AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 21, 2005, Vol.310


Klothoによって制御されるカルシウムチャネル(Calcium Channel Regulation by Klotho)

血液中のカルシウムは、食物として取り入れる量や、消費される量が大きく変動す るにもかかわらず、その濃度レベルはかなり厳密に一定値に保たれている。これに 関わっているのは、一過性受容体電位イオンチャネル(Transient ReceptorPotential ion channel = TRPV5)であると思われている。このTRPV5は、動 物ホルモンであるKlothoの刺激を受ける。Klothoはβグルクロニダーゼ 活性を有す る膜タンパク質の1つであるが、マウスの長寿化と関係するホルモンではないかと 最近示唆されている可溶性の形体をとることもできる。Chang たち(p. 490) は、Ca2+チャネルであるTRPV5の活性化には、この酵素活性が必要であ ることを最近見つけた。Klothoによって、TRPV5上の糖残基が切断され、このチャネ ルは活性化し、細胞表面上に集積するため、Ca2+の流入量が増加する。 このような相互作用で、腎臓などの組織中のCa2+のホメオスタシス(恒 常性)が制御されているらしく、マウスの腎臓では、両種のタンパク質が豊富に発 現されている。(Ej,hE)
The ß-Glucuronidase Klotho Hydrolyzes and Activates the TRPV5 Channel
p. 490-493.

氷床と海面水位(Ice Sheets and Sea Level)

海岸線近くの人口の増加は、地球温暖化に伴う海面水位の上昇が引き起こす洪水の 脅威による潜在的影響を大きくしている。この問題にとって、グリーンランドと南 極の氷床の変化の正確な予測は重要である。Alleyたち(p.456)は、これらの氷床が どのように応答するかを理解する観測やモデリングの最新成果をレビューした。今 後10年、100年の氷床や海面水位に対する確度の高い予測をするためには、急速でダ イナミックな変化の特性を明らかにする更なる観測とモデルの改良が必要であ る。(TO, Ej)
Ice-Sheet and Sea-Level Changes
p. 456-460.

粒子による光電池(Particle-Based Photovoltaics)

シリコン太陽電池に代わる低コストの有機物を用いた太陽電池の可能性は、太陽光 に対する吸収波長領域が限られている事と、発生したキャリア移動度の低い事が障 壁となっている。コロイド状の半導体ナノ粒子の添加により、高分子の半導体太陽 電池における電子輸送が向上する。Gurたち(p.462)は、無機のナノ粒子のみを用い て太陽電池の可能性を示している。彼らはスピン-キャスト法により、酸化インジウ ムのガラス基板上にドナー-アクセプターの対として作用する棒状のCdSe、或いは CdTeの二層膜を形成し、次に金属のトップ電極をつけた。人工太陽を用いた測定で は、Ca/Alをトップコンタクトとして用い、ナノ粒子の焼結によりキャリア電子の捕 獲率を最小限に抑えた装置で、最大変換効率約3%を達成した。(KU,nk)
Air-Stable All-Inorganic Nanocrystal Solar Cells Processed from Solution
p. 462-465.

絶縁体中の金属の歪み(Metals Distort into Insulator)

室温にて、金属と絶縁体は通常非常に異なる部類の物質の代表であるが、物質系の 多くは低温で金属と絶縁体への転移を示す。Wachowiakたち(p.468;O’Sheaによる展 望記事参照)は走査型トンネル顕微鏡と分光計を用いて、7Kにおける単層の KxC60を研究し、xが3から4に増加すると、この薄膜は金 属性から絶縁性へと変化した。このような電荷誘導の構造の再配列は、ヤーン-テ ラー(Jahn-Teller)効果(電子の局在化を高める)に由来する歪みによってもたらされ る。(KU)
Visualization of the Molecular Jahn-Teller Effect in an Insulating K4C60 Monolayer
p. 468-470.
APPLIED PHYSICS:
Enhanced: Molecular Orbitals Tell the Story

p. 453-454.

穴だらけの雪玉(Holey Snowball)

スノーボール地球という出来事は、新原生代に起こった何百万年間の間隔で全地球 に氷河期が何回か続いた時代である。地球のどの程度まで氷に覆われたのか、そし てどの程度の厚みだったのか議論が白熱していた。Olcottたち(p.471,9月29日オン ライン出版)は、7億4000万年前から7億年前の間の新原生代のある期間に低緯度氷河 期のブラジル南東部に堆積した黒色泥岩(black shales)の大きな塊を発見したこと を報告する。これらは有機物が豊富な堆積物であり、このことは活発な海洋一次生 産物のあった結果であり、薄い海氷の下か、或いは氷のない海で形成されたことを 示唆している。このことから、スノーボール地球氷河期のある地域において、継続 して活発な生物活動ができる環境条件を持った場所が何箇所か存在したことを示し ている。(TO, Ej)
Biomarker Evidence for Photosynthesis During Neoproterozoic Glaciation
p. 471-474.

