AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 26, 2006, Vol.312


スイッチを作る(Making the Switch)

リボスイッチ(Riboswitches)はメッセンジャーRNAの非翻訳領域であり、特定の代謝産物と結合することによって自身の構造(コンフォメーション)を切り替えることで、結合した代謝産物の生合成に関わっているタンパク質の発現を制御している。例えば、細菌, 古細菌、真核生物において、必須補助因子のチアミン ピロリン酸 (TPP)の産生は、TPP-結合のリボスイッチによって厳密に制御されている。 Thore たち(p. 1208, 5月4日にオンライン出版)は、TPPと結合する真核生物のシロイヌナズナTPPリボスイッチの構造を2.9オングストロームの解像度で決定した。この構造は、TPP生合成に関与する遺伝子発現を抑制する結合型の「オフ」コンフォメーションがどのように安定化されるかを示している。TPPリボスイッチは抗微生物薬剤にとって魅力あるターゲットであり、またこの構造は抗生物質ピリチアミンに対する耐性メカニズムをうまく説明できるものである(Ej,hE)。
Structure of the Eukaryotic Thiamine Pyrophosphate Riboswitch with Its Regulatory Ligand p. 1208-1211.

障壁を超える(Jumping the Barrier)

断層が破壊されて地震が生じる様子はその地域の地質構造によって複雑化することもあるが、このような微妙な現象を解き明かすことは困難であった。通常、地震によって生じる破壊面は、断層によって制止するが、Robinson たち(p. 1203)は、2001年6月23日に起きた、瞬間マグニチュード8.4で1965年以来世界で3番目に大きなものであったペルー地震では、破壊帯が断層障壁をのり越えたことを明らかにした。破壊面は70キロメートル進行した後、6000平方キロメートルの硬いブロックの回りを迂回させられ、更にもとの断層に沿って200キロメートル進んだ。30秒間遅れて今度はこのブロックが破壊され、地震エネルギーの大部分はこのときに放出された。この障壁は大洋沈み込みプレート上の破壊帯と同定された。(Ej,nk)
Earthquake Rupture Stalled by a Subducting Fracture Zone p. 1203-1205.

すべるたびに変形する(Deforming Slip by Slip)

ニッケル微結晶におけるナノスケールのすべりの事象を記録することによって、Dimidukたち(p. 1188;MiguelとZapperiによる展望記事参照)は、結晶金属の塑性変形に関する臨界ダイナミクスを定量的に観察している。非常にゆっくりした負荷速度のもとで、サンプルは間歇的に変形し、すべりの事象はそのすべりのサイズにおいて2桁以上の大きさの累乗法則分布に従っていた。滑らかな層流からのこのような逸脱は、いくつかのモデル予測と氷を対象とした実験された音響測定を確認するものである。この結果はマイクロスケールの変形に関する理論的解釈を改善に導き、また磁気雑音やアバランシェの振る舞いと関係するかもしれない。(hk,Ej)
Scale-Free Intermittent Flow in Crystal Plasticity p. 1188-1190.
MATERIALS SCIENCE: Fluctuations in Plasticity at the Microscale p. 1151-1152.

何でそんなに小さいの?(Why So Small?)

標準ビッグバンモデルでは、宇宙の暗黒のエネルギーの総量は、大雑把に言えば、物質の形態のエネルギーと同じオーダーの大きさであるが、そうでなければならないという理由はない。ダークエネルギーは、宇宙論的定数としてパラメータ化されているが、1兆倍大きくても、1兆分の一に小さくてもよいのである。これの精密なチューニングは、人間原理--- もし宇宙論的定数が大きく異なっていれば、私たちはここにはいないだろう--- によって説明されてきた。Steinhardt と Turok (p.1180, 5月4日にオンライン記事出版; Vilenkin による展望記事を参照のこと)は、この宇宙論的定数を調整して、ある小さな値を与える別の方法を提案している。彼らは、ダークエネルギーを周期的な宇宙--- ビッグバンから成長し、ビッグクランチに崩壊していくことを繰りかえす連続的宇宙 --- の枠組みのなかでモデル化している。そして大抵の場合、宇宙定数が正の小さな値になることを見出した。(Wt,nk)
Why the Cosmological Constant Is Small and Positive p. 1180-1183.
ASTRONOMY: The Vacuum Energy Crisis p. 1148-1149.

