AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 18, 2005, Vol.307


ウサギやネズミは比較的最近に現れた(Rabbits and Rodents Arose Relatively Recently)

齧歯(げつし)動物やそれにごく近いウサギなどの種は、哺乳動物の多様な種の中で も多くの種を占めているが、化石記録は稀にしかない。従って、他の有胎盤動物か らいつ分岐したのかという時期が論争の的であった。その推測時期は、白亜紀-第三 紀境界層(K-T:Cretaceous-Tertiary Boundary)の近くから、もっと早い時期まで、 広い範囲にわたっている。Asherたち(p.1091)は、約5000万年前の年代のものとされ るウサギの化石から得られた数個の標本について論じているが、それらはまとまる ことで、初期グリレス(ウサギやネズミ)に関するより完全な見解を提供するもの である。その基本的な特徴から、このグループは有胎盤動物からK-T境界の近くで分 岐したことが示唆される。(TO)
Stem Lagomorpha and the Antiquity of Glires
p. 1091-1094.

オルメックの壷の起源(Origins of Olmec Pottery)

オルメックの陶磁器は中央アメリカの文化と言語の起源と関連がある。このオル メック陶磁器は、広い分布域を持っているため、文化の発祥地がメキシコ湾沿岸に 集中していたのか、それとも複数の社会の相互の接触から生じたのか、についての 論争を引き起こしてきた。Blomster たち(p.1068; Diehlによる展望記事参照)は、 多くのオルメック陶磁器中の微量成分を使って、この問題を検証した。それによる と、すべてのオルメック陶磁器はメキシコ南部のSan Lorenzoに起源を持ち、年代は 紀元前1500年から900年に遡り、他の陶磁器がこの地域に輸入された訳ではないこと が示された。(Ej)
Olmec Pottery Production and Export in Ancient Mexico Determined Through Elemental Analysis
p. 1068-1072.
ARCHAEOLOGY:
Patterns of Cultural Primacy

p. 1055-1056.

アンモニアのスライス(Slicing Through Ammonia)

過去40年間、最新の遷移金属触媒の合成によって、Si-H, B-H, および C-H 結合中 に小さな分子を挿入する技術が開発されてきた。しかし、アンモニア中のN-H結合を 切断する均一な触媒はなかなか得られなかった。Zhao たち(p. 1080) は、室温にお いてアンモニア溶液と反応する、電子の豊富なアルキル電子リガンドをもつイリジ ウム化合物を作った。動力学的解析および同位体解析によって、14個の電子を有す るIr(I)の中間体から、N-H 挿入プロセスが生じることが判明した。このような中性 でのN-H 結合の分割から、更に穏やかな、アンモニアからオレフィンやその他の有 機基材への触媒変換の可能性が出てきたのである。(Ej,hE)
Oxidative Addition of Ammonia to Form a Stable Monomeric Amido Hydride Complex
p. 1080-1082.

歩行を歩む(Walking the Walk)

従来の歩行ロボットは、大量のエネルギーと複雑な制御機構を必要としてい る。1990年代に、研究者たちは能動的な制御を持たない、ヒト人の歩行を模倣した 受動-動的歩行二足メカニズムを開発した。Collinsたち(p.1082)は、これらの受 動-動的歩行の設計を、単純な動力を持つアクチュエータと制御装置をもたせること で拡張した。この二足ロボットの歩行は、エネルギー効率の改善を示し、ヒトの歩 行メカニズムに対する洞察を提供するものである。(TO)
Efficient Bipedal Robots Based on Passive-Dynamic Walkers
p. 1082-1085.

海洋の鉄と大気の酸素(Oceanic Iron and Atmospheric Oxygen)

23億年前から地球大気に酸素が増加し始めた。そして縞状鉄鉱層(BIFs:bandediron formations)の存在のようないくつかの証拠は、18億年前までは海洋の大部分は無酸 素であったいたことを示している。Rouxelたち(p.1088;Kumpによる展望記事参照) は、堆積硫化物(sedimentary sulfides)から得られた証拠に基づいて、海洋におけ る鉄の循環(ironcycling)や海洋の酸化還元状態(redox state)に直接的な影響を 及ぼす大気中酸素の上昇があったことを示した。これらの岩石の鉄同位体組成の変 化に基づき、彼らは、23億年前以降では原生代前期(Paleoproterozoic)の海洋の ほとんどが明確に層状になっていたこと、そして、第一鉄に富んだプルームと酸素 が増加した海洋の上位層における急激な酸化によって、18億年前までBIFsが形成さ れ続けたことを結論付けた。(TO,Ej)
Iron Isotope Constraints on the Archean and Paleoproterozoic Ocean Redox State
p. 1088-1091.
OCEAN SCIENCE:
Ironing Out Biosphere Oxidation

p. 1058-1059.

