AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 5, 2006, Vol.312


タイタンの砂丘(Titan's Dunes)

Lorenz たち (p.724; Lancaster による展望記事を参照のこと) は、 タイタンのCassini によるレーダー観測を行い、その表面の広範な地域に、並行する、あるいは、峰をなす('seif')複数の砂丘原が含まれていることを示している。それらは地球上のサハラ砂漠における砂丘と類似している。砂丘の高さは約150mで、広さ1500×2000kmに渡る領域に、特に赤道近くに存在している。砂丘が東西に並んでいることや他の流れの特性から、それらは表面を走る東風の作用によって形成されていることが示唆される。砂丘の存在は、地質学的プロセスによって砂粒サイズの粒子を形成し、タイタンの赤道下の表面は恒久的な液体が存在しないこと示している。もし、液体が存在すれば、砂が飛び散らないように捕獲しているであろう。(Wt)
Global Mineralogical and Aqueous Mars History Derived from OMEGA/Mars Express Data p. 400-404.

ポリマー合成へのシャトルの利用(Shuttle Service for Polymer Synthesis)

「リビング」重合において、個々のポリマー鎖は単一の触媒サイトから一定の速度で成長していく。反応容器への種々のモノマーを連続的に除去したり、付与する事で、構造的に異なる鎖セグメントを持つブロックコポリマーが出来る。Arriolaたち(p.714;Gibsonによる展望記事参照)はブロックコポリマーを作る別の方法を提案しており、そこでは多種のモノマーを一度に総て添加し、分子シャトルが成長しているポリマー鎖を異なる選択性を持つ触媒間に前後に運ぶ。このシャトルの技術は高温(ポリマーの溶解性を維持するため)でも可能であり、更に経済的にも効率的な連続流の条件下でも合成できる。広範囲な触媒とシャトル分子の組み合わせの選択により、有用なゴム弾性のコポリマーが作られ、このコポリマーではポリエチレンのブロックが低含有量と高含有量レベルの高級オレフィン、1-オクテンと交互に結合し、高度のブロック混合体を作っている。(KU)
Catalytic Production of Olefin Block Copolymers via Chain Shuttling Polymerization p. 714-719.
CHEMISTRY: Shuttling Polyolefins to a New Materials Dimension p. 703-704.

極超磁場への乱流経路(Turbulent Route to Extreme Magnetic Fields)

短いγ線バーストは、2つの密な中性子星が合体してブラックホールを形成するときに結果として起きることが想定されている。強い磁場がγ線を生成すると考えられていたが、そのメカニズムは明らかになっていない。PriceとRosswog (p. 719、3月30日にオンライン出版;また、表紙参照)は 2つのペアの中性子星が死に至る過程をモデル化している。彼らは流体のダイナミクスや重力と同様に磁気効果を含めて検討している。彼らのシミュレーションによれば、強いせん断層が合体の最初の数ミリ秒の間2つの中性子星間の境界で発生する。この層内の乱流の渦が1015ガウス以上の大きな磁場を増幅する。これは良く知られている磁性星の磁場より更に強い。このプロセスは急速に進むので、ブラックホールが実際に形成される前にγ線バーストが発生するのかもしれない.(hk)
Producing Ultrastrong Magnetic Fields in Neutron Star Mergers p. 719-722.

原始有機物(Primitive Organics)

惑星間塵粒子は特に炭素が豊富であり、星間物質や彗星等の太陽系外を起源とすると考えられている。この原始的物質は、より高温下で作り出される隕石ではほとんど消失していると考えられていた。Busemannたち(p. 727;Martyによる展望記事参照)は水素と窒素の同位体を用いて、炭素質隕石(carbonaceous meteorites)中の有機物が塵粒子中の有機物と同じくらい原始的であることを示している。小惑星帯 (asteroid belt)領域における原始太陽系星雲(protosolar nebula)の温度は低く、それ以来隕石物質はほとんど変成を受けなかったことを示唆している。(TO,nk)
Interstellar Chemistry Recorded in Organic Matter from Primitive Meteorites p. 727-730.
PLANETARY SCIENCE: The Primordial Porridge p. 706-707.

