AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 8, 2006, Vol.313


どの髭は何処にあるか?(Where's Which Whisker?)

マウスの三叉神経経路において、髭や下顎や唇などの、顔の異なる構造部分からの感覚入力信号は、位相幾何学的に異なる体性感覚皮質上に写像されるが、これは視床や後脳中の中継局を経由する。発生中の後脳では、このようなマップ形成のメカニズムは良く分かってなかった。Oury たち(p. 1408, 2006年8月10日、オンライン出版)は、マウスにおけるこの中の1つの中継局であるPrV核では、発生中のHox遺伝子の発現が、髭や上顎・下顎などのような部位別信号を区別し、この発生中のマップを保持するのを助けていることを示した(Ej,hE)。
Hoxa2- and Rhombomere-Dependent Development of the Mouse Facial Somatosensory Map p. 1408-1413.

地球型惑星の水(Water on Terrestrial Planets)

火星探査機のローバー「オポチュニティー(Opportunity)」が火星のMeridiani Planumを8kmにわたって移動し、探査機が見出したその特徴に関するSquyresたち(p.1403;表紙参照)による解析から、大昔の環境条件に関する情報が明らかになった。これらの特徴には、水の流れで形成された斜交層理、赤鉄鉱の豊富な凝塊の地層、風化した岩石の表面、及び硫酸塩の脱水によって作られるたような多角形の割れ目のネットワークが含まれている。玄武岩の化学変化により、7mの層位学的断面組成が説明される。顕微鏡的スケールから軌道的スケールに至る観察から、古代のMeridianiは豊富な酸性の地下水、乾燥して酸化的な表面条件、及び表面への時々の液体水の流れによって特徴づけられる。 我々の太陽系の外部に観測された巨大なガス状惑星の幾つかは、太陽系の巨大ガス惑星である木星と比べて、中心星にずっと接近した軌道を持っている。星からの距離が遠い地点では、原始惑星円盤中の残渣のガスから巨大なガス状惑星が容易に形成されるから、それらは形成後に渦巻状の軌道で徐々に内側に落ち込んで来たはずである。このプロセスはこの惑星系の他の惑星を巻き込んで破壊していくかもしれない。Raymondたち(p.1413)は、巨大なガス惑星が内方向に移動する惑星系における地球に似た惑星の挙動と形成に関するシミュレーションを行い、移動する木星型惑星の内と外の両方で地球型惑星が形成されるという事を示している。巨大な惑星軌道の外側、生命の存在可能な惑星温度となる軌道半径の領域内で、正に水の豊富な地球的な質量の惑星が形成される可能性がある。(KU,Ej,tk,nk)
Two Years at Meridiani Planum: Results from the Opportunity Rover p. 1403-1407.
Exotic Earths: Forming Habitable Worlds with Giant Planet Migration p. 1413-1416.

高くなり乾燥する(High and Dry)

アフリカ東部の植生は、800万年から200万年前の間に森林から草原へと徐々に変わっていった。この変化は、樹木よりも草が有利となる大気二酸化炭素の濃度減少による影響、海面温度の変化によって引き起こされる乾燥した期間の繰り返し、及び氷河期サイクルの開始による影響が原因と考えられていた。Sepulchreたち(p.1429)は、東アフリカ大地溝帯に沿った地殻変動による隆起が原因となる別の要因が乾燥を増大させてきたことを示唆している。その隆起は劇的な大気循環の再構成や猛烈な乾燥化を引き起こしたであろう。彼らは数値モデルを用いて、隆起による気候学的、かつ生物学的な影響を調べ、隆起が新第三紀後期のアフリカの気候を決定付ける主たる要因であると結論付けた。(TO)
Tectonic Uplift and Eastern Africa Aridification p. 1419-1423.

イオン性のエレクトロルミネセンス(Ionic Electroluminescence)

p型とn型の半導体の間での古典的なpn接合において、接合を介しての電子移動により発光ダイオード(LED)のように光を放射したり、或いは逆に、太陽電池のように光吸収により電流が流れたりする。Bernardsたち(p. 1416)はソフトコンタクトな薄膜の積層を用いて、二つの有機半導体間で陰イオンと陽イオンのイオン移動によるイオン接合を形成した。電子移動による古典的なpn接合と同じように、イオン電荷を巧みに利用する事でこのような半導体デバイスの電流の流れを制御できる。フォワードバイアス下ではエレクトロルミネセンスを示し、可視光照射により光起電力が発生した。(KU)
Observation of Electroluminescence and Photovoltaic Response in Ionic Junctions p. 1416-1419.

