AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 20, 2006, Vol.311


ねじれを持つ磁性(Magnetism with a Twist)

らせん状のスピン秩序において、材料の結晶学的な面内のスピンは整列する傾向があり、その方向は、隣接する面の間では一定の角度で回転している。面間の磁気モーメントの相対的な方向に関する知識とその制御ができるということが、このような構造を通過する制御されたスピンの流れに対して重大な意味を有している。中性子散乱のような逆空間イメージングプローブのみが、全体的なスピンの構造に関する平均的な画像を与える。Uchida たち (p.359; Nori と Tonomura の展望記事を参照のこと)は、ローレンツ顕微鏡を用いて、らせん状スピン秩序の実空間における構造が、平均的な手法から予想されるものよりもはるかに豊かなものであることを見出した。彼らは、また、温度と磁場の変化に応じて、磁気的な欠陥のリアルタイムの運動を可視化した。これらは、この効果に依るであろうスピントロニクスデバイスに関する重要な情報をもたらす可能性がある。(Wt)
【訳注】ローレンツ顕微鏡とは、透過型電子顕微鏡においてローレンツ力を利用して磁区構造を見る顕微鏡を指す。詳細は、以下のサイトに詳細な説明がある。
http://www.jeol.co.jp/technical/dictionary/EMTerms/01.htm (ローレンツ電子顕微鏡法の項)
Real-Space Observation of Helical Spin Order p. 359-361.
APPLIED PHYSICS: Helical Spin Order on the Move p. 344-345.

構造ゲノム科学センターのスポットライト(Spotlight on Structural Genomics Centers)

構造ゲノム科学プロジェクトは、構造決定の平均コストを低減しながら、我々の生物学的高分子の構造知識を広げることを狙っている。ChandoniaとBrenner (p. 347) は、構造ゲノム科学センターによって解析された構造の目新しさ、コスト、そしてインパクトを定量的にレビューしている。彼らは、これらの結果を伝統的な構造生物学と対比している。(hk)
The Impact of Structural Genomics: Expectations and Outcomes p. 347-351.

リン脂質から膜を紡ぐ(Spinning Membranes from Phospholipids)

エレクトロスピニング(electrospinning)は単純であるが、非常に細いポリマーファイバーを作る有力な方法で、その後それを集めて多孔性の膜を作ることが出来る。Mckeeたち(p.353)はこの技術領域を拡張して、低分子の、即ちリン脂質からファイバーを作った。リン脂質はその混合溶液の濃度が特定な範囲でいも虫のような形のミセルを形成し、このような条件下では、リン脂質は エレクトロスピニングにたいしてポリマーのような挙動をする。リン脂質から作られる膜は高い生体適合性を示すだろう。(KU, nk)
Phospholipid Nonwoven Electrospun Membranes p. 353-355.

ナノチューブのコンタクトの橋渡し(Bridging Nanotube Contacts)

分子エレクトロニクスにおいて、金属電極と分子間の接触が最も弱い結合であり、スイッチング動作を行う際にこの電極接触の変化を除くことは往々にして困難である。Guoたち(p.356)は、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)における小さなギャップ(10nm以下の)が短いオリゴマー分子と共有結合的に架橋し、これらの共役系を導電性とする方法を示している。SWNTに関しての金属接触がなされた後に、パターニングにより二つの接触間が切断されてギャップを作る。この酸化的な方法による切断により、SWNTの端にカルボン酸基が形成され、アミノ基を持つ分子と双方の末端でアミド結合をして架橋が行われる。このようなデバイスはロバストであり、架橋鎖の中に塩基性の窒素原子を持つ分子ではpHと共に導電性が変化する。(KU)
Covalently Bridging Gaps in Single-Walled Carbon Nanotubes with Conducting Molecules p. 356-359.

制限された運動(Restricted Motion)

5乃至6個程度の数少ない原子からなる分子においてさえも、特異的な原子の運動に関する気相スペクトルの同定は難かしい。分光学的特徴は遠い宇宙に関する唯一のデータ源なので、このような同定は宇宙における分子の相互作用を組み立てていく際には特に重要である。Leeたち(p.365)は固体のパラ-水素(p-H2)の異常な特性を利用して、メタノールの振動スペクトルを単純化し、そして説明している。水素量子固体のマトリックス中にメタノールを包埋して、彼らはメタノール分子の回転運動を抑え込み、残されたC-O結合を軸とするメチル基の内部ねじり運動のみを観測した。(KU ,nk)
Internal Rotation and Spin Conversion of CH3OH in Solid para-Hydrogen p. 365-368.

