AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 14, 2004, Vol.307


籠に入れられた気体(Caged Gas)

物質内包フラーレンは、その籠の中にフラーレンの合成過程で捕捉されたゲスト原 子、あるいは分子を含んでいる。Komatsu たち (p.238) は、大きな開口(13員環)を 含む C60誘導体を、一連の合成経路で閉じることが出来ることを示し ている。この方法により、彼らは、H2を捕捉したC60を高 い収率で作り出すことができた。(Wt)
Encapsulation of Molecular Hydrogen in Fullerene C60 by Organic Synthesis
p. 238-240.

TBの防御に対抗する新兵器(New Tool for the TB Armory)

HIVの流行と密接に関連している結核(Tuberculosis (TB))被害の拡大に対抗するた めの新薬に対する切迫した必要性がある。Andries たち(p. 223, 9 December 2004 オンライン出版、表紙、およびCole and Alzariによる展望記事も参照)は、最近特 許化され、R207910として知られている一連のdiarylquinolinesを基に、リード化合 物を開発した。この化合物は結核菌を含むいくつかの放線菌種に適した選択性と強 い効果を持っており、通常利用されている薬剤への単剤耐性又は多剤耐性を獲得し た結核菌に対する活性も保持している。他の抗放線菌薬剤と異なり、R207910はアデ ノシン三リン酸合成酵素を標的とする。既に治療に利用されているイソニアジド,リ ファンピシン、あるいは ピラジナミドのような薬剤と比較して、R207910では、す でに確立した感染マウスモデルにおける放線菌攻撃が強化されている。この新薬候 補は結核治療にたった2ヶ月しか要しないと期待されている。(Ej,hE)
A Diarylquinoline Drug Active on the ATP Synthase of Mycobacterium tuberculosis
p. 223-227.
MICROBIOLOGY:
Enhanced: TB--A New Target, a New Drug

p. 214-215.

テーマの変遷(Variation on a Theme)

セマフォリン(semaphorin)とプレキシン-ニューロピリン共受容 体(plexin-neuropilin coreceptors)は軸索の案内役として確立している。もっと最 近になって、これらが血管の発生に関わっているのではないかと思われている。Gu たち(p. 265, published online 18 November 2004)は、セマフォリン 3E(semaphorin 3E (Sema3E))は、ニューロピリンを補助受容体として必要とせず、 直接plexin-D1発現細胞と相互作用し、マウスの脈管系のパターン形成をすると報告 している。plexin-D1を発現している血管内皮細胞上のSema3Eをもつ体節の反発 性(repulsive)の効果がニューロピリンの非存在下で観察されたことから、結局 ニューロピリンは、哺乳類の脈管形成に必須のセマフォリン共受容体ではないこと になる。(Ej,hE)
Semaphorin 3E and Plexin-D1 Control Vascular Pattern Independently of Neuropilins
p. 265-268.

スピンスイッチ・ナノマグネット(Spin Switching Nanomagnets)

磁性材料の中への偏向スピン電流の注入によって磁気モーメントに歳差運動となる トルクを発生させることができる。適切な条件の下で、磁気モーメントを反転させ ることができる。このことは、電気的に制御できる磁気メモリ実現の可能性を与え ている。しかしながら、この歳差運動とスイッチングのダイナミクスは詳しくはわ かっていなかった。今回Kirivortovたち(p. 228; Covington による展望記事を参 照)は、これらのプロセスを観測するための時間領域に関する技術を紹介した。磁気 ナノピラー(ナノサイズの柱)サンドイッチ構造を用いて、彼らはこの歳差運動と 磁気反転プロセスが偏向スピン注入によって駆動されるコヒーレント(干渉性)・ プロセスであることを示している。(hk, Ej)
Time-Domain Measurements of Nanomagnet Dynamics Driven by Spin-Transfer Torques
p. 228-231.
APPLIED PHYSICS:
A Ringing Confirmation of Spintronics Theory

p. 215-216.

