AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 6, 2006, Vol.311


自分のバクテリアを持っておいで(Bring Your Own Bacteria)

アメリカのキノコアリ(attine ant)は真菌園を育てるが、これら食物真菌は他の真菌に寄生されることがある。アリは抗菌物質産生細菌によって寄生真菌を撃退する。Currieたちは(p. 81)は、アリたちがこの細菌に強く依存しているため、アリは共生生物を角質上に運ぶための特殊な解剖学的構造を発達させ、細菌に栄養分を与えているらしい。これらの構造はアリの種によって異なるが、多分、それは色々な共進化の圧力を反映しているのだろう。(Ej,hE)
Coevolved Crypts and Exocrine Glands Support Mutualistic Bacteria in Fungus-Growing Ants p. 81-83.

金儲けだけが目的か、勝つことだけが目的か(Money for Nothing)

世の中には、全くお金に興味が無い人に出会うことはほとんどなく、少しは興味があり社会的交流の中でもっと多く得ようと算段するものだ。Camerer と Fehr (p. 47)は、伝統に捉われない振舞いをする2種類の被験者ー制限付き合理性を発揮する人々と、利己的でない人々ーが、徹底的に利己的な人々(完全合理主義のエコノミック人間)とゲームをするときの経済的な結果についてレビューを行った。戦略的なインセンティブがある場合には、少数の非合理的参加者が全マーケットを非合理にすることを許す一方、少数の合理的業者が、全市場を合理的にする条件も存在する。(Ej, hE)
When Does "Economic Man" Dominate Social Behavior? p. 47-52.

静かな銅塩キュビット(Quiet Cuprate Qubits)

巨視的な量子効果は多くの通常の(金属の)超伝導体に関して報告されている。量子コンピューティングにおいて、これらの効果を用いるためには、干渉性喪失によってもたらされる信号の損失と戦わなくてはならない。この干渉性の喪失は、これらのシステムにおける論理要素(キュビット)がその環境と切り離せないことによる本来的な問題である。最近の理論的な提案によると、キュビットをその電磁的環境から隔離して、干渉性喪失の影響をより受けずらいものにする方法が示唆されている。セラミックの高温超電導体(Hightemperature Superconductors ;HTSCs) における d 波対称性は、このような静かなキュビットへの道を提供する可能性がある。しかしながら、HTSCs の低エネルギー準粒子は、環境からの隔離の恩恵を破壊してしまうであろうと思い込まれてきた。Bauch たち(p. 57) は、巨視的量子効果を示す鋭いエネルギーレベルを有するHTSC デバイスを提示している。これらは、量子効果としてよい振る舞いを示す類縁のものに見られる鋭いエネルギーレベルを示す。この結果は、また、HTSCs における散逸メカニズムを考え直すべきであることを示唆している。(Wt)
Quantum Dynamics of a d-Wave Josephson Junction p. 57-60.

腕の長さ(Arm's Length)

銀河の大きさを正確にマッピングする事は、未だ困難な仕事である。Xuたち(p.54、2,005年12月8日のオンライン出版;Binneyによる展望記事参照)は星団の中の電波源に関する正確な画像を用いて、太陽から最近接の渦巻き腕までの距離を三角視差、即ち地球がその軌道の正反対の地点を回る際の見掛け上の位置の僅かな変化を用いて定めた。超長基線電波アレーを用いて、著者たちはわれわれの銀河系のペルセウス腕の一部を形成している若い星団の中の電波源に関してこの種の変化を検知した。この星団は、我々の銀河系の中心の回りの単純な回転以外に余分の運動が付け加わっており、それは、銀河系に関する渦巻きの密度波理論と一致するものである。(KU,nk)
The Distance to the Perseus Spiral Arm in the Milky Way p. 54-57.
ASTRONOMY: Triangulating the Galaxy p. 44-45.

気候の型の変化の根底をなす力(Forces Underlying Regime Change)

1970年代中頃に発生した北太平洋の海洋生態系における重要な変化は、しばしば”レジームシフト”(regime shift)として注目され、海洋大気条件の自然変動あるいは人為的な地球温暖化の結果であるとされていた。Fieldたち(p.63)は、サンタバーバラ海峡から得られた堆積物に含まれるプランクトン性有孔虫(planktonicforaminifer)の様々な種の発生量を調査した。海洋表面近傍の温暖効果が海洋深部まで浸透し始めた1960年ごろに、高温性有孔虫と比べて低温性有孔虫の数の著しい減少が始めた。熱帯性や亜熱帯性の有孔虫の割合は、過去1400年間のどの時期も20世紀後半より高くない。従って、人為的な促進がこのレジームシフトの最も重要な要素であったことを示している。(TO,nk)
Planktonic Foraminifera of the California Current Reflect 20th-Century Warming p. 63-66.

