AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 4, 2006, Vol.313


全部がごたまぜ (It's All in the Mix)

ディープ・インパクト探査機からの発射弾が9P/テンペル1 彗星とぶつかり、その核内深部から純正な始原的物質を放り出した。Lisse たち (p.635, 7月13日付けオンライン出版) は、Spitzer 宇宙望遠鏡で撮られた赤外スペクトル中に、噴出物の鉱物組成を追跡した。その噴出物中に見られる物質の混合物は、通常は非常にさまざまな環境で見出されるものである。高い揮発性の有機物の氷や、水の豊富な環境で形成される粘土や炭酸塩、そして、1000Kを越える温度で作られる非常に結晶性の高いケイ酸塩などである。これらの結果は、45億年前の原始太陽系星雲(proto-solar nebula)の構造と力学とに対して示唆を与えるものである。(Wt,nk,tk)
Spitzer Spectral Observations of the Deep Impact Ejecta p. 635-640.

月の形状ミステリの解明(Moon Mystery Takes Shape)

1979年にラプラスが月の異常な形状に注目して以来、この月の独特の形状が科学者を悩ませてきた。月の地軸は自転と潮汐の影響による伸張により膨らんだ形をしているが、その偏位は現在の月の軌道にある物体に対しては余りにも大きすぎる。一つの説明として、月のマグマの海が固まって形状が固定化した月の歴史の初期の段階で、月の軌道が今と異なっていたという事である。しかしながら、これらのモデルでは正しい月の大きさと一致しない。Garrick-Bethellたち(p. 652,Innanenによる展望記事参照)は、もし月がその形成後1億年ぐらいの間、離心率の大きな細長い軌道で運動していたとすると、月の形状が説明可能であることを示している。月の軌道離心率がかなり大きく、かつ軌道長半径が地球半径の22−28倍と小さかった時期に、月の溶融マグマの海が固化したとすると、今日の月の重力場において見られるような膨らんだ形状(fossil bulge)がふさわしいものとなる。著者たちは可能な軌道に制限を加えている。許されるものの一つは高離心率で公転と自転の周期が同じ軌道であり、もう一つは、現在の水星の場合のように、自転周波数の公転周波数に対する比が3:2の共振関係を有するものである。(KU,Wt,nk,tk)
Evidence for a Past High-Eccentricity Lunar Orbit p. 652-655.
PLANETARY SCIENCE: Solving Laplace's Lunar Puzzle p. 622-623.

エアロゾルの影響評価(Assessing Aerosol Effects)

次の10年間に気候がどのように変化するかと言う問題の不確かさの多くはエアロゾルにある。というのは、エアロゾルが雲の特性や量に及ぼす影響が良く理解されていないからである--エアロゾルの正味の放射効果の推定値は平方メートルあたり0〜5ワットの範囲である。KaufmanとKoren(p. 655,7月13日のオンライン出版;Breonによる展望記事参照)はこのジレンマに向けて、世界的な自動計測ネットワークにより、雲のない場合でのエアロゾルによる太陽光の減衰測定とその場所を雲が覆っている時間割合を比較した。雲の被覆率は大気中のエアロゾル濃度に正の相関を示し、太陽光がエアロゾルによって吸収される量とは負の相関を示した。この発見はエアロゾルのタイプや位置には無関係であり、このような相関の多くが雲量に対するエアロゾル効果に由来する事を示唆している。(KU)
Smoke and Pollution Aerosol Effect on Cloud Cover p. 655-658.
CLIMATE: How Do Aerosols Affect Cloudiness and Climate? p. 623-624.

コールドアトム絶縁体のシェルの可視化(Imaging Shells of Cold Atom Insulator)

光学的な格子に閉じ込められた原子凝縮体のサイト間相互作用力やサイト占有数が調整できれば、凝縮系の物性物理学における電子相関を研究するうえで理想的な系となる。Cambellたち(p. 649)は、三次元の光学的格子におけるボーズ・アインシュタイン凝縮体の超流動-Mott絶縁体の転移を調べた。通常の原子時計と関連する高分解能のマイクロ波分光を用いて、彼らはMott絶縁体のシェルの層状構造を解明し、その空間密度分布を直接可視化した。(KU)
Imaging the Mott Insulator Shells by Using Atomic Clock Shifts p. 649-652.

