AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 23, 2005, Vol.310


作用中に捕捉された多種薬剤輸送体(Multidrug Transporter Caught in the Act)

多種薬剤輸送体は細菌中で見出された内在性の膜タンパク質であり、広範囲の薬剤を吐き出し、様々な細菌感染の治療を複雑にさせている。この種のタンパク質の一つ、EmrEはプロトン-依存性の輸送体であり、テトラサイクリンを含むプラス帯電する疎水性の抗生物質への抵抗性を付与する。Pornillosたち(p.1950)は、転位置基質、テトラフェニルフォスホニウムと複合体を形成したEmrEの構造を3.7オングストロームの分解能でもって報告している。2つのEmrEポリペプチドが2量体の界面に結合した基質と非対称の逆平衡の2量体を形成している。この構造は、非対称の転位置経路が一方向性の輸送を与えるというメカニズムを示唆している。(KU)
X-ray Structure of the EmrE Multidrug Transporter in Complex with a Substrate p. 1950-1953.

ジルコンの話(The Zircon's Tale)

地球で最も古い保存された大陸地殻は約40億年前であると年代測定されており、それは地球が形成された時(45億5千万年前)からずっと後である。そのため、それ以前にどの程度の大陸地殻が形成され、マントルの中に再循環していたのかということが大きな疑問であった。オーストラリアのある古い年代の岩石は、さらに古い年代の岩石から再循環していたジルコンの残存鉱物結晶を含んでいる。ジルコンはウラニウムを含んでおり、それらは44億年前まで遡る年代が測定されている。Harrisonたちは(p.1947. Amelinによる展望記事参照)は、これらの多くの数の古い年代のジルコンからルテチウムとハフニウムの同位体を分析した。この同位体系は、地球上で主な珪酸塩貯蔵物(silicate reservoirs) の分化に関する情報をもたらす。主要な大陸地殻は、地球上でおそらく45億年前頃に形成されていたに違いないことを示している。(TO,og)
【訳注1】地球は,45.5億年前に形成されたにもかかわらず,いままで,40億年の岩石(鉱物;ジルコン)しか,見つかっていなかった.ところが,今回,44−45億年のものが見つかったので,形成から1億年以内に,すでに,地殻は,形成され始めていた,ということ。(og)
【訳注2】silicate reservoirs のレザバーとは,マグマ溜りのこと。(og)
Heterogeneous Hadean Hafnium: Evidence of Continental Crust at 4.4 to 4.5 Ga p. 1947-1950.
GEOCHEMISTRY: A Tale of Early Earth Told in Zircons p. 1914-1915.

植林を調査する(Seeing the Forest for the Trees)

植林は大気の二酸化炭素の濃度増加を緩める可能性を秘めた重要な手段であるとともに、植林の必要とする水源と土壌に影響を与えている。Jacksonたち(p. 1944)は、“実地調査”と“地域の経済的モデリングと気候モデリング”、及び“すでに公開された600以上の観測記録”とを組合せ、これらの今まで往々にして無視されてきた影響を解析し、植林が周囲土壌を塩害化し酸性化し、利用可能な水の量を大幅に減らすことを示している。彼らは、“植林が実際に研究されたケースの10分の1以上で近くの河川を枯渇させ、流量が平均半分に減っている”ことを見つけた。これらの発見は植林による利点だけでなく、炭素固定化の問題点を照らし出す助けになるはずである。(hk.nk)
Trading Water for Carbon with Biological Carbon Sequestration p. 1944-1947.

火星、その上と下(Mars, Above and Below)

火星探査機 Mars Expressは、MARSIS (Mars Advanced Radar for Subsurface andIonospheric Sounding)と呼ばれる地表下および電離層探査レーダ装置を搭載して、レーダ波により火星を撮像し続けてきた。レーダ波は、地表面とキロメートル単位の厚さがある極冠氷も貫通して、地表下の特徴を明らかにする。Picardiたち(p.1925,11月30日にオンライン出版)の記述によると、そのデータから火星の北極近くの氷を多く含む堆積物の底部が明らかになり、クリュッセ・プラニシア平原(Chryse Planitia)における地殻は固く、そして直径250キロメートルの埋もれた円形クレータを示している。レーダエコーはまた、火星の電離層に関する情報を明らかにしている。Gurnettたち(p.1929,11月30日オンライン出版)は、電子密度の急激な変化と傾きのある場所で反射が起こり、そして特徴的な振動数シグニチャを伴っていることを示ている。電離層の多くのスキャン画像の中で、Gurnettたちは、火星の地殻に保存されている残留磁場が強い地域における斜めエコー信号(oblique signal)を含む一連のエコータイプを記録している(TO,Ej,tk)
Radar Soundings of the Subsurface of Mars p. 1925-1928.
Radar Soundings of the Ionosphere of Mars p. 1929-1933.

