AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 2, 2005, Vol.310


好都合な サイトカイン 輸送(Expedient Cytokine Trafficking)

ファゴソームは、外部環境からバクテリアのような比較的大きな粒子をマクロファージのような細胞が取込むときに形成される。ファゴソーム生成の際に必要となる膜がどこに由来するかや、他の細胞小器官がファゴソームと融合することが何故可能なのか、は最近の議論の中心となっていた。Murray たち(p. 1492, オンライン出版11月10日号)は、マクロファージでのファゴソーム膜の輸送の基本的で巧妙な適応について述べている。ここでは、再利用されるエンドソームは新しく生成されるファゴソームと融合し、その結果、腫瘍壊死因子の遊離部位を生成する。この因子は生得的免疫に関わっている炎症誘発性サイトカインである。(Ej,hE)
A Role for the Phagosome in Cytokine Secretion p. 1492-1495.

深層海水循環の年代を知る(Dating Deep Circulation)

最終氷河最盛期から完新世に移行する際に、北大西洋海域において深海循環パターンにおける一連の変化が起こった。Robinsonたち(p.1469.11月3日オンライン出版)は、中間層および深海層の海水循環の変化の特徴をよりはっきりと調べるため、この移行期間における北大西洋海域の深海サンゴDesmophyllum dianthusに含まれる炭素14の含有量の計測を行った。北大西洋海域の深海において観測された放射性炭素の変化は、深層海水循環の南北半球での逆転("bipolar seesaw")モデルと一致する。深度2500メートル以下の海水におけるより大きな変動は、両極近くで発生するより小さな気候事象と相関している。(TO)
Radiocarbon Variability in the Western North Atlantic During the Last Deglaciation p. 1469-1473.

より早い酸素の出現(Earlier Oxygen Onset)

ある種の微生物は、エネルギー源としてイオウの中間化合物のレドックス反応を利用している。この種の化合物は、本来酸化反応により形成されるもので、つまり、地球大気の酸素濃度が増加した10億年前の後に、このような微生物が進化したこと、及び沈殿物中に記録される主要なイオウの同位体比(34S/32S)における明瞭な変化を引き起こしたと考えられていた。Johnstonたち(p.1477)は、分析において33S同位体に関するデータを含める事で、微生物によるイオウ不均一化に関するより正確なシグナルを与える事を示している。調べたシグナルから、以前考えられていたよりもかなり早い時期、13億年前頃に酸素が出現していた。(KU)
Active Microbial Sulfur Disproportionation in the Mesoproterozoic p. 1477-1479.

地震から随分後になって (Long After the Quake)

ネバダ州の大盆地グレートベイスンの拡大している西端部は、北アメリカで最も地震活動が活発な地域の1つであり、1925年から1954年にかけてネバダ州西部で大規模地震が4回発生した。GourmelenとAmelung(p.1473; Hammondによる展望記事参照)はレーダー干渉計を使って、過去10年間におけるこの地域の継続する変形をマップ化し、この地域がいまだにゆっくりと4つの地震に対して反応し続けていることを示した。広範囲にわたる変化 (broad response) の考察から、GPSデータによる側地学的マップと地震が起こった当時の観測マップとの間の不一致の整合に役立ち、また東部に大きく拡大した地殻の多くは今では動きが少なくなってきていることを示唆している。(TO)(Ej)
Postseismic Mantle Relaxation in the Central Nevada Seismic Belt p. 1473-1476.
GEOPHYSICS: Enhanced: The Ghost of an Earthquake p. 1440-1442.

水銀の濡れ(Mercurial Wetting)

カーボンナノチューブの内部は、毛細管現象の作用により液体で満たすことができる。しかしながら、水銀のような液体金属の表面張力は高すぎるため、その金属をこのプロセスでナノチューブの中に入れることはできない。この濡れ性の欠如のため、水銀はカーボンナノチューブとのオーミックな接触形成に用いられてきた。Chen たち (p.1480) は、エレクトロウエッティングにより、水銀が開放端を有する単層カーボンナノチューブ (single-walled carbon nanotubes ;SWNTs) に入る込む証拠を与えている。このエレクトロウエッティングは、ナノチューブがコンタクトとして用いられるときに発生する電圧降下によって促進される。バイアス電圧を印加すると、水銀表面から SWNT を引き抜くのに必要な力は変化する。事後に実施された透過型電子顕微鏡観察から、水銀が SWNTs の外部表面を濡らすとともに、内部に入っていることを示している。(Wt)
Electrowetting in Carbon Nanotubes p. 1480-1483.