ネトリンは自らのレパートリを拡大する(Netrins Expand Their Repertoire)

ニューロンが伸ばす軸索は込み入った複雑な相互接続したネットワークを伸展させる。同様に循環器系も相互接続された血管の複雑なネットワークである。Wilson たち(p. 640, 2006年6月29日、オンライン出版)は、血管と軸索が、もともと軸索ガイド因子と同定されていたネトリンに対して同様に応答することを示した。しかし、ネトリンのシグナルを読むために各組織が利用する受容体は同様ではない。ネトリンは未知の受容体を通じて血管新生を促進する。糖尿病や虚血性損傷を受けた組織をネトリンは刺激し、内皮細胞にシグナル伝達し、増殖と遊走を促すことで新たに血管を成長させる。(Ej,hE)
Netrins Promote Developmental and Therapeutic Angiogenesis p. 640-644.

特許に関する性差(Gender Gap in Patenting)

職場における性別格差に関する理由は、議論の多い問題である。Dingたち(p.665)は、4000人以上の生命科学者についての大規模な研究を提示し、そして女性科学者が彼女たちの発見に関して、男性科学者の半分以下の割合でしか特許を取らないことを示した。インタビューの結果から、性差は減少しつつあるにも関わらず、専門的なネットワークの差異や学問的な経歴についての従来からの考え方が、依然として要因であることが示された。(NF)
Gender Differences in Patenting in the Academic Life Sciences p. 665-667.

うまく、でも面倒くさくなく(Sweet But Not Sticky)

イムノグロブリンG(IgG)抗体は、正常な条件下では、抗-炎症作用を有するものであるが、しかしながら感染のあいだには、それらは炎症性細胞または炎症性経路を誘導することにより身体を防御する。Kanekoたち(p.670;BurtonとDwekによる展望記事を参照)はここで、IgGが免疫細胞上の受容体に結合し、活性化に関与するIgGの非-可変部分に存在する多糖類のシアリル化を修飾することにより、これらの状態のあいだを行ったり来たりすることを示した。これらの受容体は、IgGのシアリル化型と弱く結合し、そのことにより細胞にシグナルが伝達されて、その表面に阻害性タンパク質を装填する。しかしながら、免疫チャレンジの状況下ではシアル酸残基が失われ、そのことによりIgGをより緊密に結合させ、炎症性シグナル伝達が強くなる。このようにして活性を切り替えることにより、IgG抗体は、それらの炎症促進作用を感染期間に限定することができ、その活性により引き起こされる偶発的な悪影響の可能性を制限する。(NF,hE)
Anti-Inflammatory Activity of Immunoglobulin G Resulting from Fc Sialylation p. 670-673.
IMMUNOLOGY: Sugar Determines Antibody Activity p. 627-628.

繊毛とシグナル伝達と(Cilia and Signaling)

大半の脊椎動物細胞は、一次繊毛という細胞表面に突出する特殊な毛様オルガネラを有する。視覚、嗅覚、および触覚における一次繊毛の重要性は十分に明らかにされている。しかしながら、SinglaとReiter(p. 629)により概説されているように、最近になって、これらのオルガネラが、基本的なシグナル伝達経路における重要な因子であることが明らかにされ、それにより、繊毛欠損が、多岐にわたるヒト疾患の原因となっている理由を説明できるかもしれない。(NF)
The Primary Cilium as the Cell's Antenna: Signaling at a Sensory Organelle p. 629-633.