超原子の化学を調べる(Tuning Superatom Chemistry)

化学反応性のほとんどは、個々の原子に電子の閉殻を与えるような結合配列の安定 化による駆動力によるものと理解されている。小さな原子のクラスターにおいて は、いわゆる「ジェリウム(jellium)」モデルにより、安定な超原子クラスターが異な る数の価電子(このような殻の一つは40個の電子を持っている)でもって形成されて いることが予測されている。Bergeronたち(p. 231)は、ヨウ化アルミニウムがこの ような超原子を形成していることを示す最近の研究を報告している。彼らは偶数の ヨウ素原子を持ったAl 13クラスターアニオンがハロゲンと同じような 安定性を持つこと、奇数のヨウ素原子を持ったAl 14クラスターアニオ ンがアルカリ土類と似た安定性を持つことを示している。このような特別な(クラ スター)族の様子は、他の超原子系でもありうることを示唆している。(KU,Ej,Ok)
Al Cluster Superatoms as Halogens in Polyhalides and as Alkaline Earths in Iodide Salts
p. 231-235.

穏やかなラジカル(Tamed Radical)

ラジカル、すなわち結合シェルから1個の電子が失われた原子を含む化合物は、多く の化学反応において短寿命の中間体として作用している。一連の酸化酵素は活性サ イトにある遷移金属への配位により酸素に不対電子のあるフェノキ シ(C6H5O)ラジカルを安定化する。同じようなメカニズム が、窒素に不対電子を持つラジカルにも当てはまるかどうかは疑問として残ってい た。Buettnerたち(p. 235;Kaimによる展望記事参照)は、窒素に不対電子を持つアミ ニル(NRR)ラジカルを配位したレニウム錯体を合成した。この錯体は固体として、 及び室温下での溶液中で安定であった。分光学や理論面、及び反応性の測定から、 電子を失ったのは中心金属ではなく窒素であり、レニウムによるラジカル安定化と 対応する構造を支持している。 (KU,Nk)
A Stable Aminyl Radical Metal Complex
p. 235-238.
CHEMISTRY:
Odd Electron on Nitrogen: A Metal-Stabilized Aminyl Radical

p. 216-217.

解明された星間減光曲線のこぶ(Resolved Bump)

天文学者たちは星間媒質中のダストのスペクトルにおける2175オングストロームで の吸光帯(或いはバンプ)を繰り返し報告してきた。この吸光帯が至る所で見出され ていることから考えると、このこぶを生み出すまだ未確認の物質は、星間空間内で 最も豊富に存在する種類のものに違いない。 Bradleyたち(p.244)は地球の成層圏で捕集した惑星間ダスト粒子のスペクトル測定 から、2175オングストロームのバンプ吸収帯の原因として有機性炭素と非晶質ケイ 酸塩に富んだ物質を同定した。(KU,Nk)
An Astronomical 2175 Å Feature in Interplanetary Dust Particles
p. 244-247.

アホウドリの生活(An Albatross's Life)

アホウドリは、繁殖期の間に彼らのコロニーから南洋を巡る非常に広い範囲で採餌 旅行をすることでよく知られている。Croxallたち(p.249)は、18ヶ月の期間に22匹 の灰色アホウドリの肢に取り付けたデータ計測器を使って、アホウドリの南極周囲 を巡る壮大な渡りの証拠を示し、こうした旅程の基礎となる構造と戦略を明らかに している。渡りの戦略は個々の鳥で異なっていた。 ある鳥は定期的に地球を周回 し、一 方他の鳥は繁殖場所(breeding ground)の近くに留まったり、あるいはイ ンド洋の領域に渡っていった。アホウドリは、遠洋に住む海鳥の中でもっとも絶滅 の危機に瀕した鳥に含まれ、これらのデータは保護が最も必要とされる危機的な居 住環境を明らかにするために役立つ。(TO)
Global Circumnavigations: Tracking Year-Round Ranges of Nonbreeding Albatrosses
p. 249-250.

