AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 28, 2005, Vol.307


ぶつかったはずみであなたのパートナーに!(Bumping into Your Partner-to-Be)

冥王星とカロン(訳注*)は、大部分の惑星が存在する軌道面に対し大きく傾き、か つ、ときおり海王星の軌道の内側にまで入り込む細長い軌道で太陽の周りを回って いる。冥王星とカロンの系は小さく(両天体とも、地球の月よりも小さい)、そして 異常な軌道を回っているが、地球と月との系と幾つかの類似性を共有している。特 に、大きな角運動量を有しているということがある。Canup(p.546) は、1000 km サ イズの天体間の衝突として、冥王星とカロンの系の形成をモデル化した。カロンは 未分化の天体同士がかすめるような形で衝突してできたもので、母天体が破壊され ず保存された衛星として形成されたと考えられることを見いだした。これらのシ ミュレーションにより、多くの衛星は衝突により形成され、そしてカイパーベルト における衝突は、初期の太陽系では、比較的一般的であった可能性を示唆してい る。(Wt, Ej, nk)
【訳注】冥王星と冥王星の衛星であるカロンについては、以下の国立天文台のホー ムページが参考になります。
http://www.starclick.ne.jp/backnumber/1999Aut/nao/nao.html#anchor1095117
また、冥王星・カロン・カイパーベルトについては、千葉学芸高等学校のホーム ページにもたいへんわかりやすく記載されています。ご参考まで。 http://www.cgh.ed.jp/TNPJP/nineplanets/pluto.html
A Giant Impact Origin of Pluto-Charon
p. 546-550.

量子ドットの結合による可視化(Imaging by Connecting with Dots)

生物学での可視化において、化学色素がコントラストを上げるために長い間用いら れてきたが、その速い退色性と発光スペクトルの可変性の欠如により研究が限られ ていた。量子ドットとしても知られている半導体ナノ粒子は極めて安定であり、粒 径や組成を変えることで容易に発光スペクトルを変えることが出来る。しかしなが ら、広範囲での利用にはin vitroやin vivoで用いるための粒子の合成面や溶解性の 向上、及び機能付与の面で多くの技術開発が必要である。Michaletたち(p.538;表 紙も参照)は、生物学的課題に向けて量子ドットを作ったり、応用するさいの現在の 技術水準に関してレビューしている。(KU)
Quantum Dots for Live Cells, in Vivo Imaging, and Diagnostics
p. 538-544.

電子が暗闇を照らす(Electrons Light the Darkness)

分子が光を吸収すると、過剰エネルギーを何らかの方法で散らす必要がある。蛍光 物質の場合には、この過剰エネルギーの殆んどは単にフォトンとして再び放射され る。それ以外では、分子は結合伸縮や結合の切断といった一連の無放射プロセス か、或いは電子構造の変化をこうむり、形成されたこの種の中間体は「暗 闇(dark)」状態と呼ばれている。Srinivasanたち(p. 558)は時間分解電子線回折 を用いて、ベンズアルデヒドと幾つかのピリジン誘導体の光励起後に形成される過 渡的な暗黒状態の構造を調べた。ベンズアルデヒドにおいては、結合の切断と一重 項-三重項遷移の競合反応が識別できた。ピリジン誘導体の研究においては、ジメチ ルピリジンでは局在化した振動へとエネルギートランスファーするのに、ピリジン やメチルピリジンの緩和過程においては時間的、空間的なC−N結合の切断が生じて いることが明らかになった。(KU,Ej)
Dark Structures in Molecular Radiationless Transitions Determined by Ultrafast Diffraction
p. 558-563.

反応速度の再現(Recovering Rates)

触媒作用における目標の一つは、複合体の反応速度を量子化学的計算から再現する ことである。Honkalaたち(p. 555)は密度関数理論を用いて、ナノサイズのルテニウ ム触媒粒子上でのアンモニア合成反応の速度を計算した。その著者達の計算では、 実験に基づく入力データとしては粒子径の分布のみを用いて、速度律速の N2の解離ステップを促進する反応ステップのサイト数を推定した。計算 から求められた反応速度は、320℃から440℃の温度範囲では、マグネシウムアルミニ ウムスピネルに担持されたルテニウムナノ粒子上でのアンモニア合成に関する実験 データと3〜20のファクター内で一致した。活性化エネルギーの変化と表面被覆 率(surface coverage)の間で補い合った結果、最終的な反応速度は、いくつかの素 反応段階での(これらの)絶対誤差には、敏感ではなくなっている。(KU, Ej,ok)
Ammonia Synthesis from First-Principles Calculations
p. 555-558.

