AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 30, 2006, Vol.312


近道で家に帰る(Take the Short Way Home)

アリが巣から外に出て餌を探す旅ではあてもなくさまよっているが、帰りはまっすぐな経路をとっている。こうするためには推測航法(dead reckoning)により位置を確認しなければならず、それには移動した距離を測る能力が求められる。アリがどのようにその距離を測っているのかは不明確であった。Wittlingerたち(p.1965)はアリの足を長くしたり短くしたりする単純な実験により、アリは彼らの歩みをカウントすることで距離を測っていることを示した。(TO)
The Ant Odometer: Stepping on Stilts and Stumps p. 1965-1967.

プレ寒冷気候(Precooling Climate)

およそ8200年前に、北大西洋域で突然の大規模な寒冷化現象が起こり(8.2 ky event)、さもなくば安定していたはずの完新世の気候にピリオドが打たれた。Ellisonたち(p. 1929; Kerrによるニュース記事参照)は、極地に近い北大西洋からのプランクトン性有孔虫(planktonic foraminifera)の記録を提示し、この地域の海水は8.2 kyeventよりも200年以上前に冷水化し淡水化していたことを示している。8.2 ky eventは、本格的な寒冷化現象の数世紀前に始まったLaurentide氷床から融解して放出された水によって引き起こされたらしい。そして深海水循環の強さの変化に関係していたと考えられる。(TO)
Surface and Deep Ocean Interactions During the Cold Climate Event 8200 Years Ago p. 1929-1932.

ゆっくりと、しかし、しっかりと動き続ける(Moving Slowly but Surely)

断層に沿った最も一般的な動きは地震にともなう動きであるが、地震を伴わないすべり(aseismic slip)も同時に起きる。Hsu たち(p. 1921)は、2005年3月28日、スマトラ沖のSunda巨大衝上断層(megathrust)に沿ったNias-Simeulue地震後の破壊帯上や近傍の地域をGPSで連続観察したデータを解析した。非地震性の余効すべり(afterslip)は2005年破壊帯近傍の滑り込み巨大衝上断層(subduction megathrust)で今でも生じており、それもほとんどが上方に傾斜した方向に、その平均的な地震休止期間の何倍も大きな速度である。このとき開放されたエネルギーは、瞬間地震で換算してマグニチュード8.2に相当する。何波もの余震も見られ、この数は余震の変位量に釣り合うことから、ほとんどの余震は主震によるものではなく、余効すべりが原因と思われる。(Ej)
Frictional Afterslip Following the 2005 Nias-Simeulue Earthquake, Sumatra p. 1921-1926.

砂糖からプラスチックへの道(Toward Plastics from Sugar)

市販の化学製品はその究極における資源として石油を用いており、それに代わる供給原料としてバイオマスといった再生可能な資源利用に大きな関心が持たれている。Roman-Leshkovたち(p.1933)は、ポリエステルの合成用に強い可能性を持っているフランの誘導体、5-ヒドロキシメチルフルフラルをフラクトース(果糖)の酸-触媒脱水反応によって作る効率的な合成法を報告している。彼らは2相系を用い、選択性を高めるジメチルスルホキシドといった極性の非プロトン性の添加物を含む水溶液中でこの反応が行なわれた。生成物は低沸点の有機相中に連続的に抽出される。この系は、90%のフラクトース転化率において希望の生成物を80%を越える選択性でもって実現している。(KU)
Phase Modifiers Promote Efficient Production of Hydroxymethylfurfural from Fructose p. 1933-1937.

鉄酸塩の仲間(A Companion for Ferrate)

6価の酸化状態における稀有な鉄の事例がFeO42-の鉄酸塩イオンであり、この化合物の極端に強い酸化力は付随的な6価の鉄化合物に関する研究を長い間刺激してきた。Berryたち(p.1937,6月1日のオンライン出版)は、Fe()アジド錯体に関する一連の電気化学的酸化反応と光分解反応により、77ケルビンで安定な八面体配位したニトリドFe()を作った。分光学的特徴と密度関数理論から、この化合物は反磁性基底状態、及び鉄-窒素の三重結合と一致している。温度を上げると、この化合物は三電子酸化剤として振る舞う。(KU)
An Octahedral Coordination Complex of Iron(VI) p. 1937-1941.

