AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 29, 2005, Vol.309


太陽系外のかんらん石(Extrasolar Olivine)

隕石や惑星間塵粒子(IDPs)は、太陽系で見出されているものとは異なる同位体成分 を持った数種の鉱物や粒子を含んでいる。しかしながら、ケイ酸塩粒子は隕石や惑 星間塵粒子中で最も一般的なタイプであるために、太陽系外のケイ酸塩粒子の標本 は数少ない。Messengerたち(p.737,2005年6月30日のオンライン出版)は、惑星間塵 粒子の一つの中から、II型超新星で作られた可能性の高いかんらん石の結晶(鉄に 富んだケイ酸塩)の集合体粒子を同定した。驚くことにこの粒子はまだ結晶質であ り、この惑星間塵粒子が太陽系が出来るまで星間空間を漂っていた期間は僅か数百 万年にしか過ぎなかったことを暗示している。 (KU, og, ok, tk, nk)
Supernova Olivine from Cometary Dust
p. 737-741.

X線連星からの強力ガンマ線(Powerful Gamma Rays from X-ray Binaries)

活動銀河核(Active galactic nuclei AGN) は、銀河の非常に明るい中心領域で,ブ ラックホールに落下する物質によってエネルギーが供給されていると考えられてい る。それは、宇宙における最も活動的な天体のひとつであり、しばしば、相対論的 な速度で膨張する物質からなるジェットを示す。質量的には百万倍も小さいにもか かわらず、X線連星(中性子星、あるいは、ブラックホールの周りを周回する星)も また強い放出流を示す。これらの天体は、マイクロクエーサーと呼ばれるものであ るが、AGN のより小さな兄弟と考えられる。Aharonian たち (p.746, 2005年7月7日 のオンライン出版;Cui による展望記事を参照のこと) は、X線二重星からの非常に 高エネルギーのガンマ線を検知したことを報告している。このようなガンマ線放射 は、AGN のジェットの鍵となる特徴のひとつと考えられる。この結果は、強力な活 動を特徴とするこれら2種類の天体の間には、共通の因子が存在するのではないかと 思わせる何かがある。(Wt,nk)
Discovery of Very High Energy Gamma Rays Associated with an X-ray Binary
p. 746-749.
ASTRONOMY:
Very Energetic Gamma Rays from Microblazars

p. 714-715.

量子論理分光学(Quantum Logic Spectrosopy)

高精度の原子分光学には、一般的に原子のレーザクーリングや、光ポンピングによ る原子の初期状態の調整、及び、原子の励起状態の非干渉測定(interrogation; interaction free measurement)が関係している。これに利用される原子種は、レー ザー冷却が容易で、探索や検出がしやすい核種が用いられていたが、狭いライン幅 という好ましいスペクトル特性を犠牲にしたものであった。Schmidtたち(p. 749; Peikによる展望参照)は、補助の核種と量子論理技術の利用で、これらの制限が緩和 されうることを示した。この方法では、スぺクトル発生原子の選択が自由になり、 そのため、例えば、高精度の原子時計に利用されるスペクトル遷移原子も利用可能 となる。(hk,Ej)
Spectroscopy Using Quantum Logic
p. 749-752.
PHYSICS:
Logical Spectroscopy

p. 710-711.

物の味(The Taste of Things)

味覚というものは情緒的、行動的な応答を引き起こし、同じ食べ物との過去に出 会った記憶と比較される。SugitaとShiba(p.781)は経ニューロン性のトレーサの遺 伝子組み換え発現を利用して、マウス脳内の味覚経路を可視化した。苦みに対する 甘さといった異なる味の質に関する情報を処理し、統合するニューロン回路は分か れており、このことが味の識別や対照的な行動応答、及び情緒的状態に関する ニューロンの基礎を与えているのであろう。(KU)
Genetic Tracing Shows Segregation of Taste Neuronal Circuitries for Bitter and Sweet
p. 781-785.

