AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 4, 2005, Vol.307


メーザーによる距離測定(Maser Distance Markers)

局部銀河群(われわれの銀河系とアンドロメダ銀河を中心とする数十個の銀河の集 まり)中の近傍の銀河までの距離を測定することは難しくはあるが、そのような データは、セファイド型変光星といった他の距離のものさしに対する校正点を与え るとともに、局部銀河団内の物質分布やそれに属する銀河の力学を評価するために 必要である。Brunthaler たち (p.1440) は、Very Long Baseline Array(USAにある 超長基線電波干渉計群 VLBA)を用いて、二つの水のメーザー発振を観測することに より、さんかく座銀河(M33)までの距離を、730±168kpcと決定した。この値は、これ 以前の距離の値とよく一致している。また、彼らの研究により、M33の回転も決定 されている。(Wt, nk)
【訳注】 VLBAについては、以下のホームページに詳細がある。
http://www.vlba.nrao.edu/
The Geometric Distance and Proper Motion of the Triangulum Galaxy (M33)
p. 1440-1443.

“Lost City”の熱い岩石(Hot Rocks, Lost City)

最近、大西洋の深海にある熱水系が発見された。 その“Lost City”と呼ばれる熱水 活動域は、海洋地殻中の岩石が海水で変質することにより蛇紋石(mineral serpentine)を形成する、という熱放出プロセスによりエネルギーを得ている。これ は原理的には海洋のどこでも起き得る反応であり、このタイプの系は広く存在して いると考えられる。Kelleyたち(p.1428; Boetiusによる展望記事参照)は、この領域 の詳細な分布図を作成し、化学的そして微生物学的な分析を行った結果、熱水孔に はまず古細菌(archaea)がメタンを食料として宿ることを示した。周囲の微生物 相(marcofauna) の多様性は高く、中央海嶺熱水系のそれに匹敵する。(TO, nk, og)
A Serpentinite-Hosted Ecosystem: The Lost City Hydrothermal Field
p. 1428-1434.
OCEAN SCIENCE:
Lost City Life

p. 1420-1422.

水分子の移動(Water Shuffle)

溶媒和のプロセスには、エネルギーとしてはほんの僅かしか変わらない、溶質を取 り巻く溶媒分子の微妙な再配列が含まれるようである。Clarksonたち(p.1443;2005 年2月3日のオンライン出版)は気相系をモデルとしてこのプロセスを研究した。この モデルにおいては、有機分子フォルムアニリドが水素結合により水分子と二つの異 なるタイプの複合体--一つはC=O基へのドナー的結合、もう一つはNH基へのアクセプ ター的結合--を形成する。2段階のレーザ励起手法(誘導放出ポンピング)により、 いずれか一方の異性体の振動エネルギーを選択的に高めることが出来る。十分なエ ネルギーが与えられると、水分子は一つの結合部位から他の部位へと移動する。 データによると、異性体間のエネルギー差は大雑把に言えば200cm-1以 下であり、実験条件化での異性体化の閾値エネルギーとして870±120 cm-1が導かれた。(KU, nk)
Laser-Initiated Shuttling of a Water Molecule Between H-Bonding Sites
p. 1443-1446.

歪む太陽圏(Distorted Heliosphere)

Solar and Heliospheric Observatory(太陽と太陽圏の観測衛星;SOHO)が観測した、 内部太陽圏に入って来る中性水素の流れ方向データから、Lallementたち(p. 1447; Jokipiiによる展望記事参照)は、太陽圏が歪んでいることを示している。 その歪 みはおそらく星間空間磁場が原因となっている。その星間空間磁場により、黄 緯(惑星軌道面からの高さ)が大きくなるにつれ、末端衝撃波面はいっそう延びた ものになる。地球から90天文単位にいるボイジャー1号は、この探査機が太陽圏を すでに抜けたかもしれない、というさまざまな議論の種となるような信号を送り返 してきた。しかしながら、SOHOデータによって暗示されるように、もし太陽圏が歪 んでいるならば、ボイジャー1号はまだ太陽圏の長く伸びた領域(the elongated region)に閉じ込められており、末端衝撃波面を横断していない。(hk, Wt, nk)
Deflection of the Interstellar Neutral Hydrogen Flow Across the Heliospheric Interface
p. 1447-1449.
ASTRONOMY:
Our Interstellar Neighborhood

p. 1424-1425.

