AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 10, 2005, Vol.308


Titin と筋肉転写制御(Titin and Muscle Transcriptiona Regulation)

筋肉の分化過程で、遺伝子発現によって筋原線維タンパク質の翻訳が行われ,このタ ンパク質集合が収縮性単位となる。この単位が筋節(sarcomere)であり、機械的負荷 の変化に応じて常時適応していくのである。巨大タンパク質のtitinは、筋節タンパ ク質の特異的付着部位と分子バネの機能を提供することで、筋節組み立てのための 分子設計図の役割をする。Lange たち(p. 1599, オンライン出版;2005年3月)は、 筋節の関与する新規な経路の情報伝達複合体成分を同定した。この成分は筋節を筋 肉遺伝子転写の制御に関連付けるものである。titinのキナーゼ領域が、筋節組立 て、タンパク質代謝回転を制御し,機械的変化に応じて転写調節を制御する情報伝達 カスケードの開始点となる。従って、titinのキナーゼ領域の変異は情報伝達経路に 影響を与え、ヒトの遺伝性の致死性筋障害を引き起こすのである。(Ej,hE)
The Kinase Domain of Titin Controls Muscle Gene Expression and Protein Turnover
p. 1599-1603.

喘息にNO(Say NO to Asthma)

生理学的一酸化窒素(NO)は、それが保護的な役割のために存在しているのか、そ れとも疾患の病因として寄与しているのか、についてはかなりの議論が存在してい るが、いずれにしても、喘息と強く関連している。内在性ニトロソチオール(SNO) は、気道組織中に存在するNO-保持分子であり、そのうちの一つ、S-ニトロソ-グル タチオン(GSNO)は、喘息患者において失われている。Queたち(p. 1618、2005年5 月26日にオンラインで公開;Gerardによる展望記事を参照)は、GSNOレベルの変調 が、マウスにおける喘息様症状への罹りやすさに直接的な関係を有していることを 示した。GSNOを分解する酵素であるGSNO-還元酵素を欠く動物は、実験的アレルゲン に反応して生じる気道の過剰反応を減少させることが示された。GSNOレベルを低下 させる薬物は、これらのマウスにおける喘息の罹りやすさを上昇させることから、 蓄積されたGSNOがマウスを守るために直接的に関与していることが示唆された。こ のように、NOは、SNOを通して"運搬されている"限り、喘息に対して保護的な役割を することができるのである。(NF)
Protection from Experimental Asthma by an Endogenous Bronchodilator
p. 1618-1621.
BIOMEDICINE:
Asthmatics Breathe Easier When It's SNO-ing

p. 1560-1561.

第一印象(First Impressions)

第一印象が全てとよく言われる。Todorovたち(p.1623; ZebrowitzとMontepareによ る展望記事参照)は、第一印象がいかに早く形成されるか、その結果がどうなるのか について優れた例を示している。学部学生からなる数グループに対して、2000 年、2002年、2004年の米国上下院議員選における、彼らの知らない立候補者の白黒 の写真を1分間眺めて、相対的な有能さの判定するよう頼んだ。有能さの判定は、魅 力、好ましさ、信頼性に対する判定とは異なり、各人の選挙の結果を予測すること に約70%の正確さで使うことができそうであった。(TO)
Inferences of Competence from Faces Predict Election Outcomes
p. 1623-1626.
PSYCHOLOGY:
Appearance DOES Matter

p. 1565-1566.

超ビッグサイズの食物の降下(Super-Sized Food Drops)

微小物の沈降により深い海床に運ばれる食物の量は、沈降物を捕捉する装 置(sediment traps)の計測によると、そこに生息する海底生物の代謝必要量を充分 に満たしていないように見える。Robisonたち(p.1609)は、カリフォルニア海岸沖モ ンテレー湾内において10年間調査を行い、ビデオカメラを備えた遠隔操作できる潜 水機を使用して、大きな生物構造物(organic structures)の垂直方向の分布と量を 測定した。大きな尾索類生物(larvaceans)が捨てた粘液状の食物採集器 官(Discarded mucus feeding structure)は、生物炭素の降下率の過去の推計がベー スとしていたsediment trapsの捉える沈降微小物が供給する炭素量に対して、約半 分の炭素量を供給している。この発見は少なくともこの地域の深海底での食物の需 要と供給との間にこれまで存在していた食い違いを埋めるものである。(TO,nk)
Giant Larvacean Houses: Rapid Carbon Transport to the Deep Sea Floor
p. 1609-1611.

ナノ光学系へのチューニング(Tuning In to Nanooptics)

電波の発信強度や方向を制御するためにアンテナが用いられてきたが、これはナノ スケールの光アンテナについての報告である。 光学的励起子が伝達モードと局在光場間の相互変換を実現するためには、まず、進 行フォトンを制御する必要がある。しかし、進行光のサイズの構造を設計し,製造す ることは極めて困難である。Muehlschlegel たち(p.1607;およびGreffetによる展望 記事参照)は、分岐したむき出しの金から、アンテナが作れ、光波長付近での共鳴が 設計可能であることを示した。これらのアンテナは、白色光超広帯域 体(supercontinuum)を形成するのに充分なほど、小さなギャップにエネルギーを集 中できる。光アンテナは、分光学や、進行光モードと局在光モードの境界領域にお いて多くの応用があるに違いない。(Ej,hE)
Resonant Optical Antennas
p. 1607-1609.
APPLIED PHYSICS:
Nanoantennas for Light Emission

p. 1561-1563.