空格子点の整列(Lining Up Vacancies)

高温での貴金属で触媒されるレドックス反応の多くは、担持体物質としてセリウム 酸化物(CeO2)が用いられている。その理由は、この物質が酸素を遊離 したり蓄えたりすることが出来るからである。Eschたち(p.752;CambellとPeden による展望記事参照)は高分解能の走査型トンネル顕微鏡と密度関数計算によ り、CeO2結晶の(111)面でこのプロセスを調べた。酸素が遊離するさい に、Ce4+のCe3+への還元により表面に電子が局在化する。 空格子点が欠陥のラインを形成し、還元されたCe3+イオンが表面に露出 し、この多重欠陥が表面下層にも空格子点を作る。このような初期の構造形成には 一個の酸素分子の脱離によりもたらされる以上の還元当量を必要とし、このことは CeO2が非還元性のZr4+でドープされたさいの酸素遊離の増 加を説明するものであろう。(KU)
Electron Localization Determines Defect Formation on Ceria Substrates
p. 752-755.
CHEMISTRY:
Oxygen Vacancies and Catalysis on Ceria Surfaces

p. 713-714.

チャネルの切り換え(Switching the Channel)

ナノデバイスを作るための確実な方法は、自然界にすでに存在する構造体を真似る ことである。Kocer たち(p. 755) は、光化学的に開閉するバルブを、大きなコンダ クタンスを有し、機械的感度を有する大腸菌細胞膜のチャネルタンパク質の MscLを 変形させることによって合成した。天然のタンパク質は3ナノメートルの孔を有し, 圧力解放弁として機能している。著者たちはシステイン残基を修飾し、紫外線の照 射によって電荷が分離できるようにした。このような電荷分離を可能にすること で、それまで疎水性チャネルでしかなかったものがイオンの流れを可能とした。こ れは、単一分子のパッチクランプ伝導法によって確認された。(Ej,hE)
A Light-Actuated Nanovalve Derived from a Channel Protein
p. 755-758.

丈夫な米の生産を可能にする設計(Designed for Robust Rice Production)

穀類の粒の数とか背丈といった最も重要な農業上の形質は、定量的形質座位(QTLs) として知られている遺伝子によって調整されているが、これは天然の対立形質の変 異から得ることが出来る。現存の米系列の遺伝的交配によって、Ashikariたち(p. 741, オンライン出版 23 June 2005)は米の収量に影響する重要なQTLsを同定した。 このQTLsの1つがサイトカイニン酸化酵素をコードしていると思われている候補的 遺伝子であることが分かった。この座位は機能性酵素をコードしており、この酵素 がサイトカイニンホルモンを分解する。サイトカイニンの分解が少ないと種子の産 生が向上する。しかし、穂首が重くなると田畑での損傷を受けやすくなる。種子の 増産に適した遺伝子と,植生の短い遺伝子の組合わせで、顕著に改良された稲が出来 上がる。(Ej,hE)
Cytokinin Oxidase Regulates Rice Grain Production
p. 741-745.

四足の最初のステップ(First Steps On All Fours)

恐竜の卵の化石はかなり多く見つかっているが、その中に胎児が見つかるのは稀で ある。Reiszたち(p.761; Stokstadによるニュース記事参照)は、南アフリカで見つ かった約1億9000万年前の年代とされる卵から数個の胎児を発見した。これらの胎児 は他の恐竜の胎児よりさらに古く、時々二足歩行すると考えられている一般的なプ ロサウロポーダ(古竜脚類)であるとされたが、しかしその前肢は四肢動物として 孵化したことを示している。この違いは、後期プロサウロポーダは、この初期の発 生状態を保存したままで進化した可能性が高い。孵化したての恐竜はまた、しばら くは親による世話が必要であったという特徴を示している。(TO)
Embryos of an Early Jurassic Prosauropod Dinosaur and Their Evolutionary Significance
p. 761-764.
PALEONTOLOGY:
Dinosaur Embryos Hint at Evolution of Giants

p. 679.