始祖鳥の頭と脚(Bird Head and Toes)

始祖鳥は最初に知られた最古の鳥として広く知られている。1億5千万年前の年代を示す9つの化石からそのように考えられてきた。しかしながら、この9つの化石は総て部分的に不完全で、特に重要な頭と脚の部分が不完全であった。Mayrたち(p.1483;Stokstadによるニュース記事参照)は、この重要な部位における新たな特徴を示す10体目の化石に関して報告している。親指はごく僅か向きが逆で、人差し指は前に大きく伸びている。明らかになった頭蓋骨と同じく、このような脚の特徴は鳥の先祖と示唆されている獣脚類恐竜に極めて似ている。(KU)
A Well-Preserved Archaeopteryx Specimen with Theropod Features p. 1483-1486.

聴覚機能障害の回避(Heading Off Hearing Impairment)

先天的聴覚障害のネコやマウスは聴覚神経末端のシナプス構造に異常が見られる。これらの異常は永久的なのだろうか、あるいは、早期治療によって元の機能に戻せるのだろうか?Ryugoたち(p. 1490)は、正常聴覚のネコと先天的聴覚障害ネコ、及び先天的聴覚障害ネコに蝸牛移植したネコとを比較した。彼らは、聴神経シナプスの解剖学と機能回復について、特に、ヘルドの神経終末球(endbulb of Held)と呼ばれる部位の変化ついて調べた。蝸牛の移植による人工的な電気的刺激を蝸牛に与えることで、このシナプスの多くの特長が回復した。(Ej,hE)
Restoration of Auditory Nerve Synapses in Cats by Cochlear Implants p. 1490-1492.

味な問題(The Matter of Taste)

味覚は味蕾で形成され、それがその後、味覚神経を介して脳へと情報を送信する。味蕾と神経のあいだの神経伝達物質はセロトニンであると考えられていたが、機能的セロトニン受容体を欠損する遺伝子操作されたマウスは、味覚刺激を正常に読みとる。Fingerたち(p. 1495)は、これらのシナプスで機能する別の候補神経伝達物質、アデノシン三リン酸(ATP)を調べた。ATPに対する2種のイオンチャンネル型プリン受容体(P2X[2]およびP2X[3])を欠損するマウスは、味覚神経における味覚刺激に対して反応を示さなかった。さらに、これらのマウスは、ある物質に対して他の物質よりも嗜好を示さなければならない行動試験では、ほとんどの食味を検出できなかった。味蕾を刺激すると味蕾からATPが放出されることを考えあわせると、これらの結果から、ATPがこれらのシナプスでの実際の神経伝達物質であることが示される。(NF)
ATP Signaling Is Crucial for Communication from Taste Buds to Gustatory Nerves p. 1495-1499.

クロマチンと幹細胞(Chromatin and Stem Cells)

2種類の幹細胞、生殖系列幹細胞と体細胞性幹細胞がショウジョウバエ卵巣において見いだされた。これらの細胞の自己複製には、Hedgehogと骨形態形成タンパク質(BMP)、およびWinglessシグナル伝達経路の機能が必要とされる。XiとXie(p. 1487)はここで、2種のアデノシン三リン酸-依存的クロマチン再構築因子、Imitation SWI(ISWI)およびDOMINO(DOM)がショウジョウバエ卵巣における自己複製も制御することを示した。DOMは体細胞性幹細胞の自己複製に必要であり、ISWIは幹細胞微小環境、または"ニッチ"におけるBMPシグナル伝達に反応して、生殖系列幹細胞の自己複製に必要とされる。この型のクロマチン再構築複合体は非常に保存性が高いため、クロマチン再構築が他の生物における幹細胞の自己複製において、重要な役割を果たしている可能性がある。(NF,hE)
Stem Cell Self-Renewal Controlled by Chromatin Remodeling Factors p. 1487-1489.

