AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 21, 2006, Vol.312


火星のプロセスは湿式と乾式(Wet and Dry Martian Processing)

Mars Express 上の主要な分光計は、OMEGA と呼ばれているが、これは広く惑星全体に渡るデータを返信してきている。Bibring たち (p.400) は、この結果と、他の火星周回衛星、および、二つの探査車による関連観測結果とを組み合わせて、火星上の水成変質の歴史を再構成した。含水鉱物は、もっとも古い岩石においてのみ豊富であった。硫黄の豊富な鉱物は、ある程度若い岩石に存在している。しかし、より最近の変成は、無水のものである。この履歴は、火星の歴史上、ほんの初期にのみ表面上に水が存在したこと、そして、これはより短時間の酸による変成へと取って代わられたらしいことを示唆している。およそ35億年前以降は水分と岩石との反応が存在した明白な証拠はない。 (Wt,nk,tk)
Global Mineralogical and Aqueous Mars History Derived from OMEGA/Mars Express Data p. 400-404.

スポットはレーザ加速によってヒットされる。(Laser Acceleration Hits the Spot)

超高強度レーザパルスの1つのアプリケーションは、粒子加速である。しかし表面から加速されるプロトンやイオンは、エネルギー的にも空間的にも大きな広がりを持つ傾向がある。Toncianたち(2月16日にオンライン上で公開されたp. 410のDunneによる展望参照)は、加速されたプロトンの経路中に中空シリンダを置き、高強度レーザパルスによって高精度のタイミングでそのシリンダを照射した。プロトンの通過時間はエネルギーに依存しており、イオン・プロトン生成パルスおよびシリンダパルス間のタイミングを変化させることでエネルギー選択と、シリンダを出るプロトンのコリメーションを可能にしている。(hk)
Ultrafast Laser-Driven Microlens to Focus and Energy-Select Mega-Electron Volt Protons p. 410-413.
APPLIED PHYSICS: Laser-Driven Particle Accelerators p. 374-376.

接地されてないほうが望ましい(Better to Be Left Hanging)

単層壁カーボンナノチューブ(SWNTs)は、バンドと励起キャリア両方のモデルから解釈されてきた。SWNTsの光子励起スペクトルが、吸収スペクトルに一致するということから言えることは、バンドモデルに好都合であることだ。Itkis たち(p.413)は、SWNTフィルムを接地されてない浮遊状態にすると、光伝導応答性が少なくとも5桁も増加させることができ、そのため、赤外検出装置用物質として十分利用が可能となる。光伝導性は熱量計型検出器であるため、この効果は光励起と伝導性モデルに直接関連している訳ではない。SWNTフィルムの感度が高いことから、赤外線ボロメータ(熱量計型検出器)の高感度物質として使えるであろう。(Ej,hE)
Bolometric Infrared Photoresponse of Suspended Single-Walled Carbon Nanotube Films p. 413-416.

フェムト秒よりも速く(Faster Than Femtoseconds)

化学反応の動力学を研究する際の時間分解能は一般的にプローブとして利用するレーザーのパルス幅で限定されている。パルス幅は、現在1フェムト秒に近づいているが、ある種の分子事象は、より高速な時間幅で生じる。Bakerたち(p. 424, 3月2日オンライン出版、および、 Bucksbaumによる展望記事参照)は、8フェムト秒のレーザーパルスを使って、電離反応後のH2とメタンの核の動力学を0.1フェムト秒の時間分解能で観察できることを示した。この手法は、レーザーパルスで分子から叩き出された電子の速度分布に広がりがあることを利用しており、この電子速度の広がりは電子がイオンと再結合時する時に出される光子の周波数に広がり、つまり光学的なさえずり、を与える。放射光子の周波数は、励起パルスよりもっと精密なクロックの役割をする。(Ej,hE,nk)
Probing Proton Dynamics in Molecules on an Attosecond Time Scale p. 424-427.
CHEMISTRY: The First Femtosecond in the Life of a Chemical Reaction p. 373-374.

金・銀・ダイヤモンド(Of Gold, Silver, and Diamonds)

ナノ粒子によって、自然状態では本来最密充填であるべき物質を、多様な結晶性格子として配列することができるが、ダイヤモンド格子に似た、もっと開いた構造を作ることは難しい。Kalsin たち(p. 420,2月23日発行のオンライン記事、および、Velevによる展望記事参照)は、金や銀のナノ粒子を静電気的効果を利用して組み立て、同一サイズだが逆電荷の単層でコートされた粒子から、ダイヤモンド類似のスファレライト(閃亜鉛鉱型)格子に変化させる手法を開拓した。イオン性元素で出来た塩の結晶と異なり、スクリーニング作用はナノ粒子と同じスケールであるが、近距離力だけが構造化に寄与する。もっと小さな荷電ナノ粒子の存在によって対イオン(counterion)としての効果を示し、結晶性の質が向上する。 (Ej,hE,nk,tk)
Electrostatic Self-Assembly of Binary Nanoparticle Crystals with a Diamond-Like Lattice p. 420-424.
MATERIALS SCIENCE: Enhanced: Self-Assembly of Unusual Nanoparticle Crystals p. 376-377.

