AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 18, 2005, Vol.307


どこにいるのか、教えてあげて欲しい(Letting Ras Know Where It's At)

細胞のシグナル伝達分子の正しい空間的な構成は、適切な生物学的反応を保証する ために必須である。いくつかのシグナル伝達タンパク質、例えば Rasグアノシント リホスファターゼは脂質により修飾され、原形質膜への局在化とゴルジ複合体の細 胞内膜への局在化が方向付けられる。Rasタンパク質は、分泌経路を通過する間に、 これらの脂質部分を獲得するものと考えられている。Rocksたち(p. 1746、2005年2 月10日のオンライン出版、MederとSimonsによる展望記事を参照)はここで、Rasが 原形質膜において脱パルミトイル化され、それにより細胞質へと放出されることを 見出した。放出されたRasはゴルジ体へと再び分布し、そこで再度パルミトイ ル(CH3(CH2)14CO-)され、その後引き続いて細 胞表面へと移行し、そこでアシル化サイクルが再び始まる。パルミトイル化で見ら れるこれらの変化はRasのシグナル伝達と相関しており、Rasタンパク質の細胞内分 布を調節するためのメカニズムを提供する。(NF)
An Acylation Cycle Regulates Localization and Activity of Palmitoylated Ras Isoforms
p. 1746-1752.
CELL BIOLOGY:
Ras on the Roundabout

p. 1731-1733.

腫瘍タンパク質としてのコラーゲン(Collagen as Oncoprotein)

劣性栄養障害性表皮水泡症(RDEB)と呼ばれる遺伝性の皮膚症状を伴う患者は、一 般集団においてもよく見られる皮膚癌の一形態、扁平上皮癌をしばしば発症す る。RDEBは、細胞外マトリクス(ECM)タンパク質であるコラーゲンVIIをコードす る遺伝子中の変異により引き起こされるが、癌の発症におけるこのコラーゲンの役 割は明らかになっていない。Ortiz-Urdaたち(p. 1773;YuspaとEpsteinによる展望 記事を参照)はここで、癌を発症するRDEBの患者が、異常な短縮型コラーゲンVIIを 発現しており、それが皮膚細胞に対して腫瘍化特性を付与し、これにより周囲の組 織に侵襲するガン細胞の能力を高めていることを示した。マウスにおいて、このコ ラーゲン断片を標的とする抗体を投与することにより、腫瘍の誘発を阻止できる。 これらの結果は、腫瘍形成におけるECMの中心的な役割を明らかにし、そしてECMタ ンパク質が特定の型の癌に対する利用価値のある治療の標的となりうることが示唆 される。(NF、KU)
Type VII Collagen Is Required for Ras-Driven Human Epidermal Tumorigenesis
p. 1773-1776.
CANCER:
An Anchor for Tumor Cell Invasion

p. 1727-1728.

いいエサの意味で(The Good Food Sense)

動物の中には、食餌にアミノ酸が含まれていないと認識することができるものがお り、その結果、そのような餌を20分以内に拒絶する。雑食動物におけるアミノ酸欠 乏に対するこの行動学的反応は、かねて知られていたが、栄養センサーは発見され ていなかった。Haoたち(p. 1776)は、酵母において見いだされた古くからのアミ ノ酸検出メカニズムが、前頭葉梨状皮質のニューロン中で保存されていることを見 いだした。このアミノ酸についての化学的感知の脳領域は、食物摂取を調節する神 経回路へと突き出ている。(NF、KU)
Uncharged tRNA and Sensing of Amino Acid Deficiency in Mammalian Piriform Cortex
p. 1776-1778.

熱的慣性と気候(Thermal Inertia and Climate)

たとえ温室効果ガスの放出が今日止んだたとしても、大気中にガスが長く存在する ことや海洋の熱的慣性により、温室効果ガスによる地球温暖化は継続するだろう し、そして熱的な膨張により海面水位は上昇し続けるであろう。2つのモデリング 研究はこの問題について述べている。Wigley(p.1766)は、将来温室効果ガスの割合 がこれ以上上昇しないというかなり楽観的なシナリオに基づいて発生するであろう 温暖化のコミットメントと同様に、すでにわれわれが作り出してきた長期の気候温 暖化のコミットメントに関して議論している。Meehl etたち(p. 1769)は、温室効果 ガスの高濃度化が2000年レベルに留まったと仮定して、地球温暖化と海面上昇(熱 膨張のみによる)はさらにどの程度になるかを定量化している。2つの研究は共に、 最良のシナリオにおいてさえ気温は摂氏0.5度程度上昇し、氷床や氷河の融解を含ん でいないにもかかわらず、海面は数10センチ上昇するであろうと結論付けてい る。(TO、KU)
The Climate Change Commitment
p. 1766-1769.
How Much More Global Warming and Sea Level Rise?
p. 1769-1772.