固体状態のもつれ(Solid-State Entanglement)

キュビット間のもつれは、提案されたあらゆる量子コンピュータのアーキテクチャにとっての必須の要望である。ソリッド-ステートな実装、特に超伝導キュビットは既存の半導体集積回路の製造技術と互換性があるという付加的な利点も有する。現在まで、単一の超伝導体に基づくキュビットは有望な結果を示してきた。Steffen たち(p.1423; Siddiqi と Clarke による展望記事を参照のこと) は状態トモグラフィーを用いて、二つの超伝導位相キュビット間のもつれが可能であることを示している。これらの新しい結果はスケーラブル量子コンピュータの基礎として、固体キュビットをロードマップ上に載せることになる。(Wt)
Measurement of the Entanglement of Two Superconducting Qubits via State Tomography p. 1423-1425.
PHYSICS: Entangled Solid-State Circuits p. 1400-1401.

海洋底の火山性の割れ目(Volcanic Cracks in the Ocean Floor)

地球上の火山活動は、プレート境界(例えば中央海嶺や島弧(island arcs))やマントルプルームのホットスポット上のプレート内部で生じている。Hiranoたち(p. 1426,7月27日のオンライン出版;McNuttによる展望記事参照)は、これらの主要な火山源のいずれとも異なる別タイプの火山の発見を報告している。プレート端から遠く離れた西太平洋において、海中作業ロボット「かいこう」の潜水により、、彼らは沈殿物で部分的に埋もれ、枕状熔岩と噴出物の破片で囲まれた小さな火山の頂を発見した。地球化学的な解析により、結果としての玄武岩は若く、アセノスフェアの100kmより深い所で形成された事を示唆している。このことは、この層が数パーセントの熔融物を含んでいる事を示唆している。著者たちは、このような「小さなスポット(petit spot)」の火山が割れ目に沿って成長し、そこではアセノスフェアが曲がって、熔融物を絞り出したと指摘している。(KU,Ej,nk)
Volcanism in Response to Plate Flexure p. 1426-1428.
GEOPHYSICS: Enhanced: Another Nail in the Plume Coffin? p. 1394-1395.

はつかねずみと人間と免疫(Of Mice and Men and Immunity)

免疫関連p47グアノシン三リン酸加水分解酵素(p47 guanosine triphosphatases)はマウス細胞中に見つかった自然免疫エフェクター類であり、これは細胞内の病原体に対して防御の役割を持っている。 Singh たち(p. 1438, 2006年8月3日オンライン出版)は、マウス細胞内で、これらの受容体の一つはオートファジー(自食作用)を通じて作用し、大きなオートリソソーム(autolysosomal)を誘導して、その結果細胞内結核菌桿菌を破壊することを示した。さらに、唯一のヒト相同分子である IRGM はオートファジーを経由して細胞内放線菌を制御する。(Ej,hE,nk)
Human IRGM Induces Autophagy to Eliminate Intracellular Mycobacteria p. 1438-1441.

酵母のヒト化(The Humanization of Yeast)

ヒトに似た炭水化物によって修飾されたタンパク質を産生する能力は薬物治療や構造研究上重要である。Hamilton たち(p. 1441)は、酵母Pichia pastorisの分泌経路を遺伝子操作して、治療に効果的なエリスロポエチン(erythropoietin)で、末端にシアル酸付加したヒト型N-グリカンを構造的に均一な複合体で産生させることについて述べている。遺伝子操作された細胞系列は全部で4個の遺伝子ノックアウトと14個の異種遺伝子を含み、この中の大部分は天然では見つかってなかったものであり、広範なスクリーニングによって発見される必要があった。(Ej,hE)
Humanization of Yeast to Produce Complex Terminally Sialylated Glycoproteins p. 1441-1443.

葉緑体分裂機構を解剖する(Dissecting Chloroplast Division Machinery)

葉緑体は内共生するラン藻の祖先から生じ、分裂によっても維持されている固有のゲノムを保持している。Yoshida たち(p. 1435)は紅藻のCyanidioschyzon merolaeから、ダイナミン(dynamin)とFtsZを含む、完全な環状葉緑体の分裂機構を単離した。分裂の初期に単離された環は超捩れ構造(supertwisted structure)(ラセン構造)を持ち、光ピンセットを使って元の長さの4倍の長さに可逆的に伸ばすことができた。環の収縮が進行するに従い、小さな環が産生され、ダイナミンが娘細胞の間の狭い橋を摘み取って切断した。このように、ダイナミンは葉緑体の分裂時にフィラメント・スライディングのメディエーターとして、及び切断酵素(pinchase)としての二つの働きをしているらしい。(Ej, hE,KU)
Isolated Chloroplast Division Machinery Can Actively Constrict After Stretching p. 1435-1438.

