AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 4, 2005, Vol.310


リボゾームにズームイン(Close Up of the Ribosome)

ここ数年間、30Sと50Sの細菌リボソームサブユニットの高解像度の構造解析により、タンパク質合成メカニズムに関する重要な知見が示され、特に、リボソームがリボザイムであること--すなわち、タンパク質ではなくいくつかの構成的RNAが中心的な反応を触媒していることが示された。Schuwirthたち(p.827;Mooreによる展望記事を参照)は、無傷の大腸菌(Escherichia coli)リボソームの2種類の構造を3.5Åの解像度で記述している。これらの構造から、相互作用のインターフェースやペプチジルトランスフェラーゼの活性中心の詳細が示され、メッセンジャーRNAおよびトランスファーRNAの移動に関与している可能性のある分子の動きが示される。(NF)
Structures of the Bacterial Ribosome at 3.5 Å Resolution
p. 827-834.
STRUCTURAL BIOLOGY:
A Ribosomal Coup: E. coli at Last!

p. 793-795.

いっそう多産な惑星生成(More Prolific Planet Production)

崩壊しつつあるダストクラウドの中心の温度が上がり、星形成の条件に近づくにつれて、ダスト粒子は平板状に安定化して、中心のコアの周りに円盤を形成する。この円盤のなかの粒子は、やがて結合して惑星や小惑星を形成する。この描像は、中間的質量の恒星の明るいダスト円盤に関する観測データとは整合しているが、より小さな質量の恒星の周りの惑星形成についてはほとんど知られていない。Apai たち(p.834, 2005年10月20日のオンライン出版) は、褐色矮星の周りの原始惑星系円盤の赤外分光観測を与えている。褐色矮星とは小質量で温度が低く、多くの場合では星になるにはわずかに足りないという天体である。その観測スペクトルは惑星形成に関する三つの鍵となるマーカー、すなわち、ダストの粒子成長、粒子の結晶化、そして粒子の沈殿、の兆候を示している。この種の惑星形成過程は、以前考えられていたよりも広範囲に広がっている可能性がある。褐色矮星は太陽系外部の惑星探査の将来の候補となろう。(Wt,nk)
The Onset of Planet Formation in Brown Dwarf Disks
p. 834-836.

より湿気の多い上部対流圏(A Wetter Upper Troposphere)

二酸化炭素の濃度増加が地球温暖化の唯一の原因だとすると、地球全体の平均的表面温度が今世紀中に約1℃上昇すると推定されている。しかしながら、水蒸気のフィードバック効果を考慮した気候モデルでは、大雑把に3倍程度温暖化すると予想される。今日に至るまで、上部対流圏の水蒸気の量が実際に増加し続けているという実験的な証拠が不足していた。Sodenたち(p.841、2005年10月6日のオンライン出版;Cessによる展望記事参照)は衛星観測データを用いて、1982年から2004年に至る上部対流圏の湿度増加による明瞭なる放射エネルギー増加の痕跡を明らかにしている。この湿度上昇は同時期のモデル再構築と一致している。(KU,Ej)
The Radiative Signature of Upper Tropospheric Moistening
p. 841-844.
ATMOSPHERIC SCIENCE:
Water Vapor Feedback in Climate Models

p. 795-796.

五重結合(A Quintuple Bond)

共有結合性、或いは原子間の共有電子は分子化学の基礎である。2つの遷移金属原子は、電子が反発力で離ればなれになる前に、原理的には12個の電子まで共有できる。しかしながら、実際には8個の共有電子をもつ4重結合が単離された化合物の中では最も安定な相互作用を示していた。これ以上の電子を持つ化合物はクラスターになりやすい。Nguyenたち(p. 844,2005年9月22日のオンライン出版;Frenkingによる展望記事参照)は嵩高いトリフェニールの配位子を用いて、更に1個の電子対を共有した5重結合のクロム二量体を安定化させた。x線結晶測定では折れ曲がった構造を示しており、理論と磁気測定は全ての金属d軌道が結合に関与しているとことを示している。(hk,nk)
Synthesis of a Stable Compound with Fivefold Bonding Between Two Chromium(I) Centers
p. 844-847.
CHEMISTRY:
Building a Quintuple Bond

p. 796-797.