金属原子と分子との結合形成と切断(Making and Breaking a Metal Atom-Molecule Bond)

分子エレクトロニクスは金属電極間に挟まれた分子の導電性の変化を利用しようとしているが、金属ー分子間の接触の本質は良く分かっていない。Reppたち(p.1196)は、金原子とペンタセン分子との相互作用を金属基板に成長させた絶縁性のNaCl薄膜上に両者を吸着させて調べた。走査トンネル顕微鏡(STM)のチップを用いて、金原子をペンタセンに密に接触させた。ペンタセンの最低非占有軌道による共鳴非弾性電子のトンネル効果(IET)により結合が形成され、結合形成に関する混成軌道にもとづく変化がイメージングされた。この結合は分子複合体を介してのIETによって切断される。これらの結果としての変化は密度関数計算との比較によって理解される。(KU)
Imaging Bond Formation Between a Gold Atom and Pentacene on an Insulating Surface p. 1196-1199.

カーボンナノチューブの中と外(The In and Outs of Carbon Nanotubes)

カーボンナノチューブの固有の強度により、強化複合材料としての有力な候補とされている。エレクトロニクスへの応用やコントラストエージェント(contrast agents)として用いるために、カーボンナノチューブの中心部に第2の材料を入れることも可能である。Sunたち(p.1199;WangとZhaoによる展望記事参照)はこの二つの特徴を利用して、原子スケールでの高圧力プロセスを直接観察する最新型高圧容器としてカーボンナノチューブを使った。ナノチューブ表面に誘発された欠陥が動いて合体し、それによりナノチューブが収縮して、内部にトラップされた金属粒子に大きな圧力がかかり、絞り出された。(KU,nk)
Carbon Nanotubes as High-Pressure Cylinders and Nanoextruders p. 1199-1202.
MATERIALS SCIENCE: High-Pressure Microscopy p. 1149-1150.

病原体がスパナを用意している(Pathogen Puts a Spanner in the Works)

いわゆるバクテリアのエフェクタータンパク質は真核生物の活性を用いたり、或いは模倣したりして、病原性をもたらす。疫病を引き起こす病原性のペスト菌由来の既知の病原性因子の多くはメカニズム的に同定されているが、YopJは未解決のままであった。Mukherjeeたち(p.1211;WorbyとDixonによる展望記事参照)は、YopJがアセチル基転移酵素として作用しており、シグナル伝達キナーゼのMAPKKスーパファミリの活性化ループにおけるセリン残基か、或いはスレオニン残基を修飾していることを見出した。この修飾により、これらの残基の上流のシグナル伝達機構によるリン酸化が妨げられ、生得的な免疫応答を阻害している。(KU)
Yersinia YopJ Acetylates and Inhibits Kinase Activation by Blocking Phosphorylation p. 1211-1214.
MICROBIOLOGY: Bacteria Seize Control by Acetylating Host Proteins p. 1150-1151.

SNPが病を促進する方法(How a SNP Promotes Disease)

一塩基多型(SNPs)は、遺伝的病に対応した遺伝子を見つける際にしばしば役に立つDNA配列中の一個の塩基の変異である。De Gobbiたち(p.1215)は、異常なメカニズムを通してヒト遺伝病を引き起こす遺伝子調節領域にあるSNPを発見した。ヘモグロビン産生の減少によって特徴づけられる血液病である地中海貧血症の患者を調べて、著者たちはヒト染色体16にある上流調節領域とヘモグロビン遺伝子クラスターのプロモーター配列との間にある一個のSNPを同定した。この病と関連した対立遺伝子は新たなプロモーター様エレメントを作り、下流のαグロビン遺伝子の転写を阻害しているらしい。このように、遺伝子間領域にあるSNPは、見かけ上は非侵害性であるが、時において医学的に重要な機能的な結果をもたらす。(KU)
A Regulatory SNP Causes a Human Genetic Disease by Creating a New Transcriptional Promoter p. 1215-1217.

