AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 17, 2004, Vol.306


より微細なシリコンのオン・オフに向けて(Toward Smaller Silicon Switches)

トランジスターのサイズを決める重要な目安の一つは、外部電圧の変化に応じて電 流をオン・オフするデバイスのゲート領域の長さである。ゲート長は現在の所50nm 程度であるが、しかしながらデバイスを更に微細にするには今日のアーキテクチュ アをスケールダウンするだけでは作ることが出来ない。その理由としては、漏れ電 流(電流をオフ状態に切り換えることが出来ない)と容量損失という潜在的な問題が あるからである。Ieongたち(p. 2057)は、複数のゲートを用いることやゲート領域 で電荷キャリアの流れを早くする方法等ゲート長10nm以下でチップ上にトランジス ターを作る方法に関する概要を報告している。(KU)
Silicon Device Scaling to the Sub-10-nm Regime
p. 2057-2060.

光コムを用いてハイゼンベルグを欺く(Cheating Heisenberg with Optical Combs)

ハイゼンベルグの不確定性原理によれば、分光学における周波数領域方式と時 間領 域方式との選択にあたっては、トレードオフが存在する。周波数分解されたスペク トルでは、高精度でエネルギーレベルが測定できるが、そのパルスは長すぎてダイ ナミクスを直接的に測ることはできない。超短パルスでは、状態遷移における干渉 性の挙動を探知することができるが、あまりにブロードで状態エネルギーを測定す ることはできない。Marian たち (p.2063, 2004年11月18日のオンライン出版) は、 極超短パルスの特性を利用した。その極長短パルスは、実際は多くの離散的な周波 数ラインからなっている。著者たちは、周波数安定化のためにこれまでに開発して きた光コムを用いて、分光学にパルス−パルス位相安定化を適用している。Rb 原子 の研究において、彼らは(状態エネルギーに対しては)狭いコムのラインの周波数分 解能と、(干渉のダイナミックスに対しては) パルスの包絡線の時間分解能とを組み 合わせた。 加えるに、彼らは光の場によりその原子に分け与えられた運動量の測定 と修正を行っている。(Wt)
United Time-Frequency Spectroscopy for Dynamics and Global Structure
p. 2063-2068.

DNAとRNAの役割(DNA and RNA Swap Roles)

2報の論文が、複合材料の形状やパターンを作製するときと、および分子の集合体を 作る際の核酸の使用について注目している(Yanによる展望記事を参照)。DNAの断 片を大規模なパターン中に会合する様に設計し、その後でDNA断片をさらに機能化し たり、または金属粒子をコーティングすることができる。Chworosたち(p. 2068) はここで、RNAの化学的不安定性がより大きいにもかかわらず、RNAから得られた形 状およびパターンに関する大規模のライブラリを構築した。著者たちは、最初に小 型と大型のテクトイドを構築したが、このテクトイドは四角い形状の四隅に様々な 粘着性の尾部を有する様に設計された。三次元の規則的パターンと不規則的パター ンが小型と大型のテクトイド形状の混合物から形成することができる。リボソーム は、アミノ酸をメッセンジャーRNA配列により特定されたペプチド中につなぎ合わせ る、RNAおよびタンパク質からなる装置である。LiaoとSeeman(p. 2072)は、リボ ゾームが有するいくつかの翻訳能力を模したDNA装置を作製した。その装置では、装 置がセットされる方向に基づいてDNAの配列を繋ぐことができる。このデバイスの機 能に関する部分は2種の構造状態を装うことができ、そして装置が組み立てる配列と は関係のない小型のDNA断片によりプライミングされた。(NF)
MATERIALS SCIENCE:
Nucleic Acid Nanotechnology

p. 2048-2049.
Building Programmable Jigsaw Puzzles with RNA
p. 2068-2072.
Translation of DNA Signals into Polymer Assembly Instructions
p. 2072-2074.