時々発生する電離層(Intermittent Ionosphere Layer)

火星の約110〜135km上空に拡がっている電離圏は二つの異なる層からなっており、太陽風によって下層の大気が吹き飛ばされるのを防いでいる。第三のより低い層の存在が予想されており、Peetzoldたち(p.837)が議論しているように、火星探査機Mars Expressによる電波観測によりこの層が検知された。しかしながら、火星上空65km程度の低いところに拡がっているこの第三電離層は予想されていたような永続性は持たず、間欠的に発生するもので、流星が蒸発して形成されるらしい。(KU,nk)
A Sporadic Third Layer in the Ionosphere of Mars
p. 837-839.

同位体元素半減期の矛盾の調整(Decay Discrepancy Reconciled)

176Lu から 176Hfに至るβ崩壊は、地球化学的進化を追跡するための重要な同位元素系列であるし、他の惑星にも適用できるが、それは、これら元素が大陸地殻の形成に伴って分別されることによる。他の崩壊系との比較においては崩壊係数(半減期)の正確な知識が要求される。しかし、大陸の岩石に基づく系と、隕石に基づく系とでは、異なる値が得られており、もしかしたら他の崩壊系列が関与しているのではという説さえ提案されたほどであった。Amelin (p. 839)は、正確なU-Pb年代が解っており、しかも、Lu-Hfを含む特定の隕石を利用して、両者の年代比較をした結果、隕石に基づく半減期も、大陸の岩石に基づく半減期も同じ値を持っていることが解明された。(Ej,nk)
Meteorite Phosphates Show Constant 176Lu Decay Rate Since 4557 Million Years Ago
p. 839-841.

分解、その後回復へ(Breakdown to Recovery)

トリプトファン(Trp)の局所的な異化反応(分解物の生成)の抑制による免疫応答の制御が、胎児への母性T細胞の応答の研究において初めて明らかにされた。酵素、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)により調節されるこの経路は、これまでも様々な免疫学的事象において確認されていた。Plattenたち(p. 850)はここで、IDO-媒介のTrp分解物が多発性硬化症のマウスモデルを治療する際にも寄与することを見いだした。改変ペプチドリガンドと呼ばれるある型の抗原を使用することで、T細胞の応答により、炎症や神経系病変が引き起こされないようになったが、この作用はIDOの誘導に対応したものである。IDO経路の天然に存在する代謝産物(アントラニル酸)、およびその合成誘導体(N-(3,4,-ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸(3,4-DAA))がT細胞の増殖と抗原提示細胞の活性化を阻害した。驚いたことに、多発性硬化症モデルの実験的自己免疫性脳炎を伴う麻痺を起こしたマウスが、合成誘導体を給餌した後に回復した。(NF)
Treatment of Autoimmune Neuroinflammation with a Synthetic Tryptophan Metabolite
p. 850-855.

腸管オキシダーゼ反応(A Gut Oxidase Reaction)

生体の粘膜表面は、常に微生物に曝露されており、動物界全体を通じて、抗菌性ペプチドの生成を含む様々な生得性の防御的免疫機構を進化させてきた。生得性免疫応答の別の特徴は食細胞による殺菌性の活性酸素種(ROS)の生成である。Haたち(p. 847)は、ショウジョウバエ(Drosophila)腸管粘膜上皮細胞が、細菌感染の際にNADPHオキシダーゼであるデュアルオキシダーゼ(dDuox)を発現することを見いだした。dDuox発現が抑制されているハエは感染に対してかなり顕著に感受性が高く、dDuoxの再発現により防御性が回復した。同様の粘膜ROS生成機構が、様々な種にわたって宿主防御に利用されているだろう。(NF)
A Direct Role for Dual Oxidase in Drosophila Gut Immunity
p. 847-850.

移動中の滑走運動因子(Gliding Motility Factors on the Move)

細菌における、いわゆる滑走運動の方向性決定因子はほとんど知られていない。Mignotたち(p. 855)はここで、細菌の一種であるMyxococcus xanthusの繊毛による滑走運動に必須なタンパク質であるFrzSが、細胞がその移動方向を反転する際に、細胞極にてクラスターを分解したり再集合することによる振動性パターンで移動することを示した。振動の周波数はFrz化学物質感覚システムで調節されており、これが方向性のある移動には必須である。FrzSの細胞極から細胞極への移動が、細胞の縦方向に沿っての方向性のある移動に関与しているようである。(NF)
Regulated Pole-to-Pole Oscillations of a Bacterial Gliding Motility Protein
p. 855-857.

