AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 22, 2005, Vol.308


シグナル伝達ネットワークのモデリング(Modeling Signaling Networks)

シグナル伝達ネットワークの構成成分間での原因となる影響を予想するためには、 大量のデータの組み合わせから詳細なモデリングをすることが必要とされる。細胞 のシグナル伝達に影響を与える様々な処理を行った後に、リン-特異的抗体を用いて 一群のシグナル伝達タンパク質のリン酸化状態を単一の細胞測定することにより、 十分なデータが得られ、その結果、Sachsたち(p. 523;BrentとLokの展望記事を参 照)は、ベイジアンネットワークと個々のヒトT細胞中のシグナル伝達タンパク質間 での相互作用を評価するためのコンピュータを使用する方法を利用して、シグナル 伝達ネットワークのマッピングを行い、ネットワークの構成成分間での原因となる 影響を推測することができた。既知の結びつきが再現されるとともに、新しく発見 された結びつきが実験的に試験され、実際に生物学的関連性があることが見いださ れた。(NF)
Causal Protein-Signaling Networks Derived from Multiparameter Single-Cell Data
p. 523-529.
CELL BIOLOGY:
A Fishing Buddy for Hypothesis Generators

p. 504-506.

高速の太陽風の集中(Funneling Fast Solar Winds)

太陽は高速の太陽風を放射しており、イオン化した彗星の尾を曲げたり、歪めた り、或いは地球の電離層の挙動に影響を与える。この太陽風の殆どはエネルギー性 の「高速」の成分からなっているが、太陽炉内におけるこの成分の源ははっきりと は理解されていない。Tuたち(p. 519)は視線速度イメージと磁場マップを用いて、 高速の太陽風の源と信じられている太陽表面近傍において漏斗状に広がる磁束管の 根元の三次元像を作成した。紫外線放射と磁場構造の相関により、太陽大気中にお いて、高速の太陽風が発生している場所を正確に示すことが出来る。(KU,Nk)
Solar Wind Origin in Coronal Funnels
p. 519-523.

微生物のメタゲノム解析(Microbial Metagenome Analysis)

環境サンプル中の複雑な微生物群落から典型的な全ゲノムを組み立てるために必要 とされる配列量は、膨大なものである:一つのゲノムのドラフトを、解読された塩 基の総数が推定ゲノム長の8倍となるようにして明らかにするためには、100メガ塩 基までの配列が必要とされるが、このことは、数が多い種についてはそれが実現可 能であるものの、数の少ない種ではそれはほとんど不可能であることを意味してい る。Tringeたち(p. 554)は、本質的に異なる環境的微生物群落に由来するサンプ ルの遺伝子内容を解析するために、代替的方法を採用した。目安となる代謝の特徴 は、それぞれの生息域内で選択圧があることを示唆していた。例えば、セロビオー スホスホリラーゼは、土壌サンプル中でのみ見いだされ、海洋サンプル中では見い だされない。バクテリオロドプシンは表層水サンプル中では見いだされるが、深海 中または土壌中では全く見いだされていない。最も特異的なオペロンはイオン成分 と無機成分の輸送に関するものであった。この方法論により、メタゲノムの研究で 得られた莫大な量のデータをふるい分けるための実用的で、かつ有益な道筋が提供 される。(NF)
Comparative Metagenomics of Microbial Communities
p. 554-557.

二相のエマルジョン(Emulsions on the Double)

エマルジョンとは、お互いに混じりあわない液体と液体との混合(例えば水と油の ような)によって作られ、準安定な液滴を形成する。核となる液滴が第三のより小 さな液滴を含む二相のエマルジョンはもっと安定であるが、しかしながら調合が簡 単ではない。しかし、この二相エマルジョンは化粧品工業や薬品工業にとって液滴 製品を保護してユーザーに届ける上で重要である。Utidaたち(p.537)はマイクロフ ルイダイザー装置(微小流体装置)を用いて、制御可能な、設計どおりの二相エマ ルジョンを単一ステップのプロセスで作成した。同軸の構造体に液体を注入するこ とで、二つの液体を同軸状に注入することで、彼らは液層を分離している。液滴の 大きさは流速を変えることで調節することが出来る。(KU,hE,Nk)
Monodisperse Double Emulsions Generated from a Microcapillary Device
p. 537-541.

被写体画像の鮮鋭化(Sharpening Up One's Image)

通常イメージ化できる最小の大きさは照射光の波長オーダの回折限界によって決定 される。最近の理論研究によると、イメージング材料特性を適切に選定できるなら ば回折限界に打ち勝ことが予測されていた。特に、もし電界と磁界に対してのレン ズ材料の応答(屈折率)が両方とも負であるならば、このときは回折限界に打ち勝 て、測定対象物の完璧なイメージが結果として得られる。Fangたち(p. 534; Smith による展望記事参照)は、スーパレンズとして銀の薄いシートを用い、照射光のほ ぼ6分の1の波長の解像度で構造をイメージ化した.(hk、Nk)
Sub–Diffraction-Limited Optical Imaging with a Silver Superlens
p. 534-537.
APPLIED PHYSICS:
How to Build a Superlens

p. 502-503.