低分子の指揮官(A Small Director)

酵素は、水素結合により基質をある特異的な向きに配列させて選択性を高めたりする。Dasたち(p.1941;Mas-BallesteとQueによる展望記事参照)は、低分子の触媒でもこのような配列効果をもたらす事を示している。彼らは、配位子中に注意深く導入されたカルボン酸基(COOH)を持つ二マンガン錯体を合成した。このカルボン酸基と基質のカルボキシル基との間の水素結合により、基質の別の側で特異的なC-H結合の酸化反応が生じる;モデル研究では、この酸化部位がマンガン中心の近傍で配位している事を示唆している。対照実験により、COOH基が触媒から除かれたり、或いは酢酸を添加して結合の相互作用を壊した時に、選択性が失われる事が確認された。(KU)
Molecular Recognition in the Selective Oxygenation of Saturated C-H Bonds by a Dimanganese Catalyst p. 1941-1943.
CHEMISTRY: Targeting Specific C-H Bonds for Oxidation p. 1885-1886.

二酸化炭素の上昇による植物生産性の恩恵説はパンクした(Plant Productivity Benefits of High Carbon Dioxide Busted)

二酸化炭素濃度の上昇は、高温と土壌水の減少による影響で農作物の収量を減らす可能性があるが、直接的な繁殖力増加の効果によりこの減少を上回るであろうと言う議論がなされてきた。Longたち(p.1918;Schimelによる展望記事参照)は、二酸化炭素の上昇が繁殖力効果をもたらすだろうという「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel for Climate Change ;IPCC)」がその予測の根拠としたデータに関しての決定的な解析を報告している。元々の推定値は、1980年代に温室や保護された囲い地で行われた実験に基づいている。より現実に近いデータが開放系のフィールド研究から得られており、そのデータでは、二酸化炭素濃度の増加による農作物の収量増加分が、保護された囲い地での収量増加分に比べ50%以下に過ぎない事を示している。(KU,Ej)
Food for Thought: Lower-Than-Expected Crop Yield Stimulation with Rising CO2 Concentrations p. 1918-1921.
ECOLOGY: Climate Change and Crop Yields: Beyond Cassandra p. 1889-1890.

薬剤耐性結核の盛隆に続く盛隆(The Rise and Rise of Resistant Tuberculosis)

結核は、ヒト免疫不全ウイルスによる感染に乗っかるように伝播しており、2003年には900万人近くが感染したと推定されている。患者はしばしば長期の治療を完了しない環境にいるため、結核菌の抗生物質耐性をもたらしやすい。Gagneux たち(p. 1944) は、例えばrpoB S531Lのようなリファンピン-抵抗性変異株は適応性が容易であり、治療の期間に選択されやすく、これらの系統は臨床分離株において最も流行しておりヒトの集団中に伝播しやすい(Ej,hE)。
The Competitive Cost of Antibiotic Resistance in Mycobacterium tuberculosis p. 1944-1946.

私の行動を真似るのではなく、言う通りにしなさい(Do As I Say, Not As I Do)

発毛と補充のサイクルは毛包中に幹細胞を定常的に保持しているかどうかにかかっている。新細胞が必要になったとき、前駆細胞が分化細胞を生じさせる。Rhee たち(p. 1946) は、前駆細胞の転写特性を調査し、必要になれば自分自身を分化するのではなく、前駆細胞の分化された娘細胞の産生を助ける遺伝子を同定した。この遺伝子は転写制御因子Lhx2をコードするが、Lhx2は脳の発生と血球新生に対する効果で既に知られているものである。(Ej,hE)
Lhx2 Maintains Stem Cell Character in Hair Follicles p. 1946-1949.

春の渡りの早まり(Advancing Spring Migrations)

渡り鳥、とくに短い距離を移動する鳥たちは気候変化に応答して、自分たちの繁殖地への春期の到着を繰り上げてきた。Jonzenたちは、長距離を移動する渡り鳥の渡りのタイミングが、短距離を移動するものと少なくとも同等程度繰り上がってきたことを示している(p. 1959)。サハラ砂漠の南で越冬する多くの長距離移動する渡り鳥は、南ヨーロッパにだんだん早く到着するようになっている。北ヨーロッパでは、到着が早まっていることは、経路の温度の増加に応答してヨーロッパを通る渡り速度の増加という単純な帰結ではない。アフリカ大陸における餌の条件の改善を説明として排除できないが、より切り詰めた仮説として、アフリカにおける渡りのタイミングの進化的変化ということが示されている。(KF)
Rapid Advance of Spring Arrival Dates in Long-Distance Migratory Birds p. 1959-1961.