制御された核スピンの変換(Controlled Conversion)

磁場の無い場合に、孤立した水素原子の二つの核スピン状態は完全に同一である。しかしながら、一個以上の水素原子を持つ分子では、スピンがお互いに相互作用して、全エネルギーはスピンの向きが揃っているかどうかで僅かに変化する。星間空間のような低圧下において、この種の異性体の相互変換は殆ど理解されていない。Sunたち(p.1938;HougenとOkaによる展望記事参照)はエチレン(C2H4)の4個の核スピン異性体ごとの赤外光吸収の差異を用いて、異性体の中の一種のみが欠乏した非平衡のガス状集団を作った。このガス状の試料の進化をモニターする事で、彼らは似たような反転対称性の異性体では効率的に相互変換するが、逆対称性の異性体では変換しない事を示している。(KU,nk)
Separation and Conversion Dynamics of Four Nuclear Spin Isomers of Ethylene p. 1938-1941.
CHEMISTRY: Nuclear Spin Conversion in Molecules p. 1913-1914.

マイクロRNAと線虫の加齢(MicroRNAs and the Aging Worm)

マイクロRNAはヒトを含めて多様な生物に存在しており、細胞分裂や細胞死といったプロセスを制御している。BoehmとSlack(p.1954)は、加齢を含めた機能へとそのレパートリを拡大している。線虫(C.elegant)において、幼虫ステージでの細胞分裂パターンにおけるステージ-特異的なタイミングの鍵となる制御因子であるマイクロRNAの一つ、lin-4が、又、成虫での寿命と加齢の速さに影響している。このマイクロRNAとその標的であるlin-14はインシュリン/インシュリン様成長因子-1のシグナル伝達経路に作用して、寿命や加齢のタイミングに影響を及ぼしている。Lin-4の欠如は虫の寿命を短くする。このように、共通のメカニズムが二つのプロセス、即ち発生と加齢のタイミングの制御を行っている。(KU)
A Developmental Timing MicroRNA and Its Target Regulate Life Span in C. elegans p. 1954-1957.

アミノ酸の補給線を確保する(Maintaining the Amino Acid Supply Chain)

タンパク質合成の効率や忠実性は、生物細胞が多様な環境で生き延びるための決定的要因である。Vabulas と Hartl (p. 1960)は、アミノ酸の供給に緊急の制限を加えた場合でも、既存タンパク質のプロテアソームの分解により哺乳動物の細胞の生物発生を継続させることを示した。アミノ酸の不足は、プロテアーソム抑制の数分内に深刻な細胞内のアミノ酸プールの欠乏を招き、同時に、タンパク質翻訳が出来なくなる。新生のポリペプチドも、新しく合成されたポリペプチドも両方とも、プロテアーソムの分解から守られる。高々、数パーセントのポリペプチドが合成後、すぐに分解されることから、以前の予測に反して、タンパク質の生物合成は極めて効率的なプロセスであることがわかる。(Ej,hE)
Protein Synthesis upon Acute Nutrient Restriction Relies on Proteasome Function p. 1960-1963.

肢の再生の見込み(Prospects for Limb Regeneration)

Salamander類(サンショウウオの仲間)は、失った肢を再生することができるが、人間が不幸にも手足を失った場合にもこの特質を使えることを目指して開発が行われている。Brockes と Kumar (p. 1919) は、両生類肢再生として知られているこの件についてレビューし、このレビューによってどの程度、これが哺乳類への幹細胞の応用と再生医療に新たな知見を加えるかを論じた。ゼブラフィッシュもヒレを再生することが出来る。芽体(blastema)と称する未分化細胞の塊がまず出来て、成長と分化を経て、ヒレに置き換わる。Whitehead たち(p. 1957; Antebiによる展望記事も参照) は、この芽体を形成するための必須のシグナル伝達因子の1つを同定することができた。ゼブラフィッシュにおいては、dob (devoid of blastemaつまり、芽体の欠如) が変異すると、シグナル伝達因子 Fgf20をコードする遺伝子に影響を及ぼす。この因子は再生だけに関与しており、通常の胚発生には関与してないように見える。(Ej,hE)
Appendage Regeneration in Adult Vertebrates and Implications for Regenerative Medicine p. 1919-1923.
fgf20 Is Essential for Initiating Zebrafish Fin Regeneration p. 1957-1960.
PHYSIOLOGY: The Tick-Tock of Aging? p. 1911-1913.

