AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 9, 2006, Vol.312


南極と同時期に(In Southern Times)

アイス・コアの記録によると、最終氷期において、南極大陸の温度が18,000年前に上昇し始めたが、これは北極のグリーンランドで同じような上昇が見られる3000年ほど前である。その間にある緯度では温度はどのように変化したのであろうか? Schaeferたち(p.1510)は、両半球からの多様な氷河が後退し始めた年代を、氷河終端の氷堆石の10Beによる年代を測定し、そのデーターを既存測定値に関する更により大きなデーターベースと比較する事でこの謎に取り組んだ。これらの氷河は、総てほぼ同時期、19,000年〜17,000年前ごろに後退し始めており、このことは南極大陸での温度上昇と地球規模での大気中炭酸ガス濃度の増加と一致している。このようなデーターは、最終氷期の終末が温室ガスによってもたらされたという考え方を支持しており、北半球の高緯度での温暖化が過度の寒い冬の出現により遅れたことを示唆している。(KU)
Near-Synchronous Interhemispheric Termination of the Last Glacial Maximum in Mid-Latitudes p. 1510-1513.

鮮新世時代から導かれるもの(Coming Attraction from the Pliocene)

鮮新世の時代、太陽照射と炭酸ガスのレベルは今日の条件と似ていたが、しかしながら極はかなり暖かく、北半球では氷棚は無く、海面は現在よりも25mも高かった。Fedorovたち(p.1485;Kerrによるニュース記事参照)は、鮮新世初期(5百万年から3百万年前)での気候に関する観察記録と理論をレビューし、このようなパラドックスが両立可能な考えを論じている。(KU)
The Pliocene Paradox (Mechanisms for a Permanent El Niño) p. 1485-1489.

超伝導体の論理(Superconductor Logic)

高温超伝導体の d波の対称性は、π-相エレメント、すなわち、磁束の極性を記憶に用いるメモリにおいて、論理演算の重要なツールとなる可能性がある。Ortlepp たち(p.1495, 4月20日のオンライン出版;Pegrum による展望記事を参照のこと) は、高温超伝導体からなる回路における、分数磁束量子に基づくフリップフロップゲートの設計とその試験結果を報告している。(Wt)
Flip-Flopping Fractional Flux Quanta p. 1495-1497.
APPLIED PHYSICS: Can a Fraction of a Quantum Be Better Than a Whole One? p. 1483-1484.

固体キュビットをこっそり見張る(Spying on Solid-State Qubits)

量子計算では、量子力学的状態の重ね合わせの操作と系の最終状態の測定が必要である。位相はずれと干渉性喪失の過程は、どのように系(すなわち、系を記述する波動関数)が進化し、そしてエラー訂正の使用をどの程度必要とするかに影響を与える。しかしながら、エラー訂正それ自体には測定が必要であり、これが、通常、やや弱い量子状態を壊してしまう。Katz たち (p.1498) は、固体キュビットの部分的量子測定を行なった。この固体キュビットにおいて、波動関数は完全に進化することも、また、完全に崩壊していることもない。このような部分的測定は、キュビットの進化と制御へのフィードバックに用いることができるであろう。(Wt)
Coherent State Evolution in a Superconducting Qubit from Partial-Collapse Measurement p. 1498-1500.

球状の研磨材(Abrasives in the Round)

セリウム酸化物(セリア)のナノ粒子は、主として半導体ウェーハの平坦化と研磨用の研磨材として適用されている。しかしながら、この粒子は、ウェーハを傷つけて研磨された表面に欠陥を作るような面形状を持っている。Fengたち(p. 1504)は、炎光-プロセシング法を使ってチタンを添加すると尖った面のない球状粒子が生成できることを見つけた。この粒子はチタン酸化物の外殻を形成して、表面エネルギーを減らし、かつより球面の形状にしている。これらの丸められた粒子はウェーハーからデバイスを切り出す場合にシリカ除去速度を増し、ウェーハの欠陥をより減らすことになる。(hk,Ej)
Converting Ceria Polyhedral Nanoparticles into Single-Crystal Nanospheres p. 1504-1508.

