AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 14, 2006, Vol.313


広まるには十分のダスト(Enough Dust to Go Around)

超新星爆発は、死につつある星の残り火からダスト(ほとんどは、炭素とケイ酸塩粒子)を銀河全体、あるいは、さらにその向こうまで拡散させてきたと考えられている。しかしながら、これまでの観測では、この考えを支持するに足る十分な量のダストを超新星中に見出すことができていない。Sugerman たち(p.196, 6月8日のオンライン出版; Dwek による展望記事を参照のこと) は、Spitzer 宇宙望遠鏡を用いて、最近の超新星である SN2003gd の周りの暖かいダストからの赤外発光をマップ化し,従来このような天体で見出されていたものの10倍以上のダストを発見した。超新星SN2003gd として爆発した星は、太陽よりも大きな質量を有し、初期宇宙で最初に爆発した大質量で短命の星に類似している。ここで見出されたダストは、超新星が初期宇宙での主要なダスト製造工場であり、その後最初の銀河全体に重元素を撒き散らしたとするのに十分な量である。(Wt,Ej,nk)
Massive-Star Supernovae as Major Dust Factories p. 196-200.
ASTRONOMY: The Supernova Origin of Interstellar Dust p. 178-180.

恐竜の年齢(The Ages of the Dinosaurs)

恐竜のグループの生活史全体、特に中年期や老年期まで生き延びたその割合については殆ど判っていない。Ericksonたち(p. 213; Stokstadによるニュース記事参照)は、短期間で死んだティラノサウルスの化石が保存されているカナダのアルバータ州近くの堆積地(deposits)を利用し、そして他のティラノサウルスとの比較により、生存寿命表を作成した。その結果は、若年期の生存率は高いが、ほんの少数だけが非常に大きな体格や20年から30年の老年期になることを示している。(TO)
Tyrannosaur Life Tables: An Example of Nonavian Dinosaur Population Biology p.213-217.

摩擦コントロールへの道(Routes to Friction Control)

機械的システムを縮小するにしたがって、摩擦と磨耗をマクロ的な機械とは異なった形で扱う必要がある。即ち、材料が磨り減っていないのに、デバイスが故障し、液体潤滑剤は狭いスペースの中で粘着性になりがちである(Carpickによる展望参照)。Socoliucたち(p. 207)は、摩擦を減らすためのダイナミックなアプローチを紹介している。彼らは、塩化ナトリウム塩(NaCl)と臭化カリウム塩(KBr)の結晶表面の法線方向に摩擦力顕微鏡の尖鋭なシリコンチップを機械的な共振を励起しながら、その表面上にチップをスライドさせている。振動周波数が法線方向におけるチップの機械的共振点(あるいはその値の半分)と一致したとき、摩擦は急激に減少した。横方向の共振点の励起は何の影響も与えていなかった。垂直方向の動きにより、摩擦は依然として有限であるがスティック・スリップ挙動がない相互作用領域をチップは見つけることが出来る。Parkたち(p. 186)は、電荷を蓄積したり、あるいは空にすることにより、シリコン表面と原子間力顕微鏡の金属膜プローブ・チップとの間の摩擦力が変化することを発見した。試料がプラスにバイアスされたとき、p型ドープ領域では摩擦力が増加するが、n型ドープ領域では摩擦力は変わらなかった。(hk,KU,og)
PHYSICS: Controlling Friction p. 184-185.
Atomic-Scale Control of Friction by Actuation of Nanometer-Sized Contacts p. 207-210.
Electronic Control of Friction in Silicon pn Junctions p. 186.

エマルジョンの検討(Examination Emulsions)

エマルジョンは、お互いに混じりあわない二つの液体を混合した際に生じる。一方の成分の液滴は界面活性剤の添加により安定化される。小さな液滴サイズ(10μm以下)の場合、内圧によって液滴は安定化し、液滴間の相互作用は無視できる。大きな液滴サイズ(100μm以上)においては、界面の変形と流体力学的な力が支配的となり、この種の力は数多くの技術で測定されている。Dagastineたち(p.210)は、中間的な大きさの液滴(10μm〜100μm)を研究する方法を開発した。界面変形や流体力学的な作用といった総てが、液滴間の相互作用に関する全体的な挙動に寄与しており、今日のエマルジョンの振る舞いに関するモデルは、妥当なものではないかもしれない。(KU)
Dynamic Forces Between Two Deformable Oil Droplets in Water p. 210-213.

