AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 21, 2006, Vol.313


風の方向に対する地表検証(Ground Truth for Wind Direction)

観測データが存在する以前の年代において、風の向きを記録している数少ないプロキシ(代用物)の一つが砂丘であり、この砂丘はまた、乾燥状態をも記録している。Sridharたち(p.345)は、北アメリカの中央大平原にある草地化して安定した砂丘を分析し、1000年前から800年前の間に (この期間は一般に中世の温暖期と呼ばれる)長期間乾燥状態にあったことを示している。現在は春から夏の雨季にメキシコ湾からの湿った南風が吹いているが、当時は乾燥した南西部からの風向きが卓越したことが原因となって、その乾燥は起こった。(TO,Ej,nk)
Large Wind Shift on the Great Plains During the Medieval Warm Period p. 345-347.

金触媒による選択的還元(Just Enough Reduction with Gold)

アニリンの誘導体である芳香族アミンを含めて、多くのアミン化合物は対応するニトロ化合物の還元によって作られる。しかしながら、オレフィンの二重結合に水素付加反応することなくニトロ基を還元する多くの合成法は、収率が低かったり、好ましからざる副生成物が出来たり、或いは特別な触媒の調合や共触媒の制御が必要となったりする。CormaとSerna(p. 332, Blaserによる展望記事参照)は、TiO2やFe2O3上に担持された金がニトロ基を選択的に還元することを報告している。例えば、3-ニトロスチレンは不要なヒドロキシルアミンを作ることなく、95%を越える選択性でもって3-アミノスチレンに還元される。(KU)
Chemoselective Hydrogenation of Nitro Compounds with Supported Gold Catalysts p. 332-334.
CHEMISTRY: A Golden Boost to an Old Reaction p. 312-313.

より速い充放電(Deliver More Faster)

バッテリーや燃料電池は電流を蓄えたり、発生するのに用いられている。しかしながら、ハイブリット車といった応用において、キャパシターはもっと効率的に電流を蓄えたり、放電する可能性がある。必要とする誘電材料の設計において、蓄え可能な電荷の量と充放電速度との間には、しばしばトレードオフの関係がある。誘電性のポリマーは有望なる材料であるが、低誘電率のため電荷密度が低く、高い絶縁破壊電圧のお陰で大きなエネルギ密度を得ている。Chuたち(p. 334)は、可逆的な非極性と極性の分子構造の変化を組み合わせる事で高い電束密度を実現し、更に比誘電率の調整により電圧に対する早い分極飽和を回避する事で、大きな放電速度と低誘電損失を持った非常に大きなエネルギ密度の材料が欠陥の少ないポリ(ビニリデンフルオライド)ポリマーでもって得られる事を示している。(KU)
A Dielectric Polymer with High Electric Energy Density and Fast Discharge Speed p. 334-336.

凍りつかないゆらぎ(Unfrozen Fluctuations)

通常の強磁性体、或いは、反強磁性体では、強い磁場は磁化を特別の結晶方位にピン止めする傾向がある。対照的に、高移動度二次元電子系(two-dimensional electron systems ;2DESs)に基づいた量子ホール系 では、そのような好ましからざる摂動はなく、二次元の低エネルギー物理を実験的に研究するのに理想的な機会を提供してくれる。Kumada たち(p.329) は二つのわずかに離れた 2DES の層からなる系を用いて、スピンの自発的配向を考察した。低周波数の電子−スピン間のゆらぎは、0度の極限においてさえも凍結することはなく、これは、2次元系における斜め(canted)反強磁性体配向の特徴である。(Wt)
Low-Frequency Spin Dynamics in a Canted Antiferromagnet p. 329-332.

量子ドット集合体の干渉性(Coherence in a Quantum Dot Ensemble)

量子ドット上の電子スピンは長い緩和時間を持つため、量子コンピューティングの基本要素であるキュビットの有望な候補である。しかしながら、量子ドットの集合体においては、スピン特性の不可避的な非均一性により、数ナノ秒の時間スケールでの特徴的な急速位相ずれが引き起こされ、その時間は単一スピンの干渉時間よりもはるかに短い。Greilich たち (p.341) は、急速位相ずれに関するこの問題を周期的なレーザーパルス列を用いて、ドットの集合体にスピン干渉性を形成することにより克服した。これにより、干渉時間は数マイクロ秒まで延長された。(Wt)
Mode Locking of Electron Spin Coherences in Singly Charged Quantum Dots p. 341-345.

エネルギ庫の形成(Producing the Powerhouses)

ミトコンドリアは明瞭なる真核細胞の特徴の一つである。Dolezalたち(p. 314)は、進化や分子生物学、及び細胞生物学の分野での最近の研究をレビューし、ミトコンドリアタンパク質の移入経路がどのようにして確立されたかを示している。そこでは、タンパク質輸送というこの経路をもたらした一連の分子機構に関する特質を含んでいる。ミトコンドリア機構の作用に関する進化と比較側面は 、通常の細胞機構の進化を理解する上での青写真を与えるものである。(KU)
Evolution of the Molecular Machines for Protein Import into Mitochondria p. 314-318.