タイタン上に雲を創る(Creating Clouds on Titan)

タイタン(Titan)の大気は豊富なメタンを含んでおり、それが凝縮して雲を形成す る。しかしながら、大気中のメタンの寿命が短いので、この月(タイタン)の上で局 所的にメタンを作り出す源が必要である。カッシーニ(Cassini)と地上設置の望遠 鏡からの新しい観測結果は、これらの雲のダイナミクスとメタンの考えられる源泉 を明らかにしている(Kerr によるニュース記事を参照のこと)。Roe たち (p.477) は、ケック 望遠鏡、および、ジェミニ 望遠鏡からの観察を記述しており、それに よると、これらの観測は、数ヶ月間の間、メタン雲はタイタンの南半球の一領域に おいて非常に豊富であったことを示している。Griffith たち (p.474) は数日にわ たる カッシーニ による観察を用いて、典型的な中緯度の雲はほんの数時間しか持 続しないこと、そして、それらのダイナミクスはタイタンの大気中での対流プロセ スを反映していることを示している。これら二つの結果は、タイタンのこの部分で の局所的なメタンの源泉の存在と整合していると思われる。(Wt,nk)
Geographic Control of Titan's Mid-Latitude Clouds
p. 477-479.
The Evolution of Titan's Mid-Latitude Clouds
p. 474-477.

こっそりと森林破壊を観察(Deforestation by Stealth?)

ブラジル、アマゾン地区の森林破壊の割合を評価するために、20年以上にわたっ て人工衛星画像を使ってきた。このようなリモートセンシング法では、熱帯雨林の 広範囲な全面伐採しか検出できなかった。Asner たち(p.480)は、数本の伐採でも検 出できる、自動森林破壊検出システムを開発した。このシステムをブラジルのアマ ゾンで適用し、今まで検出できなかった選択的伐採をモニタリングした。選択的伐 採の検出結果は、人間の手による熱帯雨林の年間減少面積を倍増するものであり、 その地域は開拓前線地で、保護地区や原生林での不法な作業による。その結果、当 地域の炭素除去量と大気への炭素流入量の推定値の見直しが必要とな る。(Ej,hE,nk)
Selective Logging in the Brazilian Amazon
p. 480-482.

信号を選択的に出力するナノワイヤー回路(Addressing Nanowire Circuits)

微小回路へナノワイヤーをパターニングする多くの方法が開発されてきた。しかし ながら、これらのワイヤーを回路端子に接続することは、いまだにチャレンジャブ ルなことである。というのは、リソグラフフィー法では遥かに大きな長さスケール でのパターンを形成するからである。大規模にナノワイヤーを集積化できる可能性 のある一つの方法は、デマルチプレクサ・アーキテクチャーである。デマルチプレ クサとは二つ、或いはそれ以上の混合された信号を分岐する電気回路であ る。Beckmanたち(p. 465,9月29日のオンラインで出版)は、いろいろな長さスケー ル(サブミクロンからナノ)における一連の回路に対してこのアーキテクチャーが 有効であることを示している。他の設計とは異なり、彼らの構成はナノワイヤーへ の正確なドーピングを必要とせず、ナノワイヤーの最初の堆積(deposition)に関 してある程度の欠陥をも許容できるものである。 (hk)
Bridging Dimensions: Demultiplexing Ultrahigh-Density Nanowire Circuits
p. 465-468.

プリオン感染を手早く試験(Faster Testing for Prion Infection)

In vitro試験は、ヒツジにおけるスクレイピーやヒトにおけるクロイツフェル ト-ヤコブ病(CJD)などのいわゆるプリオン病のin vivo感染特性を再現するもので ある。Nishidaたち(p. 493)はここで、CJDおよびスクレイピーに対応した異なる 系統間のマウスにおいて以前に観察された相互干渉特性を再現することができる培 養神経細胞を使用したアッセイシステムを提示している。共培養システムにより、 病原体の干渉特性を試験するために必要とされる時間が、数ヶ月から数日に短縮さ れる。(NF)
Reciprocal Interference Between Specific CJD and Scrapie Agents in Neural Cell Cultures
p. 493-496.