エナメル質の組織化(Organizing Enamel)

骨と同じく歯のエナメル質も規則的に配列した炭酸塩アパタイトの結晶から作られ ているが、骨と異なり歯のエナメル質には結晶成長を導くコラーゲンを含んでおら ず、又、骨のようにエナメル質の再組織化することもない。発生の初期段階におい て、エナメル質はかなりの割合のアメロゲニン(amelogenin)タンパク質を含んでい る。Duたち(p.1450;Veisによる展望記事参照)はin vitroでの研究において、このタ ンパク質がナノサイズの球を形成し、その後マイクロサイズのリボン状に組織化す ることを示している。このような構造が、結果として無機質化の過程できちんと配 列したアパタイトの結晶成長を制御しているようである。(KU)
Supramolecular Assembly of Amelogenin Nanospheres into Birefringent Microribbons
p. 1450-1454.
MATERIALS SCIENCE:
Enhanced: A Window on Biomineralization

p. 1419-1420.

抵抗力を倍にする(Doubling Resistance)

ゲノム内のセグメント重複は、ヒトの病気や進化の原因となる。ある特定の重複が 免疫防御系に関与する複数の遺伝子にまたがっているため、感染に対抗する能力の 差は特定の遺伝子のコピー数に由来する遺伝子量効果に起因する。Gonzalez たち (p. 1434, オンライン出版、 6 January 2005; 表紙、および、Nolan たちによる展 望記事参照)はCCL3 ケモカイン(chemokine)の変異体である, CCL3L1に関するセグ メント重複が人種的、地理的な差異によって異なることに気付いた。CCL3受容体の CCR5はヒト免疫不全症ウイルス-1 (HIV-1) 感染に対して重要な補助受容体である。 著者たちは、セグメント重複が増加するほどHIV-1に感染しにくく、エイズの進行を 抑え、CCL3L1発現やCCR5のレベルに相関し、CD4+T細胞の減少を抑える ことと相関していることを見出した。類似の重複はチンパンジーにも見られること から、ある種の重複はヒト免疫系が環境からの圧力に応じて獲得した古い適応の一 つであると思われる。(Ej,hE)
The Influence of CCL3L1 Gene-Containing Segmental Duplications on HIV-1/AIDS Susceptibility
p. 1434-1440.
HIV/AIDS:
HIV: Experiencing the Pressures of Modern Life

p. 1422-1424.

高圧下での生存(High-Pressure Existence)

深海は生物圏における最大の環境であるにもかかわらず、この生息地への適応性に 関しては未だ殆ど知られていない。Photobacterium profundumは高い静水圧下でも 最適に成長しており、深海での適応性を研究する一つのモデルとなる。ゲノム配列 解析と発現解析により、Vezziたち(p.1459)は、高圧下での生存に関する代謝とタン パク質構造における適応性のヒントを見出した。この細菌は28メガパスカルの高圧 下でキチンやプルラン、及びセルロース分解酵素が活性化されていることから考え ると、深海では別の炭素源を利用しているらしい。この細菌は高圧下での生存に巧 妙に調和しており、大気圧下ではストレス応答を引き起こし、異なったシャペロン とDNA修復タンパク質を活性化する。(KU)
Life at Depth: Photobacterium profundum Genome Sequence and Expression Analysis
p. 1459-1461.