霧が作った火星の氷河(Mist-Made Martian Glaciers)

火星の低緯度や中緯度地域には水の氷河が山や火山の側面に存在している。現在の火星の条件は寒冷で乾燥しており、氷の存在は極地付近の地域に限定されているため、低緯度地域にある最近形成された氷河の起源は謎である。Forgetたち(p.368)は、地軸の傾きの大きな惑星の気候シミュレーションを使って、この氷河がその場所に存在することを説明している。数百万年前、火星の回転軸は最大45度にまで傾き、これにより極地の氷がさらに蒸発して大気中の水蒸気となった。この水霧は火星を循環し、山間部の山や火山の風下側面に凝結して氷河を形成した。(TO ,nk)
Formation of Glaciers on Mars by Atmospheric Precipitation at High Obliquity p. 368-371.

ウィルスは流れにのせて(Rho, Rho, Rho Your Vaccinia)

ウィルスは、感染、複製および内転移のあいだに様々な宿主細胞機構を誤らせる。Valderramaたち(p. 377)はここで、ワクシニアウィルスがRhoAの活性を阻害することにより、どのようにして細胞の運動性を促進しているかについて記載している。このRhoAは、細胞内シグナル伝達に関与する低分子グアノシン3リン酸-結合性タンパク質であり、アクチン細胞骨格に特に影響を及ぼす。保存性の高いワクシニアタンパク質F11Lが、RhoAと直接的に相互作用し、内在性基質の一つであるROCKを模倣し、そして細胞の運動性を誘導する。誘導された運動性が組織内でのウィルスの拡散を促進する様である。(NF)
Vaccinia Virus-Induced Cell Motility Requires F11L-Mediated Inhibition of RhoA Signaling p. 377-381.

砂に描いた四角(Squares in the Sand)

言葉は私たちの思考と非常に深く関係しているので、言葉を使わずに考えるという事は想像しがたい。しかし、言葉がどのように思考に影響を与えるのか、というトピックについては、活発な議論が続いている。Dehaeneたち(p.381,Holdenによるニュース記事参照)は、彼らのアマゾンに住むMunduruku族に関する研究から、新しい証拠を公表した。Munduruku族の子供達、大人達の両方ともが平行線や直角三角形等の幾何学的概念を理解して、利用する力量があることが判明した。彼らは、そのような条件や概念の為の単語を持たないにも関わらず、である。さらに、Munduruku族は、紙に描かれた幾何学的な関係図を使って、アメリカ人の大人程ではないが子供と同じ位に、隠された物を探し出す能力を示した。このように、Munduruku族は幾何学に関する基礎的なセンスを持っており、これに加えて、彼らには計算のセンスもあることが過去に明らかにされている。(ei)
Core Knowledge of Geometry in an Amazonian Indigene Group p. 381-384.

いたるところに抗生物質耐性(Ubiquitous Antibiotic Resistance)

抗生物質耐性遺伝子の主要な供給源は土壌微生物であるが、これらの微生物は抗菌剤を生成し、そして自身が産生する毒性産物に対する自己防衛の方法として、様々な耐性メカニズムを発達させる。D'Costaたち(p. 374;Tomaszによる展望記事を参照)は、抗菌剤自体を生成しない土壌微生物叢もまた、そのほとんどが抗生物質耐性生物の巨大な貯蔵庫であることを示した。著者らは、いくつかの系統の芽胞形成性細菌を解析し、それらの細菌を21種の抗菌剤に対して試験した--これらの抗菌剤の内のあるものは長い間使用されているものであり、またあるものは最近になって抗菌剤に加えられた化合物であった。すべての系統は多剤耐性であり、そして少なくとも7〜8種の抗生物質に対する耐性を示し、場合によっては20種もの抗生物質に対して耐性を示すものもあった。(NF)
Sampling the Antibiotic Resistome p. 374-377.
MICROBIOLOGY: Weapons of Microbial Drug Resistance Abound in Soil Flora p. 342-343.

切り刻んで、植物全体を元に戻す(Turning Cuttings Back into Whole Plants)

植物は動物と比べて再生能力はずっと高く、植物組織の一部分から全体が再生されるが、それに比べ、動物は、せいぜい肢とか尾部のような再生が両生類で稀に見られるだけである。Xuたち(p. 385) はシロイヌナズナ(Arabidopsis)の根端中の細胞内の動きを解析し、局所的細胞を切除した場合の再生の方向付けがどのようになされるかが理解できた。驚いたことに、新しい組織が作られていくにつれて、オーキシンホルモンの流れが1つの方向へと確定されて行くのであり、細胞の運命が規定される前に流れが決まるわけではない。細胞の運命が決まるにはPLETHORA,SHORTROOT, および SCARECROW転写因子を必要とする。転写因子の部屋割りはオーキシンの分布に従い、これが細胞の運命を再度決定する。(Ej, hE)
A Molecular Framework for Plant Regeneration p. 385-388.