電波制御電子(Radio-Controlled Electrons)

原子は、しばしば、核の周りを個々に回る電子という描像を使って表現されるが、 より的確には電子は非局在的な雲として描かれるべきものである。しかしながら、 適切な励起条件では、その古典的モデルがふさわしいものにもなりうる。全エネル ギーに比べてずっと小さいエネルギーレベル間隔となるほどに電子が充分に励起さ れている場合は、その電子は複数のレベルを同時に占有しうる。このエネルギーに おける非局在化に対応して空間における局在化が引き起こされる。一時的には、そ の電子は古典的な軌道を周回する粒子と似たものになる。Maeda たち (p.1757,2005 年2月10日のオンライン出版;Villeneuve による展望記事を参照のこと) は、軌道 周回の周波数に同調したマイクロ波を印加することにより、Li 原子をこのような状 態に 安定化した。彼らは、さらに、マイクロ波の周波数を調節することにより、電 子軌道の周期と半径を、対応する結合エネルギーとともに、微調整できることを示 している。(Wt,nK)
Microwave Manipulation of an Atomic Electron in a Classical Orbit
p. 1757-1760.
PHYSICS:
Toward Creating a Rutherford Atom

p. 1730-1731.

高分子のクリープと結晶化の研究(Probing Polymer Creep and Crystallization)

薄膜における高分子鎖の挙動は複雑である;自由表面の存在は高分子鎖の運動自由 度を増すが、一方で薄膜化による空間次元の減少は動きを制限する方向に働く。こ の影響は膜のガラス転移温度やレオロジーに反映される。O’Connellと McKenna(p.1760)は気泡の膨張を利用して、高分子膜のコンプライアンスを測定し た。彼らは、ガラス転移温度には何等の変化も見られないが、薄膜の弾性に関して 顕著な変化が見られることを見出した。部分的に結晶化する高分子において、結晶 化のプロセスは比較的遅い。形成されるモフォロジィーは処理条件や凝固前の高分 子鎖の配向の程度、及び残留応力に依存する。Luiたち(p.1763)は原子間力顕微鏡を 改良して、高分子鎖を動かすと同時に可視化した。これにより、結晶化に関する精 緻な制御と観測が可能となった。(KU, nK)
Rheological Measurements of the Thermoviscoelastic Response of Ultrathin Polymer Films
p. 1760-1763.
The Controlled Evolution of a Polymer Single Crystal
p. 1763-1766.

分裂することは難しい(Breaking Up Is Hard To Do)

1つの母細胞から2つの娘細胞を形成する正常な細胞分裂には有糸分裂を経ること になるが、重複された染色体はこの期間に分裂し、次いで2つの娘細胞の分離であ る細胞質分裂が起きる。Glotzer (p.1735)は、多様な細胞系において、細胞質分裂 に含まれる細胞分裂のメカニズムをレビューした。これによると、正常な細胞分裂 には細胞質分裂と、染色体の集結、分離との協調が不可欠である。Spiliotis たち の報告(p. 1781)によると、哺乳類の有糸分裂中に有糸分裂中期プレートに局在化す る保存された結合タンパク質ファミリー(セプチン、septin)についての研究結果に ついて述べている。セプチンの枯渇は染色体の蓄積と分離を破壊することになり、 細胞質分裂の欠陥へと導く。これらの欠陥は有糸分裂運動性と有糸分裂チェックポ イント制御を担当しているCENP-Eが、集結している染色体上に正確に局在化できな い欠陥と相関している。つまり、哺乳動物のセプチンは、染色体の集結と分離を細 胞質分裂と統合する有糸分裂の骨格を形成しているようだ。(Ej,hE)
The Molecular Requirements for Cytokinesis
p. 1735-1739.
A Mitotic Septin Scaffold Required for Mammalian Chromosome Congression and Segregation
p. 1781-1785.