さらなる多様性を作り出す(Making Even More Diversity)

最近、非隣接性ペプチドを効果的な抗原へとまとめてスプライシングする際のプロテアソームの役割が発見された。Warrenたちは、白血病細胞に発現するある小さな組織適合抗原に対応している抗原ペプチドを同定した(p. 1444; またShastriによる展望記事参照のこと)。この抗原はまた、プロテアソーム中で親タンパク質の2つの非隣接性断片をスプライスシングによって作り出されたが、その2つの断片はそれらが親タンパク質中で生起しているのとは逆順にスプライスされた。こうした順序を変えられたペプチド断片のスプライシングは、アシル酵素中間物を含むペプチド基転移によって生じた。抗原ペプチドのこの産生モードは、クラスI分子上に提示される抗原ペプチドの多様性を拡大するもので、T細胞による腫瘍や病原体の認識に潜在的に関連するものなのである。(KF)
An Antigen Produced by Splicing of Noncontiguous Peptides in the Reverse Order p. 1444-1447.
CELL BIOLOGY: Peptides, Scrambled and Stitched p. 1398-1399.

清い身体は清い心?(Clean Bodies, Clean Minds)

清らかであることは、個人的衛生に関わる物理的な意味においてだけでなく、徳を感じることに関わる倫理的な意味においても、望ましい状態であるとみなされている。ZhongとLiljenquistは、物理的に手を洗うことと徳を感じることを結び付ける一連の研究を記述している(p. 1451)。倫理的に譲歩をした個人は、自分自身を清めたいという願望の増大を体験するが、物理的に清浄にすることは非倫理的行動の心理的結果を軽減させ、双方とも倫理的な情動を和らげ、倫理を償おうとする行動を減少させる。(KF)
Washing Away Your Sins: Threatened Morality and Physical Cleansing p. 1451-1452.

深く暗い湧出口(Deep Dark Seeps)

海洋の冷水湧出口(Oceanic cold seeps)は、有孔虫、二枚貝(clams)、イガイ(mussels)などの特殊な動物相を維持し、熱水噴出口や海底のクジラの死骸(whale-fall)における生物群集との類似性を示している。KielとLittle(p.1429)は軟体動物の化石記録を用いて、冷水湧出口における生物進化史を分析し、冷水湧出口の生物種は古いこと、しかし残存動物相(relic fauna)ではなく絶え間のない移入を経てきていること、その結果深海の生物相の進化パターンと類似する進化パターンを持っていることを示す。(TO)
Cold-Seep Mollusks Are Older Than the General Marine Mollusk Fauna p. 1429-1431.

サル見る1,2,3(Monkey See, One, Two, Three)

ヒトと動物は、一連の時間に眼にした品目を非言語的に列挙することができ、あるいはパターン中のドットの数を素早く見積もることができる。Niederたちは、あるパターン中のドットの数を見積もるよう、あるいは次々に現れる品目の数を数えるように訓練されたサルの頭頂骨内部の溝におけるニューロン活性を記録した(p.1431)。進行中の列挙プロセスを通して、ニューロンは空間的ないし時間的に配列された集合中の数量をコードしていたが、両方をいっぺんにコードしているわけではなかった。どちらの集合も数的情報を担っているので、量の情報は下流の処理段階で収束しないといけない。この収束は、ドットのパターンにその手がかりがあるのか、ドットの順序に手がかりがあるかには関わりなく、記憶期間中、品目の数をもっとも抽象的に表現している第3のニューロン集団において発見された。(KF)
Temporal and Spatial Enumeration Processes in the Primate Parietal Cortex p. 1431-1435.

配列進化なしの種分化(Speciation Without Sequence Evolution)

雑種不稔性は、1世紀以上にわたり、ダーウィンなどの多くのすぐれた科学者たちによって研究されてきたが、その分子的な基盤は未だ同定されていない。Maslyたちは、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)とD. simulansの交配の結果生じるF雑種不稔性の原因である、精子の運動性に関与する遺伝子JYAlphaを同定した(p. 1448)。種分化の間、遺伝子転位置によって、遺伝子は2つの異なった染色体上に位置することになり、遺伝子のいかなるコピーをも欠く生殖不能のFオスを生み出してしまう。つまり、配列進化なしに、生殖の単離が行われうるのである。(KF)
Gene Transposition as a Cause of Hybrid Sterility in Drosophila p. 1448-1450.

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