AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 18, 2005, Vol.310


竜脚類と初期哺乳類の草食性(Sauropod and Early Mammalian Grazing)

草の起源ははっきりしない。草の光合成は他のほとんどの植物と異なり、細胞壁に独特なシリカ構造(phytoliths:植物珪酸又はプラントオパールと呼ばれる)を持っているため、化石として残される。Prasad たち (p. 1177, および、Piperno and Suesによる展望記事参照)は、草のphytolithsを後期白亜紀の竜脚類恐竜の糞化石中に見つけた。phytolithsの多様性は、このころまでの、あるいはこれまで考えられていたよりもずっと以前の、全てのクラウン生物群(crown-group)の草の進化と整合している。草がこの恐竜の主要食物とは思えない(食物の中では比較的小さな割合)が、ゴンドワナ大陸の初期哺乳類の長冠歯が草を食むために使われていたらしい。(Ej,hE)
Dinosaur Coprolites and the Early Evolution of Grasses and Grazers
p. 1177-1180.
Dinosaurs Dined on Grass
p. 1126-1128.

不整合量子固体(Incommensurate Quantum Solids)

固体ヘリウム-4 が非古典的な慣性モーメントを有することを示す最近の実験は、超流動体のように「流れる」ことが可能な超固体相の存在という観点から説明されている。Anderson たち (p.1164, 11月3日のオンライン出版)は、「不整合」量子固体の熱力学的な説明を与えている。量子固体中では、格子サイトの数と原子の数との間に不釣合いが存在しており、この不釣合いの結果として温度依存性の構造特性や比熱特性に関する格子間原子や空格子点の役割について、彼らは調べている。彼らのモデルと実在する実験データとの整合が見られるため、著者たちは、固体 4He 基底状態が不整合量子固体である可能性を示唆している。(Wt)(Ej)
Thermodynamics of an Incommensurate Quantum Crystal
p. 1164 - 1166.

グラファイトに似た多孔性類似物(Graphite’s Porous Relations)

金属の中心に結合した有機リガンドからなる微細孔の化合物に関しては多数の事例が存在する。Coteたち(p.1166)は、ジボラン酸の縮合反応による有機骨格構造の形成に関して報告している。この構造は積層のグラファイト様の平面ネットワークを形成している。ジボラン酸単独での縮合反応では、直径15オングストロームの6方晶系の孔を形成し、その層構造はねじれ型である。一方、ジボラン酸とヘキサハイドロキシトリフェニレンとの縮合反応では重なり配座の積層したより大きな孔(直径27オングストローム)を持つ構造となる。これら二つの物質は500℃から600℃の間で安定であり、それぞれのグラムあたりの表面積は700m2と1600m2である。(KU)
Porous, Crystalline, Covalent Organic Frameworks
p. 1166 - 1170.

成長の根底にある周期性(Cycles Underlying Growth)

通常の実験室での豊富な栄養培地とは別に、制限された栄養分の中で成長する発芽酵素(S.cerevisiae)は酸素消費量で測定すると4〜5時間の呼吸周期性を示す。Tuたち(p.1152、10月27日のオンライン出版)は、このような低栄養素の条件下で、酵素遺伝子の半分以上が300分間隔で周期的に転写されていることを見出した。この機能に関連した三の大きな遺伝子クラスターも共に周期性を示している。呼吸が最大となるときにピークを示す「酸化的なクラスター」にはタンパク質合成に関係する役割を持つ遺伝子を含んでおり、おそらくその時点で容易に利用できる高レベルのアデノシン三燐酸を使用している。第二のスーパークラスターである「還元的/構築」相は、DNA複製や細胞分裂に関する多数の要素を含んでおり、第三の「還元的/蓄積」の遺伝子グループは非呼吸性の代謝とタンパク質の分解に寄与している。(KU,hE)
Logic of the Yeast Metabolic Cycle: Temporal Compartmentalization of Cellular Processes
p. 1152 - 1158 .

