AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 16, 2006, Vol.312


初期の鳥..そしてカタツムリ(The Early Bird...and Snail)

よく調べられている最も初期の鳥類の多くは後に絶滅した系統なので、現在の鳥類につながる系統の進化を解明することは困難である。初期のornithuran鳥、Gansusyumenensisは断片的な化石からのみ知られている。Youたち(p. 1640) は、この白亜紀初期の鳥が多くの派生した特徴を持っていることを示す幾つかの化石を記述している。それは水生-両生類の生活様式-に対してもうまく適応し、その化石には足に水かきが現れていることさえ示している。軟体動物などのある動物の初期胚(embryos)は、極葉(polar lobes) の形成や卵割によって機能に特化した細胞に発育する。Chenたち(p.1644;Ungerによるニュース記事参照)は、 中国における先カンブリア紀後期の年代になる岩石の中に極葉の胚が現れている化石について記述してする。左右対称動物(bilaterian)のこの発生戦略は、初めて動物が現れた時代の近くに起源がある。(TO,Ej)
A Nearly Modern Amphibious Bird from the Early Cretaceous of Northwestern China p. 1640-1643.
Phosphatized Polar Lobe-Forming Embryos from the Precambrian of Southwest China p. 1644-1646.

必要とされる集団のスタンダード(Community Standards Needed)

ごく最近まで、自然淘汰の研究は個々の候補遺伝子を理論的な予測結果と比較して調べるということに殆ど限られていた。大きな、ゲノム-ワイドデータベースセットは、自然淘汰を研究する方法を基本的に変えるようなツールである。Sabetたち(p.1614)は、自然淘汰の鍵となる遺伝子指標に関して記述しており、統計的なテストとヒトゲノムにおける候補座位と言う従来の研究を批判的にレビューし、そして集団のスタンダードがこの分野を前進させるために必要である事を示唆している。 (KU,Ej)
Positive Natural Selection in the Human Lineage p. 1614-1620.

石油を作る無機化学(Inorganic Chemistry of Oil)

有機物炭素が、最初の低温地下貯蔵されている間、石油への変化の途上で起きている還元反応は曖昧であった(このプロセスには本来的な源に関する様々な生物マーカーを保持しており、古生態学において極めて役立つものではあったが)。二重結合を飽和させるこの還元反応は、昔から細菌の作用であると考えられてきた。Hebtingたち(p.1627,5月11日のオンライン出版;Hayesによる展望記事参照)は、ラボ実験とフィールド実験の双方から、主要な反応は無機化学的に進行し、硫化水素やイオウ化合物が関与している事を示している。(KU)
Biomarker Evidence for a Major Preservation Pathway of Sedimentary Organic Carbon p. 1627-1631.
GEOCHEMISTRY: Enhanced: The Pathway of Carbon in Nature p. 1605-1606.

電子の出入りを数える(Counting Electrons Coming and Going)

電子デバイスが小さくなるにつれ、デバイスのなかの電子の流れは量子化される。度量衡学とノイズ測定への応用において、どのように電子がデバイスを流れるかが正確に判ることは極めて重要である。単一の電子は一方向には数えることができるが、散乱と逆流も発生して統計量と輸送パラメータに影響を与える。 Fujisawa たち (p.1634) は、彼らのデバイスにより両方向に流れる電子を数えた。彼らは、予期されたような電子の流れにおけるアンチバンチング(antibunching 一群として固まらない)の振舞いを見出すとともに、そのデバイスが、アトアンペア領域(10の-18乗アンペア領域)においても敏感な電流計として動作し得ることを示している。(Wt)
Bidirectional Counting of Single Electrons p. 1634-1636.

