AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 7, 2006, Vol.312


リング(環)の特性は繰り返す(Repeating Ring Properties)

最近、天王星の周りで、新規な二つの外側リング(環)と複数の月が発見された。ハワイにあるKeck望遠鏡の赤外補償光学系(大気の揺らぎに合わせてすばやく鏡の形を調整してイメージ精度を保つ装置)を用いて、de Pater たち (p.92) は、それらリングは、土星の E および G のリングと同様、それぞれ青色および赤色であることを示している。青いリングである R1 は、天王星の月である マブ(Mab) に付随しており、一方、土星の E リングは、活動性の高い月であるエンケラドス(Enceladus)のホストである。この対応が示唆することは、ほんの小さな粒子だけしか、重力や太陽放射圧、電磁気力に抗して生き残ることができないので、マブ(Mab) がリングの物質と青色の源泉である可能性があるということである。リング R2 は、土星の G リングと同じように赤く、同じような前方散乱光と後方散乱光の割合を見せている。また、天王星のリングと土星のリングの両方とも、惑星半径では似た位置にある。(Wt,nk)
New Dust Belts of Uranus: One Ring, Two Ring, Red Ring, Blue Ring p. 92-94.

C-H結合から始める(Beginning with C-H Bonds)

有機分子や生体高分子の炭素-水素結合は、もっとも活性の少ない化学的グループの1つであり、また化学合成においては、C-H結合は、無選択性で制御困難な、酸化やハロゲン化反応によってまず反応を開始する。Godula と Sames (p. 67) は、遷移金属触媒法の最近の進展状況を調べ、そのなかで、孤立したC-H結合から炭素-炭素結合の形成を可能にする直接的かつ選択的な結合形成についてレビューした。薬剤の前駆物質のような複雑な分子を合成する際に、これらの合成反応経路には合成効率を大きく上げる可能性が潜んでいる。(Ej,hE,nk)
C-H Bond Functionalization in Complex Organic Synthesis p. 67-72.

量子仔猫から飛ぶ猫まで(From Quantum Kittens to Flying Cats)

量子情報処理では、信頼のおける物質の量子状態標本が必要である。そうした状態は理論的に特定することは容易であったが、実験的に実現することは困難であった。特に量子通信目的での適用が期待される浮遊状態("flying" states)タイプについては困難であった。Ourjoumtsevたち(3月9日オンラインで公開されたGisinによる展望p. 83を参照)は、スクイーズド・コヒーレント光学パルスから単一光子を取り出すことによって、小さいシュレディンガーの猫状態すなわち「シュレディンガーの仔猫たち」を作り出すことについて報告している。また、これら仔猫たちが適切な増幅と蒸留プロセスを通すことによって猫に成長させられることを示している。(hk)
Generating Optical Schrödinger Kittens for Quantum Information Processing p. 83-86.
PHYSICS: New Additions to the Schrödinger Cat Family p. 63-64.

超合金化を可能にするコバルト(Superalloying Cobalt)

鉄、コバルト、あるいは一般的にはニッケルを利用した超合金は、絶対溶融温度の70%を超える温度で安全に利用することができるが、従来の合金では、それ以前に変形(クリープ)したり酸化を受ける。しかし、アルミニウム、チタニウムなどの溶質を添加することで、あるいは両方を溶かし込むことによって、2相平衡微細構造が形成され、これによってその物質の高温強度が増加し、クリープ耐性が著しく増加することになる。コバルト超合金は、一般的にニッケル超合金に比べて強度の点で劣るため応用範囲が少なかった。しかしSatoたち(p. 90)は、更にアルミニウムとタングステンを加えた3元コバルト合金が、ニッケル超合金に匹敵する性質を有することを示した。(Ej,hE)
Cobalt-Base High-Temperature Alloys p. 90-91.