一次元のウィグナー結晶(One-Dimensional Crystal)

ウィグナー結晶化は、クーロン相互作用が電子の運動エネルギーよりも強い電子系における通常の結晶に関連した状態であり、二次元や三次元の電子系で観測されている。Yamamotoたち(p. 204)は2本の密に配置された平行なナノワイヤーを用いて、一次元系での実現に向けてクーロン抵抗力(Coulomb drag )実験を行った。一方のクーロン力を使った牽引用ナノワイヤー(drive wire)中への電子の注入により、もう一方の抵抗ワイヤー(drag wire)中で電子が引っぱられる(drag)。通常では、引っぱられる電子の方向は引っ張るワイア(drive wire)中の電流の流れる方向であるが(positive Coulomb drag)、この場合、彼らは逆方向のクーロン抵抗力(negative Coulomb drag)を観測し、引っぱられた電流(drag current)は引っ張る(drive)電流と逆方向に流れていく。彼らは、このマイナス方向のdrag 電流をdrag wire中に流れる電子のウィグナー結晶化として説明している。(KU,Ej)
【訳注】ウィグナー結晶;電子のみで形成される結晶
Negative Coulomb Drag in a One-Dimensional Wire p. 204-207.

アルギニン化の効果を決定する(Nailing the Effects of Arginylation)

アルギニン化は胚発生で重要な翻訳後の修飾であるが、アルギニン化のタンパク質標的と分子論的影響は殆ど知られていない。Karakozovaたち(p. 192, 6月22日のオンライン出版;Bulinskiによる展望記事参照)は、分子レベルや細胞レベルでの影響を持つ単一の標的タンパク質のアルギニン化による制御を示している。豊富にあり、必須の細胞内タンパク質であるβ-アクチンが、in vivoでアルギニン化され、この修飾によりアクチンの重合や細胞の運動性、及び運動性細胞のラメラ形成が制御される。(KU)
Arginylation of ß-Actin Regulates Actin Cytoskeleton and Cell Motility p. 192-196.
CELL BIOLOGY: Actin Discrimination p. 180-181.

形質置換の研究( A Study in Character Displacement)

動物の野生個体群の長期に渡る研究は生態学的、かつ進化的なプロセスを理解する鍵となる。すでにこれまでの研究で、ガラパゴス島のダーウィン・フィンチの個体群において、食糧供給が変化した時にクチバシのサイズが進化することが立証されている。Grant夫妻(p. 224; Pennisiによるニュース記事参照)によって続けられた研究は、2つの種の間のクチバシサイズの分岐という形質置換(character displacement)に導くような競合種(competitor species)が引き起こす進化のシフト(evolutionary shift)を明らかにしてきた。この系の33年間に渡る研究で記録された最も強烈な進化的変化である。自然界における形質置換に関するこの実証は種分化、適応放散(adaptive radiation)、そして生態学的共同体の構成における競合的相互作用(competitive interaction)の理論を確かにする。(TO)
Evolution of Character Displacement in Darwin's Finches p. 224-226.

破壊的影響(Destructive Influence)

植物は多くの微生物による感染に対して強力な防衛システムを進化させてきた。しかし、シュードモナス菌(Pseudomonas syringae)のような病原体は、エフェクタータンパク質を植物の標的細胞に注入し、免疫系を抑止し、破壊的病気を起こす。植物の病気を起こす細菌の毒性タンパク質が何を標的とするのかについては分子レベルで解ってなかった。Nomura たち (p. 220)は、毒性タンパク質のHopM1が、植物の防御タンパク質であるAtMIN7を標的にし、植物自身のプロテアソームでAtMIN7を破壊させることを明らかにした。AtMIN7は、通常では植物への病原体進入に対する細胞壁応答を構築するための小胞輸送で機能している。(Ej,hE)
A Bacterial Virulence Protein Suppresses Host Innate Immunity to Cause Plant Disease p. 220-223.

こうやってサソリを捕まえるんだよ(This Is How We Catch Scorpions)

教育は全ての人類に普遍的に見られる。では、他の動物種には明瞭な教育の例があるだろうか?Thornton and McAuliffe (p. 227; see the cover)は、野生のミーアキャット(meerkats; Suricata suricatta)の観測と野外での実験を通じて、エサの捕食技術の教育の役割について報告している。教師は子供の前では態度を変えて、彼らを徐々に獲物に慣らしていき、子供たちが獲物を扱うのを見守り、獲物を押しやり、逃げ出した獲物を連れ戻し、必要ならば獲物を扱いやすい形にさえするのである。サソリのような危険な餌は、他の生き餌に比べて、殺したり、動けなくして、子供の捕食訓練材料として提供される場合が多い。教師は獲物を子供たちに与えることからは直接的な利益は一つも得ないし、扱いが困難で逃げてしまうかも知れない獲物を子供たちに与えるためにむしろ損害を被るのである。人間以外の種での教育の証拠が見つからないのは、明白な教育の現場を観察することが無いためであって、教育そのものが無いためではないのかもしれない。(Ej,hE,nk)
Teaching in Wild Meerkats p. 227-229.

