AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 20, 2005, Vol.308


ジャブジャブの表面電子(Splashy Surface Electrons)

金属酸化物と水の界面上の電子は、部分水和状態や「濡れ電子」状態になってお り、最も電子伝達されやすく、かつ、反応しやすい経路である。Ondaたち(p. 1154) は、酸化チタンの(110)界面の多様な水和状態レベル H2O/TiO2について、二光子光電子放出実験と電子密度関数 計算の両方を用いて研究した。彼らは、部分的水和表面上で、Fermiレベルの2.4電 子ボルト上の状態に存在する励起電子状態を確認した。計算によると、この電子的 環境は、水で覆われた金属表面というよりも、水クラスターに類似している。こ の「濡れた電子」状態は、15フェムト秒以内に、伝導バンドに緩和復帰す る。(Ej,hE)
Wet Electrons at the H2O/TiO2(110) Surface
p. 1154-1158.

ヒトトランスクリプトームのマッピング(Mapping the Human Transcriptome)

ヒトゲノムについての我々の理解は絶えず改善されているが、我々は現在、ヒトト ランスクリプトームの複雑性について理解し始めたばかりである。Chengた ち(p.1149、2005年3月24日オンライン出版)は、高密度オリゴヌクレオチドアレイ を使用して、30%のヒトゲノム(10染色体上にコードされている)の転写部位を マッピングした。ポリアデニル化されたRNA(polyA+)とポリアデニル化されていな いRNA(polyA-)の分布は、細胞核内およびサイトゾル内で変化した。予想されたよ りもはるかに高い割合のゲノムが、polyA-の配列、polyA+の配列、または両形態 性(bimorphic)の配列(polyA-かつpolyA+として見いだされたもの)のいずれかと して転写される。例えば、HepG2細胞株においては、15%までのゲノムが転写され る。同定された転写物の多くは注釈づけられておらず、センス鎖およびアンチセン ス鎖に由来し、または重複している。これらの知見は、ヒトトランスクリプトーム の複雑性を更に示唆するものである。(NF)
Transcriptional Maps of 10 Human Chromosomes at 5-Nucleotide Resolution
p. 1149-1154.

幹細胞への顕著な影響(Marked Influence on Stem Cells)

複製-欠損レトロウィルスベクターは、これまで考えられてきたように、幹細胞の制 御に影響を与えることも、また何らかの選択的な利益・不利益を与えることもな く、幹細胞の子孫細胞を標識して追跡するためにしばしば使用される。Kustikovaた ち(p. 1171)は、優勢のそして長期的に再増殖するマウス造血幹細胞中に存在する 挿入部位を調べた。彼らは、ランダムにヒットした対立遺伝子の挿入部位で生じる 挿入調節解除後に、顕著な競合的不均衡が生じることを見いだした。問題とするそ れぞれの遺伝子は造血幹細胞の自己再生や生存における役割を認識していた。この 知見は、臨床的な遺伝子治療との関連を有しており、そして遺伝子標識の研究によ り得られた結論を見直す必要性を示唆している。(NF)
Clonal Dominance of Hematopoietic Stem Cells Triggered by Retroviral Gene Marking
p. 1171-1174.

RNA干渉で干渉(Interfering with RNA Interference)

RNA干渉(RNAi)は、多数の天然のRNAに基づく遺伝子サイレンシングのプロセスに おいて中心的な役割を果たし、そして真核細胞中で幅広い研究に用いられる一般的 なツールとなっている。RNAiはまた、その治療への可能性についても調べられてい る。Kimたち(p. 1164、2005年3月24日にオンライン出版)は、RNAiを用いて、線 虫(Caenorhabditis elegans)におけるRNAi経路の構成要素についてのゲノム全体 にわたるスクリーニングを行った。一見して"循環論的な"方法ではあるが、スク リーニングにより、RNAiが関与する90個の生存遺伝子および致死性遺伝子が同定さ れ、これらのほとんどは、以前にはそのプロセスに関連づけられていなかった。複 数の因子群には、RNA結合/プロセッシング因子、クロマチン-結合因子、DNA組換え タンパク質、および核流入/放出因子が含まれる。スクリーニングにより、異なる RNAiに基づくサイレンシング経路間での重複の程度についての理解も得られ る。(NF)
Functional Genomic Analysis of RNA Interference in C. elegans
p. 1164-1167.

サルを捉える(Catch the Monkey)

哺乳類の新種を発見することはいよいよ稀になり、そして新たな霊長類の発見はさ らに稀である。Jonesたち(p.1161; Beckmanによるニュース記事参照)はタンザニア 南部の高地で、アフリカサルの新種の2つの個体群をほとんど同時に発見したことを 報告している。この新種はhighland mangabeyと名づけられ、数百匹しかいないと信 じられている。今回の発見は、霊長類の保護の中心として、タンザニアの低山帯森 林地(montane woodland)の重要性を強調するものである。(TO)
The Highland Mangabey Lophocebus kipunji: A New Species of African Monkey
p. 1161-1164.