シナプス後サイトからシナプス前サイトへ(From Post-to Presynaptic Sites)

シナプス後Ca2+シグナルは、強化シナプス活性期間中に何らかの方法で伝達されて、シナプス前機能を変質する。Yoshihara たち(p. 858) は、ショウジョウバエの胚の神経筋接合部において、シナプス前刺激による微小端電位の誘導が、シナプス後Ca2+キレート化、あるいは、シナプトタグミン4(Syt4)の遺伝的細胞除去(genetic ablation)によって、遮断されることを示した。この遮断はシナプス後を標的としたSyt4のノックインによって回復される。同様に、Syt4欠乏変異体中の微小端電位振幅の減少は、Syt4のシナプス後回復によって回復する。このように、シナプス後Syt4は神経伝達物質の放出を上方制御(upregulate)する。(Ej,hE,NF)
Retrograde Signaling by Syt 4 Induces Presynaptic Release and Synapse-Specific Growth
p. 858-863.

一瞬の物体認識(Object Recognition in a Flash)

ヒトおよびその他の霊長類は、物体を200ミリ秒以内に認識、分類するという驚くべき能力をもっている。分類に基づく解読アプローチを用いて、Hungたちは、サルの下側頭皮質(IT領域)にある物体認識のためのニューロン表現の特徴を明確にし、根底にある神経コードを定量的に吟味した(p. 863)。驚いたことに、ごく少数のニューロンが非常に短い時間にわたって活動するだけで、対象物体の属するカテゴリーと正体を迅速かつ正確に認識する上で十分であり、これは同時に物体の位置と大きさの大きな変化に対しても変わらなかった。(KF,Ej,NF)
Fast Readout of Object Identity from Macaque Inferior Temporal Cortex
p. 863-866.

首をひねる(Wringing the Neck)

個々のシナプスの可塑性誘導への感受性は、シグナル伝達分子が樹状突起棘の頭部に出入りする能力に影響を受ける。つまり、この棘の首部によるタンパク質運動の制御が、個々のシナプスを制御する潜在的に強力な機構を提供している。BloodgoodとSabatiniは、樹状突起棘の首部を横切る拡散平衡が、活性によって直接的に制御されていることを発見した(p. 866)。2光子レーザー光活性化と2光子顕微鏡を組み合わせることで、タンパク質の運動が棘の首部全体にわたって測定された。棘のサブクラスの1つが、効率的に樹状突起から分離された。棘部は伝統的に静的な実体として扱われてきたが、いまや棘と樹状突起のカップリングは非常に動的なものであると思われる。拡散の障壁は、細胞の最近のスパイキングの歴史を反映するように、時間をかけてかなり変化している。(KF,NF)
Neuronal Activity Regulates Diffusion Across the Neck of Dendritic Spines
p. 866-869.

雄性の生殖系列の分化(Differentiating the Male Germ Line)

TATA-結合タンパク質(TBP)はコアプロモータに結合する保存的な転写因子の1つであり、TBP-関連因子(TBP-associated factors)すなわちTAFsは、転写活性化に関与する補活性化因子(coactivator)のいくつかのクラスの1つを代表するものである。さまざまなTAFsの存在が、特異的遺伝子の転写における機能の可塑性を可能にする。たとえば、いくつかの精巣-特異的TAFsは、ショウジョウバエの精子形成における遺伝子発現の制御において機能する。Chenたちはこのたび、雄性の生殖系列中において、組織特異的TAFsがPolycombタンパク質複合体の抑制的効果を相殺することで遺伝子発現を制御し、最終分化を可能にすることを発見した(p. 869)。精巣のTAFsはPolycombを含む複合体を核小体にとどめておくが、これは転写の制御において核内局在化が働いていることを示唆するものである。(KF,NF)
Tissue-Specific TAFs Counteract Polycomb to Turn on Terminal Differentiation
p. 869-872.

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