火星の大気の発光現象(Martian Glow)

Mars Express惑星探査機に搭載された赤外紫外スペクトロメータ(SPICAM)は、火星 の表面から70キロメートルの高度の大気中から、20キロメートルの厚さの球殻に相 当する亜酸化窒素 (NO) に対応する紫外光を検出した。Bertaux たち(p. 566) は、 このNOの濃度は、発光量で判断する限り冬の夜の南極において最高に達する。この 発光現象は太陽に照らされていない領域で起きる夜光である。とすると、昼側の大 気から太陽光で光解離したO2, CO2, およびN2 からNOが合成されたに違いない。光分解されたNとO原子は夜側に運ばれ、低高度で NOが合成されるのだろう。NOの発光が、冬の南極で最大であると言うことは、冬の 南極において、地表の低温によって大気の連続下降流が生じていることを示してい る。(Ej,nk,tk)
Nightglow in the Upper Atmosphere of Mars and Implications for Atmospheric Transport
p. 566-569.

種の多様性と農業の対決(Farming-Biodiversity Face-Off)

地球上での生物種存続の最大の脅威が農業であることは既に解っている。今後の50 年間で食糧需要が2〜3倍に達すると予測されているため、この脅威は大きくなる方 向に向かっている。農業食糧生産を伸ばし、かつ、種の多様性を保つ方法として、 2つの異なる方法が提案されている。一つは野生生物と共存可能な農業と、別のも う一つは、高収量の農業によって土地を有効利用することである。Green たち(p. 550, 23 December 2004のオンライン出版参照)は、種の保存にとって最適の農業と は、要求される生産物の種類と、農地での異なる種の個体数密度と収量に依存して いることを示した。発展途上国での実際の植物分類種のデータから推測すると、高 収量農業の方が種の多様性維持には有利のようだ。(Ej,hE)
Farming and the Fate of Wild Nature
p. 550-555.

コウモリの起源と多様性(Bat Origins and Diversity)

コウモリは、現存する哺乳類の種類の中で5分の1を占めているが、依然として化 石記録内での哺乳類の分類学上の目は最も少ない。化石が存在する場所では、化石 はしばしば1本の歯のみであり、それでは種を識別することや分岐した年代や地理的 分布を解明することが困難である。Teelingたち(p.580;Simmonsによる展望記事参 照)は、 すべてのコウモリ科の代表種から同義遺伝子(multiple genes)の配列を解 析し(sequenced)、世界で最小の哺乳動物、Craseonycteris thonglongaiの系統発生 の位置を解明すると同時に、Chiroptera目から2つの亜目と4つの超 科(superfamilies)に分類した系統(phylogeny)を導いた。4つのミクロコウモリの系 列(lineages)は、ローラシア大陸おいて新生代第三紀の昆虫の多様性がもっとも ピークに達した頃の5200万年前から5000万年前に起源を持っていた。この分析で は、コウモリの化石記録の61%ほどがまだ見つかっていないことも示唆してい る。(TO)
A Molecular Phylogeny for Bats Illuminates Biogeography and the Fossil Record
p. 580-584.
EVOLUTION:
Enhanced: An Eocene Big Bang for Bats

p. 527-528.

ZmEA1が誘導してくれる(Let ZmEA Guide You)

顕花植物においては、花粉粒子から雌性配偶体への不動性精子細胞の通り道を誘導 する花粉管を通って、不動性精子細胞が卵に向けて輸送される。Martonたち(p. 573)はここで、花粉管を誘導すると思われるシグナルの一つを同定した。トウモロ コシを研究する過程において、94個アミノ酸からなる卵装置-由来のタンパク 質、ZmEA1が花粉管誘導の最終段階の道筋を照らし出していることが見いだされ た。ZmEA1遺伝子は卵装置中で発現し、タンパク質は、受精がうまくいくために必要 とされる短射程のシグナルとして作用した。受精後、ZmEA1の発現は急速にダウンレ ギュレーションされた。(NF)
Micropylar Pollen Tube Guidance by Egg Apparatus 1 of Maize
p. 573-576.