ドレーク海峡の年代(Dating the Drake Passage)

南アメリカの最南端と南極半島との間のドレーク海峡が出来たことは、南極周極流(Antarctic Circumpolar Current)が発生する重要なステップであった。しかし、その海峡が出来た年代の推定は、早い推定では4900万年から遅い推定では1700万年までの幅がある。Scher とMartin (p. 428; Kerrによるニュース記事参照)は、ドレーク海峡から下流で見つけた、4600万年前から3500万年前の期間にいた魚の歯にあるNd同位体から得られた海洋循環の海洋堆積記録を示す。彼らは、ドレーク海峡は始新世中期にあたる4100万年前には開き始めていたことを明らかにした。この出来事は、最後に取り残された回廊、タスマニアンゲートウエイの3500万年前頃の開放や3400万年前頃に始まった南極における大氷床の成長にずっと先んじていた。(TO)
Timing and Climatic Consequences of the Opening of Drake Passage p. 428-430.

トリインフルエンザのH5の構造(Bird Flu H5 Structure Defined)

H5N1"トリインフルエンザ"ウィルスは、家禽において強い接触伝染性を示し、そして致死性のものである。これまでのところ、ヒトの感染はトリからヒトへの伝播に関する場合に限定されている様であるが、ヒトにおける死亡率は高い。このウィルスが流行性ヒト系統へと適応する可能性があるかどうか、という疑問は、緊急に解明しなければならない。Stevensたち(p. 404、3月16日にオンラインで発行)は、H5N1血球凝集素(HA)の構造を2.9Åの解像度で明らかにし、そしてグリカンマイクロアレイシステムを使用して、このHAおよび具体的な変異体の受容体-結合選択性を調べた。トリH2 HAおよびH3 HAをヒト受容体特異的なものに変換する変異により、H5N1 HAにおける同様な特異性転換は引き起こされなかったが、天然のヒトα2-6グリカンに対する結合は可能であった。この結果は、人間への感染経路を確立する足がかりが存在することを示している。(NF,nk)
Structure and Receptor Specificity of the Hemagglutinin from an H5N1 Influenza Virus p. 404-410.

生態学的共同体におけるネットワーク相互作用(Network Interactions in Ecological Communities)

植物と動物とのあいだでの共進化および相利共生の研究のほとんどは、それぞれの共生関係を個別に研究してきたが、生態学的共同体レベルのより幅広い相互作用ネットワークには注目していない。このギャップを埋めるため、Bascompteたち(p. 431;Thompsonによる展望記事を参照)は、熱帯から極地までのデータを利用して、多数の共進化したネットワークを解析し、それらの構造やそれらの安定性と共進化についての関連性を評価した。相利共生ネットワークは、非対称性の弱い相互作用を特徴としており、その場合、各相利共生において一方のパートナーは他方に強く依存しているが、他方は一方にわずかにしか依存していない。このネットワーク構造は、より幅広い生態学的共同体に安定性をもたらすものである。(NF,nk)
Asymmetric Coevolutionary Networks Facilitate Biodiversity Maintenance p. 431-433.
ECOLOGY: Mutualistic Webs of Species p. 372-373.

植物におけるMicroRNAと生得的免疫応答(MicroRNA and Innate Immune Responses in Plants)

植物は、細菌フラジェリンなどの病原体-関連分子マーカーを検出する場合に、生得的免疫応答を上昇させる。Navarroたち(p. 436)はここで、シロイヌナズナ(Arabidopsis)において、細菌フラジェリンがmicroRNA miR393の発現を誘導し、それが次にTIR1、AFB2、およびAFB3という3種類のF-ボックスオーキシン受容体のmRNA発現を低下させ、そして最終的に疾患感受性に関与するオーキシンシグナル伝達経路の下方制御を誘導することを示した。次いで、この下方制御は、感染に対する植物の抵抗性を増加させる。このmiRNA発現は、免疫応答が確実に生じるようにするため、オーキシン受容体の独立した転写抑制と平行して作用するようである。(NF)
A Plant miRNA Contributes to Antibacterial Resistance by Repressing Auxin Signaling p. 436-439.

核膜孔生産ライン(Nuclear Pore Production Line)

真核細胞の核は二重の膜構造に包まれている。この核膜の切れ目が核膜孔複合体である。間期において、核膜孔は、核内部と細胞質間の物質輸送で必ず通る場所である。これらの 核膜孔複合体は、既存の孔が分裂して形成されるのか、またはデノボ合成によるのだろうか?D'Angeloらは(p. 440)生細胞内の核膜孔複合体形成のリアルタイムイメージングを示し、核膜孔複合体はデノボ合成により、核膜の両側から形成されることを示唆している。(ei,NF)
Nuclear Pores Form de Novo from Both Sides of the Nuclear Envelope p. 440-443.