電子を輸送する構造の解明(Electron Transfer Structure Revealed)

ミトコンドリアの呼吸エネルギー機構の構造解明の最前線が複合体Iである。この膜 酵素は、還元型ニコチンアミド アデニンジヌクレオチド (NADH) の高エネルギー電 子が、一連のミトコンドリア複合体に入り、アデノシン三リン酸の合成を促進する 部位である。細菌でのこの対応物はより単純な14個のサブユニットからなり、そ のうちの7個は細胞質領域を形成し、そこでNADHが酸化される。Hinchliffe and Sazanov (p. 771)は、この7個のサブユニットからなる構成物を分離し,結晶化 させ、84オングストローム長の電子輸送経路を提供する9個の鉄-イオウのクラス ターの相対的位置を決定した。この経路はNADH結合部位からプロトンポンプ領域ま でを結んでいる。(Ej,hE)
Organization of Iron-Sulfur Clusters in Respiratory Complex I
p. 771-774.

感知機能を引き起こす(Act On Your Senses)

病原体がその宿主に侵入すると、宿主は侵入者警告システムを作動させ、最終的に は免疫攻撃部隊を動員して攻撃者に対処する。強盗が警報を聞いたときに回避的な 行動をとるのと全く同様に、侵入者は宿主免疫系を認識して、反応するのだろう か?Wuたち(p. 774)は、肺と小腸の共通の緑膿菌病原体であるPseudomonas aeruginosaが、実際にまさにそのようなことを行うことを見いだした。細胞表面タ ンパク質を使用して宿主のサイトカインであるインターフェロン-γに結合させるこ とにより、細菌は、宿主内での増殖と毒性を支配する菌体数感知システムに関与す る少なくとも2つの遺伝子のスイッチをONにする。(NF)
Recognition of Host Immune Activation by Pseudomonas aeruginosa
p. 774-777.

孔から搾り出す(Squeezing Through the Pore)

疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基の両方からなるタンパク質が、どのよう にして疎水性脂質二重層を通過して移動するかは、厳しい精査の対象であった。炭 疽毒素の防御用抗原成分は、ホモ7量体の孔を標的細胞のエンドソーム膜中に形成 し、毒素の酵素成分が細胞質に入るための狭い通路を形成する。Krantzたち(p. 777;von Heijneによる展望記事を参照)は、防御用抗原孔の水性腔中で7つの近接 して並べられたフェニルアラニン(Phe)残基の組み合わせが、膜を介して炭疽毒素 の他の酵素サブユニットを移動させるその能力ゆえに重要であることを報告した。 この"ファイ・クランプ(Phi-clamp)"は、疎水性薬物およびモデルカチオンのため の主要なコンダクタンス−ブロッキング部位であるらしく、そしてタンパク質移動 の際のシャペロン様機能を果たしているようだ。(NF)
A Phenylalanine Clamp Catalyzes Protein Translocation Through the Anthrax Toxin Pore
p. 777-781.
MICROBIOLOGY:
Enhanced: Translocation of Anthrax Toxin: Lord of the Rings

p. 709-710.

パブロフのその先に(Beyond Pavlov)

刺激を繰り返し組み合わせる場合、食物に対する生理学的反応(唾液分泌)をベル の音に移し代えることは、比較的容易である。その後、これらの刺激を組み合わせ ない様式で提示すると、この関連性(または条件付け)を消失させることもでき る。いくつかの関連性は、作り上げられるものの様でもあり、あるいは生得的であ るようにも見えた;恐怖反応は、鳥を見た場合よりもヘビを見た場合に、より容易 に関連づけられ、そしてより消失しにくくなる。Olssonたち(p. 785;Oehmanによ る展望記事を参照)はここで、自分自身の社会集団とは異なる社会集団に基づく外 観に対する条件付け恐怖反応は、自分自身の社会集団から外観に対する同様に条件 付けられた恐怖反応よりも、消失しにくいことを示した。社会外集団の経験がより 多い個体においては、このバイアスはより少ないようであった。(NF)
The Role of Social Groups in the Persistence of Learned Fear
p. 785-787.
PSYCHOLOGY:
Conditioned Fear of a Face: A Prelude to Ethnic Enmity?

p. 711-713.