珪藻ばかりの食事は危険(Dangers of an All-Diatom Diet)

海洋のプランクトン食物連鎖の中で、ケンミジンコ類(copepoda)は珪藻(diatom)を 餌にしていると信じられていた。しかし、実験による研究から、ケンミジンコ類は 珪藻単一の食餌はあまり食べないこと、そして最近珪藻はケンミジンコ類には有毒 であるという説が出されていた。Jones とFlynn (p. 1457)は、ケンミジンコ類に とって、珪藻は乏しい栄養的価値という以上には有毒ではないことを示している。 彼らは一連の食餌実験を行い、珪藻と鞭毛藻(flagellates)とを混ぜて与えられたケ ンミジンコ類は、珪藻だけの食餌の場合より発育がよい、そしてまたケンミジンコ 類の食餌応答の決定にあたって、珪藻自体の栄養状態が重要であることとを明らか にした。(TO, nk, og)
Nutritional Status and Diet Composition Affect the Value of Diatoms as Copepod Prey
p. 1457-1459.

雄のショウジョウバエを殺す(To Kill a Male Drosophila)

ある種の細胞質遺伝をする微生物は自分を増殖するために宿主の生殖を妨害する。 このような、宿主への影響メカニズムについては不明である。特に、オス殺し細菌 がメスの昆虫から娘や息子に移動して、胚形成時に選択的にオスを殺すメカニズム は未解明である。約20%の昆虫種はこのような悪影響を受けているが、それにして も何故オスだけが殺されるのだろう。Venetiたち(p. 1461)は、キイロショウジョウ バエに感染するオス殺傷Spiroplasma poulsoniiを用いて、この疑問を取り上げた。 オスに特異化させる遺伝子量補償系に変異を持つショウジョウバエ中に、オス殺し 細菌を入れたところ、この遺伝子量補償複合体のいずれかに変異を有するオスの子 孫の生存率が向上した。(Ej,hE)
A Functional Dosage Compensation Complex Required for Male Killing in Drosophila
p. 1461-1463.

カスパーゼ-8とNF-κBの活性化を関連付け(Linking Caspase-8 and NF-k(kappa)B Activation)

プロテアーゼであるカスパーゼ-8(caspase-8)は、細胞表面上の細胞死誘導受容 体(death inducing receptors)からのシグナル伝達の機能を果たしているが、この 酵素の欠如したヒトの分析からは、免疫系での細胞上の抗原やFc受容体からのシグ ナル伝達にも寄与しているらしい。Su たち(p. 1465)は、核因子κB (免疫応答系の キープレーヤーであるNF-κB)が、カスパーゼ-8の無い細胞では機能欠陥があること を示した。抗原あるいはFc受容体は、多数のシグナル伝達タンパク質を含む分子複 合体を介したプロセスによってNF-κBを刺激する。カスパーゼ-8は、これらシグナル 伝達クラスターの生成を助けるアダプタータンパク質と物理的に相互作用する。こ れが細胞死の情報を伝達するときには、カスパーゼ-8は、自己タンパク分解を受け て、強力なプロテアーゼ活性をもつ断片を生成する。しかし、抗原受容体の活性化 の後、シグナル伝達にはカスパーゼ-8の触媒作用は依然として必要であり、酵素は 無傷のまま残っている。これは、より穏やかなタンパク質分解性活性を有するコン フォメーションの形で残ると思われる。これらの結果から、たった一つのタンパク 質分解酵素を失った患者に観察される多様な生理学的効果が説明できると思われ る。(Ej,hE)
Requirement for Caspase-8 in NF-κB Activation by Antigen Receptor
p. 1465-1468.

皮膚が熱を感じる(Skin Feels the Heat)

温度センサーとしての機能を有するイオンチャネルのTRP(transient receptor potential)ファミリーの他のメンバーと異なり、TRPV3は皮膚における感覚ニューロ ン中ではなく、上皮性ケラチノサイト(keratinocyte)中で発現する。Moqrichた ち(p. 1468) はTRPV3ノックアウトマウスを作り、常温環境では、動物にとってその イオンチャネルが温度感覚に不可欠であることを見つけた。天然のカンファー(樟 脳)は熱によるTRPV3の活性化を強めており、TRPV3の欠如したマウスはカンファー に応答しない。熱の感知はニューロンの独占的な機能と見なされていたこともあっ たが、この研究は熱感知をケラチノサイトにまで拡大するものであり、ケラチノサ イト中の熱活性化受容体の重要性が判明した。(Ej,hE)
Impaired Thermosensation in Mice Lacking TRPV3, a Heat and Camphor Sensor in the Skin
p. 1468-1472.