制御モデル(A Model of Regulation)

生物学的プロセスを調節する制御回路の基本原理が認識できるようになってき た。Brandmanたち(p. 496;Bornholdtによる展望記事を参照)は、3種類の異なる 生物学的制御システムを比較し、それらすべてが速い経路と遅い経路を伴う複数の 正のフィードバックループを含有することに気付いた。彼らはこのシステムの数学 的モデルを使用して、このシステムがフィードバック特性により、シグナル入力が 少々ゆらいでも応答が比較的安定しており、このシステムの生理学的要求に対して 最も適するように、活性化と不活性化の動力学が別々に調整されていることを示し た。(NF,nk)
Interlinked Fast and Slow Positive Feedback Loops Drive Reliable Cell Decisions
p. 496-498.
SYSTEMS BIOLOGY:
Less Is More in Modeling Large Genetic Networks

p. 449-451.

最適な酵素地形(Optimal Enzyme Landscape)

表現型に対する非加算的作用を有する上位性変異は、でこぼこした適応地形を形成 することができたため、進化において重要である可能性がある。その代わり、上位 性は、自然選択においては比較的重要でないのかもしれない。Lunzerた ち(p.499;EllingtonとBullによる展望記事を参照)は、大腸菌(Escherchia coli)の酵素、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(IMDH)による補因子の利 用についての生化学的適応地形を構築した。この酵素は通常、ニコチンアミドアデ ニンジヌクレオチド(NAD)を補酵素として使用するが、5つのアミノ酸変化により ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を使用する様に設計するこ とができる。150種類以上の単一中間、および二重中間変異体を、性能と補酵素選択 性について分析し、そして変異型バクテリアの適応性についてアッセイした。各ア ミノ酸変化は酵素機能に対して付加的に寄与するが、一方、この変化は適応に対し ては上位性の寄与を示す。すべての天然IMDHはNADを使用しており、このことは、古 くからの適応地形が保存されていることを示唆する。(NF)
The Biochemical Architecture of an Ancient Adaptive Landscape
p. 499-501.
EVOLUTION:
Changing the Cofactor Diet of an Enzyme

p. 454-455.

それぞれがそれぞれの仲間だけと(Each to Their Own)

ここ何十年か、ヨーロッパblackcap(ズグロムシクイ)の渡りのパターンは、越冬地 としてイギリス諸島を含むように多様化してきている。この新たに進化してきた習 性には遺伝的な基礎がある。しかし、越冬に別の場所を利用する鳥たちも、夏の育 種の縄張りはしばしば共有しているので、この状況によって交配は可能なはずであ る。Bearhopたちは、育種の土地にいる鳥たちがつがいとなるのは越冬地が同じ鳥た ちとである、ということを明らかにしている(p. 502; またPennisiによるニュース 記事参照のこと)。つまり、分岐や究極的な種の分化は、縄張りが同じであっても生 じうるのである。こうした研究はまた、渡りを行う種が気候変化に対応する1つの方 法を明らかにしている可能性がある。(KF)
Assortative Mating as a Mechanism for Rapid Evolution of a Migratory Divide
p. 502-504.

ウマからイヌへのインフルエンザ(Flu from Horse to Dog)

インフルエンザ・ウイルスはいつでもどこでも種の障壁を越えることが可能であっ て、鳥類やブタだけがヒトのインフルエンザ・ウイルスの供給源なのではな い。Crawfordたちは、互いに無関係な哺乳類の種間(ウマからイヌへ)での完全なイ ンフルエンザ・ウイルスH3N8の感染とその後もそれが維持されるという、まれな事 態を報告している(p. 482; 9月29日にオンライン出版、Enserinkによるニュース記 事参照のこと)。このウイルスは系統的には、1990年代に流行したウマのインフルエ ンザに関係している。合衆国におけるレース場のグレイハウンドで最近流行した呼 吸器疾患とその死を血清学的に死後調査した結果、風土病的なインフルエンザ・ウ イルスが原因であることがわかった。このウイルスは今日ペットのイヌの集団に広 まりつつある。(KF)
Transmission of Equine Influenza Virus to Dogs
p. 482-485.

RNAの待機場(RNA Parking Spot)

分解が運命づけられているメッセンジャーRNA(mRNA)は、翻訳機構から除か れ、P-bodiesと呼ばれる細胞質の細胞小器官に集められ、そこで分解されう る。Brenguesたちは、P-bodiesに入ったmRNAのすべてが必ずしも解体されるわけで はない、ということを示している(p. 486;9月1日にオンライン出版)。これら細胞 小器官は廃品置場としても、非翻訳mRNAの貯蔵場所としても働いており、mRNAはま た解放されて十全に機能する形で、翻訳機構に入り込むことがある。つまり、mRNA サイクルはポリソームとP-bodiesの間に存在しており、静止状態から成長を再開す るさいの酵母の能力を引き出す役割を果たしている。(KF)
Movement of Eukaryotic mRNAs Between Polysomes and Cytoplasmic Processing Bodies
p. 486-489.

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