RNAサイレンシングへの第三の道(A Third Way to Silence RNA)

2つの特徴のはっきりしたRNAサイレンシング経路では低分子RNAを用いている。低分子の干渉性(si)RNAはRNA干渉(RNAi)におけるターゲティング分子として作用し、マイクロ(mi)RNAは低分子の非翻訳RNA遺伝子としてゲノム中にコードされている。異なってはいるが、これらの経路には、例えば22個のヌクレオチドという特徴的な長さを持ったRNAを作るエンドヌクレアーゼダイサーといった多くの成分が分担している。Vaginたち(p. 320, 6月29日のオンライン出版)とLauたち(p. 363, 6月15日のオンライン出版)は、動物における生殖系列において、30個のヌクレオチドの低分子RNAで特徴付けられる第三の推定RNAサイレンシング経路に関する初めての特徴づけを報告している---ショウジョウバエではrepeat associated(ra)siRNAと呼ばれ、哺乳動物ではPiwi-interracting(pi)RNAと呼ばれる(Carthewによる展望記事参照)。両者のケースで、これらのRNAはセンス鎖、或いはアンチセンス鎖のいずれかに、稀には両方の鎖に特異的にマップ化されており、この事は、siRNAやmiRNAと対照的に、これらのRNAは2本鎖のプレカーサに由来していないことを示唆している。rasiRNAとpiRNAは、RNAiとmiRNA経路で見出されたAgoタンパク質の相同体であるpiwiタンパク質でもって精製される。ダイサー酵素はrasiRNAの形成には関与していないようであり、そして不思議なことに、弱いスライシング活性がpiRNA複合体と関係している。(KU)
A Distinct Small RNA Pathway Silences Selfish Genetic Elements in the Germline p. 320-324.
Characterization of the piRNA Complex from Rat Testes p. 363-367.
MOLECULAR BIOLOGY: A New RNA Dimension to Genome Control p. 305-306.

輸送障害とシヌクレインの毒性(Transport Difficulties and Synuclein Toxicity)

パーキンソン病にはαシヌクレイン (α Syn)の発現の異常な増加が見られ、、ハエ、虫、マウス、ラット、そして人間など、多くの神経細胞においてもαSynの発現増加は有毒である。Cooper たち(p. 324, オンライン出版2006-6- 22) は細胞生物学と遺伝学の技術を組合せ、αSynの毒性を解明した。αSynの発現増加によって、小胞体(ER)とゴルジ体間の小胞輸送が抑制される。さらに、ゲノム全体に渡るスクリーンニングによって高度に保存されたER-ゴルジ体輸送成分のクラスを同定し、これが毒性を抑制する可能性がある。このER―ゴルジ小胞―仲介輸送の遮断によって、パーキンソン病やその他のシヌクレイン障害(synucleinopathies)では、なぜドーパミン産生ニューロンが優先的に影響を受けるのかが説明できると思われる。(Ej,hE)
-Synuclein Blocks ER-Golgi Traffic and Rab1 Rescues Neuron Loss in Parkinson's Models p. 324-328.

膜調節方法はもっとある(More Ways to Modulate a Membrane)

細胞脂質の再構築は、アポトーシスなどのいろんな場面で重要であり、しばしば陰イオン性脂質の変化に限って関与する。Youngたち(p. 347)は、マクロファージ中の受容体食作用中の原形質膜中の内側表面電位の局在的変化について述べている。食作用性カップの基底の部分で局在化された表面電荷の変化が観察されたが、他方、原形質膜の残りの部分では変化は無かった。この表面電位の変化は食作用中の脂質の再構築が原因であり、これには、ホスホイノシチドの加水分解とホスファチジルセリンの再分布が生じる。更に、表面電荷が局所的に減少すると、膜からいくつかのシグナル伝達タンパク質が乖離する。(Ej,hE)
Receptor Activation Alters Inner Surface Potential During Phagocytosis p. 347-351.

ミツバチの減少(Bees in Decline)

自然風景や農業地のどちらにおいても花粉媒介昆虫と花粉媒介作業の減少が、一般的関心ばかりでなく政策決定者の関心をも大きく引き付けている。Biesmeijer たち(p. 351; 表紙の写真、および、 Stokstadによるニュース記事も参照)は過去と現在のデータを用いて、イギリスとオランダにおいて花粉媒介昆虫の多様性の減少と、外交配植物種の減少との間には関連があることを見つけた。花粉媒介昆虫の媒介花粉に特化した機能が混在している場合は、その機能混合度合いが大きくシフトし、ミツバチの多様性が減少すると、これらに花粉媒介を依存する植物種は減少する。(Ej,hE)
Parallel Declines in Pollinators and Insect-Pollinated Plants in Britain and the Netherlands p. 351-354.