乳濁液中における力のバランス(Balance of Forces in Emulsions)

砂山(sand pile)が緻密であるとき、粒子の全てが密に接触しているとは限らない。実際に、力は結合した粒子のチェーン(鎖)を通して伝えられる。Zhouたち(p. 1631)は、この現象が濃縮された乳濁液中の液滴間でも起きていることを示している。高分解能共焦点蛍光顕微鏡を用いて、液滴間の接触領域が測定された。その測定から、変形領域を形成する力を計算することができた。液滴中の最大の力がお互いに反対方向に向く傾向があるため、チェーン(鎖)が形成されている。このように、系全体が力学的に安定であるとき各液滴における正味の力がゼロになる。(hk,Ej)
Measurement of Forces Inside a Three-Dimensional Pile of Frictionless Droplets p. 1631-1633.

溶融鉱物に遠心力を与える(Centrifuging Mineral Melts)

マグマの歴史を推測するために、トレース元素が利用されるが、そのためには溶融マグマ源に取り残される結晶と、分配後の溶融マグマの間の微量元素の係数を理解する必要がある。結晶と溶融物の配分率データは従来の実験法でも得られるが、溶融物の組成の影響を評価することは困難であった。 従来法では、分析するために実験用装置の中の試料で、溶融物を高温高圧で分離するのは困難であった。Schmidt たち(p. 1646)は、高圧(1.8 GP)高温(1600℃)のピストンシリンダー装置を直径1.4mの回転台に載せ、2850 rpmの回転速度で3000gの加速度を発生させた。成分分析にはレーザーアブレーションで取り出した試料をプラズマ質量分析器に導いて行った。その結果結晶と溶融物の分配係数を1のオーダーまで計測した。アルカリとアルカリ土類元素との分配率は、電場の強度に強く依存しており、両性族や孤立(lone pair)電子元素は花崗岩組成の重合した溶融物に分配され易く、希土類、遷移元素や非架橋酸素によって結合した高電場元素は互いに、斑レイ岩溶融に極めて類似した分配性向を示す。これらの効果は正則溶液モデルが成り立つ。(Ej,hE,tk)
Element Partitioning: The Role of Melt Structure and Composition p. 1646-1650.

我ら団結すれば強い(Together, We Are Strong)

皮質性ニューロンは視床の入力信号には高い信頼度で応答するが、視床ニューロンの皮質性ニューロンに対する割合は極めて小さい。以前の研究では、視床皮質系応答の高い信頼性は、シナプス伝達が、他に比べてより効率的であることによると示唆されていた。Bruno と Sakmann (p. 1622; および、Alonsoによる展望記事参照)は脳に外傷を加えないで、動物が生きたままの状態で、個々のシナプス結合の視床皮質対の記録を取る技術を開発した。無傷の動物では、シナプス伝達の信頼性と信号強度は、皮質内伝達に対する以前の見積りと同様に低いものであった。しかし、視床ニューロンの強い同調性のお陰で、皮質性ニューロンの高い活性を維持でき、これ以上の内因性皮質増幅は必要なかった。(Ej,hE)
Cortex Is Driven by Weak but Synchronously Active Thalamocortical Synapses p. 1622-1627.
NEUROSCIENCE: Neurons Find Strength Through Synchrony in the Brain p. 1604-1605.

空で走る(Running on Empty)

ガン細胞は、しばしばエネルギー産生モードを好気性呼吸から解糖(glycolysis) に切り換える。Matobaたち(p.1650, 2006年5月25日号、オンライン出版)は、この切り換えを、ガン抑制遺伝子、p53中の変異と関連付けた。 p53は、ミトコンドリアの主要酸素消費部位であるチトクロムc酸化酵素複合体構築に必要な因子の発現を制御している。p53が不活性化されると、これは多くのガン細胞でそうであるのだが、呼吸が減って、細胞代謝に変化が起こる。(Ej,hE)
p53 Regulates Mitochondrial Respiration p. 1650-1653.