触ると光る(Touch and Glow)

人の指に匹敵するような感触性を持った人工触感センサーが出来ると、ロボット手術には特に役立つであろう。しかしながら、一般にこの種のデバイスをミリメートル以下の高さ分解能を持たせる事には大きな障壁があった。MakeshwariとSaraf(p.1501;Crowderによる展望記事参照)は薄膜センサーを作り、1ペニー硬貨を画像化し、指と同じく10キロパスカルの圧力下で5μm以下の高さ分解能を達成している。その作成プロセスは、誘電体層で分離された金と半導体(CdS)のナノ粒子薄膜が交互に積層された単純な自己組織化膜による。8Vより大きなバイアス電圧で、圧力により層間の電子トンネル効果が向上し、圧力に対して線形に比例するエレクトロルミネセンス(電界発光;EL)が生じ、この光が電荷結合素子(CCD)カメラで検知される。(KU)
High-Resolution Thin-Film Device to Sense Texture by Touch p. 1501-1504.
APPLIED PHYSICS: Toward Robots That Can Sense Texture by Touch p. 1478-1479.

イオウを除く(Scrubbing Sulfur)

炭水化物の燃料で作動する高温の固体酸化物燃料電池の潜在的な応用が、ニッケル-ベースの陰極のイオウ不純物による大きな被毒性により阻まれている。イオウ被毒を押さえる一つの方法は燃料をCOとH2に変え、次に吸着材を用いてH2Sを除去する事である。しかし、吸着材を高温操作により再生する事は困難であった。Flytzani-Stephanopoulosたち(p.1508;Serviceによるニュース記事参照)は、800℃の高温でセリウムとランタンの酸化物表面上で可逆的なH2S吸着に関して実証している。この吸着材は入ってくるH2Sを除去し、使用燃料を用いてイオウを脱着して新鮮な表面に再生するということで繰り返し使用される。流れの速度はかなり速く、接触時間がミリセコンドという短時間でも、1ppm以下のレベルにH2Sを減少することが出来る。(KU)
Regenerative Adsorption and Removal of H2S from Hot Fuel Gas Streams by Rare Earth Oxides p. 1508-1510.

どちらの方向が上なの?(Which Way Is Up?)

植物にとって、土から発芽して苗として地表に出てくる前にどちらの方向が上であるかを知る必要がある。シロイヌナズナにとって、尖端から基底への軸について最初の徴候は、初期の胚細胞分割において、より小さな尖端細胞がより大きな基底細胞から分離するときに見られる。これらの細胞は一般的には芽か根を形成する。Longたち (p.1520)は、尖端極の運命を変えるtopless遺伝子をクローニングした。このTOPLESSタンパク質は転写のコリプレッサー(transcriptionalcorepressor)に似た特徴を持っている。ヒストンデアセチラーゼ中の変異はTopless機能に影響を及ぼすことから、クロマチンのリモデリング(chromatin remodeling)が主要な主要な役割を果たすらしい。これらの発見は、オーキシン(auxin)に仲介される軸の形成が転写によって仲介される軸の安定化に先んずることを示唆している。(Ej,hE)
TOPLESS Regulates Apical Embryonic Fate in Arabidopsis p. 1520-1523.

特殊な分泌が毒性を作る(Special Secretion Makes for Virulence)

毒性因子は、無毒な細菌を有効な病原体に変えるのに重要である。 Mougous たち(p.1526) は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)中に異常な形態のバクテリアタンパク質の分泌の証拠を見つけた。この緑膿菌は膵嚢胞線維症(cystic fibrosis)患者の慢性感染症の最終段階での毒性制御に重要である。分泌器官によって運び出される主要なタンパク質はHcp1である。著者たちはHcp1の結晶構造を示し、これが内径が大きな六量体環状であること、そして、運び出されるタンパク質を通す導管の役割を果たすらしいことを示唆した。(Ej,hE)
A Virulence Locus of Pseudomonas aeruginosa Encodes a Protein Secretion Apparatus p. 1526-1530.

