AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 25, 2005, Vol.310


土星の周りの一本の渦巻き(A Single Spiral Around Saturn)

小さく束ねられ織り込まれた撚り糸状になった、土星の繊細なFリングの編目構造は、天文学者を長い間悩ませてきた。カッシーニ(Cassini)探査機により撮影された一連の詳細な画像から、Charnoz たち (p.1300; Showalter による展望記事を参照のこと) は、Fリングはさほど複雑ではなく、その惑星を3回取り巻く緩い一本の渦状腕の形状を成していることを示している。著者たちが、その渦の起源を探索するためにシミュレーションを用いた結果、主たるFリング帯近くに位置する土星の小さな衛星の通過により、物質が吐出されて、何回もの周回を経た後に、ひとつの渦状のパターンに配列された可能性があると提案している。(Wt,tk)
Cassini Discovers a Kinematic Spiral Ring Around Saturn p. 1300-1304.
PLANETARY SCIENCE: Saturn's Strangest Ring Becomes Curiouser and Curiouser p. 1287-1288.

配線されるナノワイア(Hard Nanowired)

トランジスタの製造においては、半導体のドーピング種類の異なる領域は、イオン・インプランテーション法とリソグラフィーパターン形成によって作られる。Yang たち(p. 1304)は、金のナノクラスターによる触媒作用を受けた、直径が極めて均一で長さが10マイクロメートル以上もあるシリコンナノワイアを合成したが、この長さ方向のドーピングパターンは、どこででも自由に変えられるものである。n-型ドーピングレベルの高低領域は成長過程で導入されるホスフィンの量によって生み出され、それらは走査ゲート顕微鏡によって見ることができる。ドーピング領域の異なるパターンのナノワイアはアドレスデコーダー(address decoder)の製作に使われ、低温では、異なるドーピング領域はクーロン振動する量子ドットを形成した。(Ej)
Encoding Electronic Properties by Synthesis of Axial Modulation-Doped Silicon Nanowires p. 1304-1307.

バネのように元に戻る(Springing Back)

圧縮ストレスをかけた後、これを取除くと多くの物質は元の形を回復するが、限界を超えると完全に壊れるか、再復元に失敗する。Cao たち(p. 1307)は、整列したカーボンナノチューブから構成される自立型フィルムを製造したが、これは連続気泡(open-cell)の柔軟性のある発泡体のような振る舞いをする。このフィルムは、ナノチューブのジグザグの折り曲げ変形でも、構造的欠損を生じることなく、可逆的に、元の厚さの15%にまで圧縮される。このナノチューブは弾性的圧縮バネのような振る舞いをし、軸方向には高圧縮され、負荷が除かれるとほとんど元と同じ長さを回復する。(Ej,hE)
Super-Compressible Foamlike Carbon Nanotube Films p. 1307-1310.

古代の氷河期サイクルをさらけ出す(Airing Out Older Glacial Cycles)

18世紀に科学的サンプリング法が確立するまでの大気中の成分を知るには、氷河の氷中に閉じ込められた空気が唯一の信頼の置ける直接的記録である$B(I!1997G/0JMh!":G8E$NJ,@O2DG=$JI9$OFn6K$NVostokからのアイスコアであり、420,000年前に遡り、これは、4回の氷河サイクル分の期間を含んでいる$B(I!新しいアイスコアが南極のEPICA Dome Cから得られ、この年代は740,000年、あるいは、それ以上遡るものである。これについて、400,000年前から650,000年前の大気の成分に関する2件の報告が寄せられている$B(I!この時代は、氷河サイクルが41,000年周期から現在の100,000年周期に変化したすぐ後である(Brookによる展望記事参照)。Siegenthaler たち (p. 1313) は、温室効果ガスとして最も重要な手がかりとなるCO2を測定し、過去40万年の期間に比べると、この期間のCO2濃度変動はずっと狭い範囲内に留まっていたことを示した。Spahni たち(p. 1317; 表紙も参照)は、これと平行して他の重要な温室効果ガスであるCH4とNO2の測定をした。CH4は、この期間、CO2と同じように変動幅が狭かったが、一方NO2は、この期間中もその後の約50万年と同じくらいの変動を示した。これらデータは、更新世中期以来の炭素サイクルの作用を理解するための鍵となるであろう。(Ej,hE,tk)
ATMOSPHERIC SCIENCE: Tiny Bubbles Tell All p. 1285-1287.
Stable Carbon Cycle–Climate Relationship During the Late Pleistocene p. 1313-1317.
Atmospheric Methane and Nitrous Oxide of the Late Pleistocene from Antarctic Ice Cores p. 1317-1321.