ヒッチハイクでただ乗り(Got to Hitch a Ride)

細胞分裂中に染色体は両側の紡錘体極との連結を達成し、紡錘体の赤道に位置しなければならない。もし、2つの位置への配置を失敗すると染色体の異数性(aneuploidy)が生じ、細胞のトランスフォーメーションとガンに結びつく。どのようにして染色体が減数分裂の機構に正しく割り当てられるか、そのメカニズムは理解されていない。Kapoor たち(p. 388; 表紙、および、Healdによる展望記事参照)は、生細胞2色蛍光法と、相関する照明光、電子顕微鏡、さらに化学生物学を利用して、染色体は2つに分裂配置する前に、紡錘体の赤道で会合することを実演した。会合途中に先導する動原体は、既に分裂配置している他の動原体繊維に沿って微小管のプラス端に向かって滑っていく。このすべり運動は動原体の関わる運動性タンパク質によって仲介される。したがって、細胞は紡錘体の周辺から中心領域へと一方向に染色体が配置するメカニズムをもっており、この中心領域で他方の紡錘体極との連結を行う。(Ej,hE)
Chromosomes Can Congress to the Metaphase Plate Before Biorientation p. 388-391.
CELL BIOLOGY: Serving Up a Plate of Chromosomes p. 343-344.

マンモスのDNAの配列(Mammoth DNA Sequences)

古代のDNA解析によって哺乳類を含む多様な動物の進化の研究に新しい見識が得られるかもしれない。Poinar たち(p. 392, および、2005年12月12日オンライン出版) は、シベリアの永久凍土中に保存されていた約28,000年前のケナガマンモス骨を使って、予めの修復や増幅による補正無しで、遺伝子配列を直接決めた。マンモスDNAについて、全体で137,000の読み枠(13 Mega Bases)を作成したが、ヒトDNAの混入はトレース程度の微量しか見つからなかった。ゲノムレベルの比較によって、死滅したマンモスと現代の象との間の配列の拡散速度が確定できるかもしれない。同じマンモスから単離した植物や微生物の配列の検討によって、マンモスの環境に対する何らかのカギが見つかるかも知れない。(Ej,hE)
Metagenomics to Paleogenomics: Large-Scale Sequencing of Mammoth DNA p. 392-394.

合金によるアルデヒドの合成(Alloy-Based Aldehyde Synthesis)

アルコールのアルデヒドやケトンへの酸化反応は、クロム酸塩や過マンガン酸塩の陰イオンを用いる事で化学量論的に容易に合成されるが、しかしながらその結果としての廃棄物中の毒性危険物が問題となる。数多くの溶液相や不均一系の触媒は、この問題を回避して酸化剤として空気を用いるように開発がなされている。しかしながら、それでも1-オクタノールといった不活性な第1級アルコールのアルデヒドへの転換は課題として残っている。Enacheたち(p.362)は、二酸化チタンに担持された金-パラジウムのナノ結晶の合金が、酸化剤として酸素、或いは空気を用いて、1-オクタノールを含む第1級アルコールからのアルデヒドへの合成を効率的に触媒することを報告している。この反応は純粋の金やパラジウムの金属を単独で用いるよりも合金を用いる事で約25倍も速く進行する。(KU,tk)
Solvent-Free Oxidation of Primary Alcohols to Aldehydes Using Au-Pd/TiO2 Catalysts p. 362-365.

お上りさん、お下りさん(Uppers and Downers)

ある種の微好気性海洋細菌類はマグネトソム(magnetosome=バクテリアが持つ磁気体)を含んでおり、これによって微生物が高濃度の酸素にさらされないで済む。北半球では、これらバクテリアは地磁気の北を探すと想像されているため、高緯度では海底深くもぐるため、酸素の多い水面から隔てられる。この逆が南半球で生じると思われる。Simmons たち(p. 371)は、この考えに挑戦し、北半球では走磁性バクテリアは稀に生じるバーベル型の南極走磁性バクテリアが混ざっていることを示した。棒状のgreigite(グリグ鉱)(Fe3S4)を生じるバクテリアは、もっと還元的環境で凝集する傾向があるが、南極探索磁鉄鉱を含むバクテリアはもっと酸化しやすい環境で、球菌を形成したり、球菌(バーベル状)の短鎖を形成する。(Ej,hE)
South-Seeking Magnetotactic Bacteria in the Northern Hemisphere p. 371-374.

DNA メチル基転移酵素は、RNAがお好き(A DNA Methyltransferase Prefers RNA Instead)

多くの真核生物にとってDNAのメチル化は遺伝子発現の後成的制御と、ゲノムの統合性を維持するために中心的役割を果たす。最も高度に保存された種類のDnmt2のDNAのメチル基転移酵素 (Dnmt) 活性の特徴づけをGollたち(p. 395)は行ったが、これは、実はRNAメチル基転移酵素であることを明らかにした。マウス、シロイヌナズナを含む多様な種のDnmt2は、アスパラギン酸転移RNAの不変部位38に特異的にメチル基を付加した。真核生物のDnmt間の密接な類似性から、これらは、もともとDnmt2様RNAメチル基転移酵素から進化したものではないかと思われる。(Ej,hE)
Methylation of tRNAAsp by the DNA Methyltransferase Homolog Dnmt2 p. 395-398.

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