カンブリア紀まで持ちこたえる(Holding On into the Cambrian)

ヴェンドビオント(Vendobiont)は、動物群のカンブリア紀の爆発的進化(Cambrian radiation)以前のエディアカラ紀( Ediacaran)の中で謎の多い動物群の1つであり、そして地球上で最も初期の動物群を表わしている。後年の動物との関係の詳細は不明であり、実際ほとんどのエディアカラ紀動物群は、この後の或いは現存する同じ系統の動物群はないと思われている。Shuたち(p.731)は、中国の初期カンブリア紀の地層から得た、内部柔組織を充分に判明できる保存状態のヴェンドビオントについて述べている。その化石は、ヴェンドビオントが茎により海床に付着して生きていたことを示唆している。この動物群はエディアカラ紀を生き残っただけでなく、その後のカンブリア紀の動物群と一部に類似性を示している。(TO,nk)
Lower Cambrian Vendobionts from China and Early Diploblast Evolution p. 731-734.

エネルギーを求めて飢餓状態に(Starved for Energy)

食料が欠乏したり、エネルギー需要が増加したとき、哺乳類は脂肪組織に蓄えられている細胞内トリグリセリド(triglyceride)を主要エネルギー源として利用する。この貯蔵物を動員するには脂質分解酵素の活性化が必要となる。Haemmerleたち(p. 734)は、このような酵素の一つであるATGL(adipose triglyceride lipase )を持たないマウスの特性を調べた。酵素の欠如により、糖耐性やインスリン感受性、熱産生の欠損、そして、心臓に多量の脂質量を蓄積させ、その結果心筋症を発症させ早発性の死に至らしめるといった重要な代謝異常をもたらした。(Ej,hE)
Defective Lipolysis and Altered Energy Metabolism in Mice Lacking Adipose Triglyceride Lipase p. 734-737.

最初に抗原を集める(First, Collect Antigens)

抗原がB細胞表面の受容体を刺激し、他の適正なシグナルが受け取られた後、B細胞によって抗体が産生される。もし、抗原が別の細胞表面に結合している場合、活性化のシグナルは極めて強く、B細胞は多様な抗原親和性の中から、このシグナルを識別することができる。Fleireたち(p. 738; Harnettによる展望記事参照)は、B細胞が抗原を集めて凝集体とすることを示しているが、これはT細胞に関して良く知られた免疫シナプスに似ている。最初のの接触の後、B細胞は他の細胞の間に分散収縮し、このプロセスを通じて抗原を収集する。この応答は、抗原の親和性とリガンドの占有性の両方に依存しており、両者のパラメータを用いて抗体応答の進化を最適化することを示している。(Ej,hE)
B Cell Ligand Discrimination Through a Spreading and Contraction Response p. 738-741.
IMMUNOLOGY: B Cells Spread and Gather p. 709-710.

誰が薬の出動を命じるのか?(Who Let the Drugs Out?)

細菌は多数の薬剤に対する耐性を獲得するが、これは部分的には薬剤を流出させる内在性膜輸送体ファミリーによるものである。輸送体のこのようなファミリーの一つであるMajor Facilitator Superfamily (MFS)は、多様な疎水性化合物を搬出している。Yinたち(p. 741)は3.5オングストロームの解像度でEmrDの構造を決定したが、これは大腸菌の内膜の水素イオン依存型MFS輸送体である。2本の長いループが伸びて膜二重層内側の葉状組織に達しており、ここで基質を認識して結合しているようだ。(Ej,hE)
Structure of the Multidrug Transporter EmrD from Escherichia coli p. 741-744.

修飾されたヒストン結合モジュールの作り方(Making of a Modified Histone Binding Module)

ヒストンの修飾が転写調節や後成的遺伝といったプロセスにどのように影響しているかを理解するには、このような修飾がどのように認識され、解読されているかを理解する必要がある。Huangたち(p.748;4月6日のオンライン出版)は、ヒストンの脱メチル化酵素JMJD2Aのみの二重チューダ(double tudor)領域とJMJD2Aの基質であるメチル化ヒストンペプチドとの複合体における二重チューダ(double tudor)領域の結晶構造を決定した。この二つの領域は互いに組み合わさった構造を形成し、これがメチル化ヒストンペプチドへの結合に必要とされる。この事はよく知られたエフェクター領域から新たなヒストン結合モジュールを作る可能性を示している。(KU)
Recognition of Histone H3 Lysine-4 Methylation by the Double Tudor Domain of JMJD2A p. 748-751.

