増殖のために血液の供給を必要とするので、それを取り巻く宿主の内皮細胞を利用して新しい血管を作らせている。血液中を循環する内皮前駆細胞(EPCs)の助けを腫瘍が利用している程度については、いまだに議論の余地がある。マウス・モデルを調べることで、Shakedたちは、血管性粉砕薬剤(VDAs)と呼ばれる薬剤で腫瘍を処置すると、腫瘍の縁に、急激かつ劇的にEPCsが動員されることを示している(p. 1785)。EPCの動員が妨げられると、腫瘍は治療に対してより応答するようになった。つまり、ある環境下では、EPCsの腫瘍血管新生への寄与は、実際のところかなり実質的なものである。(KF)
Therapy-Induced Acute Recruitment of Circulating Endothelial Progenitor Cells to Tumors p. 1785-1787.

てんかんにおけるタンパク質経路(Protein Pathways in Epilepsy)

てんかんの一因は、脳で機能するタンパク質における変異である。Fukataたちは、ラットの脳のシナプスに存在するタンパク質の複合体のパートナーを同定した(p. 1792; またSnyderによる展望記事参照のこと)。さまざまな成分のうち、一つ(LGI1)はリガンドとして、一つ(ADAM22)は受容体として、一つ(PSD-95)は足場となるアンカーとして機能しているらしい。LGI1は興奮性シナプスの強さを制御している。この複合体のリガンドと受容体の双方は、遺伝と変異によって、ある種の型のてんかんの原因として関わっている。(KF)
Epilepsy-Related Ligand/Receptor Complex LGI1 and ADAM22 Regulate Synaptic Transmission p. 1792-1795.
NEUROSCIENCE: Adam Finds an Exciting Mate p. 1744-1745.

MHCにおける自己-非自己の区別を超えて(Beyond Self--Non-Self for MHC)

免疫系が自己組織と非自己組織を同定するために重要な主要組織適合複合体クラス1(MHC1)のタンパク質は、脳においても発見されている。Sykenたちは、MHC1タンパク質が結合する相手である受容体PirBが、脳のニューロンにおいても見出されたことを明らかにしている(p. 1795)。シグナル伝達能力を欠くPirB変異体を担うマウスでは、脳の全体構造は正常のままであった。しかし、それらマウスは、視覚野における可塑性が正常なものに比べてずっと大きかった。つまり、PirBを介しての細胞間シグナル伝達が、視覚野の可塑性を正常範囲内に保つために決定的であるらしい。(KF)
PirB Restricts Ocular-Dominance Plasticity in Visual Cortex p. 1795-1800.

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