高エネルギー点滅器(High-Energy Flashers)

1994に、NASA の Compton Gamma-Ray Observatoryを運用している研究者たちは、地 球大気から宇宙に向けて放射されているガンマ線を検出した。この異常な放射は、 稲光や、スプライト(sprites)やブルージェット(blue jets)のような他の放電現象 と相関があるように見える。Smith たち (p. 1085; Inan の展望記事を参照のこと) は、Reuven Ramaty High Energy Solar Spectroscopic Imager (RHESSI) 衛星から のデータにおける 20 MeV までのエネルギーの一連のガンマ線現象を観測した。こ の衛星は、太陽フレアを研究するために 2002年に打ち上げられたものである。得ら れたデータは、大気中の強力な電子加速メカニズムにより、粒子が相対論的速度ま で推進されているという説明を支持するものである。(Wt) 【訳注】sprite については、以下に判りやすい説明がある。 http://pat.geophys.tohoku.ac.jp/~thermo/sprites/whatissprite.htm
Terrestrial Gamma-Ray Flashes Observed up to 20 MeV
p. 1085-1088.
ATMOSPHERIC SCIENCE:
Gamma Rays Made on Earth

p. 1054-1055.

変化に富むヒトの遺伝的解釈(A Rainbow of Human Variation)

DNA配列の個人差が、ヒトの多様性の遺伝的な基礎になっている。Hinds たち(p. 1072; Dusterによる政策フォーラム記事, および Altshuler と Clarkによる展望 記事を参照)は、71人の個人それぞれについて得られた、158万個の遺伝子型付けさ れた単一ヌクレオチド多形からなる入手可能な大量のヒトの遺伝的変異データにつ いて記述している。彼らは、まず、3つのヒト集団内および集団間の変異の構造を特 徴づけ、このデータを利用して複雑な形質についての遺伝的基盤を明らかにしよう としている。この結果は、ヒトの多様性を説明する、将来の詳細なハプロタイプ地 図に向けた最初の試みとなるであろう。(Ej,hE)
Whole-Genome Patterns of Common DNA Variation in Three Human Populations
p. 1072-1079.
MEDICINE:
Enhanced: Race and Reification in Science

p. 1050-1051.
GENETICS:
Harvesting Medical Information from the Human Family Tree

p. 1052-1053.

葛藤、エラー、意思決定のモデル化(Modeling Conflict, Error, and Decision-Making)

我々は、常に多様な情報を統合しながら決定を下している(Ridderinkhofとvan den Wildenbergによる展望記事参照)。前側帯皮質 (anterior cingulate cortex:ACC) とその近傍領域は、ゴール志向の行動をモニターし制御しているが、エラーが生じ たときや、与えられた複数の応答が互いに矛盾することをどのようにして知るのか は良く分かってない。BrownとBraver(p. 1118)は、ACCがどうやって誤りらしさを予 測するかについてのコンピュータモデルを開発し、与えられた条件下での応答が、 その条件下で知覚された誤りらしさに比例するようにした。Machensたち(p. 1121) は、時間間隔のある2つの刺激からなる決定作業課題について研究した。それは、対 象者がまず初期刺激を知覚し、ワーキングメモリーに保持しておいて、それを第2の 刺激と比較して意思決定するという課題である。この課題を解決できる単純な機構 モデルによって、神経機構と行動現象の間の橋渡しとなりうる検証可能な機構アー キテクチャが示唆されたことになる。(Ej,hE)
NEUROSCIENCE:
Adaptive Coding

p. 1059-1060.
Learned Predictions of Error Likelihood in the Anterior Cingulate Cortex
p. 1118-1121.