ドーパミン、報酬、及び注意(Dopamine, Reward, and Attention)

中脳のドーパミン作動性ニューロンの速い群発性発射の機能的意味は何であるの か、そしてニューロンが応答するような情報を運ぶ細胞へ求心性ニューロンは何を 投射しているんだろうか?Dommettたち(p.1476)は、上丘(superior colliculus)が ドーパミン作動性ニューロンの短時間の潜時視覚応答の主要なインプット源である ことを見出した。ドーパミン作動性ニューロンにおける視覚応答の誘発により、線 条体におけるドーパミンの遊離を増加させる。しかしながら、上丘が薬理的に脱抑 制されると、ドーパミン作動性細胞は単に新たな視覚刺激にのみ応答した。(KU)
How Visual Stimuli Activate Dopaminergic Neurons at Short Latency
p. 1476-1479.

煮炊きと気候(Cooking and Climate)

南アジアから放出される大量のすす(黒色炭素)はインド洋の広範な領域を汚染して いるが、この汚染源を同定することはその分布を観察するよりずっと困難であ る。Venkataramanたちは、その地域全体で煮炊きに広く用いられている生物燃料が インドにおける黒色炭素の最大の源であると同定している(p. 1454)。彼らの結論 は、焚き木や農業廃棄物、乾燥させた動物の糞など、生物燃料の包括的な集合から の放出の測定と生物燃料の使用の推定に基づくものである。これらの放出はこの領 域の気候に対して大きな影響をもたらすものと考えられるため、それをコントロー ルすることが南アジア地域の気候変化の緩和にとって中心的重要性を有する。(KF ,nk)
Residential Biofuels in South Asia: Carbonaceous Aerosol Emissions and Climate Impacts
p. 1454-1456.

腸細菌における変異(Variation in a Gut Bacterium)

bacteroides fragilisは、通常ヒトの大腸に生息し、一般に膿瘍や軟部組織感染、 嫌気性菌血症に関係するものである。Cerdeno-Tarragaたちは、そのおよそ5メガ塩 基のゲノムの配列決定を行ない、それがDNA反転部位を含んでいることを示してい る(p. 1463)。このDNA反転部位の存在は、他の微生物に見られるよりも複雑な変異 のシステムがあることを示唆するものである。このゲノムは、表面成分や分泌成 分、調節分子、制限-修飾タンパク質など多種多様な成分の発現を制御できる機構を 取り込んでいるらしい。(KF)
Extensive DNA Inversions in the B. fragilis Genome Control Variable Gene Expression
p. 1463-1465.

コレステロールが細胞内シグナル伝達を変調する(Cholesterol Modulates Intracellular Signaling)

オキシステロール結合タンパク質(OSBP)はオキシステロールに結合するが、この相 互作用の正確な機能ははっきりしないままであった。マウスにおいてOSBP遺伝子を 破壊すると、4細胞段階における胚の死がもたらされる。不活性なリン酸化されたキ ナーゼpERKにとって二重の特異的活性を有するオリゴマーホスファターゼの組み立 てにはコレステロールが必要になるので、低下した細胞コレステロール・レベルに よってERK1/2の活性化過剰が導かれる。Wangたちは、OSBPをホスファターゼ複合体 を結合する分子として同定し、結合したコレステロールを組み立て時の補助因子と して用いていることを明らかにしている(p. 1472)。驚いたことに、オキシステロー ルは実際にはオリゴマーホスファターゼの分解を刺激している。つまり、コレステ ロールは脂質二重層の外側で、キーとなるシグナル伝達成分の活性レベルを調節す るために機能しており、他の脂質は同様のやり方で他の多タンパク質シグナル伝達 複合体の組み立てを制御している可能性がある。(Kf, hE)
OSBP Is a Cholesterol-Regulated Scaffolding Protein in Control of ERK 1/2 Activation
p. 1472-1476.

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