代謝的情報ハイウェイ(Metabolic Information Highway)

哺乳動物におけるエネルギーバランスの維持に寄与するいくつかの異なる組織は、何らかの形で互いに連絡を取り合わなければならない。例えば、肝臓は末梢脂肪組織に対して代謝性シグナルを送るが、しかしながらその裏に潜むメカニズムはほとんど分かっていない。マウスモデルを研究することにより、Unoたち(p.1656)は、肝臓から出る求心性迷走神経および脂肪組織へと向けられる遠心性交感神経からなる神経経路を用いて、これらの組織が連絡を取り合っていることを見いだした。この経路はエネルギー消費の制御、全身性インスリン感受性の制御、グルコース代謝の制御、および肝臓と末梢脂肪組織とのあいだでの脂肪分布の制御に関与しており、そしてこの経路が、動物が、過剰な脂肪蓄積により生じる代謝障害にならないように保護するための補助となる可能性もある。(NF)
Neuronal Pathway from the Liver Modulates Energy Expenditure and Systemic Insulin Sensitivity p. 1656-1659.

通りつつ(Passing Through)

昆虫では、成虫原基が幼虫から成虫への変態をコントロールしている。正常な脚および羽の全てを有する適当なサイズの成虫を形成するため、原基が発生・分化しなければならない。Trumanたち(p. 1385;Leopoldと免疫系において、B細胞とT細胞は共に抗原を認識するが、異なる手段で抗原を認識すると考えられている。T細胞は末梢組織でタンパク質を捕捉するために、樹状細胞(DC)と呼ばれる専門の抗原提示細胞を必要とする。抗原提示細胞は、タンパク質を処理して、組織化されたリンパ組織中で、T細胞に対してペプチドとして提示する。マウスにおいての生体内イメージングを利用して、Qiたち(p.1672)は、ある種のB細胞が、血液から滲出してからリンパ濾胞と呼ばれるリンパ節の専門的なB細胞領域へと遊走するまでのあいだに、かなり似た方法でDC上の抗原に遭遇することを示した。このようにして抗原を認識するB細胞は、活性化の徴候を見せ始め、そしてT細胞が豊富な領域内への遊走速度を低下させた。そのようなゆっくりと移動する活性化B細胞は、B細胞が抗体を作るために必要とする、T細胞の重要な補助を受ける機会が増大するのである。(NF)
Extrafollicular Activation of Lymph Node B Cells by Antigen-Bearing Dendritic Cells p. 1672-1676.

炎症、増幅、悪化(Inflammation, Amplification, and Aggravation)

炎症痛が脊髄の後角でどのように増幅されているか、に関する詳細の多くが、近年明らかになってきたが、統合的な細胞モデルは未だ欠けたままであった。Ikedaたちは、低頻度の条件付け刺激と自然な侵害性刺激によってもたらされるシナプス性疼痛増幅の仕組みを同定した(p. 1659)。生体内では、低頻度の求心性のつるべ打ち(barrage)によって、侵害受容性脊髄ニューロンにおけるCa2+濃度が、長期増強を誘発するのに十分なほど上昇する。このプロセスが、疼痛経路の最初のシナプスにおいて、疼痛に関連する情報の増幅を引き起こす。(KF)
Synaptic Amplifier of Inflammatory Pain in the Spinal Dorsal Horn p. 1659-1662.

賢い鳥(Brainy Birds)

動物は、他者が何を考え何を感じているかを理解する能力、"心の理論"(theory-of-mind)を持っているのだろうか?Dally たち(p.1662,5月18日オンライン出版)は、アメリカカケス(Western Scrub Jay)が特定の個体に対して異なる認識状態を持っているかもしれないという証拠を示している。アメリカカケスは、食べ物の隠し場所を守る際に、誰がいつ見ていたのかということを正確に覚えておき、そして特定の個体が隠し物の権利を主張するという脅威と戦うためにこの情報を用いている。(TO,Ej)
Food-Caching Western Scrub-Jays Keep Track of Who Was Watching When p. 1662-1665.