カルシウムチャネルをCRACing (CRACing Calcium Channels)

カルシウム遊離ー活性化カルシウム(CRAC)チャネルは、細胞内のカルシウム貯蔵が枯渇すると、原形質膜を通過するカルシウムの流入に介在しており、多くの細胞の受容体ー刺激のカルシウムシグナル伝達における重要な事象である。Vigたち(p.1220;4月27日のオンライン出版)は、ショウジョウバエのCRACチャネル機能に必要な遺伝子生成物に関してのハイスループットのRNA干渉スクリーンを完全に行うことで、CRACチャネルの一つのステップの分子同定をより精密に行った。CRAC修飾因子1と2(CRACM1とCRACM2)と言う二つの膜タンパク質がCRACチャネル自体の重要な要素であるのか、或いはそれを制御している調節機構での重要な要素の可能性がある。(KU,hE)
CRACM1 Is a Plasma Membrane Protein Essential for Store-Operated Ca2+ Entry p. 1220-1223.

発生のダンス(The Dance of Development)

卵から成体への経路においては何千もの複雑な遺伝子のダンスが踊られる。Imai たち(p. 1183; およびLemaireによる展望記事参照)は、ホヤ(Ciona intestinalis)の発生中の胚において、細胞一つ一つの調節遺伝子の発現を追跡した。著者たちは遺伝子相互作用のネットワーク地図を作り、この地図から、特定の発生経路に関する情報を抽出した。その中には、脊索や脳の形成経路も含まれる。その結果、無脊椎動物と脊椎動物の中間に位置する生物の発生の断片も見られた。(Ej,hE)
Regulatory Blueprint for a Chordate Embryo p. 1183-1187.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: How Many Ways to Make a Chordate? p. 1145-1146.

もっと大きな骨(Bigger Bones)

成体の骨量は、骨芽細胞による骨形成速度と、破骨細胞による骨吸収速度によって決まる。これらの細胞の機能を狂わせる遺伝的変異によって、出生後の過剰な骨形成を含む、骨格発生に問題が生じる。骨芽細胞分化に関する問題の中心は 転写制御因子のRunx2である。Jones たち(p.1223)は、このマスター制御タンパク質自身はどのように制御されているかについて明らかにした。受容体タンパク質Schnurri-3を欠くマウスは、骨量が増加するが、これは異常Runx2の細胞内代謝回転の結果、骨芽細胞の活性が増加したことによる。正常状態ではRunx2はユビキチン仲介による分解によって制御されており、これはE3ユビキチンリガーゼ WWP1によるSchnurri-3-依存性会合を経由している。この出生後の骨形成を制御している上流経路の同定によって、骨粗鬆症のような骨の異常症の治療法が明らかになる可能性がある(Ej,hE)。
Regulation of Adult Bone Mass by the Zinc Finger Adapter Protein Schnurri-3 p. 1223-1227.

沿岸生態系に対する漁業の影響(Fisheries' Effects on Coastal Marine Ecosystems)

漁業によって最上位の捕食者は除去され、陸地からの流出によって、大量の過剰な栄養分が海岸の海水中に沈殿する。海洋の種やコミュニティーに対するこれらのトップダウンおよびボトムアップの要因の相対的インパクトが、Halpernたちによってアセスされた(p. 1230)。彼らは、南カリフォルニアのケルプ(海藻の1種)森林コミュニティーに関する、複数年かつ広い空間的スケールにおける種の存在量のデータベースを利用した。生態系の藻類に対して最強の効果がある一次産生にはさまざまなレベルがあるにもかかわらず、トップダウン制御の方が7倍から10倍大きな影響をもっている。この結果は、巨大なケルプは栄養分のレベルに強く制御されているという考えとは対立する。そうではなくて、トップダウン制御の方が海岸の生態系に対してボトムアップの制御より大きなインパクトを有しているのであり、このことは生態系管理の戦略には漁業の制御に焦点を合わせる必要がある、という主張なのである。(KF)
Strong Top-Down Control in Southern California Kelp Forest Ecosystems p. 1230-1232.