ウイルスRNAの周りのリング(Ring Around the Viral RNA)

マイナス鎖RNA(negative-stranded RNA)ウイルスではウイルス性ゲノムのRNAは、転写と複製のテンプレートとしての役割をする核タンパク質複合体に結合する。Albertini たち(p. 360, オンライン出版、2006-6-15)、および、 Green たち(p. 357, オンライン出版、2006-6-15)は狂犬病ウイルスと水疱性口内炎ウイルスから得られた組換え核タンパク質で作られたリボ核タンパク質リングの構造をそれぞれ決定した。両方のケースとも、核タンパク質はオリゴマーとなってリング構造が出来、このリング内ではRNAが核タンパク質の2つの領域間に隔離され、それによって宿主細胞の生得的免疫系による攻撃から守られている。RNAはそれでもプロセシングのために入手可能でなければならないが、構造の詳細な検討からタンパク質の動きがどのようにして、リボ核タンパク質複合体の完全性を維持しながらRNAの暴露を実現するかが明らかになった。(Ej,hE)
Crystal Structure of the Rabies Virus Nucleoprotein-RNA Complex p. 360-363.
Structure of the Vesicular Stomatitis Virus Nucleoprotein-RNA Complex p. 357-360.

封じ込められた細胞に対するストレスの低減(Less Stress for Encapsulated Cells)

単細胞生物をセンサーあるいはバイオリアクターとして用いるためのカプセル化はチャレンジングなことである。例えば、界面活性物質を鋳型にしたシリカ・ネットワークを作るための乾燥段階が、細胞を溶解させる表面ストレスを生み出してしまうし、より進んだ作成プロセスでは、細胞生存率を高めるために緩衝液中に保存したり、高湿度中に保っておかないといけないようなネットワーク作りを行っている。Bacaたちは、細菌(大腸菌や枯草菌)と同様、酵母の生きた細胞が、両親媒性のリン脂質と一緒になって、より安定したネットワーク形成のための鋳型として利用できることを示している(p. 337)。細胞表面が、ストレスを最小化するように鋳型プロセスを仕向けている。酵母細胞の50%以上は、大気中という条件下で合成後4週間生存可能であった。脂質界面はかなりの流動性的があり、その場でのさらなる細胞表面修飾が可能許である。(KF)
Cell-Directed Assembly of Lipid-Silica Nanostructures Providing Extended Cell Viability p. 337-341.

マグネシウム輸送体の構造(Magnesium Transporter Structure)

細胞内濃度を適切に維持するために、細胞膜を横切っての二価の金属陽イオンの輸送は高度に制御されている。Eshaghiたちは、Thermotoga maritimaから得られたMg2+輸送体CorAの2.9 オングストローム分解能での構造を用いて、古細菌におけるマグネシウム輸送についての洞察を提示している(p. 354)。長い疎水性ポアが、細胞質入口にあるアスパラギン酸の環と、周辺質側にあるカルボニルの漏斗に結びついている。この構造が選択性フィルターとして働いている可能性がある。さらに、2つの部位における金属結合が輸送を制御しているらしい。(KF)
Crystal Structure of a Divalent Metal Ion Transporter CorA at 2.9 Angstrom Resolution p. 354-357.

異数性によるアゾール薬剤の回避(Azole Avoidance by Aneuploidy)

カンジダアルビカンスは人間へのありふれた真菌病原体であり、アゾール化合物の広範な使用に応じて薬剤耐性の増加を示している。カンジダは完全な生殖周期をもっていないが、染色体コピー数を変える(異数性)という可塑性のゲノム寛容性を有することで、潜在的な遺伝的多様性の損失を補償しているようだ。Selmeckiたちは、この菌における様々なアゾール耐性の程度が、異数性の変化の程度と可逆性の程度、特にアゾール薬剤の標的酵素を発現する遺伝子を担う第5番染色体の左腕のそれと結び付いているということを発見した(p.367)。耐性のある臨床分離株から薬剤のプレッシャーを除去すると、異数性は薬剤耐性と同様に減少した。(KF)
Aneuploidy and Isochromosome Formation in Drug-Resistant Candida albicans p. 367-370.

田んぼのメタン生成菌についてのゲノム学(Paddy Field Methanogen Genomics)

田んぼは、メタン生成古細菌によって産生される温室ガス、メタンの世界的な源である。コメの根圏にいるコメ・クラスターI(RC-I)メタン生成菌は、高度に代謝的に活動的であり、植物由来の炭素からのメタン生成においてキーとなる役割を果たしている。Erkelたちはこのたび、混合培養濃縮によって得られたRC-Iメタン生成菌の完全なゲノム配列を得た(p. 370)。このゲノムのデータは、RC-I古細菌が、田んぼにいる他のメタン生成菌グループにいかにして打ち克つことができたか、についての洞察を提供してくれる。例えば、田んぼのメタン生成菌は、同化作用性の硫酸塩還元のための経路や、他のメタン生成古細菌では見出されていない酸素毒性に対処する機構を持っている。(KF)
Genome of Rice Cluster I Archaea—the Key Methane Producers in the Rice Rhizosphere p. 370-372.

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