H2はPtを励起させてない(H2 Leaves Pt Unexcited)

ボルン-オッペンハイマー(B-O)近似は、化学的相互作用における核と電子運動とを独立に扱うもので、計算モデルにおける礎石である。これが成り立たないと、気相における分子反応の理論的解析は、小さい分子であっても恐ろしく複雑になる。しかし、金属表面では電子が容易に励起されることという理由で、工業的触媒反応に主要な役割を演じている現象の一つ、金属表面上への分子衝突、のシミュレーションにこの近似を使うことの妥当性には大きな疑問が投げかけられてきた。Nietoたち(p.86, 2月9日号のオンライン出版記事参照;Wodtkeによる展望記事も参照)は、H2の白金表面での散乱と解離吸着データが、B-O基準がそのまま成立していると見なした密度汎用数理論(density functional theory)によって充分良く予想可能であることを示した。H2の相互作用の間、Ptの電子励起が無いことから、広範囲の不均一反応に対する正確なモデル化が可能と思われる。(Ej,hE,nk)
Reactive and Nonreactive Scattering of H2 from a Metal Surface Is Electronically Adiabatic p. 86-89.
CHEMISTRY: Chemistry in a Computer: Advancing the in Silico Dream p. 64-65.

ハリケーンの原因を調べる(Hunting Hurricane Causes)

ハリケーンの生成と発達には、海洋表面温度(SST)、対流圏低層湿度、風向と風速の高さ変化によるせん断応力、大規模大気循環パターンなど様々な因子が影響を与えている。これら因子のうち、どれが最も影響が大きく、1970年以降増加している地球規模のハリケーン発生の原因だろうか。Hoyos達は(p.94、3月16日オンライン)、ベイズ統計と情報理論を用いて、これらの嵐が発生した全ての主要な海洋沿岸地方において、短期的変動を除いて、嵐の長期的傾向の原因を同定した。著者たちは熱帯地方のSSTの上昇のみが、最近数十年間の傾向に重大な影響を与えていた、と結論づけた。(Na,nk)
Deconvolution of the Factors Contributing to the Increase in Global Hurricane Intensity p. 94-97.

痛みなくして、利益なし(No Pain, No Gain)

社会的行動は複雑で多面的である。複雑な問題の一つは、双方の利益のためにわれわれが他者と協調する条件である。公共財ゲームを使用した実験結果から、ただ乗りする個体(free-riders)が、利他的な考えを持つ個体から大きな罰を受けるという脅威だけで、グループ全体のコンプライアンスを維持するには十分であることが示唆された。Gurerkたち(p. 108;Henrichによる展望記事を参照)は、自由に選択することが許容される場合には、個体は、最初、罰の許容されていない、制裁を伴わないゲームに参加することを選択する。その後ゲームを繰り返し行うにつれて、協調することによってより大きな報酬が得られることを正当に評価するようになり、その結果、罰(ただ乗りすると高くつくという罰)を許容するようになり、そして彼ら自身がコンプライアンスを積極的にモニターするという、制裁制度へと転換するのである。(NF)
The Competitive Advantage of Sanctioning Institutions p. 108-111.
SOCIAL SCIENCE: Enhanced: Cooperation, Punishment, and the Evolution of Human Institutions p. 60-61.

アリの系統樹(Ant Family Tree)

アリは陸地生態系の最も特徴的な存在であるが、その歴史的な進化については驚くほど少ししか分かっていない。Moreau達は(p. 101、表紙も参照)、世界中の代表的なアリの種の複数の遺伝子のDNA配列を解析し、アリの系統図を組み立てた。Leptanillinaeという一つのグループが系統図の一番下に位置し、他のグループは主要な2つの群に分類される。著者たちは、アリの化石を用いてDNA進化の速度を補正し、現在のアリはおよそ1億4千万年から1億6千800万年前に発生した、と結論づけた。しかしながら、アリの多様化はおよそ1億年前、顕花植物や被子植物の発生の直後から始まっている。(Na,tk)
Phylogeny of the Ants: Diversification in the Age of Angiosperms p. 101-104.

