AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 9, 2005, Vol.310


DNAをねじった4面体(DNA Twisted into Tetrahedra)

分子を使った三次元ナノ構造を作るための戦略の1つに、核酸構造が採りうる結合を利用する方法がある。多くの場合、特定の塩基対を選択して立方体のような構造を作るに要するステップは長い多段階合成が必要となる。Goodman たち (p.1661)は急速な自己組織化プロセスを開発し、これによって、10-30塩基対を各辺にもつDNA-4面体構造を作った。4つの単一ストランドが、6個の辺のための相補配列を95%の収率で形成するのに数秒かかるが、単一のジアステレオ異性体(diastereomeric)の構造物が構成された。著者たちは、原子間力顕微鏡によって軸方向に圧縮可能であること、そして、高圧縮下で座屈された二重ラセンを観察した。(Ej,hE)
Rapid Chiral Assembly of Rigid DNA Building Blocks for Molecular Nanofabrication p. 1661-1665.

森林の復元(Restoring the Forests)

熱帯地方の森林乱伐は、熱帯森林の生物多様性や生態系の役割、そしてそこに住む人々に対し大変不利な結果を与えてきた。近年、数カ国において、荒廃した森林地帯を復元するためのプロジェクトが複数推進されている。Lambたち(p.1628)は、一連の復元アプローチをレビューし、これらのアプローチがそれらの目的達成に、特に住民の生活環境に対してどの程度の効果があるのかを評価している。(TO,Ej,nk)
Restoration of Degraded Tropical Forest Landscapes p. 1628-1632.

超伝導キュビット(量子ビット)干渉計(Superconducting Qubit Interferometry)

マッハ−ツェンダー型干渉計は、量子光学的効果の探索の有力な方法である。このような干渉計は二つのビームスプリッターを有している。最初のものは二つのフォトンビームを別々の経路に沿って送り出す。二つのビームに生じた光路差、すなわち位相差により、第二のビームスプリッターが二つのビームを再合成した後に干渉縞を形成する。Oliver たち (p.1653, 11月10日にオンライン出版) は、二つのレベルを有する超伝導キュビットも、また、類似の干渉縞を示すように作成できることを示している。この場合、基底状態と励起状態との間の反交差(anti-crossing)がビームスプリッターのような役割を果たし、それらの間のエネルギーレベルの分裂が光路差に対応している。多数のフォトン遷移(20個まで)を誘起することができ、その結果、量子計算スキーム中に超伝導キュビットを操作できる潜在的に有用な道を示している。(Wt)
Mach-Zehnder Interferometry in a Strongly Driven Superconducting Qubit p. 1653-1657.

より柔らかくなる(Going Softer)

意図的であれ、或いは偶然に添加された不純物(impurities or solutes)は、金属の剛性を上げるために長く使われてきた。つい最近、”不純物がある種の金属の剛性を低くする”という発見があったが、その根底になる理由が十分に解明されていない。モリブデンに含まれるある遷移金属不純物は転位運動のエネルギー障壁に影響し、いくつかのケースにおいては、これらの変化が金属の剛性を低くすることを、TrinkleとWoodward(p.1665;Chrzanによる展望参照)はシミュレーションによって示している。剛性とその結果である突然の破壊という性質が弱くなるので、これらの改変された金属は構造用材料として大きな応用が見つかるかも知れない。(hk,nk)
The Chemistry of Deformation: How Solutes Soften Pure Metals p. 1665-1667.
MATERIALS SCIENCE: Metallurgy in the Age of Silicon p. 1623-1624.

急激な氷河の浸蝕(Rapid Glacial Erosion)

高山の渓谷形成に関する河川による浸蝕と氷河による浸蝕との相対的な重要性を決定する事は、氷河の浸蝕速度の定量化が困難で曖昧となっている。Shusterたち(p.1668;表紙参照)は、4He/3Heのサーモクロノメトリーによる氷河浸蝕の時期と速度を検証した。カナダのブリティッシュ・コロンビアのコースト山脈からの岩石標本を用いて、彼らは山岳氷河作用が起きる前と、その過程の最中とでの二つの浸蝕速度を決定した。Klinaklini Valleyは氷河で覆われた180万年前ごろに2kmかそれ以上に急激に抉られ、この値は氷河形成前の状態に比べ少なくとも6倍速い。(KU,nk)
Rapid Glacial Erosion at 1.8 Ma Revealed by 4He/3He Thermochronometry p. 1668-1670.