寸詰まりでボテッとしたワニの口(Short Stout Snout)

クロコダイルはペルム紀末期と中生代初期の間に進化して白亜紀の間に広く生息するようになった。共通なる特徴の1つは多数の歯が並んだ長く大きな口(snout)であった。Gaspariniたち(p.70;2005年11月10日オンライン出版; Clarkによる展望記事参照)は、パタゴニアから見つかった1億4000万年前ぐらいの変わったクロコダイル型(crocodyliform)について報告している。ボテッとした頭部と顎を持ち、各顎にのこぎり状の大きな歯が12個位しかついていない。この形態は、いくつかの陸生の祖竜(terrestrial archosaur)の形態と類似しており、クロコダイル型の進化上の形態学を大きく展開するものである。(TO)
An Unusual Marine Crocodyliform from the Jurassic-Cretaceous Boundary of Patagonia p. 70-73.
PALEONTOLOGY: A Different Kind of Croc p. 43-44.

現在のネコの起源(The Making of the Modern Cat)

ライオン、トラ、ウンピョウ、および家ネコを含む現在のネコ科を導いた比較的最近の種分化の現象は、化石記録が不完全であり、かつ骨格的特徴が区別できていないために解明ができていない。Johnsonたち(p. 73)は、37種の現存するネコ種のすべてからサンプリングしたX-染色体、Y-染色体、およびミトコンドリアDNA配列についての大規模なアレイを解析して、進化系統樹を作成し、それにより8系列の主要なネコ系統を弁別した。現在のネコは1千万年前のアジアに起源を発している様であり、潮位の大きな変動と相関して一連の10回の大陸間の移動をおこなっていたらしい。(NF)
The Late Miocene Radiation of Modern Felidae: A Genetic Assessment p. 73-77.

うつ病、セロトニン、そしてp11(Depression, Serotonin, and p11)

セロトニンは、多数の生理学的脳状態および病理学的脳状態における重要なモジュレータである。多種のセロトニン受容体の中で、5-HT[1B]受容体がセロトニン神経伝達の制御において重要な役割を果たしている。Svenningssonたち(p. 77;Sharpによる展望記事を参照)は、5-HT[1B]受容体と相互作用していると考えられているタンパク質、p11のうつ状態と抗うつ薬治療における役割を研究した。5-HT[1B]受容体の機能はp11発現に依存しており、そして動物モデル(トランスジェニック過剰発現系統およびノックアウト系統)のうつ状態においても、うつ病患者から採取したヒト死後の脳においてもp11レベルは低かった。対照的に、p11レベルは抗うつ薬による治療や電気ショック療法により上昇した。(NF)
Alterations in 5-HT1B Receptor Function by p11 in Depression-Like States p. 77-80.
NEUROSCIENCE: A New Molecule to Brighten the Mood p. 45-46.

明日、あなたはわたしを見分けられますか?(But Will You Know Me Tomorrow?)

我々が広く影響し合う人々は時間とともに変化している。単一のスナップショットではダイナミックなネットワークの全貌を説明することができない。KossinetsとWatts (p.88)は、大規模な大学における個人の属性と出席しているクラスについての暗号化情報とを組合わせて、学生と教授およびスタッフ間のE-mailのデータセットを解析に用いた。 彼らは“影響の力が個々人の間の類似性にいかに依存しているのか”そして“その影響が時間ととともにいかに変化しているか”を定量的な図に構成した。(hk,Ej)
Empirical Analysis of an Evolving Social Network p. 88-90.

成長すべきか、生き延びるべきか(To Grow, or Not to Grow)

ひどい乾燥や過剰な塩分など、成長にとって有害な条件は、植物における矮化を引き起こしやすい。Achardたちはこのたび、この成長の抑止が、単に代謝が損なわれたことによる副産物ではなく、積極的に制御されたプロセスであることを明らかにしている(p. 91)。この成長の抑止は、通常は細胞核に局在しているDELLAタンパク質によって行われている。シロイヌナズナはゲノム中にコードされた5つの関連したDELLAタンパク質をもっている。タンパク質のDELLAファミリーは、ホルモン性および環境性の情報を統合して、成長と生存とのバランスを微細に調整しているらしい。(KF)
Integration of Plant Responses to Environmentally Activated Phytohormonal Signals p. 91-94.