小さいけれどもそう単純ではない心臓(A Small, But Not So Simple, Heart)

脊椎動物の心臓は、一般的に蠕動ポンプとして記述される弁無しのチューブとして発生する。共焦点レーザ走査顕微鏡と時間分解能三次元可視化方法を用いて、Forouharたち(p.751)はゼブラフィッシュの胚における心臓壁と血液細胞を追跡した。胚性の心臓チューブは予期されるような蠕動ポンプ的特性を示さなかった。その代わりに、心臓チューブにおける弾性波の伝播と反射は、直径や長さ、及び弾性といった心臓チューブの力学的な特性によって影響される吸引ポンプとより一致するような振る舞いを示した。(KU)
The Embryonic Vertebrate Heart Tube Is a Dynamic Suction Pump p. 751-753.

怖れについての神経の基礎を定義する(Defining the Neural Basis of Dread)

2つの選択肢から1つを選ぶことは、選択肢が時間上で分離している場合は特に難しい。経済の理論ではこの計算を、将来の結果をそれにかかる時間の量で、たいていは双曲関数を使って単純に割り引きすることで斟酌している。付加的な要因の1つは、待つことに関わるコストであるが、これは結果が不快な場合(脚への電気ショックなど)には明瞭に表すことができ、選択肢は、数秒以内の強いショックと30秒後のより弱いショックとのどちらか、というようなことになる。多くの人は、第一に、将来の疼痛の予測を回避することを想定して、「さっさと片付ける」方を選ぶ。これは、怖れについての神経の基礎の検討において、Bernsたちによって操作上の定義として用いられている(p. 754)。皮質性疼痛マトリックス内の領域は、個々を超えて表現される怖れの範囲に付随するようなしかたで応答する。(KF)
Neurobiological Substrates of Dread p. 754-758.

脳中の格子(The Grid in the Brain)

空間のナビゲーションは、中央嗅覚皮質(MEC)とインターフェースするいくつかの脳領域に依存している。中央嗅覚皮質(MEC)のレイヤーIIの細胞は、環境と独立した格子状の協調システムを発現している。嗅覚皮質におけるこれら格子細胞と他の細胞型との相互作用は、良く分かっていない。Sargoliniたちは、四角い場を探索しているラットの中央嗅覚皮質のもっとも後側部分の様々なレイヤーにおけるニューロンの発火特性を分析した(p. 758; またLoewensteinによる展望記事参照のこと)。レイヤーIIのニューロンは優位に格子細胞であったが、より深いレイヤーでは、この格子細胞がhead-direction細胞と混じり合っていた。深いレイヤーにある幾つかの細胞は、head directionと空間的格子情報の双方の結合をシグナル伝達している。すべてのレイヤーの細胞活性は、走る速度によって調節されていた。(KF)
Conjunctive Representation of Position, Direction, and Velocity in Entorhinal Cortex p. 758-762.
SOCIAL SCIENCE: The Pleasures and Pains of Information p. 704-706.

安定な三角形のカルベン(A Stable Triangular Carbene)

星間空間には無数の電子的に不飽和の小さな分子が含まれているが、より密な環境下では衝突により急速に分解する。この種の分子の一つは三角形の炭素環化合物、シクロプロペニリデンC(CH)2であり、又、電子的に飽和した一重項の基底状態を持っている。Lavalloたち(p.722;4月13日のオンライン出版)は、室温でこの炭素骨格に電子過剰のアミノ基を付加する事でこのカルベン化合物の誘導体を安定化した。カルベン中心は、モデル計算による未付加分子の環の幾何学構造と比べて、ほんの僅かしか乱れていない。以前の単離可能なカルベンと異なり、この化合物は不飽和のカルベン中心に直接結合するのにアミンドナーを必要としない。(KU,nk)
Cyclopropenylidenes: From Interstellar Space to an Isolated Derivative in the Laboratory p. 722-724.

シグナル識別を解き明かす(Deciphering Signal Recognition)

分泌性タンパク質と膜タンパク質は、リボソームから出現する際にシグナル識別粒子(SRP)によって認識される、いわゆるシグナル配列を含んでいる。この新生タンパク質は次にSRP受容体とドッキングすることによって、膜へ向けて導かれる。このSRP受容体は、リボソームのトランスコロンへの伝達と、それに引き続いての膜を横切ってのタンパク質の転位置とを促進するものである。Halicたちは低温電子顕微鏡を用いて、SRP結合80SリボソームとSRP受容体からなるドッキング複合体の、8オングストロームの分解能の構造を作り出した(p. 745)。(KF)
Signal Recognition Particle Receptor Exposes the Ribosomal Translocon Binding Site p. 745-747.

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