深海での変化(Change Down Under)

地球規模での気候変化と関係した最も一般的な海洋プロセスは、北大西洋深層水の 形成であるが、増大する観測とモデル計算の結果は、海洋の別の場所、特に南半球 の、もまた重要であることを示唆している。PahnkeとZahn(p.1741)は、より深い深 海内部への熱と淡水の再配分に関する南極の中間水(Antarctic Intermediate Water ;AAIW)の役割を調査している。このAAIWは南半球の中緯度で形成され、かつ 500m〜100mの深さの所で見出されているものである。過去34万年に渡るAAIW形成の 変化は、北大西洋深層水形成の変動と南極における気候変化と結びついていた。こ の同時発生の応答により、大気が気候変化に強く作用していることを示唆してい る。これらの変化が同時に発生することは、海洋の熱塩循環と気候変動とが南北両 半球に渡る強制効果であることを意味している。(KU, nK)
Southern Hemisphere Water Mass Conversion Linked with North Atlantic Climate Variability
p. 1741-1746.

眼にも浮袋にも、それがある。(The Eyes--and the Swimbladder--Have It)

硬骨類の魚は、ガスで膨らんだ浮袋を用いて浮力を維持している。奇網(rete mirabile;血管が一度の多数に分岐して血管網を作る)として知られる静脈と動脈か らなる複雑な配列と、特殊なpH感受性をもつルート効果(root-effect)ヘモグロビン とによって、酸素が浮袋に送り込まれている。このヘモグロビンはまた、特定の低 い緩衝値を有するものである。あるNa+/H+交換体が赤血球 の細胞内pHを制御している。多くの魚類はまた、眼球にも、無血管性の魚の網膜の 高い代謝活性を支える奇網をもっている。Berenbrinkたちは、系統発生論と、ヘモ グロビンの生化学と構造、及び現存の魚類におけるNa+/H+ 交換体の活性の詳細を用いて、この複雑なシステムの進化を説明している(p. 1752)。ルート効果ヘモグロビンは奇網以前に出現したに違いない。眼球の網状組織 は、--Na+/H+交換体の存在を必要とするものだが--浮袋の 網状組織より1億年前に進化したらしく、このような浮袋の出現が硬骨類の魚におけ る重大な適応放散と関連している。(KF, hE) 【訳注】ルート効果とは、pH低下によって酸素親和性が激減して、ヘモグロビン に酸素が結合しない現象をいう。
Evolution of Oxygen Secretion in Fishes and the Emergence of a Complex Physiological System
p. 1752-1757.

糖のコーティング(Sugary Coating)

ヒトはどうして、腸にある何十億もの細菌に対して、炎症反応を起こさずに耐える ことができるのだろうか?Coyneたちは、ヒトの腸にもっともありふれている細菌の 属(Bacteroides)を分析し、この生命体がきょう膜多糖(capsular polysaccharides;細菌の外側に存在する厚い層)と表面の糖タンパクをL-フコース で装飾することを示している(p. 1778)。L-フコースは腸の上皮性細胞の表面に豊富 であり、Bacteroidesは腸の上皮性細胞を刺激して、フコシル化された分子を発現す る。この分子相同性によって、Bacteroidesは宿主の中で生存することでき る。(KF、KU)
【訳注】分子相同性:寄生体による宿主との共通抗原の形成
Human Symbionts Use a Host-Like Pathway for Surface Fucosylation
p. 1778-1781.

翅形成に必要なメンバー(The Right Stuff for Wing Formation)

動物の器官と外肢は、さまざまな形態の細胞によって構成されている。たとえば、 ショウジョウバエの翅の原基は、扁平上皮性あるいは立方体様、または円柱状の細 胞を示している。こうした細胞のバリエーションの分子的決定要因は何であろう か? GibsonとPerrimonは、翅の上皮細胞の形態形成に欠陥を有するハエをスク リーニングすることで、この問いを検証している(p. 1785)。あるシグナル伝達受容 体の変異は、細胞が上皮の表面から突出するという翅の欠陥を生み出した。このシ グナル伝達経路が細胞生存の役に立つとしたこれまでの研究とは違って、このシグ ナル伝達経路は上皮の組織化に関与していているもので、それ以降の細胞死は二次 的な結果である、ということのようである。同様の結論に、ShenとDahmannも到達し ている(p.1789)。(KF)
Extrusion and Death of DPP/BMP-Compromised Epithelial Cells in the Developing Drosophila Wing
p. 1785-1789.
Extrusion of Cells with Inappropriate Dpp Signaling from Drosophila Wing Disc Epithelia
p. 1789-1790.

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