AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 7, 2006, Vol.313


保存に対する地球規模でのプライオリティ(Setting Global Priorities for Conservation)

地球規模での生物多様性の保存優先度に関する少なくても9つの主要な雛型が、過去10年間に発表された。しかし、この提案は同時期に並行して進められてきた系統的な保存計画から切り離されていた。Brooksたち(p.58)は,様々なアプローチがより幅広い保存計画理論の前後関係の中で、お互いがどのように関係しているかをレビューしている。これらの提案の間で共通の領域はどこであるかがわかり、ある地域を保護すべき必要性がより明白になった(KU,Ej,nk)
Global Biodiversity Conservation Priorities
p. 58-61.

光子対の明るい源泉(Bright Source of Photon Pairs)

相関を有する光子の対は、非線形結晶中でのパラメトリックな下方変換(down-conversion)によって生成することができる。しかし、この方法では、量子暗号のような領域での活用が実現できるほどの十分な光子対を提供できない。Thompson たち (p.74) は、光学キャビティ内のレーザー冷却されたセシウム原子雲を光学的にポンピングし、毎秒50,000個の相関を有する光子対を作り出せることが判った。これらの光子対は原子や分子と強く相互作用するのに十分な狭いライン幅を有している。(Wt)
A High-Brightness Source of Narrowband, Identical-Photon Pairs
p. 74-77.

音楽のトポロジー(The Topology of Music)

西洋音楽において、和声(和音を形成する音符の選択)と対位法(個々の音符が旋律音を作るように調和良く連結する技法)が一緒になって、作曲の基礎となっている。ハーモニーの規則と対位法の規則は、一体となって美の基準となっているが、作曲家にとってはときどき調和することが困難となる制約を課している。Tymoczko(p. 72; Hookによる展望記事参照)は、「orbifold」と呼ばれるトポロジー構造を利用する西洋音階の12音を構成するための数学的体系を検討している。この「orbifold」においては、和音はトポロジー空間における点であり、またこれらの点を連結する線は、和音がどのように次の段階に進むかを示している。(hk)
The Geometry of Musical Chords
p. 72-74.
MATHEMATICS: Enhanced: Exploring Musical Space
p. 49-50.

長期に渡って高い標高を保つSierra Nevada 山脈(Standing Long and Tall)

多くの岩石中の無水の長石鉱物は水によって粘土に変えられる。雨水の水素同位元素組成は高度によって異なるので、地表の風化によって出来る粘土鉱物のカオリナイトは古代の川原の丸石中に保存されており、古代の川の標高を推測するために利用できる。Mulchたち(p.87)はこの原理を使って、5千万年前のSierra Nevada 山脈の地形を推測した。現在のSierra Nevada は海面から約2000 メートルの高度があるが、これがいつ頃上昇してきたかは広く議論されてきた。保存された古代川筋の丸石中の水素の同位体データは、今日の水域の値と似ていることから、Sierra Nevada は始新生以来高い標高を保っていることが推測される。(Ej)
Hydrogen Isotopes in Eocene River Gravels and Paleoelevation of the Sierra Nevada
p. 87-89.

光生成された電荷を捕らえる(Snagging Photogenerated Charges)

生物学的な光化学系は入念なタンパク質-発色団構造を利用し、光誘導電荷を再結合させること無く分離し、化学反応に有効に利用する。Bhosale たち(p. 84; Kinbara and Aidaによる展望記事参照)は、小胞の内側と外側表面の光誘導で生じた電荷が再結合する前に、電子とホール受容器に分離する光化学系を合成した。脂質小胞中では、フルオロフォア(fluorophores)は4量体として、表面同士を重ねて積み重ねられた自己組織化された分子となっている。可視光の下でこれらの組織は長寿命の電子-ホール対を形成し、小胞内部のキノンを還元し、周囲の溶液内のEDTAを酸化した。その結果、介入物の添加によって小胞内外間のpH勾配が解放され、チャネル構造として光化学系の再構造化が生じる。(Ej,hE)
-Stacked Fluorophore Scaffolds in Lipid Bilayers
p. 84-86.
CHEMISTRY: From Electron Pump to Proton Channel
p. 51-52.

上手に着こなしたハエ(The Well-Dressed Fly)

キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は、前羽対と、平均棍と称する小さな1対の相同構造物を身に付けているが、これは飛翔中のバランスを取るのに役立つ。Crickmore と Mann (p. 63, 6月1日のオンライン出版参照、および Sternによる展望記事参照)は、発生中の羽と平均棍の大きさの制御の変化を調べるために、遺伝的解析を使った。ホメオティックな選択遺伝子であるUltrabithorax (Ubx)が平均棍原基の大きさを制御しており、その結果、モルフォゲンDecapentaplegic (Dpp)の発現と移動度を、Dpp受容体であるthickveinを経由して制限することで、平均棍そのものを制御している。このように、選択遺伝子は、成長因子とその受容体の両方を制御することで、器官の大きさの制御が可能となる。(Ej,hE)
Hox Control of Organ Size by Regulation of Morphogen Production and Mobility
p. 63-68.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Morphing into Shape
p. 50-51.