月のマグマ(Moon Magma)

原始地球への巨大衝突は膨大な量の破片を軌道上に放出し、その破片が合体して月を形成した。その衝突から発生した熱はまた、明らかに月の大部分を溶解させて巨大なマグマの海を生成した。これらのプロセスの年代を測定する一手段は、短命な同位体である原子量182ハフニウム(182Hf)の娘生成物(daughter product)、原子量182タングステン(182W)を検出することである。182Hf がまだ存在している間のマグマ、岩石、結晶が分離する際に、182Wの量の違いが形成される。Klieneたち(p. 1671;11月 24日オンライン出版)は、アポロが持ち帰った月の金属を分析することにより(金属は最も正確な計測ができる)、タングステン同位体の正確な測定値を報告している。そのデータは、巨大衝突が太陽系の形成から約3000万年後に起こり、そしてマグマの海は太陽系形成後5千万年後までには固化が完了していたことを示している。(TO,Ej,tk,nk)
Hf-W Chronometry of Lunar Metals and the Age and Early Differentiation of the Moon p. 1671-1674.

ガス相におけるタンパク質相互作用(Protein Interaction in the Gaseous Phase)

タンパク質間での一過性の相互作用、または容易に可逆的な相互作用を同定することは、様々な方法で検討されてきた難しい問題である。Ruotoloたち(p.1658;11月17日にオンライン出版)はここで、この問題に対して質量分析を適用して、感度と速度という利点を利用した。trp RNA-結合性アテニュエータータンパク質(TRAP)が、ガス相中で11員環の環状構造を維持しており、そしてRNAとトリプトファンの結合が水溶液中のその動態と一致する様式で、環の形状および安定性に影響を与えていることを、彼らは示した。(NF)
Evidence for Macromolecular Protein Rings in the Absence of Bulk Water p. 1658-1661.

肝臓とグルコース代謝調節(The Liver and the Control of Glucose Metabolism)

タンパク質キナーゼと腫瘍抑制因子LKB1は、アデノシン一リン酸活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)の潜在的な活性化因子である。AMPKは代謝産物AMPに結合することにより細胞のエネルギーレベルを感知するキナーゼである。Shawたち(p. 1642;11月24日にオンライン出版)は、LKB1の発現が肝臓においてのみ敏感に阻害される様にマウスを操作した;彼らは、その発現が肝臓における代謝調節とグルコースの恒常性において重要な働きをしていることを見いだした。LKB1が存在しない場合、AMPKはほぼ完全に不活性である。肝臓中のLKB1を欠損する動物は高血糖を示し、糖新生および脂質生合成の酵素をコードする遺伝子の発現が増強される。(NF)
The Kinase LKB1 Mediates Glucose Homeostasis in Liver and Therapeutic Effects of Metformin p. 1642-1646.

細胞死経路に対する反応を予測(Predicting Responses on the Death Pathway)

複数のシグナル伝達経路が、細胞がアポトーシスとして知られる細胞死プログラムを起こすかどうかに影響を与えている。何年にもわたって、"アクセル"に対してか、または"ブレーキ"に対して寄与するものとしてシグナルが分類されてきた。しかししながら、いくつかのアクセルを利用する複数のシグナルとブレーキを踏む複数のシグナルの生物学的結果を予測することは、未だに難題である。Janesたち(p.1646)は、この問題に対してシステムレベルのアプローチを行い、様々なサイトカインの組み合わせで処理された細胞におけるアポトーシスの様々なステージについての約1500の反応結果を持った培養細胞中のおよそ8000のシグナル伝達現象のあいだの関係を解析するためのモデルを作成した。このモデルにより、細胞のアポトーシス反応を、様々な条件下で正しく予測することが可能になる。(NF)
A Systems Model of Signaling Identifies a Molecular Basis Set for Cytokine-Induced Apoptosis p. 1646-1653.

陸地利用の気候への影響(Land-Use Effects on Climate)

気候モデルは現実の気候システムの表現としては未だかなり粗く、この気候モデルの中で適切に実現されていない重要なフィードバックに関する一つの分野が陸地のプロセスである。Fedemmaたち(p.1674;Pielkeによる展望記事参照)は、地球表面のエネルギー吸収と分布に直接影響する生物地球物理学的な陸地プロセスを地球規模の気候モデルの中に統合する事でその役割を調べている。次の世紀における大気中の炭酸ガス濃度の増加とそれに関連した温室ガスがもたらす温暖化は、中緯度地域や熱帯地域では、陸地が何に覆われているか(例えば、アマゾン流域の密林が農耕地に変わる)によって直接決まる局地的な気候変動と同じくらいの大きさである。しかしながら、地球規模での平均化された温度では陸地の被覆内容の変化にそれほど影響されない。というのは、多少の温暖化に導く地域的な変動が相殺されてしまうからである。(KU,Ej,nk)
The Importance of Land-Cover Change in Simulating Future Climates p. 1674-1678.
ATMOSPHERIC SCIENCE: Land Use and Climate Change p. 1625-1626.

