AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 10, 2004, Vol.306


脳ある鳥、機敏な鳥(Brainy and Agile Birds)

逸話や民間伝承ではいつも、カラスの類(corvids)、たとえばカラス(crow)やミヤマ ガラス(rook)、カケス(jay)、オオガラス(raven)にはかなりの高い知能があるとさ れてきたし、それらの認知能力に関する最近の研究では、この評判が事実に基づく ものであることを明らかにし始めている。EmeryとClaytonは、高次の認知的機能を 含むいくつものタスクにおいて、カラスの類の能力が旧世界ザルのそれに拮抗、あ るいはそれを凌駕していることを示すフィールド研究と実験的研究をレビューして いる(p. 1903)。カラスの類は3つの領域において驚くほどの能力をもっている。そ れは、道具作りとその利用、過去・現在・将来という時間構造の把握、それと社会 的関係の認知能力である。
飛行の収束進化という別の領域では、昆虫の飛行に ついてのわれわれの理解は、10年ほど前に、彼らの翅の前端に生じる渦の発見に よって大きく改善された。飛行中の鳥の羽の表面周辺の空気の流れをモニターする 技術的困難は、このたび、流体として空気に代えて水を用いることで克服された。 あたりまえのアマツバメの翼のモデルを水トンネル中で用いることで、Videlerたち は、翼前端に生じる渦が鳥にも揚力を与えることを示している(p. 1960; また MuellerとLentinkによる展望記事参照のこと)。鳥では、生み出された揚力は単に空 中に保つためというよりはむしろ、曲芸飛行的な飛行を行うために重要であるらし い。(KF,nk)
The Mentality of Crows: Convergent Evolution of Intelligence in Corvids and Apes
p. 1903-1907.
Leading-Edge Vortex Lifts Swifts
p. 1960-1962.

半導体におけるスピンホール効果(Semiconductors in a Spin)

磁場中で導電体を流れる電流により、その直交方向に測定可能な電圧が発生す る(ホール効果)。最近の理論研究により、半導体のスピンにおける類似の効果、即 ちスピンホール効果の存在が予測されている。Katoたち(p. 1910,2004年の11月11日 のオンライン出版;11月12日のServiceによるニュース記事、表紙及びBauerによる 展望記事参照)は、、GaAs薄膜の両側に正負それぞれのスピンが実際に蓄積している ことを確認する実験データを提供している。外部磁場の必要も無く、非磁性の材料 にスピン電流を作ったり、検知することが出来ると、スピンエレクトロニクスへの 応用が可能となる。(KU,nk)
Observation of the Spin Hall Effect in Semiconductors
p. 1910-1913.
APPLIED PHYSICS:
Mesmerizing Semiconductors

p. 1898-1899.

大きな浅い地震(Large Shallow Quakes)

日本の東海岸に沿っての河口には、過去数十万年の間に複数の隆起が起こっていた 証拠が存在している。しかしながら、このような隆起の原因は明瞭ではない。Sawai たち(p. 1918)は、17世紀に起きた津波の堆積物と、そのすぐ後に起きた何回かの干 潟隆起を見出した。津波の規模と隆起の大きさは共に、浅深度の強い地震がプレー トの沈み込み境界に沿って発生したことを示している。この隆起は、恐らく沈み込 み帯に沿った一過性のクリープやこの地震の後の十数年に渡ってのマントルの緩和 によって形成された。(KU,nk)
Transient Uplift After a 17th-Century Earthquake Along the Kuril Subduction Zone
p. 1918-1920.

振動的超伝導性(Oscillatory Superconductivity)

膜の厚さが数分子層に近づくと、垂直方向の電子の閉じ込めによる量子サイズ効果 が生ずる。理論的研究によると、超伝導薄膜では、量子サイズ効果が遷移温度 Tc の明確な振動としても現われるだろうと予言されてきた。Guo たち(p.1915; Chiang による展望記事を参照のこと) は、単一原子層にまで制御可能な均一の厚さの鉛の 薄膜を作成し、予言されていた Tc の振動を観測した。(Wt)
Superconductivity Modulated by Quantum Size Effects
p. 1915-1917.
PHYSICS:
Superconductivity in Thin Films

p. 1900-1901.