赤外線を放射するカーボンナノチューブ(Infrared-Radiating Carbon Nanotubes)

発光ダイオード中では、逆荷電キャリアー(電子やホール)が活性領域に注入され、ここで再結合して光としてエネルギーを放出する。Chen たち (p. 1171)は、懸濁状態のカーボンナノチューブ中で、単一キャリアー(電子、または、ホール)の局所的な加速により、励起子が形成されることを示した。このような1次元閉じ込め条件では、励起子は再結合し、赤外線の状態で放射する。このプロセスは、LEDでの電子・ホール再結合より100倍から1000倍も高効率である。(Ej,hE)
Bright Infrared Emission from Electrically Induced Excitons in Carbon Nanotubes
p. 1171-1174.

地下に捕獲された (Trapped Below)

地球と火星の大気に含まれるキセノンの量は、他の希ガスの現在の濃度、原始時の量、物質からの気体放出(outgassing)や放射性崩壊による希ガスの損失や生成から予想される量よりも少ない。Sanloupたち(p.1174,McMillanによる展望記事参照)は、キセノンの大部分が高温高圧下で石英中の二酸化珪素を置換することを示す実験を提示しており、この条件は石英が豊富に存在する深部の大陸地殻と一致する。キセノンは急激に減圧されると放出されるが、このことは露出した奥深くにあった地殻岩石の分析を疑わしくしている。(TO,tk)
Retention of Xenon in Quartz and Earth's Missing Xenon
p. 1174 - 1177.
A Stranger in Paradise
p. 1125-1126.

サイトカイン相互作用の構造的全体像(Structural View of Cytokine Interactions)

インターロイキン-2(IL-2)は、活性化T細胞により産生されるサイトカインであるが、成熟T細胞と成熟B細胞の増殖、分化、および生存を促進する。その作用は、主として、IL-2、α受容体とβ受容体(IL-2Rα、IL-2Rβ)、およびγc鎖受容体からなる4成分のシグナル伝達複合体を介して媒介される。Wangたち(p. 1159)はここで、4成分の複合体の細胞外構造を2.3Åの解像度で示した。この構造は、IL-2の活性を促すアゴニストおよび阻害剤の設計を容易にするIL-2相互作用についての洞察に加えて、γc受容体の全体像をももたらすものである。この受容体は、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、およびIL-21と共有されており、X染色体性重症複合免疫不全症(X-linked severe combined immunodeficiency diseases;X-SCID)の患者では変異が生じている。X-SCIDに関連するいくつかの変異はγc結合部位中の残基にマッピングされた。(NF)
Structure of the Quaternary Complex of Interleukin-2 with Its , -, and c Receptors
p. 1159-1163.

植物の病原体防御を巧みに逃れる(Circumventing Plant Pathogen Defenses)

特定の植物病原体は、特定の植物種中でのみ疾患を引き起こす。何により宿主種は感染に対して感受性になるのか、または逆に言えば、何により非宿主種は感染に対して耐性になるのか?Lipkaたち(p. 1180)は、ジャガイモの葉枯れ病を引き起こす真菌を研究することにより、通常は感染に耐性であるシロイヌナズナを、感受性にする方法を見いだした。病原体の侵入を防止するためには、グリコシル加水分解酵素の触媒活性が必要とされ、そして細胞死の制御というフェイルセーフ(失敗の無い)プログラムにより防御を更に強化している。この病原体-防御システムの冗長性により、病原体-防御システムの頑健性を説明することができるかもしれない。(NF)
Pre- and Postinvasion Defenses Both Contribute to Nonhost Resistance in Arabidopsis
p. 1180-1183.

頭蓋顔面の発達に重要な遺伝子(Crucial Genes in Craniofacial Development)

ヒトにおいて、Williams-Beuren症候群(WBS)は、通常は28個の遺伝子が失われる染色体欠損の結果として生じる。この変異は頭蓋顔面の発達、ならびに認知発達と社会性の発達のいくつかの側面に影響を及ぼす。WBSの患者は過剰に友好的であること、ならびに数に関する能力を喪失していること、により特徴づけることができる。Tassabehjiたち(p. 1184、11月3日にオンライン出版)はここで、ある患者におけるWBSの原因となる染色体の損傷を解析した。この結果から、WBS領域中のGTF2IRD1遺伝子が頭蓋顔面の異常に重要なものとして同定され、マウスにおいて同時に行われた解析によってサポートされた。(NF)
GTF2IRD1 in Craniofacial Development of Humans and Mice
p. 1184-1187.