時計と細胞周期の関係(Linking the Clock and the Cell Cycle)

概日時計がどのように細胞周期と関連しているかは明らかではない。Pregueiroたち(p. 644;6月29日にオンラインで出版;表紙を参照)は、これらの2種類の基本的な細胞プロセスのあいだの関係を調べた。period-4(prd-4)と呼ばれる遺伝子に変異が存在する場合、アカパンカビの時計はより短い周期で動く。タンパク質PRD-4は、哺乳動物の細胞周期制御因子であるチェックポイントキナーゼ2のオーソロガス分子であり、PRD-4は概日時計により制御され、その一方で概日時計を制御する。DNA損傷剤は、時間帯(time-of-day)依存的に時計をリセットすることができ、そしてこの概日周期リセットは完全にPRD-4に依存している。(NF)
The Neurospora Checkpoint Kinase 2: A Regulatory Link Between the Circadian and Cell Cycles p. 644-649.

SNAREによって仲介される膜融合の理解(Understanding SNARE-Mediated Membrane Fusion)

細胞膜融合には、小胞と標的膜のSNARE(soluble NSF attachment protein receptor:可溶性NSF付着タンパク質受容体)タンパク質からの寄与による、4つのらせん体束の形成が含まれる。SNAREは最小の融合機構を構成し、リポソームの融合を促進する。Pobbatiたちは、SNARE組立てプロセスをより詳細に解明した(p. 673)。リポソームを用いた試験管内実験は、SNARE組立てが4つのらせん体束のN末端領域で引き起こされ、急速なリポソーム融合を駆動するのにそれで十分である、ということを示すものであった。Giraudoたちは、通常は細胞内膜において発現するSNAREタンパク質が「はじき出」されて細胞表面に曝されている系を用いた(p. 676、6月22日オンライン出版)。そのようなはじき出されるSNAREを発現する細胞は、自発的に融合する。融合クランプ(complexin)とカルシウム・センサー(シナプトタグミン)を導入することで、細胞-細胞融合は、神経伝達物質遊離の間に見られる制御に匹敵する方法で、カルシウムによって制御されている。(KF)
N- to C-Terminal SNARE Complex Assembly Promotes Rapid Membrane Fusion p. 673-676.
A Clamping Mechanism Involved in SNARE-Dependent Exocytosis p. 676-680.

情動、合理性、意思決定(Emotions, Rationality, and Decision-Making)

経済における意思決定の理論は、伝統的に人間は基本的に合理的な被造物である、と想定している。しかしながら、人間はいくつかの特徴的側面では、再現性のある形で不合理である。もっとも印象的な例の1つは、いわゆる「フレーミング効果」である。これは、選択肢をポジティブに提示するか、ネガティブに提示するか、ということだけで、その後の選択に劇的な影響が及ぶというものである。De Martinoたちは、扁桃体ベースの意思決定システムから生じる情動性バイアスの統合を、フレーミング効果の根底にある原因として同定している(p. 684; またMillerによるニュース記事参照のこと)。もっとも著しくは、彼らは、どの個人がもっとも合理的であるか、つまりフレーミング効果に対して相対的に免疫があるかを予想することができる。(KF,Ej)
[訳注];framing 効果とは、以下の例で示される。 ひき肉のパッケージを買う場合、同じ肉を入れた一方のパッケージには、「赤肉80%」、別のパーケージには、「脂肪20%」と表示された場合、あなたはどちらを選ぶか?という問いかけに対して、全く同じひき肉なのに多くの人は「赤肉80%」を選ぶ。同じ内容を表現する言葉によって選択結果に違いが出る現象をframing効果と呼ぶ。ある研究者は、無意識の感情の結果であると示唆している。 (
http://economistsview.typepad.com/economistsview/2006/08/the_framing_eff.html
Frames, Biases, and Rational Decision-Making in the Human Brain p. 684-687.

マラリアの抑圧(Malaria Repression)

マラリア寄生虫が性的ステージにある間の遺伝子発現を制御する機構を研究して、Mairたちは、一連の寄生虫のメッセンジャーRNAに結合し、それらを抑圧するRNAヘリカーゼを発見した(p. 667; またHajdukによる展望記事参照のこと)。このヘリカーゼは、細胞質のP顆粒、つまり翻訳の際に抑圧されるmRNAを含むリボ核タンパク質複合体内に発見されたが、これは受精後の活性化に備えて貯蔵されている。このヘリカーゼを欠く寄生虫は、配偶子融合の後で発生的に欠陥をしめす。マラリア寄生虫の複雑なライフサイクルにおける、キーとなるこの発生上の推移を理解することは、マラリアのコントロールについての新たな道を示すものとなるであろう。(KF)
Regulation of Sexual Development of Plasmodium by Translational Repression p. 667-669.
MICROBIOLOGY: Timing the Sexual Development of Parasites p. 626-627.