根の組織化(Organizing the Root)

シロイヌナズナの根における細胞運命の特異化は、ホルモン・サイトカイニンによるシグナル伝達に依存している。Maehoenenたちはこのたび、導管細胞の運命選択を、サイトカイニンがいかに制御し、安定化させているかを解析した(p. 94)。原生木部の分化(protoxylem differentiation)がデフォルトの選択であるが、これはサイトカイニンによってブロックされる方向である。AHP6座位は原生木部の分化を促進し、かつホスホトランスファー(phosphotransfer:リン酸転移)にとって決定的な一個のアミノ酸残基以外はホスホトランスファー・タンパク質に類似のタンパク質をコードしている。にもかかわらず、このAHP6タンパク質はサイトカイニンによって方向付けられたホスホリレー・システム(phosphorelay system)を抑制する。AHP6の発現は空間的に局所化されていて、特定の領域でサイトカイニンの機能をブロックでき、それによってそうした場所での原生木部特異化を可能にしている。サイトカイニンとAHP6はフィードバックループ中で相互作用することで、サイトカイニンに対する応答性が小さいままの特異的な細胞領域を作り上げているのである。(KF)
Cytokinin Signaling and Its Inhibitor AHP6 Regulate Cell Fate During Vascular Development p. 94-98.

礁における陰と陽(Yin and Yang on the Reef)

「捕獲禁止(no-take)」の海洋保護区の効果については、いまだじゅうぶん理解されておらず、議論の余地がある。Mumbyたちは、バハマ列島の広くかつ長期にわたって確立されているサンゴ礁保護区における、頂点にある捕食者(top predator)の回復の効果を研究した(p. 98; またHoegh-Guldbergによる展望記事参照のこと)。頂点にある捕食者(the Nassau grouper:ハタ科の魚)の量が増えるに連れて、その餌(parrotfish:ブダイ科の魚)の種の組成は、grouperが捕らえて食べるには大きすぎたり、素早過ぎたりする種が多くなるように変化した。parrotfishはサンゴ礁の食物網(food web)のキーとなる要素であるが、これはparrotfishが藻を食べるのでサンゴ礁から藻類をきれいに取り除ことで、サンゴの成長と増殖を助長するからである。つまり、grouperによる捕食者からのプレッシャーの増大にも関わらず、parrotfishによるサンゴの草食は、parrotfishの種の組成における変化によって強まるのである。(KF)
Fishing, Trophic Cascades, and the Process of Grazing on Coral Reefs p. 98-101.
ECOLOGY: Complexities of Coral Reef Recovery p. 42-43.

CH5+の振動スペクトルの精査(Sorting CH5+ Vibrations)

プロトン化メタン(CH5+)の結合に関しては、解析が困難であった。というのは、低温においてすら、水素原子が局在化した結合をせずに炭素中心の周りを高速に動いているからである。最近の実験から、その振動スペクトルが得られ、そのスペクトルがトランジェクトリー(古典軌道)計算で同定された。Huangたち(p.60)は、双極子モーメントとポテンシャルエネルギーの曲面に関するab initio計算に基づき、このスペクトルに関する全体的な量子力学的計算を報告している。その結果は実験と良く一致しており、更にこのカチオン化合物に関する3中心2電子結合配列の性質についての洞察を与えるものである。(KU)
Quantum Deconstruction of the Infrared Spectrum of CH5+ p. 60-63.

オゾンとNOx(Ozone and NOx)

NOx(NO+ NO2)濃度は下部対流圏のオゾンサイクルに関する重要なるパラメーターの一つである。NOxは連鎖反応を触媒して、日中における光化学反応でオゾンを作り、夜にはオゾン分解を助ける。オゾン分解における夜間の反応サイクルにおけるキーとなる反応の一つが、N2O5の加水分解である。この加水分解反応は気相では遅いが、エアロゾル上では不均一反応が起こり非常に速い反応となる。Brownたち(p.67)は航空機での測定を行い、エアロゾル粒子へのN2O5の吸着係数を決定することが出来た。この係数はエアロゾル成分、特に硫酸塩の含有量に強く依存している。この結果は、以前考えられていた以上に人為的な硫黄酸化物と窒素酸化物の放出に関する両者の強い関係を示唆しており、地域的な規模でのオゾン生成の定量化に関する重要な手がかりをもたらすものである。(KU)
Variability in Nocturnal Nitrogen Oxide Processing and Its Role in Regional Air Quality p. 67-70.

共通の過去(Shared Past)

免疫系の樹状細胞(DCs)とマクロファージとは、別々なかつオーバーラップする機能をもっている。DCsは、取り込みとT細胞への抗原提示を介して免疫応答を起動し変調するために枢要なものであり、一方マクロファージは食作用を介して病原体を除去し、また抗原提示能力もいささか共有しているのである。これらの細胞が発生的にどのように関連しているかは正確には不明である。Foggたちは、培地においてDCsやマクロファージを生み出すよう誘導しうる、しかもマウスに移植されると双方の細胞のサブセットを産生しうる、共通の前駆細胞を同定した(p. 83、2005年12月1日オンライン出版)。この共通の祖先は、それぞれの細胞型の定常状態での産生に必要な発生経路の理解と、免疫におけるそれぞれの役割について多くの有益な情報を与えてくれる。(KF)
A Clonogenic Bone Marrow Progenitor Specific for Macrophages and Dendritic Cells p. 83-87.

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