イントロンにしがみつく(Hanging On to Introns)

進化により生物の複雑性、特に細菌や、脊椎動物と対比される単細胞真核生物の複雑性が増大した。しかしながら、進化の初期に生じた生物の遺伝子およびゲノムが、より新しい種の遺伝子やゲノムよりも単純なはずであるという考えは、必ずしも正しいものではない。Raible(p. 1325)は、"生きた化石"と考えられている海洋性ゴカイ、Platynereis dumeriliiのゲノムを解析し、その遺伝子の構造が非常に複雑であること、そしてそのゲノムがヒトゲノムの構造と似て、イントロンを豊富に含むことを示した。これら2種の非常に異なった生物、すなわちPlatynereis dumeriliiとヒトは、このような遺伝的複雑性を保っていたが、ゲノム研究が行われたその他の昆虫や線虫では複雑性は失われていたのである。(NF)
Vertebrate-Type Intron-Rich Genes in the Marine Annelid Platynereis dumerilii p. 1325-1326.

提示のための脂質プロセッシングの促進(Promoting Lipid Processing for Presentation)

あるタイプのT細胞は、タンパク質由来の抗原ではなく脂質由来の抗原を認識するが、これらの脂質抗原は、細胞表面タンパク質であるCD1ファミリーの構成分子により提示される。しかしながら、CD1ファミリーの構成分子の1つ、CD1eは、脂質を直接的には提示しないようである。De la Salleたち(p. 1321)は、CD1ファミリーの別の構成分子(CD1b)を介してT細胞を刺激するプロセッシングに依存する脂質抗原が、CD1eが存在しない条件下では脂質を直接的には提示できないことを観察した。CD1eは、リソソーム中の脂質前駆体の修飾を補助するために必要とされ、その修飾によりCD1bとの細胞内での結合およびそれに引き続いて起こるT細胞への提示が可能になった。つまり、この残っているCD1ファミリーの構成分子は、T細胞に対する抗原性脂質の直接的な提示ではなく、抗原性脂質のプロセッシングに関与しているようである。(NF)
Assistance of Microbial Glycolipid Antigen Processing by CD1e p. 1321-1324.

線虫での細胞原基の仕様(Cell Fate Specification in the Worm)

線虫Caenorhabditis elegansの発生初期において、外陰部は、1DEG、2DEG、および3DEGと呼ばれる3個の外陰部細胞原基のうちの1つに発生する能力を有する、6個の前駆細胞から構成される。1DEG原基および2DEG原基は、2種類のシグナル伝達経路、EGFR-MAPK経路とLIN-12/Notch経路、の間のクロストークを介してパターン化される。YooとGreenwald(p. 1330、10月20日にオンラインで発行;KarpとAmbrosによる展望記事を参照)はここで、コンピュータ予測解析により同定された特異的なmicroRNA(miRNA)が、2DEG外陰部細胞原基に至らせるのに関与していることを示した。miRNA mir-60は、LIN-12/Notchの直接的な転写標的であり、そして次に、オンコジーンVavのオルソログが、mir-60の標的となる。制御回路は、VavによるLIN-12活性の制御により完了する。 (NF)
LIN-12/Notch Activation Leads to MicroRNA-Mediated Down-Regulation of Vav in C. elegans p. 1330-1333.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Enhanced: Encountering MicroRNAs in Cell Fate Signaling p. 1288-1289.

温室となるヨーロッパ(Greenhouse Europe)

地球規模の気候変化の及ぼす影響を評価することは、全ての国にとって高い重要性をもっている$B(I!Schroeterたち (p. 1333, オンライン出版;27 October)は、ヨーロッパの地球規模の変化に対する脆弱性が、21世紀に、植物の成長、炭素隔離 、生物多様性、水、土壌の肥沃性などの生態系の機能の減少によってどのように変化するかを示している。彼らは4つの気候モデルをヨーロッパに当てはめ、これを社会経済的ないくつかのシナリオと組合せて、炭素隔離や淡水供給、生物多様性などの生態系の機能が次の世紀にどうなりそうかを見積もっている。これら機能の喪失効果は、特に地中海地方や山岳地方で、強調されるであろう。(Ej,hE)
Ecosystem Service Supply and Vulnerability to Global Change in Europe p. 1333-1337.

行為、選択、そして報酬(Action, Choice, and Reward)

特定の目標を達成するために、ヒトや動物は、現在の行動の文脈および過去の経験に基づいて行為を選択する。Samejimaたちは、報酬を与えられる行為と相対的な報酬の値とを独立に操作しうる単純な運動性決定タスクを遂行中のサルの基底核内における単一ユニットの活性を調べた(p. 1337)。好ましい方向や報酬の量、あるいはそれら両方の組み合わせに結びつく活性を示す細胞が同定された。背側線条体のニューロンのおよそ3分の1が、行為価値(action values)をコードしていた。サルに提示されたのと同じ試行系列で訓練された強化学習アルゴリズムの1つは、試行ごとのニューロンの神経の活性を予想することができた。背側線条体は行為価値の強化学習が行われている部位であり、それが、ずっと下流の基底核における行為の選択に用いられている可能性がある。(KF)
Representation of Action-Specific Reward Values in the Striatum p. 1337-1340.