精神分裂病への経路(A Pathway to Schizophrenia)

精神分裂病や関連する精神障害は、遺伝的因子と環境因子が結びついて生じると考えられているが、その特異的な原因となる遺伝子の同定は困難な課題であった。DISC1(disrupted in schizophrenia 1)遺伝子は有望な候補である感受性因子の短いリスト上にあるが、これによってコードされるタンパク質の機能は不明であった。Millarたち(p.1187;SawaとSnyderによる展望記事参照)は、DISC1タンパク質が酵素ホスホジエステラーゼ4Bとの物理的な相互作用を介して細胞のcyclicAMP(cAMP)のシグナル伝達を変えている事、及びこの相互作用の切断が精神分裂発症のメカニズム的な役割を果たしている可能性を示唆する証拠を示している。特に注意すべきは、cAMPのシグナル伝達が、既に他の実験系で示されたように学習や記憶、更に心的状態に関係しているものである。(KU,hE)
DISC1 and PDE4B Are Interacting Genetic Factors in Schizophrenia That Regulate cAMP Signaling
p. 1187-1191.
Two Genes Link Two Distinct Psychoses
p. 1128-1129.

シナプスの再形成(Reshaping the Synapse)

免疫シナプスはT細胞と抗原提示細胞(APC)の界面において形成され、T細胞活性化にとって決定的な刺激性の分子と受容体からなる分散領域で構成されている。Mossmanたちは、生きている細胞とアンカーされた脂質二重層(APC表面を表現する)の間のハイブリッド接合部を用いて、シナプス領域に対して物理的な制約を課した(p.1191)。著者たちは、シナプスによって伝達される信号に対する膜再編成の影響を直接的に検証した。通常そこで一体化するシナプスの中心部ではなくシナプス末梢部へのT細胞受容体リガンド対の制約が、、シナプスのシグナル伝達を(消滅させるのではなく)維持し、このことがT細胞受容体信号の持続時間とシナプス中でのその位置の関係を確立している。(KF)
Altered TCR Signaling from Geometrically Repatterned Immunological Synapses
p. 1191-1193.

トリパノソーマ類におけるゴルジの遺伝(Golgi Inheritance in Trypanosomes)

Centrinは、染色体からミトコンドリアまでにわたる細胞小器官の複製と分離に長らく関わってきた、中心体において高度に保存されてきた要素である。Heたちは、トリパノソーマ類において、Centrin2によって定義される新たな細胞構造を同定したが、それはゴルジ複合体の複製に関与するものである(p. 1196、10月27日にオンライン出版)。この構造には2つのローブ(lobe)があり、1つは古いゴルジ体に関連していて、もう一方は新しいゴルジ体が現れる部位を印付けるものであった。(KF)
Golgi Duplication in Trypanosoma brucei Requires Centrin2
p. 1196-1198.

酵母の長寿促進に関わるキナーゼ(Kinases Involved in Promoting Longevity in Yeast)

多くの生命体において、栄養分の感知とカロリーの摂取とが加齢と寿命を制御しており、発芽酵母(S.cerevisiae)においては、カロリー制限によって複製的寿命が増加することがある。Kaeberleinたちは、564通りの単一遺伝子を欠く酵母の系統を分析し、複製的寿命を有意に延ばす10種の遺伝子欠損を同定した(p. 1193; またRineによる展望記事参照のこと)。そのうちの6つは、高度に保存された栄養分-応答性のTORおよびSch9経路の要素をコードしていた。TOR1、またはSch9を欠く細胞におけるカロリー制限は寿命を延ばすには至らなかった。つまり、TORとSch9キナーゼは、過剰なカロリー摂取が酵母の、あるいはひょっとするとより高度な真核生物の寿命を制約する経路に関与しているらしい。(KF)
Regulation of Yeast Replicative Life Span by TOR and Sch9 in Response to Nutrients
p. 1193-1196.
Twists in the Tale of the Aging Yeast
p. 1124-1125.

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