巨大な種子から微小な種子まで(Seeds Great and Small)

種子の重さは、ラン種子のごとき塵のような微小のものから、オオミヤシ(double coconut)のような20 kgもある巨大なものまで10桁以上ものばらつき(変動幅)があ る。13000種以上の植物種別種子重量データを利用して、Molesたち(p. 576) は被子 植物の出現から今日まで、種子の重さが進化とともにどのように拡散してきたか、 その歴史を追跡した。今日の種子重量のばらつきをもたらした最大の要因を一つ挙 げるとすれば、被子植物と裸子植物の拡散であり、もっとも広い分散を示す種 は、Celastraceae(ニシキギ科)とParnassiaceae(ウメバチソウ科)である。種子 の大きさの変化は、分散症候群や緯度による分散よりは、植物の生長形態と関連が 強い。(Ej,hE)
A Brief History of Seed Size
p. 576-580.

立ち作業の報酬(The Rewards of a Stand-Up Routine)

ジョギングなどの目的のある運動が肥満のリスクを軽減することはよく知られてい るが、 日常生活における定型的な作業の間で、個人により姿勢(posture)や体の動 きが違うことで、体重に与える影響があるのかどうかは明白でない。精密で感度の 高い技術を用いて、Levineたち(p.584; Ravussinによる展望記事参照)は、20人のボ ランティアの姿勢や体の位置を10日間に渡り継続して測定した。ボランティア全員 が「カウチポテト」と自己申告していたが、10名は痩せており他の10名は中程度に 肥満であった。痩せた人は、肥った人に比べて、平均して毎日2時間以上長く立ち上 がって動いていた。このことは、 毎日の腰掛時間を減らすような立ち居振る舞いの ちょっとした変化でさえ、体重増加を防止に役立つかもしれないという考えを援護 している。(TO, Ej)
【訳注】カウチポテト:ポテトチップを食べながらテレビを実によく見ている人の こと
Interindividual Variation in Posture Allocation: Possible Role in Human Obesity
p. 584-586.
PHYSIOLOGY:
A NEAT Way to Control Weight?

p. 530-531.

自己免疫疾患の主眼点(The Nuts and Bolts of an Autoimmune Disorder)

全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患は、自身の身体の構成成分に対 する免疫寛容が異常を起こすために発生するものであり、多様な環境的影響および 遺伝的影響が集約した結果を示している。それでもやはり、免疫系の特異的な制御 経路が混乱を生じているようである。McGahaたち(p. 590)は、SLEを発症しやすい 性質を有し、そして特定の阻害性抗体-結合受容体の発現レベルが低下している遺伝 的に特徴的なマウス系統を研究した。これらの動物由来の骨髄を操作して、受容体 遺伝子を発現させたところ、B細胞上の受容体レベルが部分的に回復することによ り、疾患が予防された。このように、多数の因子が関与するという状況の中でも、 一つの制御経路を変えることで、自己免疫性病態の進行をかなり抑えることが出来 る。(NF)
Restoration of Tolerance in Lupus by Targeted Inhibitory Receptor Expression
p. 590-593.

自食作用と抗原提示(Autophagy and Antigen Presentation)

すべての溶出された主要組織適合複合体(MHC)クラスIIの天然リガンドのうちの 1/3は、内在性のサイトゾルタンパク質、または核タンパク質に由来する。しかしな がら、その基礎となる経路を特定することは困難であった。ヒト腫瘍形成性 Epstein-Barrウィルス(EBV)のドミナントCD4+ T細胞抗原であるEBNA1は、すべて のEBV-関連性悪性腫瘍に存在するウィルス抗原である。Paludanたち(p. 593、2004 年12月9日のオンライン出版)は、ストレスを受けた際に機能を失ったサイトゾル構 成要素を細胞が分解するプロセスである自食作用が、どのようにMHCクラスIIのプロ セッシングと内在性EBNA1の提示を引き起こすかを記述している。このウィルスタン パク質は自食作用によりリソソーム中に取り込まれ、そこでは一連のリソソームプ ロテアーゼが EBNA1の分解に寄与している。さらに、自食作用の阻害によ り、EBNA1-特異的CD4+ T細胞クローンによる標的認識が低下した。(NF)
Endogenous MHC Class II Processing of a Viral Nuclear Antigen After Autophagy
p. 593-596.