DNAの組み換えと多様性(Recombination and Diversity)

性とDNAの組み換えが真核生物の進化の牽引力であり、細菌における適応と多様性の 主要なる源となっている。第3の生物カテゴリーであるArchaea(古細菌)におい て、この組み換えの役割は明白ではなかった。Papkeたち(p. 1928)は、スペインの Alicante近くの太陽塩田中のhaloarchaea集団を解析した。対立遺伝子の会合は、実 質的に任意であり、これにより塩田の集団はお互いに自由にDNAを組み換えている可 能性を示唆している。Haloarchaeaで測定された高レベルの「連鎖平衡」は、性的な 真核生物の集団で見られたレベルと似ている。(KU,Ej,hE)
Frequent Recombination in a Saltern Population of Halorubrum
p. 1928-1929.

マラリアのたんぱく質はどの道から?(Which Way Out for Plasmodium Proteins?)

ほ乳動物において、マラリア寄生虫は赤血球中に寄生しており、変異遺伝子でコー ドされた免疫回避のための変異抗原でもって宿主細胞の表面を修飾する。赤血球に は分泌機能が欠けており、そうすると寄生虫は分泌機能を作る必要がある。Hiller たち(p. 1934)とMartiたち(p. 1930)は、赤血球の細胞質中にたんぱく質を送り込む 方式を明確にしている(Przyborski とLanzerによる展望記事参照)。シグナル伝達が 無くても、或いは重要な残基が変異していても、たんぱく質は寄生虫の存在する液 胞(parasitophorous vacuole)内で捕獲される。(KU)
A Host-Targeting Signal in Virulence Proteins Reveals a Secretome in Malarial Infection
p. 1934-1937.
Targeting Malaria Virulence and Remodeling Proteins to the Host Erythrocyte
p. 1930-1933.
PARASITOLOGY:
The Malarial Secretome

p. 1897-1898.

カイコの遺伝子設計図(Genetic Blueprint of the Silkworm)

ハエとガの違いは一目でわかるが、では遺伝子レベルでの差はどれくらいあるの か?  Xia たち(p. 1937) は、カイコガ(silkworm moth, Bombyx mori)のドラフト ゲノム配列を決定した。この鱗翅類は、以前に配列が決定されていた双翅類昆 虫(ショウジョウバエや蚊)から2億8000万年前に分岐したものである。この昆虫や カイコに特異的なドメインが今回同定された。18,000以上の遺伝子からなるカイコ のゲノムは、ショウジョウバエよりも大きいが、その理由は遺伝子数の増加と大き さの増加によるものである。より多くの配列情報が解析されれば、昆虫の間に見ら れる劇的な形態的多様性と遺伝子多様性の間の相関関係がわかるであろう。(Ej,hE)
A Draft Sequence for the Genome of the Domesticated Silkworm (Bombyx mori)
p. 1937-1940.

パーキンソン病の場合の経験的学習(Learning from Experience in Parkinson's Disease)

経験からの学習とは、ポジティブフィードバックまたは報酬を使用して行動を強化 し、ネガティブフィードバックを使用してそのような行動を回避する、ということ を意味している。ドーパミン作動性経路は、両方の種類のフィードバックに寄与し ていると考えられている。Frankたち(p. 1940、2004年11月4日のオンライン出版) は、パーキンソン病の患者におけるドーパミン欠損により、ポジティブフィード バックの強化から学習することがより困難になる一方、反対にネガティブフィード バックから学習することがより容易になる、ということを予想するコンピュータモ デルを以前に考案した。逆に、ドーパミンレベルを上昇させる薬で治療中の患者 は、学習効率に関して対照的なパターンを見せるはずである。薬での治療中と治療 中ではない時に、2種類の認識力に関する課題について患者を試験したところ、これ らの予測の正しいことが確認され、そしてパーキンソン病患者の治療中に、学習に 対して時折生じるわけのわからない作用を説明出来るかも知れない。(NF)
By Carrot or by Stick: Cognitive Reinforcement Learning in Parkinsonism
p. 1940-1943.

有機エアロゾルの超過滞留(Organic Aerosols Overstay)

エアロゾルは日射を宇宙に反射したり、大気中でこれを吸収するが、その両者の割 合によって、気候へ様々な影響を与える。この影響は直接的なこともあるが、雲の 分布や性質に影響を与える間接的影響もある。エアロゾルの特性に対する化学反応 の影響を特徴付けることは困難であった。Maria たち(p. 1921) は、大気中のエア ロゾルの大部分を占めている炭素質エアロゾル中の有機分子の酸化速度を計算し た。彼らは、どのような有機官能基が個々の粒子中で生じているかを測定し、これ らデータを総合して、粒子が成長する微小な物理的プロセスを考察した。これか ら、彼らは一般的に使われている気候モデルの値に比べ、揮発性で疎水性のエアロ ゾルから、濃縮された親水性有機化合物への転換速度は1/3であると結論した。これ によって、有機性炭素質粒子による1平方メートル当たりの強制冷却効果は-0.8 wattであり、温暖化効果は+0.3wattとなった。(Ej,hE,nk)
Organic Aerosol Growth Mechanisms and Their Climate-Forcing Implications
p. 1921-1924.