ウイルス防御によるサイコロ転がし(Dicing with Viral Defense)

RNAサイレンシングにおいて、ダイサーのエンドヌクレアーゼは二本鎖RNAを切断して相補的RNA配列を標的とする小さな干渉RNA(siRNA)を産生する。植物のシロイヌナズナには4つのDicer様の酵素があり(DCL1からDCL4まで)、これらは各々、ミクロRNA(miRNA)、天然のアンチセンスsiRNA、反復付随性siRNA、および、トランス活性siRNAの生成に関与している。Deleris たち(p. 68, 6月1日のオンライン出版参照、および、表紙、Waterhouse と Fusaroによる展望記事参照)は、シロイヌナズナのDicerは等しく個別の役割を持って植物を感染から防御しており、特にDCL4とDCL2は主要で部分的に重複する役割を持って、ウイルス性siRNAを抗ウイルス性エフェクターのRISCに取り込む。また、DCL4はシロイヌナズナの脈管構造の外側でのウイルス移動を阻止する役割も果たす。(Ej,hE)
Hierarchical Action and Inhibition of Plant Dicer-Like Proteins in Antiviral Defense
p. 68-71.
PLANT SCIENCE: Viruses Face a Double Defense by Plant Small RNAs
p. 54-55.

抗生物質のストレスへの抵抗(Resisting Antibiotic Stress)

抗生物質を処置する際の好ましからざる影響は、細菌の耐性遺伝子の増加と耐性を持った細菌の亜集団の選択的な生存による抗生物質への耐性促進である。Prudhommeたち(p.89)は、抗生物質への爆露のストレスが肺炎レンサ球菌における応答能(偽似有性的遺伝子変化「parasexuality」))のトリガーとなっていることを見出した。新たな抗生物質耐性遺伝子の獲得を可能にしているだけでなく、病原性の決定要因の獲得をも可能にしている。自然な形質転換が広範囲に起きており--約50種の様々な細菌で観測された。抗生物資によって刺激されるというこの発見は、戦略的な抗生物質の開発において重要な意味を持っている。(KU)
Antibiotic Stress Induces Genetic Transformability in the Human Pathogen Streptococcus pneumoniae
p. 89-92.

マウスとマンモスの毛色(Of Mice and Mammoths)

新たな環境への生物の順応の根底にある分子レベルの遺伝的変化は何だろうか?フロリダ半島のメキシコ湾側のバリア島の海浜砂丘に住んでいるビーチマウス(peromyscus polionotus)は、ふくろうや鷹の餌であり、身を隠す能力により選択的生存をしている。ビーチマウスは、彼らの本土の仲間と比べてより明るく、かつ異なる色模様を持っている。Hoekstraたち(p.101)は、このような毛色の変化に関する主要な決定要因がメラノコルチンー1受容体であり、明暗の色素を作るスイツチとして関与している事を示している。このビーチマウスは本土のより暗いビーチマウスと比べて一個のアミノ酸が変化しているだけであり、このアミノ酸が毛色の変化に対応している。不思議な事に、フロリダ半島の大西洋側海岸のビーチマウスはこの対立遺伝子を持っておらず、彼らの明るい毛色は独自に進化したことを示唆している。Romplerたち(p.62)は、毛深いマンモスからのメラノコルチンー1受容体に関する遺伝子を調べ、そしてこのケースでは更に、明暗の毛の各々にメラノコルチンー1の存在が対応していた。(KU,Ej,nk)
A Single Amino Acid Mutation Contributes to Adaptive Beach Mouse Color Pattern
p. 101-104.
Nuclear Gene Indicates Coat-Color Polymorphism in Mammoths
p. 62.

血液が運ぶプリオンタンパク質(Blood-Borne Prion Protein)

プリオンタンパク質(PrP)は、様々な進行性の、致死的な神経変性疾患をもたらす感染媒体であると考えられている。最近、変異クロイツフェルト・ヤコブ病(狂牛病、ウシ海綿状脳病の人型)に関する3つのケースで輸血により感染したことが報告された。それ故に、供血者のスクリーニングを可能とする症状発現前の診断テストが重要となる。Saaたち(p.92)はin vitroでの増殖法により、臨床的な疾病発現のかなり前に実験的に感染させたマウスの血液中でPrPの生化学的な検出を可能とする方法に関して記述している。Trifiloたち(p.94)は、トランスジェニックマウス系でのスクレイピー感染を調べた。このマウス系では内在性のマウスのPrPは膜アンカーを欠如している。これらのマウスは神経学的な問題は示さなかったが、心臓病が発生した。更に、病に関連する折り畳みのPrPタンパク質であるPrPresが、何等の増殖の必要も無く無稀釈の血漿中で検知された。(KU)
Presymptomatic Detection of Prions in Blood
p. 92-94.
Prion-Induced Amyloid Heart Disease with High Blood Infectivity in Transgenic Mice
p. 94-97.