イナゴの制御からマラリアの制御へ(From Locust Control to Malaria Control?)

マラリアの媒介動物である蚊の成虫を標的とする化学的殺虫剤に代わるものが、耐 性の獲得およびヒトへの毒性についての不安から、強く求められている(Enserink によるニュース記事を参照)。Blanfordたち(p. 1638)は、昆虫の真菌病原体で表 面を処理すると、マラリアを伝播することのできる蚊の数を100分の1にも減少させ られることを見いだした。網状表面または固体表面との接触を介した真菌感染 で、90%以上の致死率を引き起こすのに十分であった。Scholteたち(p.1641)は、 アフリカ農村地域の村で、現実の条件下で真菌を使用して、野生の蚊の媒介動物個 体群を標的とするフィールドワークに基づく研究を行った。多数の蚊を真菌に感染 させることができ、その結果マラリア寄生虫発生を阻害することができた。中程度 の適用率であっても、マラリアの伝播力を劇的に減少させることができるはずであ る。このバイオ殺虫剤技術は、イナゴの制御について開発された公認技術から編み 出されたものであり、すぐにも利用可能なものである。(NF)
Fungal Pathogen Reduces Potential for Malaria Transmission
p. 1638-1641.
An Entomopathogenic Fungus for Control of Adult African Malaria Mosquitoes
p. 1641-1642.

見かけ上とても速い(Apparently Very Fast)

Cassiopeia A は、十分な研究がなされてきた、1680年に発生した超新星爆発の残 骸(レムナント)である。Krause たち (p.1604) は、Spitzer 宇宙望遠鏡を用いて、 光速で動いているように見えるそのレムナントの外殻外側からの赤外(IR) 放射領域 を明らかにした。これら、見かけ上の相対論的な運動は、レムナント内部からの高 エネルギー閃光が星間塵を暖めることにより生じた IR エコー の結果である可能性 がある。このような閃光は、軟ガンマ線リピーター、あるいは強磁場中性子 星(magnetars) と呼ばれる天体からの放射と整合するものである。(Wt)
Infrared Echoes near the Supernova Remnant Cassiopeia A
p. 1604-1606.

光を用いてストレスを減らす(Light Therapy Reduces Stress)

高分子の機械的性質は、分子鎖の長さ、分布などの化学的性質と処理履歴の双方に 依存する。架橋(cross-linking)によって高分子を特定の形状に固定し,無限に長い 鎖を作ることで硬さを与えることができる。しかし、このプロセスを使うと、残留 応力が残りやすく、架橋ネットワークの形状変更は無理であった。Scott たち(p. 1615) は、紫外線を当てることで、残渣開始分子の光開裂反応(photocleavaging)に よってラジカルを高分子中に導入した。これらのラジカルは、次に、高分子の骨格 に沿った特定の場所で分子鎖を断片化する。そののち、この骨格はネットワーク構 造を再結合し、かつ、残留応力を解放することができるのである。(Ej,hE)
Photoinduced Plasticity in Cross-Linked Polymers
p. 1615-1617.

北大西洋の栄養連鎖(North Atlantic Trophic Cascade)

海洋の食物連鎖は、人間にとって世界で最も重要な食料源の一つを代表するもので ある。30年以上前に始まったいくつかの標準化されたモニターデータを利用し て、Frankたち(p. 1621)は、栄養連鎖---異なるレベルの食物連鎖の間の捕食性の連 鎖---が北大西洋の漁業について成立することを示した。過剰漁獲によってタラが除 かれると、5つの栄養レベルにまで影響が出る。観察された生態系変化のこの大き さから、タラの漁獲量回復や、タラが壊滅したその他の生態系への悲観的観測が高 まっている。(Ej,hE)
Trophic Cascades in a Formerly Cod-Dominated Ecosystem
p. 1621-1623.

11によって12へ(Protozoan's Eleven)

哺乳動物のTLR(Toll-like receptor)は、病原体に対する免疫応答の中心的な修飾 因子である。細菌およびいくつかのウィルスのTLR認識は周知であるが、寄生虫リガ ンドの認識については、ほとんど事例が存在しなかった。Yarovinskyたち(p. 1626、2005年4月28日にオンラインで公開)は、原虫寄生虫トキソプラズ マ(Toxoplasma gondii)に由来するプロフィリン様タンパク質を、最近特定された マウスTLRであるTLR11によって検出することについて記載している。このTLRシグナ ル伝達経路を使うことにより、リガンドによって前炎症性サイトカインであるイン ターロイキン-12(IL-12)の産生が誘導された。TLR11が存在しない場合、IL-12産 生が行われず、マウスがT. gondii感染しやすくなった。寄生虫タンパク質をTLRに より同様の方法で検出すると、あるタイプの原虫寄生虫性疾患に対する免疫の過程 に影響がでる可能性がある。(NF)
TLR11 Activation of Dendritic Cells by a Protozoan Profilin-Like Protein
p. 1626-1629.

