AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 30, 2005, Vol.309


ギュウギュウ詰め(Jam Session)

2成分の混合液体中にコロイド粒子を分散させ、混合液体の分離する様子を Stratford たち(p. 2198;Poulinによる展望記事も参照) は、コンピュータシミュ レーションによって研究した。コロイド粒子は、2つの液体に対して等しい表面エ ネルギーを持ち(つまり、中性の濡れ性:接触角がほぼ90度)、2つの液層界面 に捕捉された状態に保たれる。2流体の分離が進行して、個々の界面が大きくなる と、全体としての界面の大きさは短くなり,そこに捕捉される粒子がぎゅうぎゅう詰 めになってしまう。この状態は相分離を押さえ、準安定でアモルファスなゲル状 態(これを2相連続性(bicontinuous)界面と呼ぶ)となる。(Ej,hE,KU,nk)
Colloidal Jamming at Interfaces: A Route to Fluid-Bicontinuous Gels
p. 2198-2201.
CHEMISTRY:
New Gels for Mixing Immiscible Liquids

p. 2174-2175.

二重量子ドットにおける動的スピン制御(Dynamic Spin Control in Double Quantum Dots)

隣接する量子ドット間の電子スピンの結合は、量子論理ゲートの基礎を成しうるも のである。しかしながら、一つのドットの各電子は、基板中のおよそ100万個も の原子核スピンからなる大きくてランダムなバックグラウンド場と結合している。 これらの相互作用により、スピン状態のメモリーが失なわれ、スピン一重項と三重 項状態との混合をもたらす。最近の研究では、量子ドット間の結合強度を制御した り、あるいは、バックグラウンドの原子核による磁場を分極することによって、ス ピン状態の混合を静的に緩和する方法が考察されてきた。Petta たち (p.2180, 2005年9月1日にオンライン出版;DiVincenzo による展望記事を参照のこと) は 速 い電圧パルスを用いることにより、隣接ドットの電子間の交換相互作用を制御し て、スピン状態の動的なコヒーレント性も制御できることを示している。これに よって、調整された結合スピン状態の寿命を十分に長くすることに成功し た。(Wt,KU,nk)
Coherent Manipulation of Coupled Electron Spins in Semiconductor Quantum Dots
p. 2180-2184.
PHYSICS:
Double Quantum Dot as a Quantum Bit

p. 2173-2174.

スピンの輸送を可視化する(Imaging Spin Transport)

「スピントロニクス」技術は、情報を表現するのに電荷ではなく、電子のスピン状 態を用いるものであり、その技術をまとめ上げていくのには多くの輸送特性が求め られるであろう。たとえば、強磁性体のソースコンタクトに関してのスピン分極し た電流を電気的に注入すること、そして、電場により伝播スピン流の分極を変調す ること、更に強磁性体のドレインコンタクトによるスピン流を検知することができ れば有用であろう。Crooker たち (p.2191) は、層状の Fe-GaAs-Fe ヘテロ構造に おける、スピン分極した電子の磁気光学 Kerr 効果による可視化像を報告してい る。GaAs 半導体層へのスピン分極した電子注入を支配する長さスケールについての 詳細な説明を与えている。(Wt)
Imaging Spin Transport in Lateral Ferromagnet/Semiconductor Structures
p. 2191-2195.

即席の満足感(Instant Gratification)

分子シャペロンのHsp90は、周囲の環境に応じて、多様な生物の遺伝的変異を生じさ せる。Cowen と Lindquist (p. 2185; およびHeitmanによる展望記事参照) は、順 応性進化の新たな特徴として、Hsp90の新たな役割を確立した。約10億年の進化上の 隔離がある真菌について、Hsp90は、新たな変異に対して即時に表現型を生じさせ、 薬剤耐性を進化させる可能性をもたらす。温度が上昇すると真菌の薬剤耐性を無効 にすることが可能であるが、これは、熱が宿主にとって有益であるという明白なメ カニズムを利用した真菌の薬剤耐性を防ぐ可能性を示す。抗真菌性治療に対して、 すでに手に負えなくなっている真菌病原体において、Hsp90を抑制することで治療効 果を改善し、特に治療初期では、薬剤耐性の更なる進展を阻害できるかも知れな い。(Ej,hE)
Hsp90 Potentiates the Rapid Evolution of New Traits: Drug Resistance in Diverse Fungi
p. 2185-2189.
CELL BIOLOGY:
Enhanced: A Fungal Achilles' Heel

p. 2175-2176.