炎症部位でのプリオン(Prions at Sites of Inflammation)

ウシ海綿状脳症("狂牛"病)などのいわゆるプリオン病は、脳内に蓄積する感染性 タンパク質(プリオン)により生ずると考えられている。そのため、公衆衛生を守 る目的で、神経器官およびリンパ様器官は、食物連鎖から取り除かれている。しか しながら、炎症性症状のもとでは、免疫細胞はリンパ様器官にはとどまらない。こ れは、炎症がプリオンの組織親和性を変化させる可能性のあることを示唆するもの である。Heikenwalderたち(p. 1107、2005年1月20日にオンラインで発行)は、プ リオン病のマウスモデルにおいて、肝臓、膵臓、または腎臓の炎症を引き起こす症 状が、プリオンに感染した免疫細胞の浸潤を介して、罹患器官内に、高レベルのプ リオン感染性の蓄積を実際に引き起こすことができることを報告した。プリオンに 感染した家畜動物が進行中の炎症を有している場合に、この知見は、プリオンによ る生物学的安全性に広範な影響を及ぼすものになる。(NF)
Flexible Control of Mutual Inhibition: A Neural Model of Two-Interval Discrimination
p. 1121-1124.

ゴキブリ吸引物質(The Attractive Cockroach)

ゴキブリがいやがられるには十分な理由がある。というのも、ゴキブリは、病原体 の運び屋であり、そしてアレルギー疾患の主要な原因の一つでもあるからであ る。Nojimaたち(p. 1104;Pennisiによるニュース記事を参照)は、チャバネゴキ ブリ(Blatella germanica)由来の性フェロモンを明らかにし、害虫コントロール の新しいツールを提供することができることを示した。このフェロモン(チャバネ ゴキブリキノン、blattelaquinone)は、成体メスゴキブリから精製され、そしてゲ ンチシルキノンイソヴァレレート(gentisyl quinoneisovalerate)と特定された。 ゴキブリに悩まされている養豚場での実地試験では、成体オスが合成フェロモンを 散布された捕獲器に引き寄せられたが、若虫や成体メスは引き寄せられなかっ た。(NF,hE)
Chronic Lymphocytic Inflammation Specifies the Organ Tropism of Prions
p. 1107-1110.

パターン化のルーツ(The Roots of Patterning)

シロイヌナズナにおいて、根毛は、きちんと配置された毛からなるきわめて組織的 なfilesとして、整然としたパターンを形成しながら、伸びていく根の上に成長す る。一組の転写因子が、側方抑制に応答して、根細胞の運命を管理している。Kwak たち(p.1111、2004年12月23日にオンラインで発行)はここで、SCRAMBLEDと名付け られた遺伝子を同定した。この遺伝子は、全体的な転写反応の制御因子として機能 すると思われる推定受容体様キナーゼタンパク質をコードする。Scrambledにより、 表皮細胞がその位置を読みとり、そして適切な細胞型パターンを確立するように発 生することが可能になるのである。(NF)
Identification of the Sex Pheromone of the German Cockroach, Blattella germanica
p. 1104-1106.

有毛細胞の細胞周期の維持(Keeping Hair Cells Cycling)

哺乳類の耳では、聞き取りやバランス維持に決定的な役割を果たす有毛細胞が、生 涯の初期に増殖を止め、分化してしまう。つまり、有毛細胞のその後の損傷によっ て引き起こされる聴覚の損失は回復できないのである。Sageたちはこのたび、細胞 周期出口を制御できる網膜芽細胞腫タンパク質ファミリーのメンバーの1つの発現を 遺伝子操作することによって、マウスにおける増殖と分化の関係を解析した(2005年 1月13日にオンラインで発行されたp. 1114; またTaylorとForgeによる展望記事参照 のこと)。この関係する細胞芽細胞腫タンパク質が非存在である条件下では、内耳の 有毛細胞は分化するが、なお増殖し続ける。この効果が一生のさらに後になるまで 延長できるかどうかを決定するには、さらなる研究が必要である。(KF,hE)
Positional Signaling Mediated by a Receptor-like Kinase in Arabidopsis
p. 1111-1113.