折り畳まれていないタンパク質応答の微調整(Fine-Tuning of the Unfolded Protein Response)

折り畳まれていないタンパク質の応答(UPR)は、ストレスに曝された後の細胞の生存の制御において中心的な役割を担っている。このUPRには、小胞体(ER)内の折り畳まれていない、あるいは間違って折り畳まれたタンパク質のレベルの増加によって刺激される、多様な範囲の転写性および翻訳性の応答が含まれている。UPRはいろいろな戦略を用いることで、細胞が急性の折り畳みストレスを生き延び、また細胞の要求に合わせてER折り畳み能力を微細に調整できるよう、一貫した応答を提供している。HollienとWeissmanは、UPRに関わるさまざまなプレイヤーの出力を系統的に探索した(p. 104; またRonによる展望記事参照のこと)。彼らは、IRE1(ERの折り畳み状態をモニターする膜貫通タンパク質)が、ER結合メッセンジャーRNAの直接的不安定化によって、ER標的メッセージのサブセットの急速かつ頑健な下方制御を仲介していることを発見した。(KF)
Decay of Endoplasmic Reticulum-Localized mRNAs During the Unfolded Protein Response
p. 104-107.
CELL BIOLOGY: Stressed Cells Cope with Protein Overload
p. 52-53.

自己組織化に関する窓(A Window on Self-Assembly)

生物学的系においては、ペプチドやグリカン、脂質などの基礎単位間の非共有結合性相互作用が、著しく複雑な凝集構造の形成をもたらしている。最近、化学者たちは同様の自己組織化戦略を、ナノメートルからマイクロメートルのサイズの領域における合成構造の形成に適用しようと探求してきた。しかしながら、合成系における凝集の機構は殆ど確立されていない。Jonkheijmたちは分光学的プローブを用いて、oligo(p-phenylenevinylene)(OPV)化合物のあるクラスが、炭化水素溶液中で冷却されることでらせん状の積み重なりを形成する状況を明らかにした(p.80; またPercecたちの展望記事参照のこと)。彼らは、およそ20から40段積み重なったOPV二量体の予備的核形成がらせん体の協同的組立をもたらすことを発見した。さらに、凝集の程度は、溶媒鎖中の偶数の炭素の存在と相関しており、これは溶媒分子がこのプロセスにおいて直接的役割を果たしていることを意味するものである。(KF)
Probing the Solvent-Assisted Nucleation Pathway in Chemical Self-Assembly
p. 80-83.
CHEMISTRY: Self-Assembly in Action
p. 55-56.

融解した金属合金上の薄い層(A Thin Lid on a Metal Alloy Melt)

融解前の表面層は広く観察されておるが、バルクな液体の固化した表面層の形成は複合液体や液晶、或いは希薄金属合金で主に観察されている。Shpyrkoたち(p.77)はx線回折により、融点を超える温度で金-シリコン(Au82Si18)の共融組成における結晶性の表面単分子層の存在の証拠を示している。その下の7〜8層は規則的な原子層を形成しており、横方向には流動性を持っている。この結晶化は、バルクなAu-Si系がガラス相のみであっても生じているが、シリコンの多い表面領域から部分的に起こっている可能性がある。(KU,Ej)
Surface Crystallization in a Liquid AuSi Alloy
p. 77-80.

樹木は自ら生きつつ他を生かす(Trees Live and Let Live)

熱帯性森林における種の豊かさに関する仮説の1つは、種の間の個体群統計の変動(補充率と死亡率)が多くの種の共存を許す重要な因子である可能性がある、というものである。熱帯の樹木の死亡率に関する研究の多くは、個々の種を考慮に入れず、代わりに森全体を単位として焦点を当ててきた。熱帯のさまざまな場所で、最近数十年に渡って確立された、大きな、定期的にモニターされたサンプリングデータが、いまや実は結びつつある。Conditたちは、種による差を考慮に入れ、コミュニティー全体にわたるすべての種の間の差を数量化した(p.98;6月8日にオンライン出版)。予測とは違って、より多様性のある場所ほど死亡率の変動が少なく、つまり個体群統計上のニッチも少なかったが、これは種の共存においては、個体群統計の変動は小さな役割しか果たしていないことを示唆するものである。(KF,Ej)
The Importance of Demographic Niches to Tree Diversity
p. 98-101.

細胞周期が細胞質分裂に結びつく(Cell Cycle Links to Cytokinesis)

有糸分裂の後で、細胞は、細胞質分裂として知られるプロセスにおいて互いに物理的に分離しなければならない。細胞質分裂の失敗は、腫瘍形成を促進することがある。Yoshidaたちは、細胞周期シグナルが、Rho-型GTPasesと細胞質分裂の制御にどのように結びついているかを検討した(p. 108;6月8日にオンライン出版)。出芽酵母をモデルに用いて、著者たちは保存されたシグナル伝達経路を同定した。この経路により、有糸分裂のポロキナーゼが、すべての真核生物における細胞質分裂に必要な低分子量のGTP分解酵素であるRho1を直接的に制御することによって収縮環組立を制御している。(KF)
Polo-Like Kinase Cdc5 Controls the Local Activation of Rho1 to Promote Cytokinesis
p. 108-111.

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