堆積物の起源を鉄が解決する(Ironing Out Sedimentary Origins)

約38億年前と年代推定される地球上で最も古い幾つかの岩石が、グリーンランド南 西のイスアのグリーンストンベルト(Isua greenstone belt)で見つかっており、そ して関連する縞状岩石(banded rocks)がアキリア(Akilia)島において見つかってい る。炭素同位体データから、堆積環境(Sedimentary environment)の中でこれらの岩 石の幾つかは微生物が関与して形成されたこと、そしてこれは地球上で最も初期の 生物の証拠を表していることを示唆している。その岩石は堆積により作られ た(sedimentary origin)ものではないと主張する他の研究グループもある。Dauphas たち(p.2077)は、アキリア島における縞状石英-輝石岩石(quartz-pyroxenerocks)は 堆積により作られたこと、そして鉄分は熱水性鉱床から運ばれ、酸化されて、沈殿 したらしいことを示す鉄同位体データを報告する。酸化とその後の同位体分別は、 無酸素の光独立栄養細菌(anoxygenic photoautotrophic bacteria)によって生 成さ れたのかもしれない。このことはこの堆積物を最も初期の既知の生命と 結びつける ものであろう。(TO,og)
Clues from Fe Isotope Variations on the Origin of Early Archean BIFs from Greenland
p. 2077-2080.

汝の隣人を愛するのか、それとも汝自身を愛するのか(Love Thy Neighbor--or Thyself)

多くの植物において、ある植物由来の花粉は非自己の植物としか受粉することがで きず、その結果として異系交配することを、ある特定の遺伝子システムが保証して いる。しかしながら、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は自家受粉をす る。通常は自家不和合性を強制し、その結果異系交配を強いる遺伝子 が、Arabidopsisにも依然として存在するものの、それは機能しない偽遺伝子として のみ存在する。Shimizuたち(p. 2081)は、Arabidopsisの個体群全体を通じて、こ れらの対立遺伝子中に見られる配列の多様性は、活性な自家不和合性の遺伝子シス テム中で見いだされるよりも、かなり低いものであることを示した。実際、配列多 様性が非常に限定的であるため、これらの偽遺伝子についての正の選択の作用が示 唆される。この自家受粉への転換が固定されたのは、進化という観点で見れば最 近、おそらくは Arabidopsisの生息範囲が更新世の後に拡大した頃であっただろ う。ある種の生息地の範囲が拡大している最中には、自家受粉という手段はその種 にとって有用なものとなるであろう。(NF)
Darwinian Selection on a Selfing Locus
p. 2081-2084.

RNAウィルス複製複合体の初めの一歩(The Beginnings of an RNA Virus Replication Complex)

多くの植物RNAウィルスは、ウィルス性RNAゲノムの3'末端にトランスファーRNA-様 の構造を有しており、レプリカーゼを補充するために必要とされる。アルファル ファモザイクウィルスの場合には例外的であり、このウィルスの3'末端には、4 ヌ クレオチドの繰り返し配列により分断された繰り返しのヘアピン構造が含まれてい る。このような繰り返し配列はウィルスの外殻タンパク質(CP)と結合し、この相 互作用が複製に必要とされる。Guogasたち(p.2108)は、CPのN-末端RNA結合ドメイ ンに結合する39-ヌクレオチドのRNA断片の構造を決定した。2つのCPペプチドがRNA 断片中の繰り返し配列に結合し、ペプチドとRNAが一緒に折り畳まれて特定の構造を 形成する。そのような3'末端の構造形成により、レプリカーゼ酵素により認識され る立体構造が提示される可能性がある。(NF)
Cofolding Organizes Alfalfa Mosaic Virus RNA and Coat Protein for Replication
p. 2108-2111.

鉄代謝の基本(Fundamental of Iron Metabolism)