植物の細胞増殖を指示する(Directing Plant Cell Growth)

植物細胞は、セルロース繊維からなる細胞壁により囲まれており、これらの繊維は、細胞膜に埋め込まれた大型の複数サブユニット複合体により合成される。Paredezたち(p. 1491、4月20日にオンライン出版;Lloydによる展望記事を参照)は蛍光タグを使用して、植物生細胞中におけるセルロース合成酵素の活性を可視化した。映像によれば、セルロース合成酵素が微小管により規定された軌道に沿って移動することが示された。微小管の組織化は、生長しつつあるセルロース繊維の組織化を引き起こし、それが次に増殖性の細胞の形態を司る可能性がある。(NF)
Visualization of Cellulose Synthase Demonstrates Functional Association with Microtubules p. 1491-1495.
PLANT SCIENCE: Enhanced: Microtubules Make Tracks for Cellulose p. 1482-1483.

生き残るSIV(Surviving SIV)

将来的なHIV(ヒト免疫不全ウィルス)ワクチンは、ウィルスを中和する抗体または細胞傷害性Tリンパ球(CTLs)による細胞-媒介性免疫のいずれかを誘導することによるだろう。中和抗体は、ウィルスが変異してそして抗体結合を逃避する能力により、裏をかかれている。CTLsもウィルスの逃避に関連する問題点に直面しているが、頑健な細胞-媒介性免疫応答により、急性感染後の複製ウィルスレベルを低くすることが実際にできるようであり、その結果、その後の感染とAIDSへの進行の経過に影響を与えることが知られている。HIVのサルでの同類ウィルスである病原性SIVによるサルの感染を使用して、Letvinたち(p. 1530)は、ワクチン接種により頑健な細胞性応答を生成することと、生存率が高まることが一致していることを示す直接的な実験的証拠を提示した。この知見は、大量の、いわゆるセントラル記憶(central memory)T細胞の持続性とも相関しており、これらの重要なリンパ球を維持する方法を見いだすことにより、細胞-媒介性HIVワクチンを改良する際に役立つだろうということを示唆する。(NF)
Preserved CD4+ Central Memory T Cells and Survival in Vaccinated SIV-Challenged Monkeys p. 1530-1533.

言語の管制塔(Language Control Tower)

ある言語が他の言語に紹介されると新しい単語が生まれる。この新語が広く認知されるまでは、これらの単語を聞いたり読んだ外国語を知らない人たちには、新語が現れるたびに「つまずく」であろう。しかし、バイリンガルの人にとっては、もちろんそうした事は起きない。これらの人たちはどのようにして言語のスイッチを滑らかに切り替えるのか謎であった;脳神経画像による研究の結果、2つの言語が厳密に同一の脳領域で活性化していることが分かった。Crinion たち(p. 1537)は、意味ある言葉による呼び水効果課題(semantic priming task)を利用した行動的および神経細胞上の適応課題を、ドイツ語と英語、日本語と英語のバイリンガルの人々に課した。その結果、基底神経節の一部分である左尾状核(left caudate)が現在使用されている言語の種類をモニターし処理機構を適当なモードに切り換えていることが分かった。(Ej,hE)
Language Control in the Bilingual Brain p. 1537-1540.

変化する貯蔵所年齢(Changing Reservoir Ages)

気候変化における海洋の役割は、時間軸上での海洋と大気の記録の相関をとって初めて理解される。この相関は、表面海水の「貯蔵所年齢(reservoir age)」すなわち、時間的にも地理的にも変化する大気と海洋の放射性炭素年代差がよく分かっていないために、しばしば複雑なものになっている。Bondevikたちは、ノルウェーの同じ沈降コアからえられた陸生植物(大気の放射性炭素を含んでいる)と海洋の貝殻の放射性炭素を測定して、1万5千年前から1万年前までの、北大西洋表面海水の貯蔵所年齢を決定した(p. 1514)。この期間は、海洋循環における変動に関わると信じられている主要な気候遷移が起きた期間である。貯蔵所年齢は、気候変動に合わせて2倍以上変化していた。この年齢は、Allerod、Younger Dryas、及びPreborealの各遷移の間、北大西洋における後期の氷河循環変化に密接に関連していた。(KF)
Changes in North Atlantic Radiocarbon Reservoir Ages During the Allerød and Younger Dryas p. 1514-1517.