揺さぶりのない結合切断(Jiggle-Free Bond Scission)

化学反応速度論では、殆どの反応が利用出来うる全ての自由度に統計的に分布したエネルギーでもって起こっていると仮定している。従って、多原子分子に於いてある結合が切断されると、あたかも切断された分子がスプリングで結ばれているかのように、反跳エネルギーが元の分子の残余のフラグメント全体に拡がっていくことになる。Ashfoldたち(p.1637)は、このモデルが多くの生体分子の骨格を作っている3つの芳香族発色団(イミダゾール、ピロール、フェノール)の光解離反応には当てはまらない事を示している。紫外光の吸収により、これらの分子において1πσ*状態が生じ、このエネルギーがN-HやO-Hの結合切断により急速に散逸される。放出されたH原子の正確な測定により、この解離が極めて特異的なエネルギー分布で親フラグメント中の少数の振動モードへと進行する事が示された。(KU)
* Excited States in the Photodissociation of Heteroaromatic Molecules p. 1637-1640.

XXからXYへ(Going from XX to XY)

進化の時間上でのY染色体の変性は、XXであるメスとXYであるオスとの間での遺伝子量の不均衡をもたらし、メスにおいては、遺伝子量補償のためのシステムが、X染色体の対の一方からの発現を抑止するようになっている。真獣類の哺乳類においてこのシステムの中心となっている要素は、17キロ塩基のXist非翻訳RNAである。Duretたちは、Xistがいかに進化しえたかを、脊椎動物のさまざまな種の範囲でXistの相同性を探すことで探求した(p. 1653)。この遺伝子は真獣類だけに限られているようであり、これは有袋類には別のX染色体不活性化モードがあることを示唆する。配列を並べて比べることによって、哺乳類のXist遺伝子とニワトリのタンパク質コード遺伝子Lnx3の2つのエキソンとの間に短い相同性領域があることがわかったが、これは、RNA遺伝子がタンパク質コード遺伝子から進化してきたことを示唆するものである。(KF,hE)
The Xist RNA Gene Evolved in Eutherians by Pseudogenization of a Protein-Coding Gene p. 1653-1655.

SLEへの遺伝的手がかり(Genetic Clues into Lupus)

全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫疾患の1つであって、B細胞が細胞の自己成分、特に核酸やそれに関連するタンパク質に対する抗体を産生する病気である。2つの研究が、SLEへのB細胞応答と感受性に影響する遺伝子への手がかりを提供している(Goodnowによる展望記事参照のこと)。Pisitkunたちは、遺伝的に詳細が明らかになっているSLEのマウスモデルを研究した(p. 1669、5月18日オンライン出版)。そこでは、病気の重症度の雄性-特異的な増加が、Y連結(Y-linked)自己免疫性促進物質(Yaa)と名付けられた、Y染色体上での特定のX染色体セグメントの複製に付随して起きている。骨髄混合実験では、Yaa-陽性細胞によって産生された自己抗体はRNA関連核小体抗原に対して特異的であった。その抗原はまた、TLR7などのToll様受容体(TLRs)にとってリガンドとして作用し、さらなる遺伝的特徴づけによれば、Yaa領域によるTLR7遺伝子の複製によって、TLR7活性化に対してそれらマウスがより感受性が増すことが明らかになった。Kumarたちは、これまたSLEマウスモデルを用いて、Ly108によってコードされたシグナル伝達タンパク質の特定の対立形質の1つが、通常はB細胞の寛容を維持するシグナルに応答してB細胞を死なすのではなくむしろ増殖させ、B細胞が自己反応性の抗体を作るようにしていることを観察した(p. 1665)。(KF,hE)
IMMUNOLOGY: Discriminating Microbe from Self Suffers a Double Toll p. 1606-1608.
Autoreactive B Cell Responses to RNA-Related Antigens Due to TLR7 Gene Duplication p. 1669-1672.
Regulation of B Cell Tolerance by the Lupus Susceptibility Gene Ly108 p. 1665-1669.

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