塩溶液のフォトエレクトロン分光分析(Photoelectron Spectroscopy of Salt Solutions)

エアロゾル塩溶液滴の反応性に関する研究、および、分子動力学シミュレーション によると、陰イオンの濃度は水溶液-蒸気境界で、高くなっているらしい。振動数和 合成法のようなスペクトルプローブを使うと、表面近傍とバルク領域の区別を数量 化することができるが、この測定法では表面近傍全体を統合しかねない。Ghosalた ち(p. 563)はx線フォトエレクトロン分光分析を行った。この手法では、通常、高真 空を必要とするが、彼らは大気圧近傍で、しかも、塩結晶上に出来たKBrやKI溶液を 水の蒸気圧の関数として潮解点まで測定した。彼らは入力フォトンエネルギーを変 化させることでフォトエレクトロンの動力学的エネルギーを変化させ、界面からの 深さの関数として、イオン濃度プロファイルを作った。これによって界面に陰イオ ンが濃集すること、および、分極の大きなI-陰イオンほど、この傾向が強くなるこ とを観察した。(Ej,hE)
Electron Spectroscopy of Aqueous Solution Interfaces Reveals Surface Enhancement of Halides
p. 563-566.

デザインできる水素膜(Designer Hydrogen Membranes)

水素を化学的供給原料あるいは燃料として用いる際には、精製しなければならない 場合が多い。パラジウムをベースとした金属膜などがそうした際に役立つのだが、 それらはイオウなどの不純物によって汚されがちである。パラジウム合金は、高い フラックスと選択性を保ちつつ汚染に抵抗しうるのだが、そうした合金系をデザイ ンするにはコストも時間もかかる。Kamakotiたちは、ab initio の計算と粗いモデ ル化を用いて、一連の合金に対する水素フラックスのふるまいを予測している(p. 569)。それらモデルについての入力パラメータは、バルク結晶構造だけである。一 連のパラジウム銅合金について、彼らは、厚い箔上での実験による測定で確認され たように、体心立方構造および面心立方構造のどちらについてもフラックスを予測 することができた。(KF)
Prediction of Hydrogen Flux Through Sulfur-Tolerant Binary Alloy Membranes
p. 569-573.

DNAモーターの動きを見る(Watching a DNA Motor in Action)

DNA転位酵素とは、アデノシン三リン酸(ATP)依存的な分子モーターであり、染色体 分割やDNA組換え、DNA搬出などのプロセスの際にDNAを急速に移動させる。FtsKは膜 結合型転位酵素であって、細胞分裂の際に染色体分離を調整する。とくにそれは、 複製の際に生じる環状DNA二量体の分解に関与し、それをするために、difと名付け られた組換え部位に向かって移動する必要がある。Peaseたちは、DNAに沿っての FtsKの移動を単一分子法によって直接測定した(p. 586)。FtsKはdifに向かって長い 距離を毎秒5キロ塩基の速度で、60ピコ・ニュートンにもなる力に抗して移動してい たが、局所的に、解離なしに向きを逆に変えることもあった。FtsKは2つのモーター から構成されていて、一度にはそのうち一方のみが活動しているらしい。(KF)
Sequence-Directed DNA Translocation by Purified FtsK
p. 586-590.

ニューロンを分化させない方法(How Not to Differentiate a Neuron)

ニューロン前駆細胞と非ニューロン性細胞が共通にもっているものは何であろう か。どちらも、分化したニューロンに典型的な遺伝子を発現しないのである。Yeoた ちはこのたび、それ以外の共通点、すなわちある種のSCPホスファターゼの発現を明 らかにしている(p. 596)。このSCPホスファターゼはニューロン性遺伝子の発現を抑 制する役割を果たしており、もしかすると、非ニューロン性分化プログラムを安定 化させたり、あるいは前駆体細胞が作用するよう呼び出されるのを食い止めている のであろう。SCPホスファターゼ活性の抑制は、ニューロンの分化を増加させ た。SCPホスファターゼの活性は、ニューロン前駆細胞および非ニューロン性細胞に おけるニューロン性遺伝子を全体的に沈黙させるよう作用しているのである。(KF)
Small CTD Phosphatases Function in Silencing Neuronal Gene Expression
p. 596-600.

結局、さほど違っていない(Not So Different After All)

Melanopsinとは、概日性行動や瞳孔狭窄の制御など、脊椎動物における光への非視 覚的応答を仲介するために必要な、非定型のオプシン・タンパク質である。Pandaた ちは、melanopsinがアフリカツメガエル(Xenopus oocytes)において発現すると、光 への応答として無脊椎動物オプシンに特徴的なヘテロ三量体Gタンパク質シグナル伝 達経路を活性化させる、と報告している(p. 600)。Melanopsinはまた、哺乳類の TRPCチャネルを活性化させることもできたが、ショウジョウバエにおけるTRPCチャ ネルの対応物は光伝達チャネルとして働いている。つまり、無脊椎動物のシグナル 伝達系は、哺乳類の網膜に保存されてきたらしい。(KF)
Illumination of the Melanopsin Signaling Pathway
p. 600-604.

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