炭化ケイ素単結晶上でのグラフェンの成長(Growing Graphene on Silicon Carbide)

カーボンナノチューブの印象的な電気的性質は二次元的な電子の閉じ込めによって生じ、グラフェン(graphene)シートがお互いに密接に接近していることに由来する。最近、シリカなどの基板に保持され、剥脱されたグラファイトから調製された超-狭grapheneの細い小片が同様の電気的性質を示すことが分かった。Bergerたちはこのたび、SiC単結晶上にgraphene層を水素エッチングと真空中での黒鉛化によって調製し、酸素エッチングによってパターン化しうることを示している(p. 1191)。その伝導率は小片の幅によって異なる。250ナノメートルの小片の幅では~60 Kまでしか量子閉じ込め効果を示さないが、狭い小片の幅(50ナノメートル)では、室温でそうした効果を示すようである。(KF)
Electronic Confinement and Coherence in Patterned Epitaxial Graphene p. 1191-1196.

暗闇の中で(In the Dark)

地球の熱いマントルの深い場所での振る舞いは、ferropericlaseや鉄マグネシウムペロブスカイトのような普通のマントル酸化物鉱物に起こる様々な鉱物性相転移に依存している。Goncharovたちは、それら無機質の赤外から紫外までの波長範囲において生じている吸収変化を圧力の増加に対応させて分析した(p. 1205)。彼らは、マントルの鉄酸化物において50ギガパスカルあたりで生じているスピン対形成転移が格子周囲の電荷をシフトさせ、深い場所で低スピン鉄無機質がより不透明になる原因となっている、と示唆している。つまり、この転移がマントルにおける熱伝達を変化させているのである。(KF,nk)
Reduced Radiative Conductivity of Low-Spin (Mg,Fe)O in the Lower Mantle p. 1205-1208.

オーキシン輸送の方向を示す(Providing Direction for Auxin Trafficking)

オーキシン・シグナル伝達が「どこで」起きているかは、植物増殖の際の発生における応答の制御において決定的である。オーキシンは流入と流出キャリアを使って、ある場所から隣へと細胞を介して流れていく。つまり、そうしたキャリアの局在性が、オーキシン・シグナル伝達に対して直接的な効果を持つている。Dharmasiriたちはこのたび、AXR4遺伝子をクローン化し、オーキシン流入キャリアがAXR4タンパク質によって示された方向に従って局在している、ということを示している(p. 1218;5月11日にオンライン出版発行)。(KF)
AXR4 Is Required for Localization of the Auxin Influx Facilitator AUX1 p. 1218-1220.

遺伝学と下垂体腫瘍(Genetics and Pituitary Tumors)

下垂体腺腫は、ゆっくりと成長する一般的に良性の腫瘍であり、人口の25%ほどに生じるものである。この腫瘍は、隣接する組織に対して機械的圧迫を与えたり、成長ホルモンなどの下垂体由来のホルモンの分泌を変化させたりすることで、健康にとって重大なリスクを課すことがある。この腫瘍が生じる分子機構についてはほとんど知られていない。1700年代にまで遡るフィンランドにおける系統学データを利用することで、Vierimaaたちは、下垂体腺腫を有する多くの人が、アリール炭化水素受容体相互作用タンパク質(AIP)をコードする遺伝子に変異を担っているせいで、遺伝的にこの腫瘍を発生させる素因をもっていることを発見した(p. 1228)。この結果は、この腫瘍の病原におけるAIPの機能的役割の研究を刺激するだけでなく、リスクのある個人の同定を促進することになるに違いない。(KF)
Pituitary Adenoma Predisposition Caused by Germline Mutations in the AIP Gene p. 1228-1230.

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