記憶の形成と想起を観察する(Observing the Formation and Recollection of Memories)

脳の機能画像化装置による最近の大量データの解析から、記憶された刺激を呼び出すことと関連したニューロン活性のパターンが明らかになってきた$B(I!絵を見たり、音を聞いた後、これに関する記憶を呼び出したり反応したりすることが可能になり、記憶検索中にとった脳スキャンのパターンは、同様の事象を直接勉強したときのパターンと類似している。Polyn たち(p. 1963)は、このような記憶済みの再活性化は、自由な想起状態による口頭の返事に先立って生じている。ここでは、被験者が特定の事象を思い出すように刺激されてはないが、これらの事項のどれが思い出されたか、また、それが何時だったかを報告するよう求められている。これらの結果から、脳を動的認知状態にシフトするという理論的枠組みの存在が支持される。(Ej,hE)
Category-Specific Cortical Activity Precedes Retrieval During Memory Search p. 1963-1966.

免疫多様性に関するドグマへの挑戦(Challenging Immune Diversity Dogma)

順応性の免疫系は、あごのある脊椎動物に限られていると考えられてきたが、そこでは遺伝的変異に関する体細胞機構が進化して、リンパ球間にクローン的に散らばる非常に多様な免疫受容体を産生するようになってきた。しかし最近、あごのない魚が多様な免疫様受容体を産生できることが示され、実際にある種の無脊椎動物は多様な免疫グロブリン様分子を産生していた。海ヤツメウナギ(sea lamprey)における可変性リンパ球受容体(VLRs)の発見という彼ら自身のオリジナルな成果を拡張して、Alderたちはこのたび、この系における体細胞性の遺伝的多様性の形態と機能、潜在的な拡張性についての情報を提示している(p. 1970)。ロイシンに富む反復部分(LRRs)が、LRR分子の巨大なバンクから、再編成のためのシーケンシャルな機構によってランダムに選択されることで、哺乳類の免疫受容体のそれに匹敵するような、VLRの推定された多様性が可能になる。さらに、ヤツメウナギの連続的免疫化が、抗原に対する順応性免疫応答の発達において予期される応答を誘発することが発見された。(KF)
Diversity and Function of Adaptive Immune Receptors in a Jawless Vertebrate p. 1970-1973.

動物の急速な放散(Rapid Radiation of Animals)

多年の努力にも関わらず、後生動物の主要なグループ内、グループ間の関係ははっきりせず、議論の余地のあるものであった。いくつかのキーとなる動物分類群からの配列データをかなりの量利用することで、Rokasたちは、後生動物界と菌界という、生命史上同じ時期に起源を有する2つのグループの歴史上の対比を発見した(p. 1933; また、Jermiinたちによる展望記事参照のこと)。とくに、動物では、古代のクレード間の分解能の欠如がクレードを産み出す事態が近接して生じていたことを示すサインになっている。急速な動物の放散に関するこの明示的な分子的証拠は、従来の化石記録からの推定と一致するものである。(KF)
Animal Evolution and the Molecular Signature of Radiations Compressed in Time p. 1933-1938.
EVOLUTION: Is the "Big Bang" in Animal Evolution Real? p. 1910-1911.

O を N と取り替える(Swapping O for N)

ウラニルイオン O=U=O2+ は、その豊富さにもかかわらず、軽元素とアクチノイド金属との間の多重結合のまれな例である。このような複合物質の形成における基本的な疑問は、ランタノイドおよびアクチノイドに特有の部分的に占有されたf 軌道、或いは電子分布の特別な役割である。Hayton たち (p.1941) はウラニルの二つの類似物を作成した。これらにおいては、多重結合している酸素がアルキル窒素基かアリール窒素基のどちらかで置換されている。これらの複合物は、アミン存在下のウラン金属の効果的なヨウ素酸化によるものであり、X線結晶構造解析によって、トランス型 N=U=N 配位構造中のウラニルに似ていることが示されている。密度汎関数計算により、その結合に関与する軌道が解明され、窒素化合物と酸素化合物の電子構造を比較する事が出来た。(Wt)
Synthesis of Imido Analogs of the Uranyl Ion p. 1941-1943.

炎症における一酸化窒素産生とプロスタグランジン合成の結び付き(Linking NO Production and Prostaglandin Synthesis in Inflammation)

哺乳類における主要な炎症応答には、免疫系の細胞における一酸化窒素の誘導とプロスタグランジン合成とが含まれる。Kimたちは、これらの分子をそれぞれ産生する酵素である、一酸化窒素合成酵素とシクロオキシゲナーゼ-2がマクロファージ細胞中で相互作用する、と報告している(p. 1966)。一酸化窒素合成酵素は一酸化窒素をシクロオキシゲナーゼ-2に運ぶ。S-ニトロシル化として知られる、一酸化窒素によるシクロオキシゲナーゼ-2のこの修飾により、酵素が活性化される。2つの系のこうした相乗作用が、可能性のある新規な抗炎症性薬剤のデザインに役立つかもしれない。(KF, hE)
Inducible Nitric Oxide Synthase Binds, S-Nitrosylates, and Activates Cyclooxygenase-2 p. 1966-1970.

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