TuftsとPuffs(Tufts and Puffs)

ラン藻プランクトンTrichodesmiumは、熱帯および亜熱帯の海洋における支配的な窒素固定生物であると考えられており、われらが惑星上での最も重要な一次生産者の一つであるが、その豊富さや分布、ふるまいについては殆ど知られていない。DavisおよびMcGillicuddyは、古典的なプランクトン標本抽出法に換えて、大西洋中部のAzores諸島からマサチューセッツ州のCape Cod半島まで、ハリケーンFabianの通った跡を途中で横切りながら、速い大西洋横断船の後ろに鎖で曳かれたビデオ顕微鏡を利用した(p. 1517;またKolberによる展望記事参照のこと)。そのカメラには、伝導率や温度、圧力、蛍光、濁度、更に光合成有効放射を計るためのセンサーも追加されていた。ラン藻類は、2つの主要なコロニー形式であるtuftsと puffsの双方とも、冷たい低気圧性の渦に比べて暖かい高気圧性の渦中に豊富で、ハリケーンによる撹乱に対しては著しく回復力があり、従来記録されていなかった深さにおいても生じていた。(KF)
Transatlantic Abundance of the N2-Fixing Colonial Cyanobacterium Trichodesmium p. 1517-1520.
ECOLOGY: Getting a Better Picture of the Ocean's Nitrogen Budget p. 1479-1480.

透過性がないときの浸透(Permeation Without Permeability)

ミトコンドリアの内膜を横切ってのタンパク質輸送は、Tim23タンパク質転位置チャネルを介して行われる。輸送は高度に選択的であって、それによって細胞のアデノシン三リン酸合成の主要な推進力として機能する電気化学的水素イオン勾配を維持している。Meineckeたちは、タンパク質Tim50が膜電位の維持にとって決定的であるということを発見した(p. 1523)。Tim23チャネルがリポソーム中で再構成されるとき、Tim50の親水性膜間腔領域が、Tim23チャネルの急速な閉鎖を引き起こす。ミトコンドリアの前タンパク質のターゲティング配列(プレ配列)は、Tim50によって仲介される抑制を解放し、タンパク質転位置のためのTim23チャネルを活性化した。つまり、Tim50は非転位置チャネルを閉鎖して内膜の透過性障壁を維持し、プレ配列は転位置のための孔のもとめに応じて開放に導くのである。(KF)
Tim50 Maintains the Permeability Barrier of the Mitochondrial Inner Membrane p. 1523-1526.

グリア細胞中のLTP誘導(LTP Induction in Glial Cells)

ニューロンとグリアのクロストークについては、過去広範に研究されてきたが、このクロストークを仲介するシグナル伝達が何らかの、たとえば記憶の電気生理学的表現と考えられている長期増強(LTP)現象のような活性-依存的な可塑性を示すものかははっきりしていなかった。Geたちはこのたび、海馬切片中のNG2グリア細胞へのニューロン性シグナル伝達がLTP様の可塑性を示すと報告している(p. 1533)。このNG2細胞応答はAMPA受容体によって仲介され、θ群発刺激の後でLTPを経験する。LTP誘導はシナプス後Ca2+とグルタミン酸受容体に依存しているが、NMDA受容体には依存しておらず、フィラントトキシンによってブロックされる。これはCa2+透過性AMPA受容体の関与を示唆するものである。(KF)
Long-Term Potentiation of Neuron-Glia Synapses Mediated by Ca2+-Permeable AMPA Receptors p. 1533-1537.

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