回転低下しながら(Winding Down)

太陽のような低質量の星が生まれたときには、その表面は高速で回転していた。し かし、この回転は、磁気ブレーキや、内部速度勾配を生じさせるモーメントのエネ ルギー交換によって、回転は減速して行く。しかし、この速度パターンモデルは太 陽振動(helioseismology)だけでなく、太陽表面のリチウム元素の観測とも矛盾す る。Charbonnel と Talon (p. 2189) は、太陽の回転パターンと、太陽表面のリチ ウムの量の両方を正しく説明できるモデルを報告した。この最良のモデルは、地球 の東向きと西向きの帯状の交互に吹く風(準2年周期振動風)と同じように、太陽 内部重力波を取り込んでいる。(Ej,hE,nk)
Influence of Gravity Waves on the Internal Rotation and Li Abundance of Solar-Type Stars
p. 2189-2191.

哺乳類、酸素、そして海洋(Mammals, Oxygen, and Oceans)

大気中の酸素濃度は過去2億500万年の間に相当変動しており、ジュラ紀の始まりで の酸素濃度約10%から今日の21%にまで、途中第三紀には最大23%以上に達し、不規則 に上昇してきた。こうした変動が動物の進化にどのように影響を及ぼしたのだろう か?Falkowskiたち(p.2202)は、硫黄同位体の公開記録に加えて、炭酸 塩(carbonates)や有機物質(organic matter)に関する彼らによる炭素同位体測定を 用いて、ジュラ紀初期以降の大気中酸素濃度の高精度な再現を行った。大気中酸素 量はこの期間におよそ2倍に増大し、それは大西洋が開いていくにつれて受動的に 形成される大陸縁辺部(非活動的大陸縁辺部 passive continental margins)での 大陸棚有機物堆積が増大したことと関係している。ジュラ紀と始新世の始まり以降 に比較的速い酸素レベルの変動があった。著者たちは、酸素レベルの上昇は白亜紀 中期以降における進化と適応放散(radiation)、及び有胎盤哺乳類の平均サイズが増 大した重要な要因であることを示唆している。(TO,Ej,og,nk)
The Rise of Oxygen over the Past 205 Million Years and the Evolution of Large Placental Mammals
p. 2202-2204.

常に身なりを整えて(Keeping Up Appearances)

社会的に単婚を保つ脊椎動物の交尾に関する何百もの研究にもかかわらず、メスが 子供の父親を結婚相手と結婚外相手に割り当てる決定則になっているのが何かは、 ほとんど分かってない。自然において変動しやすい生殖戦略は、これら決定則に よって基本的に制御されている。納屋ツバメ(barn swallow = Hirundo rustica)に おいて、Safran たち(p.2210)は、子供へのオスの遺伝的関与を調べ、オスの羽の色 合いが変化する前と後の身なり(オスらしさ)の影響を比べた。その結果、メス は、より色鮮やかなオスに交尾相手を変える傾向があることを見つけ、ペア成立の 決定則は、継続的で柔軟性があることが推察できる。つまり、オスはペアが成立し た後も、オスの品質を誇示し続けることが重要である。(Ej,hE)
Dynamic Paternity Allocation as a Function of Male Plumage Color in Barn Swallows
p. 2210-2212.

レチノイン酸応答物質(Retinoic Acid Responder)

レチノイン酸は、ニワトリにおける脊髄運動ニューロンの発生に必須な遺伝子の発 現に変化を引き起こす。RaoとSockanathan(p. 2212)はここで、グリセロホスホジ エステルホスホジエステラーゼ2(GDE2)の発現が、レチノイン酸に反応して増加す ることを見いだした。発生中の胚においては、GDE2が運動ニューロンの分化を促進 するために必要かつ十分なものであった。(NF)
Transmembrane Protein GDE2 Induces Motor Neuron Differentiation in Vivo
p. 2212-2215.