薬剤への要求の真相を極める(Getting to the Bottom of Drug Cravings)

動物の薬剤への欲求のモデルの1つである行動的増感現象には、側坐核を含む脳の中間皮質辺縁系(mesocorticolimbic)領域にある神経の適応が関与している。側坐核におけるシナプスの可塑性、とくに長期抑圧(LTD)が、行動的増感現象において重要な役割を果たしている。新しい合成ペプチド阻害剤を用いて、Brebnerたちは、側坐核におけるLTDが、AMPA受容体の、クラスリン依存的な制御されたエンドサイトーシスによって仲介されていることを示している(p. 1340)。側坐核のニューロンにもたらされたあるAMPA特異的阻害剤が、行動的増感現象を遮断したのである。つまり、側坐核におけるLTDはシナプス後AMPA受容体の促進されたエンドサイトーシスによって仲介され、薬剤への要求の病原性に関与している可能性がある。(KF)
Nucleus Accumbens Long-Term Depression and the Expression of Behavioral Sensitization p. 1340-1343.

Winglessのシグナル伝達(Signaling from Wingless)

発生および癌の制御におけるWingless(Wg)あるいはWntシグナル伝達経路について広範な研究があったにもかかわらず、Wgシグナル伝達について、ショウジョウバエの神経系におけるシナプスの発生に関わる従来認識されていなかった機構が発見された。Mathewたちは、Wg受容体DFrizzled2(DFz2)が開裂され(cleaved)、原形質膜から核のすぐ外にある細胞の領域へと転位されうることを発見した(p. 1344; またAriasによる展望記事参照のこと)。Wgシグナルに応答して、その受容体のC末端部分が核に入り、そこで遺伝子発現を制御するよう作用している可能性があるのだ。開裂されないDFz2変異体が発現すると、情報伝達に欠損のあるDFz2の変異体を発現したハエにおけるシナプス形成の回復はうまくいかないことになる。(KF)
Wingless Signaling at Synapses Is Through Cleavage and Nuclear Import of Receptor DFrizzled2 p. 1344-1347.
CELL SIGNALING: Frizzled at the Cutting Edge of the Synapse p. 1284-1285.

海の水位の上昇下降(The Ups and Downs of Sea Level)

海の水位の変化は、気候や海の化学的性質、陸生および海洋性の生物の進化、そして大陸や海床の地質に強い影響を及ぼすことになる。その変化は、氷床の成長ないし減退、湖沼や地下水の水量の増加ないし減少、海盆の容積の変異、そして海水の熱による膨張ないし収縮によって引き起こされる。Millerたちは、過去5億4300万年間、つまり顕生代における海の水位がいかに変化したかをレビューし、1万年から1億年の時間スケールを持つ変異に注目している(p. 1293)。彼らは、そうした変化を生み出すのに役割を果たした機構を論じている。(KF,tk)
The Phanerozoic Record of Global Sea-Level Change p. 1293 - 1298.

濡れた電子をやりとり(Shuttling Wet Electrons)

タンパク質間の電子伝達(ET)は、光合成や呼吸などのプロセスの重要な特徴である。Linたち(p. 1311)は、トリプシン可溶化ウシ肝臓チトクロームb5の電子自己交換反応の速度を、様々な距離および相対的タンパク質配向で計算することにより、タンパク質間のETに対する介在性水溶媒の役割を探索した。実験データはしばしば指数関数的な減衰(single exponential decays)にあてはまるが、著者たちは3種の明確な距離状態を見いだした。van der Waals接触では、ETはタンパク質により媒介される。最初の分離に際して、水を構造化することは異常に弱い距離依存性を生じ、その距離依存性は、より大きく分離された場合(>12Å)にのみ、大量の水を構造化することに逆戻りする。これらの結果は、生物学的なET動態における多数の異常な観察結果を説明できる可能性がある。(NF)
The Nature of Aqueous Tunneling Pathways Between Electron-Transfer Proteins p. 1311 - 1313.

プラナリア再生の制御(Control of Planarian Regeneration)

保存性のPIWIファミリーのタンパク質は、生殖細胞の制御に関わっているが、このタンパク質が幹細胞の維持を促進しているのか、あるいは分化を促進しているかどうかははっきりしていない。Reddienたちはこのたび、扁形動物(プラナリア planaria)の2つのPIWI関連遺伝子、smedwi-1とsmedwi-2に焦点を合わせている(p. 1327)。SMEDWI-1タンパク質とSMEDWI-2タンパク質は、プラナリアの再生に関与する多能性幹細胞である新生細胞(neoblasts)の分裂の際に発現する。SMEDWI-2タンパク質は、分化した機能を遂行する能力がある幹細胞の子孫の産生と、幹細胞の長期の維持において機能しているのである。(KF,hE)
SMEDWI-2 Is a PIWI-Like Protein That Regulates Planarian Stem Cells p. 1327 - 1330.

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