広域な変化の風(Winds of Wide-Scale Change)

気候温暖化は、全世界的な炭素サイクルと同様に気象に関係しており、大気循環、 海洋循環そして海洋生物サイクルに影響を与えている。Goesたち(p.545)は、大規 模な物理的変化が、広範囲な地域にまたがる生物的なプロセスに、それらが遠くの 距離に隔てられている時でさえ、いかに影響を与えているのかという顕著な例証を 示す。1997年以来、中緯度帯温暖化に伴い、ユーラシア大陸では冬季や春季の積雪 面積が減少し、夏季における大陸の高温化を引き起こした。この減少はより急峻な 熱勾配を生成して、遥か西アラビア海における海表面の風を増幅した。この強い風 は、次にアフリカの北東海岸に沿って栄養に富む深海からの湧昇流を増幅し、西ア ラビア海の生物生産性やプランクトンバイオマスを増やした。(TO)
Warming of the Eurasian Landmass Is Making the Arabian Sea More Productive
p. 545-547.

アレスチンによるPromotinシグナル伝達("Promotin" Signaling by Arrestins)

アレスチンタンパク質がそのような名前を付けられているのは、心臓でカテコール アミンの作用を媒介するβ2アドレナリン作動性受容体などのGタンパク質(ヘテロ三 量体グアニンヌクレオチド-結合タンパク質)-結合型受容体に由来するシグナル伝 達を阻害するためである。しかしながら、タンパク質β-アレスチン1およびβ-アレス チン2は、シグナル伝達においてもっと沢山の用途を有している。Lefkowitzと Shenoy(p. 512)は、β-アレスチンが足場タンパク質としても機能していることを 示す最近の研究を概説している。このタンパク質は受容体活性化の生物学的作用を 生み出すことの補助をする他のシグナル伝達タンパク質のための結合部位を提供す ることによりシグナル伝達を実際に亢進する。アレスチンは、Gタンパク質-結合型 受容体だけではなく、構造的に別種の受容体によるシグナル伝達に寄与する様でも ある。足場としての役割において、β-アレスチンは、受容体から下流標的分子への 立体構造的変化の活性化の情報を伝達することができる。(NF)
Transduction of Receptor Signals by ß-Arrestins
p. 512-517.

探せ、さすれば見つかる(Search and You Will Find)

ある人は並列的に仕事をし、一度に幾つかの仕事をこなす。一方、人によっては逐 次的なやり方を好み、一つの仕事をやり終えてから次の仕事に取り掛かる人もい る。子供たちの多くは玩具の中から赤いトラックを探す際に、対象とする玩具を一 つ一つ探すか(逐次的)、或いは赤とトラックの対象物を一度に探す(並列的)か のいずれかである。Bichotたち(p.529;表紙とWolfeによる展望記事参照)は、視覚 探査がどのように働いているかを、神経系の用語で、記述するには上の二種類の方 法のうちどちらが優れているかという論争の解決に役立つ証拠を与えている。特徴 を選択するメカニズム(赤、トラック)がトップダウン的に作用しており、このよ うな特徴を選択する視覚ニューロンの応答性と同調性をたかめている。かくして、 子供が赤いトラックを探す際には、赤い玩具とトラックとは茶色の犬よりも強い神 経反応を誘発する。加えるに、空間性のメカニズムが働いて、子供が見ているその 場所に対する視覚ニューロンの応答性を選択的に高めている。それ故に、探すとい うことに関して二つのタイプの要素が寄与している。(KU,Nk)
Parallel and Serial Neural Mechanisms for Visual Search in Macaque Area V4
p. 529-534.
NEUROSCIENCE:
Watching Single Cells Pay Attention

p. 503-504.

植物防御機構を解明する(Elucidating a Plant Defense Mechanism)

RPS2をコードする遺伝子をもつシロイヌナズナ(Arabidopsis)は、シュードモナス 菌(Pseudomonas syringae)の感染に抵抗性を有しているが、このシュードモナス 菌は病原発生中にプロテアーゼのエフェクターAvrRpt2を植物細胞中に導入す る。Coaker たち(p. 548, published online 24 February 2005; Schulze-Lefertand Bieriによる展望記事も参照)は、植物自身のサイクロフィリン が、細菌のエフェクターAvrRpt2のタンパク分解活性を活性化することを示した。次 にAvrRpt2は、植物中の中間標的タンパク質(RIN4)を破壊して、植物防御応答を活性 化する。このような真核生物のタンパク質による細菌のエフェクター・プロテアー ゼの畳み込みは、病原発生機構の中では、普通のメカニズムかも知れない。(Ej,hE)
Activation of a Phytopathogenic Bacterial Effector Protein by a Eukaryotic Cyclophilin
p. 548-550.
PLANT SCIENCES:
Recognition at a Distance

p. 506-508.