押してどかす(Push and Shove)

2004年12月26日の巨大なスマトラ-アンダマン地震は多様な観察がなされた。Hanたち(p. 658; およびPollitzによる展望記事参照)は、地震地域の500キロメートルの範囲で僅かな重力の変動を、人工衛星「Gravity Recovery and Climate Experiment (GRACE)」によって検出した。重力の変化に対する垂直方向の変動と、地殻とマントルの圧縮・拡張からの寄与は分離可能である。なぜならGRACEは後者の効果に特に鋭敏だからである。変動のプラスとマイナス異常値のモデル化によって、モホ面における断層の上盤と下盤のゆがみと、地殻とマントルの密度変化の両方を考慮することによって、この重力変化を再現することができる。(Ej,hE,nk)
Crustal Dilatation Observed by GRACE After the 2004 Sumatra-Andaman Earthquake p. 658-662.
GEOPHYSICS: A New Class of Earthquake Observations p. 619-620.

シグナル伝達キナーゼによる直接的な標的遺伝子結合(Direct Target Gene Binding by Signaling Kinases)

パラジウムを触媒にしたクロスカップリング反応は、ビアリール構造を作るための多用途の合成経路であり、それは医薬から農薬まで幅広い市販製品に用いられている。しかしながら、この反応の1つの弱点は、このプロセスで連結される2つのアリール環の1つを、前もって、ホウ素やスズ、マグネシウムなどの金属で活性化しておかなければいけない、ということである。Goo beta enたちは、場合によっては、特にニトロ放香族化合物(nitroaromatics)に対しては、化学量論的に活性化する金属の代わりにカルボキシル基が利用できる、ということを示している(p. 662)。ある銅触媒は、パラジウムと直列的に作用させることで、アリール・カルボキシル化合物にアリール・ハロゲン化物を160DEGCでカップリングさせる効果があった。この方法の利点は、アリール・カルボキシル化合物を作るのが簡単で低コストであることと、金属性の副産物を無毒のCO2に置き換えられることである。(KF,hE)
Synthesis of Biaryls via Catalytic Decarboxylative Coupling p. 662-664.

チェックポイントのオン・オフの再度の切り替え(Switching a Checkpoint On and Off Again)

紡錘チェックポイントは、染色体の動原体が紡錘微小管に付着するまで、また姉妹動原体を逆の紡錘極の方に引くよう張力が適用されるまで有糸分裂の完了を遅らせることで、細胞分裂の際の染色体の正確な分布を保証するキーとなっている機構である。ではなぜ、後期(anaphase)が開始され、姉妹染色分体が分離を始めたとき、そのチェックポイントは再活性化しないのだろうか。Palframanたちは、APC(後期促進複合体、つまり分解のためにタンパク質を標的にするユビキチンE3連結酵素複合体)とMps1(チェックポイントのシグナル伝達経路の一部であるタンパク質キナーゼ)の間に働く相互抑制性のフィードバックループに関して記述している(p. 680、7月12日オンライン出版; またHoytによる展望記事参照のこと)。ひとたびチェックポイント条件が満たされて後期が開始すると、Mps1によるAPC の抑制は決定的な閾値の下になってしまうらしい。この時点で、APCは明らかに「オン」状態になり、後期(anaphase)が促進され、Mps1(これ自身がAPCの標的である)は分解されて、もはやチェックポイントを活性化することが出来ない。(KF)
Anaphase Inactivation of the Spindle Checkpoint p. 680-684.
CELL BIOLOGY: Extinguishing a Cell Cycle Checkpoint p. 624-625.

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