鉄代謝の制御は健康維持において重要な事柄である(Beutlerによる展望記事参 照)。Nemethたち(p. 2090,2004年10月28日のオンライン出版)は、鉄の負荷や炎症に 応じて肝臓で作られるペプチドホルモン、hepcidinが鉄輸送体のferroportinに直接 結合していることを示している。ferroportinの内部移行により、その分解が生じ、 細胞からの鉄輸送を妨げている。鉄の過負荷病はhepcidinの欠如により引き起こさ れ、貧血はhepcidinの過剰生成から生じる。細胞は二つのたんぱく質、鉄制御たん ぱく質(IRP)1と2を用いて鉄の濃度に応じて制御を行っている。IRP2を欠如したマウ スは重症の代謝欠陥となるが、IRP1を欠如したマウスでは正常であ る。Meyron-Holtzたち(p. 2087)は、生理学的な酸素レベルにおいて、IRP2を欠如し た細胞は鉄代謝の制御が出来なくなるが、一方組織培養で通常用いられている高い 酸素レベルで培養された細胞では、IRP1がIRP2の代わりの働きを行っている。(KU)
CELL BIOLOGY:
"Pumping" Iron: The Proteins

p. 2051-2053.
Hepcidin Regulates Cellular Iron Efflux by Binding to Ferroportin and Inducing Its Internalization
p. 2090-2093.
Mammalian Tissue Oxygen Levels Modulate Iron-Regulatory Protein Activities in Vivo
p. 2087-2090.

呼吸のたびに(Every Breath You Take)

ほ乳動物の首にある頚動脈小体は循環系の酸素レベルを検知して、それにしたがっ て呼吸数を調節する化学受容器である。酸素が欠乏すると、大きなコンダクタン ス−カルシウム−感受性のカリウム(BK)チャネルが抑制され、細胞の脱分極と一連 の連鎖的な応答反応を引き起こし、最終的には血液中の酸素補給を増加させ る。Williamsたち(p. 2093, 2004年11月4日のオンライン出版;HoshiとLahiriによ る展望記事参照)は、hemoxygenase-2(HO-2)が酸素センサーとして働き、BKチャネル の活性を制御していることを見出した。正常な酸素濃度において、HO−2は基質とし て酸素を用いて、重要なるチャネル活性化因子である一酸化炭素(CO)を作る。酸 素の欠乏した低酸素濃度において、HO−2の活性化とCOの生成が低下して、その結果 BKチャネルが抑制され、頚動脈小体に刺激をもたらす。(KU)
Hemoxygenase-2 Is an Oxygen Sensor for a Calcium-Sensitive Potassium Channel
p. 2093-2097.
CELL BIOLOGY:
Oxygen Sensing: It's a Gas!

p. 2050-2051.

ミトコンドリアの維持と誘発(Mitochondrial Maintenance Versus Induction)

哺乳類のミトコンドリアDNA (mtDNA)の複製は、長い間二本鎖DNAの非対称的な合成 によって起こり、D-loop領域内での複製の開始点は多数存在すると思われていた。 Fish たち (p. 2098)はmtDNA複製の開始点を同定し、そこが、細胞の定常環境状態 を維持するために優先的に利用されている場所(ヒトの細胞株(HeLa, A549, and 143B.TK-)のD-loop領域中の57位であることを発見した。もしmtDNAが除去されたり 生理学的に新しいミトコンドリアに必要となった場合、以前報告されている他の開 始点を利用する。(Ej,hE)
Discovery of a Major D-Loop Replication Origin Reveals Two Modes of Human mtDNA Synthesis
p. 2098-2101.

リン酸化への裏口(Back Door to Phosphorylation)

タンパク質のリン酸化はキナーゼ(リン酸化酵素)の触媒作用によって生じるが、 キナーゼはアデノシン 三リン酸のリン酸の部分を基質へ転移させる。Saiardi た ち(p. 2101; York and Hunterによる展望記事も参照) は、高エネルギーのシグナル 伝達分子であるイノシトールピロリン酸 (IP7) が真核生物タンパク質 へのリン酸供与体の役割を果たすことを示した。 細胞抽出物や酵母細胞中には非酵 素的な共有結合で修飾されたタンパク質が見いだされた。IP7や、この 多くの標的は多様な生物学的プロセスに関係しているため、このようなリン酸化は 細胞内シグナル伝達の一つのメカニズムを示しているものと思われる。(Ej,hE)
Phosphorylation of Proteins by Inositol Pyrophosphates
p. 2101-2105.
SIGNAL TRANSDUCTION:
Unexpected Mediators of Protein Phosphorylation

p. 2053-2055.