結腸癌コネクション(Colon Cancer Connections)

2種類の周知のシグナル伝達経路間のこれまではわかっていなかった関連性が、結腸癌細胞の増殖の調節に関して重要なメカニズムを与えている。Castelloneたち(p. 1504、11月17日にオンライン出版)は、プロスタグランジンE2受容体のEP2サブタイプが、細胞増殖を促進する転写プログラムを活性化する二面攻撃を仕掛けていることを示した。PGE2がEP2に結合すると、結合するヘテロ三量体グアニンヌクレオチド-結合タンパク質(Gタンパク質)が活性化される。Gタンパク質βγとαサブユニットは別個の経路を介して作用し、これらの経路が一つにまとまって、癌細胞の増殖を上昇させる特異的遺伝子の転写を促進するタンパク質、β-カテニンの安定化と核移行を促進する。このシグナル伝達システムにより、PGE2を介したシグナル伝達を阻害する非ステロイド系抗-炎症薬が、何故マウスやヒト患者における結腸癌の発症を場合によって阻害することができるのか、という点を説明することができる。(NF)
Prostaglandin E2 Promotes Colon Cancer Cell Growth Through a Gs-Axin-ß-Catenin Signaling Axis p. 1504-1510.

IgGにはとりえがある(The IgGs Have It)

異なったクラスの抗体(免疫グロブリン; IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)は、免疫系の中でそれぞれ多岐にわたる機能を果たしている。IgGはまた、特定の型の免疫応答においてかなり異なった作用強度を示すサブクラスにさらに進化する。IgGの各サブクラスは、抗体分子の定常性Fc領域に関わるさまざまな抑制性ないし活性受容体に対して、結合親和性の領域を有している。NimmerjahnとRavetchは、この観察結果を用いて、サブクラス特異的なFc部分と特異的に結合する同じ抗原特異性を持つ抗原を作り上げた(p. 1510; また、Woofによる展望記事参照のこと)。生体内で免疫学的効果を仲介するこうしたハイブリッド抗体の能力は、いろいろの活性ないし抑制性を示すFc受容体(FcR)に、そのFc部分が結びつく力によって予測可能であった。つまり、FcR結合の特異性と強度こそが、IgGサブクラスが特定の免疫応答におけるその優位性を決定する中心的手段なのである。(KF)
Divergent Immunoglobulin G Subclass Activity Through Selective Fc Receptor Binding p. 1510-1512.
IMMUNOLOGY: Tipping the Scales Toward More Effective Antibodies p. 1442-1443.

Survivinを標的にし続ける(Keeping Survivin on Target)

多くのタンパク質が、有糸分裂が成功裡に完了するために必要なイベントの調和的な統合に関与している。Vongたちは、有糸分裂の制御において機能し、また動原体にある凝縮した染色体上やさらに後には紡錘体上に蓄積するタンパク質であるsurvivinと相互作用するタンパク質を探し求めた(p. 1499, またEarnshawによる展望記事参照のこと)。survivinの局在化と、それと他のタンパク質との会合を制御しているらしいhFAM として知られている脱ユビキチン化(deubiquitinating)酵素が同定された。survivinは、タンパク質-タンパク質相互作用に影響を与える修飾されたLys63リンケージを介してユビキチンと結合したが、この修飾はsurvivinの動原体への適切な結合に必要なものであった。変異Lys63によってユビキチン結合を妨害すると、染色体の整列と有糸分裂の進行が破壊された。つまり、タンパク質のユビキチン結合を制御している酵素は、適切な有糸分裂の遂行に必要な動的なタンパク質相互作用の制御においてキーとなる調節性の役割をもっているらしい。(KF)
Chromosome Alignment and Segregation Regulated by Ubiquitination of Survivin p. 1499-1504.
CELL BIOLOGY: Keeping Survivin Nimble at Centromeres in Mitosis p. 1443-1444.

翻訳では失われない(Not Lost in Translation)

哺乳類の翻訳因子eIF3(およそ75万ダルトンの複合体)は、大小のリボソーム・サブユニットの成熟前の会合を妨害する。それは開始コドンの検出に関与し、また、活性リボソームの組立を補助する。さらに加えて、eIF3は5'末端にあるメチル化グアノシン・キャップ、あるいはリボソームの小さなサブユニットへの内部リボソーム入口部位(IRES)を担うメッセンジャーRNA(mRNA)を補充している。低温電子顕微鏡再構成法(cryoelectron microscopy reconstructions)や単一粒子分析、及びモデル化を用いて、Siridechadilokたちはこのたび、eIF3の構造と相互作用を解明した(p. 1513)。eIF3は、C型肝炎ウイルス(HCV)のIRES RNAおよび5'キャップ結合複合体eIF4Fと同じドメインを介して相互作用し、mRNA鎖を40Sリボソーム・サブユニットの出口部位近くの場所に位置させる。この研究は、成熟前のリボソーム組立の妨害を含むeIF3による翻訳制御についての構造上の洞察を提供するものである。(KF,hE)
Structural Roles for Human Translation Factor eIF3 in Initiation of Protein Synthesis p. 1513-1515.

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