計算から体外実験を経ての薬剤発見(From in Silico to in Vitro Drug Discovery)

現在入手可能な多くの治療薬は、Gタンパク質(ヘテロ三量体のGTP結合タンパク質)結合受容体を介するシグナル伝達を調節することで作用している。Gタンパク質サブユニットは、Gタンパク質結合受容体からその標的に向けてシグナルを伝達するもので、そうした複合体の多くの結晶構造は解決済みである。Bonacciたちは、どの化学物質がこのサブユニット上の相互作用部位に結合するかを予想するコンピュータ・プログラムを用いて、強力な小分子のタンパク質間相互作用阻害薬を得ることができた(p. 443; またTesmerによる展望記事参照のこと)。さらに、この分子は、シグナル伝達-特異的な下流標的を破壊する特異性を示したが、これはそうした試薬が、効果的であると同時に相対的に副作用が少ない可能性があることを示唆するものである。(KF)
-Subunit Signaling with Small Molecules p. 443-446.
PHARMACOLOGY: Hitting the Hot Spots of Cell Signaling Cascades p. 377-378.

インフルエンザの流行を予測する(Predicting Flu Dynamics)

Viboudたちは(p.447、3月30日にオンライン出版された)、米国における1972年から2002年までのインフルエンザ死亡率データをウイルスの季節的な伝染と疫病の尺度として活用し米国全土へのインフルエンザ流行との同調性を調査した。彼らは、軽度なものよりも重篤な流行がより高い同調性を持つこと、流行の伝播が長距離旅行者や異なる州の間の伝播よりも、仕事に関連した人々の移動によるものがより高い相関性があることを発見した。季節的なインフルエンザの流行伝播は従来想定されていた子供が原因というよりも、大人が主な伝播原因であることも発見した。これらの発見はインフルエンザ全国流行のコントロール戦略立案に大きく影響するだろう。(Na)
Synchrony, Waves, and Spatial Hierarchies in the Spread of Influenza p. 447-451.

.急速硬化の法則 (The Hardening-Fast Rules)

アルミニウム合金は、専ら軽さを必要とする用途に使われている。よく使われる合金であるAlMgSiは、ある形状にプレスされた後に熱処理で急速に硬化することが出来る。しかしながら、合金が長期間保管されていた場合には、この急速熱処理硬化反応が妨げられる。従って、一般的にはアルミニウム工場からはプリエージング(pre-aging)を施して出荷される。Chenたちは(p.416)、この硬化プロセスを研究し、ナノ粒子析出物を構成するシリコンの二重の針状析出物を同定した。彼らは、アニーリングにより組成内の析出物が変化して強化される様子をモニターすることに成功した(Na,nk)。
Atomic Pillar-Based Nanoprecipitates Strengthen AlMgSi Alloys p. 416-419.

メタ集団のダイナミクスを測定する(Measuring Metapopulation Dynamics)

生物の自然な集団は、一様に分布するのではなく、むしろ分散と移動によって結びついている小さな亜集団に分かれているものである。DeyとJoshiは、ショウジョウバエのメタ集団を複製した実験室のシステムにおいて、分散の割合がメタ集団のサイズやダイナミクス、安定性に与える影響についての理論的予測をテストした(p.434)。 分散が低いレベルだと、亜集団間の非同期性が誘発されて、安定したメタ集団ダイナミクスが導かれるが、分散が高い比率であると、亜集団間の同期が導かれることで、メタ集団レベルでは、より不安定なダイナミクスになるのである。この実験による知見の大半は、単純な非-種特異的な集団増殖モデルを用いたシミュレーションによって捉えることができた。(KF)
Stability via Asynchrony in Drosophila Metapopulations with Low Migration Rates p. 434-436.

ウイルスへのRNA干渉(RNA Interference with Viruses)

RNA干渉(RNAi)は、植物においてはウイルス感染への防御で役割を果たしているが、動物においても同様な役割を果たしているのだろうか? 組織培養細胞と線虫-に基づく系からの証拠によれば、動物でもそうであることが示唆されるが、内在性ウイルスと動物全体を用いた系における決定的証拠はこれまで欠けていたのである。Wangたちはこのたび、ショウジョウバエの胚と成体となったハエの双方が、昆虫ウイルスへのRNAi機構を必要とする免疫応答を実質的に生得的にもっていること、またこの生得的防御はTollと免疫不全経路によって提供されている生得的細菌防御とは分離可能である、ということを示している(3月23日オンライン発行されたp. 452)。(KF)
RNA Interference Directs Innate Immunity Against Viruses in Adult Drosophila p. 452-454.

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