エボラ・ウイルス:破壊と進入(Ebola Virus: Breaking and Entering)

エボラ・ウイルスへの感染は、過酷な、しばしば死に至らしめる出血性疾患を引き 起こすが、これに対して現在のところ効果的な治療法はない。エボラ・ウイルスが 宿主細胞に入り込み感染を引き起こす分子的機構は不十分にしか理解されていな い。Chandranたちはこのたび、エンドソームのタンパク質分解酵素であるカテプシ ンBが、ウイルス表面上の特異的タンパク質である糖タンパク質GP1を切り開くこと によってウイルス進入を助長する、エボラ・ウイルス感染にとって必須の宿主側の因 子であることを示している(2005年4月14日にオンライン発行されたp. 1643)。細胞 培養モデルでは、カテプシンB活性の阻害剤が、感染性のエボラ・ウイルスの産生を 減少させたのである。(KF)
Endosomal Proteolysis of the Ebola Virus Glycoprotein Is Necessary for Infection
p. 1643-1645.

まったくもって不十分(Not Nearly Enough)

急速かつ大規模な地球温暖化事象である暁新世-始新世(Paleocene-Eocene) Thermal Maximum (PETM)は、5千5百万年ほど前に内部の海洋温度を4度から5度上昇させた が、それ以降どんな事象もこれに匹敵するような温度上昇を引き起こすことはな かった。この温暖化は、その起源はいまだに議論されているが、劇的なネガティブ な炭素同位体偏移を伴っていた。1つの仮説は、海床上のメタンクラスレートの不安 定化による2000ギガ・トンの炭素の遊離によって、炭素同位体についての情報と温 度上昇の双方が説明できる、というものである。Zachosたちはこのたび、海洋の炭 酸塩補償深度(粗っぽくいえば、沈降中の溶解のせいで沈降物中にカルシウム炭酸塩 がもはや見つからなくなる深度のこと)がPETMの間に2キロメートル以上上昇し、こ れは包接シナリオにおいて見積もられた以上のCOが海洋に付加された場合にのみ生 じえた、ということを示している(p. 1611)。彼らは、4000ギガ・トンの炭素が必要 であったこと、だから包接化合物の遊離だけでは温暖化の原因とならなかった、と いうことを見出したのである。(KF,nk)
Rapid Acidification of the Ocean During the Paleocene-Eocene Thermal Maximum
p. 1611-1615.

ミクロサテライトによるハタネズミの社会(Microsatellite Vole Society)

反復性ミクロサテライトは比較的高率で変異するものであり、種-典型的な血統の急 速な進化に寄与している可能性がある。行動の多様性を生み出すにあたっての反復 性ミクロサテライトDNAの役割を研究するために、HammockとYoungは、高度に社会的 なプレーリー・ハタネズミ(prairie voles)をモデル・システムとして用いた(p. 1630; またPennisiによるニュース記事参照のこと)。多形性の調節性ミクロサテラ イトがバソプレッシン1a受容体(avpr1a)遺伝子のレベルを制御していることが細胞 培養において示された。この、機能を調節する部位の長さによって動物が選択的に 交配させられた。繁殖するオスの父系における父性の保護における差異と、社会的 調査と社会的結合行動における差異は、長さが19塩基分だけ異なっている特定の対 立遺伝子と関連していた。行動に関連した脳の領域におけるavpr1aの分布パターン もまた対立遺伝子によって違っていた。つまり、ミクロサテライトの多様性が、複 雑な行動の変異と進化の遺伝的機構を提供している可能性があるのである。(KF)
Microsatellite Instability Generates Diversity in Brain and Sociobehavioral Traits
p. 1630-1634.
GENETICS:
In Voles, a Little Extra DNA Makes for Faithful Mates

p. 1533.

内部に潜むもの(Who Lurks Within)

ヒトの腸は、数百もの微生物と人体の総細胞のおよそ半数を含んでいる。しかし、 そうした共棲体(cohabitants)について、またヒトの健康や病へのそれらの寄与につ いては、われわれはほとんど知らないのである。Eckburg たちは、3人の健康者の大 腸のさまざまな場所における微生物の多様性について、16SリボソームRNAに基づく 分析による記述を行ない、微生物叢についての包括的かつ詳細な分子的サーベイを 提供している(2005年4月14日オンライン発行されたp. 1635)。この研究はまた、複 雑な、ヒトに内在するコミュニティについての将来の研究に向けた分析的かつ生態 学的アプローチを示唆している。(KF)
Diversity of the Human Intestinal Microbial Flora
p. 1635-1638.

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