脳修復メカニズム(Brain Repair Mechanism)

転写因子Olig1やOlig2は配列が近似しているが、重要な標的であるオリゴデンドロ グリア細胞に対する効果は異なっている。オリゴデンドログリアは中枢神経系の重 要な神経細胞を絶縁性の髄鞘で包む役目をしている。Olig2はオリゴデンドログリア 細胞の発生の特異化に重要な役目を果たしている。Arnettたち(p. 2111) は、今回 Olig1が、脳の発生には寄与せず、修復に寄与していることを示した。Olig1を欠く マウスでは、多発性硬化症で生じる脱髄鞘の脳傷害の修復が出来なかった。(Ej,hE)
bHLH Transcription Factor Olig1 Is Required to Repair Demyelinated Lesions in the CNS
p. 2111-2115.

不活性結合するオキソ(Nobly Bound Oxo Spec

燃料電池や燃焼の制御、その他の酸化反応に用いられる貴金属表面の触媒作用にお いては、末端オキソ(terminal oxo)、すなわち金属に結合した一個の酸素原子が、 中間物として通常引き合いにだされる。しかし、化学者たちはニッケルやパラジウ ム、白金などのある種の後期遷移金属が高い酸化状態において末端オキソリガンド を保持できるのかどうかを長らく疑ってきた。問題は、それら金属のd-軌道に見出 される6個以上の電子と酸素電子との斥力である。Andersonたちは、白金中心の電子 密度を非局在化する2つのタングステン酸化物クラスター・リガンドによって安定化 されたd^6 Pt(IV)オキソ化合物の合成に成功した(p. 2074、2004年11月25日のオン ラインで出版)。広範囲にわたるX線解析と中性子回折技法によって、酸素原子が実 際に末端にあり、水素原子と結合していないことが実証された。(KF)
A Late-Transition Metal Oxo Complex: K7Na9[O=PtIV(H2O)L2], L = [PW9O34]9-
p. 2074-2077.

破損したDNAの修復(Fixing Broken DNA)

DNA二本鎖破損の修復はゲノムの安定性にとって決定的に重要であり、細胞はそうし た染色体欠陥を修復する機構を発展させてきた。二本鎖破損箇所にある修飾された ヒストンが、DNA修復機構へのアクセスを許す染色質-再造形複合体を引き寄せる可 能性がある、という議論が提案されてきた。Kuschたちは、ゲノム修復の間のヒスト ン交換に関与する染色質-再造形複合体の特徴を明らかにしている(p. 2084、2004年 11月4日のオンライン出版)。ショウジョウバエから得られたそのタンパク質複合体 には、染色質-再造形酵素とヒストン変異体などのタンパク質が含まれている。この 複合体はリン酸化されたヒストンをアセチル化し、続いて修飾されたタンパク質を 無修飾のタンパク質と交換してDNA破壊位置における新たな染色質構造を作り出すこ とで、DNA修復を促進するのである。(KF)
Acetylation by Tip60 Is Required for Selective Histone Variant Exchange at DNA Lesions
p. 2084-2087.

加齢制御機構の結び付き(Linking Age Control Mechanisms)

哺乳類の加齢には、異なった4つの要因が独立に関係している。それらは、栄養分の 利用可能性とForkhead転写制御因子Foxo3a、ニコチンアミド・アデニン・ ジヌクレ オチド-依存的な脱アセチル基酵素(deacetylase)SIRT1、それと腫瘍サプレッサー・ タンパク質p53である。Nemotoたちはこのたび、これらの要因が哺乳類の寿命を変調 する可能性がある形で関わっていると報告している(p. 2105)。栄養性ストレスが ある条件下では、Foxo3aは哺乳類細胞におけるSIRT1の発現を刺激するが、これには p53とSIRT1プロモータ内にある二つのp53-結合部位が必要である。さらに、Foxo3a とp53との相互作用は、栄養分が飢えた条件下で増加するのである。 このシグナル 伝達経路は、栄養分の利用可能性に応答し、結果的に加齢を制御することになる恒 常的な調節ネットワークを構成している可能性がある。(KF)
Nutrient Availability Regulates SIRT1 Through a Forkhead-Dependent Pathway
p. 2105-2108.

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