エルニーニョはお暑いのがお好き(El Nino Likes It Hot)

近い将来に予期される温暖な世界と潜在的に類似した状況は、地球表面温度が今日 よりおよそ摂氏3度高かった、450万年から300万年前の鮮新世初期の地質学的記録に 見出される。Waraたちは、西および東赤道太平洋の複数の掘削コアからえられた Mg/Caと18Oの比率の分析によって海洋表面温度を再構成することで、そ うした条件が現在の気候の主要な特色であるエルニーニョにどのような影響を与え ているかを調べた(p. 758、2005年6月23日オンライン出版; またKerrによるニュー ス記事参照のこと)。その記録は、500万年前までさかのぼるものだが、鮮新世初期 の西と東の領域間の温度差が今日ほど大きくなかったことを示している。この結論 は、もう1つの最近の研究(3月25日号のp. 1948)の結論とは正反対で、現在の海洋に 見られる強い非対称性がなかったことを示し、"温室的(hothouse)"気候が永久的 なエルニーニョ様の状態に陥りうることを示唆するものである。(KF)
Permanent El Niño-Like Conditions During the Pliocene Warm Period
p. 758-761.
CLIMATE CHANGE:
El Niño or La Niña? The Past Hints at the Future

p. 687.

ハエある効果(On the Fly)

活動的転移因子(TE)は一般に、それが存在しているゲノムに対して、遺伝子配列に 直接的に入り込んで破壊し、異所性組換えなどを促進することによって害をなすと 考えられている。つまり、新しいTEの挿入は、たまたま選択にとって有利に働かな い限り、たいていの場合は不利になるのである。Aminetzachたちは、有利なTE挿入 を同定する方法を開発し、特異的ショウジョウバエDoc因子が、過去25年から240年 以内のどこかで生じた選択的掃引の働きを介して、世界中に非常に高い頻度で存在 していることを発見した(p. 764; またPennisiによるニュース記事参照のこと)。こ のTEはコリンキナーゼの特徴を有する遺伝子を破壊するが、これは殺虫薬抵抗性に おいて役割を果たしていることを示唆するものである。実際、予期されたように、 この「変異体」ハエは有機リン酸塩殺虫薬に曝されたとき、実質的により低い死亡 率を示す。(KF,hE)
Pesticide Resistance via Transposition-Mediated Adaptive Gene Truncation in Drosophila
p. 764-767.

余分なXを沈黙させる(Silencing the Extra X)

性によって異なる染色体を有する動物は、双方の性の細胞において正しい遺伝子量 を保証しなければいけない。哺乳類では、これは雌性(XX)細胞における2つのX染色 体の一方を、雄性(XY)細胞の単一のX染色体の出力にマッチするよう下方-制 御(down-regurate)することによって達成されている。この「X-不活性化」の最中 に、一方のX染色体だけがスイッチを切られるように、カウント機構が保証しなけれ ばいけない。Leeは、遺伝子組換えマウス細胞を用いて、このカウントのための機構 を探索した(p. 768)。X染色体カウント要素は、DNA結合部位と同様に、Tsix遺伝子 の5'末端から15キロ塩基以内に存在している。カウントとX染色体選択の双方は、X- 不活性化を妨げるブロッキング因子と、X-不活性化を引き起こす適格性因子を必要 としている。(KF)
Regulation of X-Chromosome Counting by Tsix and Xite Sequences
p. 768-771.

覚えるべき匂い(A Scent to Remember)

魚類の帰巣行動や、より高度な脊椎動物の新生児の付着行動などの多様な現象は、 嗅覚の刷り込みと名付けられた、動物の行動に影響する嗅覚性の手がかりに依存し ている。RemyとHobertは、この学習された嗅覚応答がまた、遺伝的に受け入れられ ている線虫(C.elegans)のモデルシステムにおいても見出されることを発見し た(p.787)。この刷り込みは都合のよい食物にありつけるかどうかと関連しており、 線形動物の発生初期に生み出されている。卵を産むことと刷り込まれた匂い物質へ の誘引は、成熟した動物において増加する。この嗅覚性刷り込みには、匂い感覚性 ニューロンの下流をなす単一介在ニューロン内の化学受容器ファミリーメンバーの 発現が関わっているのである。(KF)
An Interneuronal Chemoreceptor Required for Olfactory Imprinting in C. elegans
p. 787-790.

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