レチノイン酸と心臓の発生(Retinoic Acid and Heart Development)

ゼブラフィッシュの心臓などのモデルシステムを使用して、脊椎動物における心臓 システムの正常な発生と機能を解明し、心臓損傷および疾患についての我々の理解 を促進することができる。レチノイン酸は、最終的な心筋の分化、心臓のルーピン グ、および心室の成熟と成長を含む心臓発生の最終段階における重要な分子であ る。ゼブラフィッシュの遺伝学と発生学を使用して、Keeganたち(p. 247)はここ で、心臓の発生初期においても、レチノイン酸が役割を果たしていることを示して いる。レチノイン酸シグナル伝達は、多能性細胞の集まりの中から必要数の心臓前 駆細胞を選択することと関連しており、器官の大きさは、レチノイン酸により媒介 される初期心臓前駆細胞の集まりの限定により調節される。(NF, hE)
Retinoic Acid Signaling Restricts the Cardiac Progenitor Pool
p. 247-249.

腸管抗原サンプリングと宿主防御(Gut Antigen Sampling and Host Defense)

免疫システムの細胞と、腸管腔とその内容物との接触界面である粘膜バリアとの間 での複雑な相互作用が、徐々に進化していった。この好例は特殊化した抗原提示の 樹状細胞(DC)である。このCDは樹状突起の突出により腸管腔の内容物を"サンプリ ング"する腸管上皮の下に存在し、この突起が上皮バリアを介して伸長する。Niess たち(p. 254)は、これらの骨髄由来DCの行動と活性を調べた。このDCは経上皮的 樹状突起の突出やその食作用の活性において、ケモカイン受容体CX3CR1により制御 されている。CX3CR1が存在しない場合のDCの活性喪失が、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)に対する感受性の増大と関連しており、このことから、DCによる抗原 の経上皮的サンプリングと腸粘膜の免疫媒介性の保護との間に直接的な関連性があ ることが示唆される。(NF)
CX3CR1-Mediated Dendritic Cell Access to the Intestinal Lumen and Bacterial Clearance
p. 254-258.

抗てんかん治療薬と線虫の加齢(Anticonvulsant Medications and Aging in Worms)

ヒトの発作を治療するために使用される薬剤が、線虫(Caenorhabditiselegans)の寿 命を長くすることがわかった。Evasonたち(p. 258;Wickelgrenによるニュース記 事を参照)は、3種類の構造的に似通った抗てんかん薬、エトスクシミド、トリメタ ジオン、および3,3-ジエチル-2-ピロリジノンに暴露した成体の線虫の寿命が、ほぼ 50%増加したことを報告している。線虫における年齢に関連した退化性の変化が遅 れることに加えて、薬剤はまた、神経筋の活性といった線虫における寿命延長と関 連した行動を増加させた。薬剤は、一般的なメカニズムで神経活性と加齢の両方に 作用しており、ヒトの加齢を治療するための治療薬としての潜在的なリード化合物 を提供する可能性がある。(NF)
Anticonvulsant Medications Extend Worm Life-Span
p. 258-262.

Stat制御への別の道(Another Route to Stat Regulation)

Stat(signal transducer and activator of transcription)によって細胞表面の サイトカイン受容体(Statのリン酸化を生じさせる)から核(ここでStatは転写活 性因子として働く)へと効率的に情報伝達がなされる。Yuanたち(p.269;O'Shea た ちの展望記事も参照)は、 Stat3もまた特定のリジン残基のアセチル化によって制御 されていると報告している。Stat3は転写共活性化因子であるCBPとp300と関連して いる。これらはヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有し、in vitroでStat3 を修飾することが出来る。鍵となるリジン残基のアセチル化が、Stat3の二量体化 と、サイトカインであるオンコスタチンMの存在下での細胞内遺伝子の転写活性化に とって不可欠のように思える。アセチル化されないStat3の変異体型を発現する細胞 は遺伝子制御やオンコスタチンMによる成長促進に対して非感受性である。(Ej,hE)
Stat3 Dimerization Regulated by Reversible Acetylation of a Single Lysine Residue
p. 269-273.
CELL SIGNALING:
Stat Acetylation--A Key Facet of Cytokine Signaling?

p. 217-218.