分子の軍備競争(Molecular Arms Race)

多くの侵入ウイルスやトランスポゾンはRNA中間体を通じて複製し、転位する。これ ら中間体は植物や昆虫の宿主細胞のRNA 干渉機構によって検出されるため、短鎖干 渉RNA (siRNA)の生成に利用されるが、このsiRNAはサイレンシングに必須の中間 体であり、やがて侵入者を中和する。Lecellier たち(p.557; Couzinのニュース記 事参照)は、哺乳類の細胞でもRNA サイレンシング機構を利用しており、これによっ て侵入哺乳類ウイルスの中和に役立っていることを示している。不思議なことに、 ウイルスゲノム由来のsiRNAが、侵入者をサイレンシングの標的とするエフェクター 分子であるのではなく、宿主のmicroRNA(miRNA)がウイルスにタグ付けする。宿主の 防御系経路の重要性は、サイレンシング効果を抑制するウイルスタンパク質の存在 によって保持されている。(Ej,hE)
A Cellular MicroRNA Mediates Antiviral Defense in Human Cells
p. 557-560.

背中を引っ掻く・・・(You Scratch My Back... )

「アリ植物」として知られているアカシア属と、Pseudomyrmex属のアリの相互関係 は、特異的共進化した相利共生の古典的例である。ここではアリが植物で生産され た花外の蜜を摂食し、アリは草食動物からの攻撃を防いでくれる。この関係におい て、化学的な関係があるかどうかは良く分かってない。Heil たち(p. 560; Pennisi によるニュース記事参照)は、中央アメリカのアリアカシアで生産される花外蜜は、 その植物に住むアリを養っているが、ショ糖を持ってないため一般的なアリにとっ ては魅力がないことを示した。特殊なアリは、しかし、ショ糖の無い蜜を摂食し、 ショ糖分解酵素であるインベルターゼ(invertase)の非常に低い活性を示す。分泌さ れた蜜そのものにインベルターゼ活性があることによって、ショ糖が蜜中に無く なったようだ。(Ej,hE)
Postsecretory Hydrolysis of Nectar Sucrose and Specialization in Ant/Plant Mutualism
p. 560-563.

南極の氷の消失(Antarctic De-Icing)

南極半島の表面大気温度は、1950年代以降、およそ平均2度上昇している。南極半島 は大量の氷を担っており、それらが氷河の流出と海氷棚の崩落によって失われる可 能性があるため、この温暖化は海水面の上昇率にとって重大な意味をもってい る。Cookたちは、南極半島の氷床を流出させる海洋性氷河の領域の変化を示す地図 を編集した(p. 541)。そこに存在している244の氷河についての彼らによる詳細な地 図は、氷河の87%が過去50年で後退していること、また前進から後退への変化は、高 緯度になるほど強まっていること、を明らかにしている。海に浮いている氷棚の消 失が続くと、こうした氷河の後退が速度を増していく可能性がある。(KF,Nk,og)
Retreating Glacier Fronts on the Antarctic Peninsula over the Past Half-Century
p. 541-544.

壊れたDNAによるATMの活性化(Activating ATM with Broken DNA)

細胞は、損傷したDNAが検出されると細胞分裂を停止するチェックポイント機構に依 存しているが、どのような分子センサーがDNA鎖中の壊れた部分を「みつける」のか ははっきりしていない。DNA損傷はプロテインキナーゼATMの活性化に導く。このATM は、毛細血管拡張性失調症(ヒトの病気で、放射線への感受性と癌への素因になる点 で特徴付けられる)の原因遺伝子である。LeeとPaullはある試験管内アッセイについ て記述している(p. 551; 2005年3月24日にオンライン出版、また、Abrahamと Tibbettsによる展望記事参照のこと)。そこでは、(単量体のATMではなく)二量体の ATMが、別の3つのタンパク質からなる複合体であるMRN複合体の存在下で、壊れた DNA分子によって活性化される。このMRN複合体はDNAと相互作用し、DNA-結合複合体 にATMを補充している。つまり、MRN複合体によるアデノシン三リン酸-依存的なDNA の巻き戻しが、ATMの活性化において必要なステップであるらしい。(KF,hE)
ATM Activation by DNA Double-Strand Breaks Through the Mre11-Rad50-Nbs1 Complex
p. 551-554.
CELL BIOLOGY:
Enhanced: Guiding ATM to Broken DNA

p. 510-511.

発生におけるバランスの技(Developmental Balancing Act)

脊椎動物では、体節(中胚葉節)が筋肉と骨の発生先駆物である。体節の発生にはい くつかのシグナル伝達経路が影響しており、レチノイン酸(RA)-合成酵素RALDH2を除 去すると、詰まった体節がもたらされる。Vermotたちは、RAが体節発生の制御にど のように貢献しているかを検証した(p. 563; 2005年2月24日にオンライン出版)。マ ウスのRALDH2を除去すると、体節発生における調和的な左右対称性が、体節段階8か ら15で、片側が反対側より3つも余分に体節がみられるような影響を受けた。この明 らかな非対称性の訂正は、発生のずっと後になって生じる。胚性のRAは体節-特異的 なシグナル伝達と生物体の左右に沿った発生の進行を調整しているらしい。(KF)
Retinoic Acid Controls the Bilateral Symmetry of Somite Formation in the Mouse Embryo
p. 563-566.

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