内部の事情を語る(A Getting-Inside Story)

外被ウイルスは宿主の膜と融合してゲノムを宿主に供給する。コンフォメーションを変えることで膜融合を行う2つのクラスのウイルス性糖タンパク質が同定された。しかし、多くのウイルス性融合タンパク質は、このどちらにも属さない。Rocheたち(p. 187)は、水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus)から得られた非定型膜融合糖タンパク質(G)の結晶構造を決定し、Heldwein たち(p.217) は、単純疱疹 ウイルス (HSV-1)の複合体細胞侵入機構の保存成分である糖タンパク質 B (gB)の構造を決定した。予想外に、GとgBは、クラスIとIIからの融合タンパク質の両方を併せた特徴と相同的であった。この相同性によってgBがHSV-1のウイルス性膜融合因子(fusogen)であることが同定されたが、これはウイルス性融合タンパク質の進化を考える上で興味深く意義深い。(Ej,hE)
Crystal Structure of the Low-pH Form of the Vesicular Stomatitis Virus Glycoprotein G p. 187-191.
Crystal Structure of Glycoprotein B from Herpes Simplex Virus 1 p. 217-220.
BIOCHEMISTRY: Viral Glycoproteins and an Evolutionary Conundrum p. 177-178.

ヒストン様タンパク質の新たな役割(New Role for Histone-Like Protein)

細菌は外来性のDNAを自分のゲノムに取り入れることができる(たとえば、抗生物質耐性遺伝子や病原性因子など)が、このプロセスは有害な影響を防ぐように制御されなければいけない。Navarreたちは、新規な遺伝子の流入を制御するが、新しい機能の進化を許すような機構が存在する証拠を得ている(p.236, 6月8日にオンライン出版)。水平的に獲得されたDNAは、しばしばそのAT-GC含量の偏りにより細菌によって認識されることがある。面白いことに、サルモネラ菌から得られたあるヒストン様タンパク質H-NS(histone-like nucleoid structuring protein)は、その後遺伝子発現が抑制されることになるAT豊富な領域に対する謎めいた非特異的な親和性を有している。AT領域についてのこの認識は、自己-非自己識別の1つの形式であるようだ。(KF)
Selective Silencing of Foreign DNA with Low GC Content by the H-NS Protein in Salmonella p. 236-238.

細菌性の金の塊(Bacterial Gold Nuggets)

いくつかの研究が、環境における金の循環に微生物が関与していることを示しており、金塊形成のための微生物による機構について仮説が立てられている。Reithたちはこのたび、活動的な細菌性バイオフィルムが、オーストラリアの鉱山から得られた二次的な金粒子に付着していることを発見した(p. 233; またKerrによるニュース記事参照のこと)。彼らはそれらバイオフィルムのコミュニティー構造を評価し、貴金属の解毒と沈殿のための潜在的な代謝の仕組みだけでなく、金粒子に付着したキーとなる生物体を同定した。(KF)
Biomineralization of Gold: Biofilms on Bacterioform Gold p. 233-236.

酵素の電場の試験(Field Testing of Enzymes)

酵素の活性部位を囲む電荷と双極子の総計は、基質の応答性にインパクトを与えるのに十分なほどの局所的な電場をしばしば生み出す。この電場の強さは構造-機能関係の理解と、合理的薬物設計の探求にとって中心的でありうる。しかし、そうした電場の正確な測定や予測は、微妙な高次構造の変化に対する極端な感受性により阻害されている。Suydamたちは、阻害薬に付加されたニトリルグループを用いて、ヒトのアルドース還元酵素の活性部位における構造変化によって誘発された局所的な電場の変化を追跡した(p. 200)。ニトリルは結合相互作用によって化学的に修飾されないので、その伸縮周波数の変化は、場の変化に直接的に起因するものである。著者たちは、理論的シミュレーションに側鎖の高次構造上の平衡も含めることで、計算上の電場の強さと観察された電場の強さの間で良い一致が得られた。(KF)
Electric Fields at the Active Site of an Enzyme: Direct Comparison of Experiment with Theory p. 200-204.

細胞外カルシウムの門番(Gatekeeping Extracellular Calcium)

イノシトール1,4,5-三リン酸受容体(IP3R)は、細胞内の貯蔵所からの制御されたカルシウムの遊離を可能にしている。この受容体はまた、細胞内の他の区画にも存在することが報告されているが、その役割ははっきりしていなかった。Dellisたちは、非常に少数(1つの細胞あたり2個)のIP3Rが原形質膜中に存在しており、そこでは、IP3RがB細胞受容体の刺激後のB細胞へのカルシウム流入のかなりの部分を担っているらしい、ということを発見した(p. 229; またGillたちによる展望記事参照のこと)。修飾されたIP3Rを発現する細胞は、細胞表面における記録されるチャネル電流の特性を変化させ、外部に適用されたチャネル制御装置に応答する。つまり、著者たちは、IP3Rにより細胞内二次メッセンジャーIP3が原形質膜を介しての内部的に貯えられたカルシウムの小胞体からの遊離と細胞外からの遊離の双方を引き起こしている、と提唱している。貯蔵されていたものが枯渇すると、原形質膜を通してのカルシウム流入が引き起こされることは知られていたが、原形質膜IP3Rは内部貯蔵の枯渇に対しては非感受性であるらしい。(KF)
Ca2+ Entry Through Plasma Membrane IP3 Receptors p. 229-233.
SIGNAL TRANSDUCTION: Calcium Entry Signals--Trickles and Torrents p. 183-184.

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