Rev1は複製を救う(Rev1 Rescues Replication)

保存されたDNAコードの正確性を維持するため、DNAポリメラーゼはヌクレオチド塩 基の相補性を使用して、鋳型塩基に対して入ってくる塩基の正確な取り込み(Aと T、GとCなど)を保証する。Nairたち(p. 2219)はここで、他のポリメラーゼとは 異なり、非常に特殊化したYファミリーのポリメラーゼRev1は鋳型のGの相補性を使 用せずに、入ってくるCを取り込むことを示した。むしろ、タンパク質自身が入って くる塩基の正体を特定している:鋳型のGと入ってくるCの両方ともこのタンパク質 に結合するが、互いには結合しない。このように、Rev1は、複製ポリメラーゼのプ ロセスを停止してしまうはずの損傷を受けたG残基を複製することができる。従っ て、Rev1は、さらなる潜在的には致死的な損傷からゲノムを救済することができ る。(NF)
Rev1 Employs a Novel Mechanism of DNA Synthesis Using a Protein Template
p. 2219-2222.

選択肢を残しつつ(Keeping Options Open)

脳の視覚野は通常、両眼からの入力を均衡させるように構築される。生後の臨界期 において、入力が不均衡な場合、たとえば片法の眼からの視野が妨害されている場 合、視覚野はしかるべく調整する。しかしながら、臨界期は限られている。幼少期 の柔軟性があるこの時期を過ぎると、視覚野は視覚的入力の不均衡を再調整するこ とができない。McGeeたち(p. 2222; Millerによるニュース記事を参照)はここ で、マウスにおいて、Nogo-66受容体(NgR)における変異により、眼の優位性につ いての臨界期が終了しないようにしておくことができることを見いだした。ウィス カーバレル(whisker barrel)野における臨界期の終了はNgR変異により影響を受け ず、このことは、種々の臨界期の長さを支配する1つ以上のメカニズムが存在する可 能性を示唆している。(NF)
Experience-Driven Plasticity of Visual Cortex Limited by Myelin and Nogo Receptor
p. 2222-2226.

無視すべきか、無視せざるべきか・・・(To Neglect or Not to Neglect...)

半側無視の患者は通常、自身の周囲世界の半分で起こった出来事を無視す る。Thiebaut de Schottenたち(p. 2226;Gaffanによる展望記事を参照)は、手術 中直接頭蓋内刺激を使用して、注意無視における皮質領域と皮質下領域の役割を評 価した。腫瘍切除のための手術を受けた2人の患者を、頭頂葉と側頭葉の領域(注意 無視に関係していた損傷部位)ならびに皮質下白質の下にある領域において直接電 気刺激を与えた。縁上回および尾側上側頭回の刺激により、半側無視に典型的な行 動を生じた。最も強い作用は、頭頂葉皮質と前頭皮質を連結する上部後頭前頭束に 対応する白質下の領野の刺激において観察された。(NF)
Direct Evidence for a Parietal-Frontal Pathway Subserving Spatial Awareness in Humans
p. 2226-2228.
NEUROSCIENCE:
Widespread Cortical Networks Underlie Memory and Attention

p. 2172-2173.

眠っている脳で限定される活性(Restricted Activities of the Sleeping Brain)

「毎日の生の死」としてわれわれが経験する意識からの離脱は、静かな覚醒状態と ノンレム睡眠との間で皮質のニューロン発火の割合にほとんど違いがないことに気 づいている神経科学者を戸惑わせてきた。Massiminiたちはこのたび、脳の領域間の 方向性をもった接続が、睡眠の開始とともに弱まっているのかどうかを評価するこ とができた(p. 2228)。彼らは、運動前野に対して経頭蓋磁気刺激 (TMS)を適用し、 脳波記録法で脳全体の神経の活性をモニターした。TMSによって引き起こされた活性 は、被験者が覚醒していたときには遠く離れた皮質領域に伝播したが、彼らが眠り におちいると局所に限定されたままだった。(KF、KU)
Breakdown of Cortical Effective Connectivity During Sleep
p. 2228-2232.

下の方にも注目しながら(Looking Out Below)

透過型電子顕微鏡は、埋め込まれたナノ構造を調べるためにも利用されるが、その ためには、標本を非常に注意深く、根気良く準備する必要がある。Arslan たち(p. 2195)は、透過型顕微鏡に走査性を持たせた走査性透過型顕微鏡によっ て、Z-contrastのトモグラフィー画像を得て、1立方ナノメートルの解像度を有す る埋め込み構造を解明した。彼らは、スズの相分離中に生じるシリコンマトリック スに埋め込まれたスズの量子ドットが形成される過程を追跡した。シリコン原子 は、スズを含有する層に拡散して行き、その後に空孔を残すが、これがクラスター 化して、面取りされた8面体形状(truncated octahedron)の空洞を形成する。次 に、スズ原子がこの空洞を埋める。このような、スズ含有層間に存在する、空洞を 充填した量子ドットの成長を調べることで、ドットの特別な成長メカニズムを決定 した。(Ej,hE,KU)
Embedded Nanostructures Revealed in Three Dimensions
p. 2195-2198.