塩基の交換(Trading Bases)

シチジン脱アミノ酵素の核酸への作用と、それに引き続いて生じる破壊の修復に よって、塩基対修飾、すなわちコーディング配列の「編集」がもたらされる。この プロセスは、免疫グロブリン座位の体細胞性変異やクラス・スイッチングの場合の ように、有利な結果をもたらしうる。レトロウイルスのゲノムにとっては、しか し、同様の細胞内編集酵素がウイルスの複製にとって有害であることもあるので、 それらウイルスはこうした宿主タンパク質の活性に対抗する機構を進化させてき た。TurelliとTronoは、これら宿主防御の異なったコンテクストにおけるシチジン 脱アミノ酵素のさまざまな活性の進化と関係についてレビューしている(p. 1061)。(KF)
Proliferation of Functional Hair Cells in Vivo in the Absence of the Retinoblastoma Protein
p. 1114-1118.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY:
Life After Deaf for Hair Cells?

p. 1056-1058.

流れをもつゴルジン(Golgin with the Flow)

ゴルジ体を介しての輸送の機構に関しては、多くの議論がある。ゴルジ体とは、分 泌性の膜タンパク質の修飾とパッケージングに関与する平たい膜偏平嚢(membrane cisternae)が重層した構造をもつ。Malsamたちは、ゴルジン(golgin)として知られ るゴルジ小胞を運ぶタンパク質の部分母集団(subpopulations)を分離しそれを特徴 づけることができる生化学的アプローチを開発した(p. 1095)。ゴルジ小胞を単離す るための親和性リガンドとしてゴルジンひもを用い、さらなる解析によって、ゴル ジ体における異なった流れのパターンを変調するらしい2つの部分母集団の存在が明 らかにされた。ゴルジ体を介する流れのパターンが、ゴルジ複合体内における翻訳 後修飾の性質と程度を決定し、それによって細胞表面の化学的フィンガープリント を決定しているのである。(KF,hE)
Editing at the Crossroad of Innate and Adaptive Immunity
p. 1061-1065.

Aktに加わる(Getting in on the Akt)

Akt/タンパク質リン酸化酵素B(PKB)は、ヒトの多くの癌において制御がはずれてい る。Sarbassovたちは、その活性化を起動する酵素を、ショウジョウバエとヒトの細 胞で同定した(p. 1098)。細胞質タンパク質rictorとの会合があると、細胞質リン酸 化酵素のラパマイシンの哺乳類標的(mTOR)はAkt/PKBの決定的な疎水性モチーフをリ ン酸化する。この修飾はAkt/PKBの完全な活性化と、それに引き続いての細胞生存の 制御にとって必要とされるのである。これとは対照的に、mTORが別の細胞質タンパ ク質raptorと会合しても、Akt/PKBは標的にならず、薬剤ラパマイシンに感受性をも つ。mTORの発現の減少あるいはrictorによってAkt/PKB活性は遮断されたが、これは この複合体が薬剤開発のための癌細胞中の効率的標的として役に立つことを示唆す るものである。(KF)
Golgin Tethers Define Subpopulations of COPI Vesicles
p. 1095-1098.

長命な骨髄細胞前駆体(Long-Lived Bone Marrow Precursors)

造血性幹細胞(HSCs)は、免疫系の細胞を含む血液のすべての細胞のもとになってい る。これらの細胞の量は、増殖によってだけではなく、発生中の細胞がアポトーシ スすなわちプログラム細胞死を経るかどうかによっても決定される。Opfermanたち は、MCL-1がHSCsにおけるこの細胞死の決定的な制御装置であることを示してい る(p. 1101)。MCL-1は、アポトーシスを引き起こすタンパク質BAXとBAKの活性化を 妨げる抗アポトーシス因子である。マウスにおけるMCL-1遺伝子の条件的欠失 は、HSCsの損失を引き起こした。MCL-1を欠く細胞を条件的ノックアウト動物から単 離し、試験管内で培養すると、幹細胞因子が骨髄細胞元祖の生存を促進することを 許すためにMCL-1が必要となった。(KF)
Phosphorylation and Regulation of Akt/PKB by the Rictor-mTOR Complex
p. 1098-1101.

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