コラーゲンの大脳での役割(Collagen’s Cerebral Side)

Porencephaly(脳空洞症)は新生児に特有の、そして大脳皮質における変質性の腔 で特徴付けられる稀有な脳障害である。Gouldたち(p.1167)は、人の脳空洞症に似た 表現型の特徴を持つ変異マウスを調べた。変異マウスの半分は生後1日経たないうち に脳出血で死に、生き残ったマウスは血管の基底膜に集中した障害を示し、その内 の一部のマウスには脳空洞症が生じた。原因となる変異はプロコラーゲンWα1型を コードしている遺伝子である。その変異により、基底膜中へのコラーゲン分泌の抑 制が生じていた。同じ遺伝子の変異が、その後脳空洞症や脳出血の遺伝形質を持つ 二つの家系で同定された。この結果は、血管の統合性を損なうような変異が、発作 といったより一般的な障害への感受性を増大させるような可能性をもたらすもので ある。(KU, hE)
Mutations in Col4a1 Cause Perinatal Cerebral Hemorrhage and Porencephaly
p. 1167-1171.

量子ドットをキャビティに入れる(Putting Quantum Dots into Cavities)

共振器量子電気力学(Cavity quantum-electrodynamics;QED) 実験は、単一量子シ ステムのダイナミクスを理解し、制御するうえで鍵となる道具である。固体エミッ ターを用いた共振器QED実験を行うことは実用上も基礎的な意味でも利点を有する が、実験的な実現は、これまで達成困難であった。Badolato たち (p.1158;Krauss による展望記事を参照のこと) は、ひとつの単一量子ドット中の励起レベルと、一 個の光学的キャビティの単一のモードとの決定論的な結合を図るための技法を与え ている。彼らの3段階プロセスにおいては、まず最初に関心のある量子ドットを同 定し、その励起スペクトルの特徴を捉える。次に、そのドット自体を登録マーカー として用い、検討中の量子ドットの励起スペクトルを用いて、特別に設計された二 次元フォトニック結晶キャビティを作成し、それを量子ドットに対して最適な位置 に置いた。最後に、フォトニック結晶の物理的な大きさに対して微調整した一連の エッチングによる段差により、そのドットとフォトニック結晶キャビティとの間の 結合を最適化した。量子ドットとキャビティとの間の観測された強い結合は、その 系が固体状態での共振器QEDを探索しうる状況下にあることを示唆している。(Wt)
PHYSICS:
Control at the Quantum Level

p. 1122-1123.

ストレス応答、加齢、癌へのなりやすさ(Stress Response, Aging, and Cancer Predisposition)

FOXO転写因子の活性は、寿命が伸びることと関連している。Essersたちは、線 虫(C.elegans)と哺乳類細胞の双方において、FOXOとβカテニンがあるタンパク質複 合体の中で関連していることを見い出している(p. 1181; またBowermanによる展望 記事参照のこと)。C. elegansにおいてはβカテニンは、酸化的ストレスに応答して FOXOの転写活性を増進させている。βカテニンは無翅あるいはWnt経路の発生的効果 を仲介しており、ある種の癌における過剰な細胞増殖の促進にも関わっている。そ の一方で、βカテニンによるFOXOの刺激は細胞周期の進行を抑制している。つま り、βカテニンによる、FOXOを介したシグナル伝達とWnt経路によって制御される他 の転写因子を介したシグナル伝達との間の重要なバランスが、ストレス応答や加 齢、さらには癌へのなりやすさに影響を与えている可能性がある。(KF)
Functional Interaction Between ß-Catenin and FOXO in Oxidative Stress Signaling
p. 1181-1184.
CELL BIOLOGY:
Oxidative Stress and Cancer: A β-Catenin Convergence

p. 1119-1120.

膜工学(Membrane Engineering)

細胞内病原体であるサルモネラ(Salmonella enterica)は、空胞(vacuole)の中に存 在していて、そこから宿主細胞の中にエフェクタータンパク質を転移させる。この ような細菌性エフェクターが真核生物の機能を操作する。SifAはサルモネラの重要 なエフェクタータンパク質であるが、sifA_変異体はマウスにおける病原性の点で高 度に弱毒化されている。Boucrotたちはこのたび、サルモネラがどのようにして、分 泌したエフェクターを用いることで微小管関連キネシン・モーターの細菌性空胞へ の結合をネガティブに制御しているか、を記述している(p. 1174)。SifAは、キネシ ンの補充を下方制御している宿主タンパク質SKIPを標的にしている。このようにす ることで、サルモネラは自身の空胞膜に関連するキネシンの活性を制御し、それに よって膜交換のダイナミクスを制御しているのである。(KF)
The Intracellular Fate of Salmonella Depends on the Recruitment of Kinesin
p. 1174-1178.

翻訳で失われることはない(Not Lost inTranslation)

リボソームは翻訳反応の忠実性を保証するために、動力学的校正(kinetic proofreading)と誘導-適合(induced-fit)機構を利用している。CochellaとGreen は、アミノ酸の誤取り込みを促進する転移RNA(tRNA)分子の変異体を解析し た(p.1178; またDaviterたちの展望記事参照のこと)。そのtRNA分子は本来コドン: アンチコドン解読センターから得られた構造情報を、リボソームの別の領域、リボ ソーム受容部位内のtRNAのグアノシン三リン酸加水分解と適応を促進する領域に伝 達することができる。つまり、tRNAは翻訳反応における受動的プレイヤー以上のも のなのである。(KF)
An Active Role for tRNA in Decoding Beyond Codon:Anticodon Pairing
p. 1178-1180.
MOLECULAR BIOLOGY:
A Renewed Focus on Transfer RNA

p. 1123-1124.

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