酸性テスト(Acid Test)

海洋表面温度は、海洋を酸性化する溶解二酸化炭素の濃度と同様に、サンゴに有害 となりうる。しかし、2つの影響はどのレベルになると危険なのかは、充分に理解さ れていない。サンゴは変化に対しどのくらい早く回復するのかということと、そし ていかに自然サイクルが将来の人為的なトレンドを悪化させたり好転させたりする のかを理解するという両方について、過去の変化の調査から問題の手がかりを見つ けることができる。Pelejeroたち(p.2204)は、太平洋熱帯域の南西部にあるサンゴ 中のホウ素同位体組成を分析し、過去300年の海水pHの自然変化を再現した。pHの大 きな変化は強い55年周期を持って発生していた。その周期は太平洋十年振 動(Interdecadal Pacific Oscillation)と呼ばれる気候パターンの周期と類似して いる。(TO)(Ej)
Preindustrial to Modern Interdecadal Variability in Coral Reef pH
p. 2204-2207.

進化する手法(Evolving Methodology)

生命体、分子、調節システムなどの生物学的現象間の進化的関係の研究は意義ある 洞察を提供してくれるが、そうした関係を解き明かす方法は決して絶対確実なもの ではない。MosselとVigodaは、ベイズ推定とよく知られたマルコフ鎖モンテカル ロ・アルゴリズムとを用いて、理論的系統発生分析を検討している(p.2207)。2つの 系統発生樹からのデータの混合物に対して、彼らは、マルコフ鎖が誤まった樹では 急速に収束し、正しい樹への収束は非常にゆっくりであることを見出している。つ まり、ある種の混合物に対して、データは矛盾しない情報にあらかじめ分離してお かねばならず、別々に扱わなければならない。(KF)
Phylogenetic MCMC Algorithms Are Misleading on Mixtures of Trees
p. 2207-2209.

位置選択的ハロゲン化を理解する(Understanding Regioselective Halogenation)

多くの自然の産生物の生合成経路には、フラビン・アデニン・ジヌクレオチド(FAD) 依存的ハロゲナーゼが含まれるが、しかしそうした酵素が位置選択的ハロゲン化を どのように触媒しているかははっきりしていない。Dongたちは、位置選択的にトリ プトファンを塩素化するトリプトファン7-ハロゲナーゼ(PrnA)の構造に基づく仕組 みについての洞察を提供している(p. 2216)。この酵素内で、トリプトファンとFAD は長さ10オングストロームのトンネルによって分離され、別々の酵素モジュールに 結合している。著者たちは、FADはHOClの形成に関与し、このHOClが次にトンネルに 沿って基質のトリプトファンに向かって移動する、ということを示唆している。こ のHOClは空間的に束縛されており、トンネル内に残基によって活性化されて、位置 選択的塩素化を行うらしい。(KF)
Tryptophan 7-Halogenase (PrnA) Structure Suggests a Mechanism for Regioselective Chlorination
p. 2216-2219.

似ているが同じではない(Similar, But Not the Same)

イノシトール1,4,5-三リン酸(IP)は、細胞表面の受容体によって検知された情報へ の応答として、細胞内に蓄えられたカルシウム遊離の原因となる細胞内二次メッセ ンジャーである。IPに対する受容体のサブタイプの1つ、IPR1は、主に脳に発現し、 運動機能と学習にとって重要である。哺乳類の組織に広く発現する他の二つ、IPR2 とIPR3の生理学的役割は、はっきりしていなかった。Futatsugiたちは、それらの1 つ、または双方を欠くノックアウトマウスを研究した(p. 2232)。出生時には、どち らのマウスも同じように見えたが、4週間以内に、双方を欠くノックアウトマウスは 体重が減って死亡した。これらのマウスは、唾液腺と膵臓における外分泌機能を顕 著に損なっており、これら受容体が分泌を調節するカルシウムシグナル伝達におい てキーとなる役割を果たしている。(KF)
IP3 Receptor Types 2 and 3 Mediate Exocrine Secretion Underlying Energy Metabolism
p. 2232-2234.

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