胚発生におけるマイクロRNA(MicroRNAs in Embryogenesis)

動物の発生初期において、胚は、母体から与えられたメッセンジャーRNA(mRNA)転写物を使用することから、主として受精卵の遺伝子を発現するように転換する。この母性-受精卵転移のあいだに、多数の母体mRNAがどういうやり方でか、排除される。Giraldezたち(p. 75、2月16日にオンラインで発行;CohenとBrenneckeによる展望記事を参照)は、マイクロRNA(miRNA)に基づく可能性のある機構を調べ、そして母性-受精卵転移の時に特異的に発現されるゼブラフィッシュmiRNA miR-430に対して、203種の推定標的を同定した。数百のmiR-430標的mRNAが初期発生のあいだに母体から発現されており、そしてmiR-430がそれらの脱アセチル化および減衰を促進している可能性がある。つまり、ゼブラフィッシュの胚発生における母性-受精卵転移のあいだに、miR-430は重要な役割を果たしているのである。(NF)
Zebrafish MiR-430 Promotes Deadenylation and Clearance of Maternal mRNAs p. 75-79.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Mixed Messages in Early Development p. 65-66.

セロトニンと肝臓再生(Serotonin and Liver Regeneration)

肝臓は、肝臓組織の70%程度までが取り除かれるような重度な損傷または外科手術の後でさえも、再生することがある。Lesurtelたち(p. 104)は、マウスモデルにおいて、血液中を循環する血小板により運搬されるセロトニンが、再生過程において役割を果たしていることを報告した。肝臓における5-HT2Aおよび2Bサブタイプ受容体の発現が、肝臓切除術の後に増加することが見いだされた。血小板機能を欠損させたマウスは、再生応答が減少していたが、セロトニン受容体アゴニストを用いて処置したところ、肝細胞の増殖が回復した。末梢性セロトニンを欠損したマウスにおける肝臓の再生もまた、マウスの血小板にセロトニンを運搬させた場合に回復した。従って、セロトニン受容体アゴニス トを用いた治療が、組織修復において有用である可能性がある。(NF)
Platelet-Derived Serotonin Mediates Liver Regeneration p. 104-107.

進化の柔軟性についての制約(Limits to Evolutionary Flexibility)

遺伝的変異こそが、進化を支える基盤である。適応性を与えてくれる遺伝子は、選択されている期間のうちに、複数の変異を蓄積していく。もちろん、そうした変異の出現にあたっては、潜在的な進化の道筋が多数存在している。しかしながら、すべての道筋が可能なわけではない。というのは、個々の変異の適応度が、その変異の出現する遺伝的背景に依存している可能性があるからである。Weinreichたちは、 大腸菌のラクタマーゼにおける5つの変異にとって可能な進化の道筋を図化した(p. 111)。これらの変異は一緒になって、抗生物質セフォタキシムへの抵抗性を10万倍にもするものである。高い適応度にいたるために潜在的に可能な120の経路のうち、酵素上の変異の多面発現効果のせいで、ほんの18の経路だけが、可能だったのである。(KF)
Darwinian Evolution Can Follow Only Very Few Mutational Paths to Fitter Proteins p. 111-114.

マルファン症候群の治療法(Therapy for Marfan Syndrome)

マルファン症候群(MFS)は、結合組織における系全体にわたる欠損によって特徴付けられる遺伝性障害である。MFSを有する人は、血管が破裂して生命を危うくするほどの内部出血を引き起こしかねない、大動脈瘤すなわち大動脈の壁の隆起を発達させる危険を非常に高める。MFSのマウスモデルを研究して、Habashiたちは、動脈瘤の形成が、大動脈壁におけるトランスフォーミング成長因子-(TGF-)シグナル経 路の活性化を伴う、ということを発見した(p. 117; またTravisによるニュース記事参照のこと)。MFSマウスを、最近他の病状におけるTGF-シグナル伝達に拮抗することが示されたロサルタンによって処置すると、MFSマウスにおける大動脈表現型が、たとえ動脈瘤の形成後であっても、ほぼ完全に正常になった。ロサンタンは高血圧のコントロールにすでに広く用いられているものなので、著者たちは、MFS患者における将来の臨床試験は保証されると示唆している。(KF)
Losartan, an AT1 Antagonist, Prevents Aortic Aneurysm in a Mouse Model of Marfan Syndrome p. 117-121.