校正を完全にする(Perfecting Proofreading)

真核生物のRNAのほとんどは、メッセンジャーRNA(mRNA)スプライシングによって除去されねばならない非翻訳配列(イントロン)を含んでいる。mRNAの内容はまた、いくらかのコード配列(エクソン)を除去する選択的スプライシングによって修飾されることがある。イントロンとエキソンの境界を標識するRNA中のこのシグナル(スプライス部位)は短くて変化しやすいため、スプライシング機構によって誤まって同定され、mRNAにエラーが導入される可能性をもたらすものである。MendesSoaresたちはこのたび、従来自己免疫や癌に関係付けられていたタンパク質DEKが、コンセンサス3-AGスプライス部位のU2補助的因子(U2AF)による認識のための校正機構の一部として機能していることを示している(p. 1961; またKressとGuthrieによる展望記事参照のこと)。DEKのリン酸化は、U2AFのU2AF35サブユニットへのDEK自身の結合を促進し、この相互作用が、非コンセンサス3-CGスプライス部位の不正確な認識を最小化している。(KF)
Intron Removal Requires Proofreading of U2AF/3' Splice Site Recognition by DEK p. 1961-1965.
MOLECULAR BIOLOGY: Enhanced: Accurate RNA Siting and Splicing Gets Help from a DEK-Hand p. 1886-1887.

あなたの痛みを感じる(We Feel Your Pain)

感情移入(共感)というものはヒトの特殊な特性、あるいは心の理論(theory of mind)を所有する霊長類だけに限られた能力である、とする広く信じられている考えがある。Langfordたちは、マウスを用いた一連の実験を行い、他のマウスの苦痛行動を見るだけで見る側のマウスの苦痛行動の変化が生み出されるということを観察した(p. 1967; またMillerによるニュース記事参照のこと)。驚くべきことに、そうした効果には、観察する側と見られる側の間での遺伝的関連は必要ではなく、単に親しさがあればよい。この知見は、ストレスや模倣、条件付けによって簡単に説明することはできず、非霊長類における感情移入の形態を表している可能性がある。(KF)
Social Modulation of Pain as Evidence for Empathy in Mice p. 1967-1970.

明らかにされた磁性体中の散乱(Scattering in Magnets Revealed)

磁性体系の基本的な励起に関する多くの理論的予測は、必須の実験技術が十分な分解能を持たないために確証を得ることが難しい。スピン-エコーと三軸の分光測定とを組み合わせた中性子散乱法を用いて、Bayrakci たち (p.1926; Mesot による展望記事を参照のこと) は、典型的な反強磁性体 MnF2 について、その全ブリルアンゾーンに渡るスピン波の寿命の高分解能、低温下での測定を報告している。この高分解能技術は、磁性体の系をより深く理解できる新たな期待を抱かせるものである。(Wt)
Spin-Wave Lifetimes Throughout the Brillouin Zone p. 1926-1929.
APPLIED PHYSICS: The Neutron Spin-Echo Technique at Full Strength p. 1888-1889.

1つのグルタミンから別のグルタミンに(From One Glutamine to Another)

最近のゲノムと生化学の証拠は、基準となる20種のアミノ酸セットに遅れてやって来たものは、まず最初に、同族の転移RNA(tRNAs)にそれらを付着させるためのつぎはぎ(cobbled-together)システムと一緒になって導入されたという見方を支持している;真核生物といくつかの真正細菌だけが、適切なアミノアシルtRNA合成酵素を発生させた。それら遅く来た追加物の1つグルタミンが、Nakamuraたち(p.1954)とOshikaneたち (p. 1950)による、細菌および古細菌についての構造および生化学の研究の主題である。彼らは、ヘテロマー酵素活性に関する配位した配列(グルタミンamidotransferaseCAB(GatCAB)およびGatDE)の構造に関して記述しており、このヘテロマーはフリーなグルタミンの末端アンモニア基の脱離を触媒し、このアンモニアを35オングストロームのトンネルの下に輸送し、続いてアンモニアを末端カルボキシレートのリン酸化によって前もって活性化されているtRNA結合グルタミン酸に再付着させている。さらに、このGatDE-tRNA複合体は、非識別的GluRS(第一段階で、グルタミン酸をグルタミニル-tRNA上に置く合成酵素)がすわりよく落ち着くことを可能にし、これはクラスIとクラスIIの合成酵素がtRNAとどのように相互作用するかを暗示するものである。(KF)
Ammonia Channel Couples Glutaminase with Transamidase Reactions in GatCAB p. 1954-1958.
Structural Basis of RNA-Dependent Recruitment of Glutamine to the Genetic Code p. 1950-1954.

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