仮説の頑健性をテストする(Testing the Strength of Hypothesis)

ある仮説は新しい結果を予想して初めて信頼されるのか、それとも単に古いデータ をまとめ上げればよいのかは、科学哲学ではしばしば論じられる問題であ る。Lipton (p. 219)は、この問題に取り組んだいくつかの試みについて概観した。 その後、仮説の既存データを整理する力よりも、その予言能力の方が重要であるの は何故か、そして如何にしてであるかという自説を述べている。 (Ej,hE,Nk)
Testing Hypotheses: Prediction and Prejudice
p. 219-221.

家路に向かって(Directions Home)

過去の堆積岩中には磁性鉱物として過去の地球磁場の特徴が保存されている。一旦 この磁場構造が分かると、堆積盆地やテクトニックプレートの位置の決定は容易で ある。Kent と Tauxe(p. 240) は、過去の堆積岩中のパレオマグネ(過去の磁気方 位)の伏角誤差を補正するモデルを開発した。このモデルを、東北アメリカとグ リーンランドの後期三畳紀(約2億年前)の2つの地溝帯の堆積盆に適用したとこ ろ、それらは引き戻されると(位置あわせにもっと複雑な場が必要だった以前とは 逆に)地球中心においた単純な双極子磁場と良く合致し、また、再構築されたプ レートは、湿潤な赤道帯領域帯が以前考えられていたより広いというモデルと合っ た。この再構成によってパンゲア大陸のこの赤道湿潤帯は今日と同じくらい広 く、100万年当たり0.6度という高速で極方向への移動があったことが判明し た。(Ej, hE, Nk,Ok)
Corrected Late Triassic Latitudes for Continents Adjacent to the North Atlantic
p. 240-244.

異なった機構による概日時計(A Clock by Another Mechanism)

概日時計は、多様な生物体が日中の明暗変化に生活を順応できるようにするのであ る。全生物体の概日時計機構として、中心の時計エレメントにおける翻訳と転写の 自己調節的フィードバックに基づいて、自発の振動あるいはリズムを生成し、維持 しているものと考えられていた。Tomitaたち(p 251)は、概日リズムを示している最 もシンプルな生物体である藍藻類には、このモデルが適用できないことを示してい る。KaiCという中心時計タンパク質のリン酸化の振動が暗い時期にも続いたが、翻 訳と転写のループがなかった。リズムの基は、KaiCのリン酸化の自己調節である。 従って、真核生物の時計モデルは、条件によって藍藻類に適用できないかもしれな い。(An)
No Transcription-Translation Feedback in Circadian Rhythm of KaiC Phosphorylation
p. 251-254.

形状と機能?(Form and Function?)

アミロイド原繊維は多様なペプチドとタンパク質の凝集によって形成される が、ア ルツハイマー病やプリオン疾病のようなタンパク質の折りたたみ障害に関与する。 今回Petkovaたち(p 262)は、アルツハイマー病に関与するβアミロイドペプチドに よって形成される原繊維の形態を原繊維の成長条件の変化によって実験的に制御で きることを示している。形態学的な差異が分子構造の特異的差に関連し、さらに前 に形成された種から原繊維を試験管内で成長させたとき、形態と分子構造の両方 が「遺伝的」な様式で自己増殖した。異なる原繊維の形態は、ニューロンの細胞培 養において有意に異なる毒性を示した。従って、アミロイド疾病において、ある種 のアミロイド形態が他の形態よりも強い病原性であることが立証されるかも知れな い。(An)
Self-Propagating, Molecular-Level Polymorphism in Alzheimer's ß-Amyloid Fibrils
p. 262-265.

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