熱帯太平洋の気候変化(Tropical Pacific Climate Evolution)

鮮新世初期の間(5百万年前から3百万年前まで)、北半球には、ほとんどあるいはまったく永続する氷はなく、地球の平均表面温度は今日より数度暖かかった。およそ3百万年前、永続する大陸氷床が北半球に形成され始め、高緯度気候の可変性が劇的に増加したのである。こうした変化が、対応する熱帯気候の変化とどう関連しているかは、活発な議論のトピックとなってきた。Lawrenceたちは、海の表面温度の5百万年分の記録と赤道付近の東太平洋の生産性の変動とを提示し、冷却が、北半球の氷河作用が強まるずっと前、およそ4百万年前に始まった、ということを発見した(p. 79)。つまり、鮮新世および更新世の間、南半球高緯度地方の変動が赤道帯東太平洋の表面条件の変化をうながしていたのである。 (KF,nk)
Evolution of the Eastern Tropical Pacific Through Plio-Pleistocene Glaciation p. 79-83.

先見性あるホルモン受容体進化(Prescient Hormone Receptor Evolution?)

高度に統合された生物学的システムは、進化の過程でいかにしてそうしたシステムが生じたかを理解する、というチャレンジを提供する。そうしたシステムの1つに、脊椎動物系列中の深いところにおける遺伝子重複から生じる、グルココルチコイド受容体(GR)と鉱質コルチコイド受容体(MR)とがある。MRはアルドステロン・ホルモンに結合し、またそれによって活性化されるが、アルドステロンはずっと後に、四足類を導く系列に出現するものであるので、それぞれが他方の存在をいかにして「予期した」のか、という質問を生じさせることになる。Bridghamたちは、MRとGRを生じさせる祖先ホルモン受容体(AncCR) を再構築することによって、このシステムの進化を分析し、それが、おそらくは11-デオキシコルチコステロンなどのより古いホルモンへの親和性の結果としてアルドステロンへの実質的な親和性を有していた、ことを示している(p. 97; またAdamiによる展望記事参照のこと)。さらに、AncCRにおける2つの一塩基変異が、アルドステロンへの今日見られる低親和性を示すGR様受容体を生んだのである。(KF)
Evolution of Hormone-Receptor Complexity by Molecular Exploitation p. 97-101.
EVOLUTION: Reducible Complexity p. 61-63.

すきまを作る(Make Space)

相対的なリンパ球存在量をいかにして制御するかについては、多くの問いが残されてはいるが、T細胞数についての厳密な制御の維持は、適切な免疫機能にとって必須である。Hatayeたちは、多数の同一T細胞が存在しているとき、その結果生じる集団は、より少数からなる同じクローンの集団に比較して半減期がかなり短くなるという点で、時間的に不安定である、ということを発見した(3月2日にオンライン発行されたp. 114)。正常な多クローン性T細胞集団では、特定のクローン性集団の数を低く保つそうしたクローン内揺さぶり合い(jostling)が、多様なクローンが最大多数、所与の時点で共存可能であることを保証するのを助けているのである。(KF)
Naïve and Memory CD4+ T Cell Survival Controlled by Clonal Abundance p. 114-116.

Keck 望遠鏡における単一モードファイバーを用いた干渉計結合(Interferometric Coupling of the Keck Telescopes with Single-Mode Fibers)

単一モード光ファイバーを用いて二つの大型望遠鏡を干渉計として結合することに成功したことに関する報告である。二つの Keck 10m 望遠鏡を用いて、107 Herculis 星に対して、2〜2.3μm の波長の干渉縞を得ることができた。それぞれの望遠鏡からは、300mの単一モード光ファイバーを通して、干渉計のための共通の焦点へと光が送られる。これらの実験は、将来の km の大きさの望遠鏡アレイの潜在的な可能性を示すとともに、Hawii の Mauna Kea 天文台で計画されている'OHANA (Optical Hawaiian Array for Nanoradian Astronomy ナノラジアン天文学のためのハワイ光学アレイ望遠鏡) 干渉計に向けての最初の一歩である。これは、1ミリ角度秒以下の分解能を有する高分解能光学画像機器に道を開くものである。われわれの実験におけるセットアップは、数百メートル離れた大きな望遠鏡にそのまま拡張することができる。(Wt,nk)
--- 速報(Science 13 January 2006)
http://www.sciencemag.org/content/vol311/issue5758/index.dtl#brevia
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