リピド(脂質)と神経毒(Lipids and Neurotoxins)

ある種のヘビの毒液には、獲物を麻痺させる神経毒が含まれている。中毒の際に、ヘビのシナプス前ホスホリパーゼ(hospholipase)A2神経毒(SPANs)が神経筋接合部にある運動神経末端を拡大させ、シナプス小胞からの神経伝達物質の開口分泌を誘発する。Rigoniたちはこのたび、ホスホリピド(phospholipids)上で作用するSPANsによって遊離されるリゾホスホリピド(lysophospholipids)と脂肪酸の混合物が、SPANsの生物学的効果のすべてをそっくりそのまま模倣していることを見いだした(p. 1678; またZimmerbergとChernomordikによる展望記事参照のこと)。つまり、シナプス前膜では、リゾホスホリピドと脂肪酸が小胞の開口分泌を促進し、またシナプス小胞の回収を抑制する膜高次構造を産生する助けとなっている。(KF)
Equivalent Effects of Snake PLA2 Neurotoxins and Lysophospholipid-Fatty Acid Mixtures p. 1678-1680.
NEUROSCIENCE: Enhanced: Synaptic Membranes Bend to the Will of a Neurotoxin p. 1626-1627.

曖昧さへの嫌悪(Ambiguity Averse)

2002年のニュース・ブリーフィングで、米国国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、誰もが知っているように、解き明かされた既知のもの、解き明かされていないが既知のもの、解き明かされていない未知のもの、という区別を行なった。最後のグループはいまだに議論するのが難しいが、神経科学者とエコノミストは力を合わせて、初めの2つの区別について検証しようとしている。Hsuたちは、被験者に対して、リスクがある報酬と曖昧(ambiguous)な報酬のどちらかを選ばせた(p. 1680; また、Rustichiniによる展望記事参照のこと)。前者のタイプの選択には既知の確率の成果が含まれており、後者のタイプは同じ成果だが、確率は未知であるようになっていた。期待される報酬が同じという条件下であっても、通常の人間は曖昧さよりもリスクを好み、また脳イメージング結果は、曖昧さがあるとより活性の高まる扁桃体と眼窩前頭皮質(OFC)が脳の第3の領域である線条体を変調していることを示唆していた。とくに、OFCに病変のある患者は曖昧さへの嫌悪を示さなかった。(KF)
Neural Systems Responding to Degrees of Uncertainty in Human Decision-Making p. 1680-1683.
NEUROSCIENCE: Emotion and Reason in Making Decisions p. 1624-1625.

対合のためのチェックポイント(Checkpoint for Synapsis)

真核生物細胞周期の複雑な機構は多くのポイントでモニターされ、次の段階の処理が実行される前に、すべてが計画通り進んでいることを保証するようになっている。知られているチェックポイントには、DNA複製やDNA損傷、紡錘機能などが含まれている。Bhallaと Dernburgは、対合(synapsis)、すなわち、線虫(C.elegans)の減数分裂(単相体の配偶子を生み出す)細胞周期間における相同的染色体間の対形成、をモニターするチェックポイントを同定した(p. 1683)。これは分裂の際に正確な染色体分離を保証するものである。このチェックポイントは、対形成センターとして知られる、対合が開始される染色体部位を必要としており、減数分裂の組換えをモニターしているDNA損傷チェックポイントとは違うものである。このチェックポイントにはPCH2遺伝子が含まれており、これはまた発芽酵母の太糸期チェックポイントにも関与している。(KF)
A Conserved Checkpoint Monitors Meiotic Chromosome Synapsis in Caenorhabditis elegans p. 1683-1686.

Gタンパク質構造を把握する(Getting to Grips with G Protein Structure)

ヘテロ三量体Gタンパク質シグナル伝達は、広範囲の生理学的プロセスにおいて重要である。しかし、活性化したヘテロ三量体サブユニット(G α β γ)がシグナル導入(signal transduction)の際に、どのように膜に配向しているかは殆ど知られていない。Tesmerたちは、活性化したGタンパク質のスナップショットを、活性化したG α[q]およびG β γに同時に結合したGタンパク質結合受容体キナーゼ2(GRK2)の3.1オングストロームの結晶構造を提示している(p. 1686)。GRK2は多くのGタンパク質結合受容体のリン酸化依存的脱感作にとって決定的なものである。この複合体において、G α qはG β γから完全に解離し、ヘテロ三量体中のその位置から離れて配向しており、GRK2とエフェクター様の相互作用を形成する。(KF)
Complex p. 1686-1690.

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