コカインの強力なシグナル(Cocaine Signals Never Disappoint)

時間差強化学習(temporal difference reinforcement learning;TDRL)モデルに より、将来的な報酬がどのように評価されるのか、現在の選択がどのように行われ るのか、そして報酬と期待との間の差異を将来的な報酬の最新の予測にどのように してフィードバックするか、を記述するコンピュータフレームワークがもたらされ た。TDRLにおいて、報酬と期待との間の差分シグナルが、伝達物質であるドーパミ ンを使用するニューロンにより保持される。Redish(p. 1944;Ahmedによる展望記 事を参照)はこのモデルを使用して、中毒性物質との前後関連における行動のいく つかの側面について、ニューラルコン ピュータ言語で説明を行った。重要なポイン トは、コカインが薬理学的経路を通じてドーパミンシグナルを誘導するということ であり、このシグナルは実際の報酬と期待される報酬との間の差異を正確には反映 したり反応したりしてしない;コカインはいつも、元々考えられていたよりもより 大きな報酬を与えるものとして評価される。(NF)
Addiction as a Computational Process Gone Awry
p. 1944-1947.
NEUROSCIENCE:
Addiction as Compulsive Reward Prediction

p. 1901-1902.

排卵の調節(Controlling Ovulation)

哺乳動物の卵巣において、卵母細胞は、排卵の直前にメスの排卵周期が減数分裂を 再開させるまで、減数分裂停止の状態が維持される。マウス卵母細胞膜における G[s]-結合型受容体は、減数分裂前期から中期への移行の制御分子として作用す る。Mehlmannたち(p. 1947)はここで、前期停止を維持するために必要とされる卵 母細胞受容体として、GPR3を同定した。(NF)
The Gs-Linked Receptor GPR3 Maintains Meiotic Arrest in Mammalian Oocytes
p. 1947-1950.

アテローム性動脈硬化で作用するエストロゲン受容体(Estrogen Receptors Act in Atherosclerosis)

男性の場合、アテローム性動脈硬化が女性よりも急速に進行するが、しかしながら このような性差が生じる理由はまだ明らかになっていない。プロスタサイクリンPGI は、アテローム性動脈硬化病変の形成に関連する多数のプロセスを阻害し、女性に おけるエストロゲンのアテローム性の動脈硬化防御作用がPGI産生の活性化を介して いる可能性がある。Eganたち(p. 1954、2004年11月18日のオンライン出版;Couzin による11月19日のニュース記事を参照)はここで、アテローム性動脈硬化のマウス モデルにおいて、エストロゲンがエストロゲン受容体サブタイプを介して作用し、 シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)を通じて PGIを生成することを示した。PGIに対す る受容体を欠損するメスのマウスは、オスのマウスと同じくらい急速にアテローム 性動脈硬化を発症し、そしてエストロゲン治療に対する反応性が低かった。このメ カニズムは、ホルモン補充療法や選択的COX-2阻害剤の効果を評価する際に重要とな るであろう。(NF)
COX-2-Derived Prostacyclin Confers Atheroprotection on Female Mice
p. 1954-1957.

金属界面をシャープにする(Sharpening Metal Interfaces)

蒸着によって金属層が多層形成されるとき、2種の原子が混ざった、ぼやけた界面が できる。2種の混和度が非常に高い場合、熱処理によって隣接層の原子が相互拡散 し、界面が厚くなる。Erdelyi たち(p. 1913)は、モリブデン-バナジウム系ではこ のようにはならず、温度を上昇させるに従って界面がシャープになることを示し た。理論的計算によると、この場合、拡散率は濃度に対し非線形な依存性を持ち、 混和よりも分離へと働く。この鮮鋭化は、X線や、中性子線用の金属多層膜鏡面作 成に利用できるかもしれない。(Ej,hE,nk)
Transient Interface Sharpening in Miscible Alloys
p. 1913-1915.

ラングミュア・スーパーセルを追跡する(Tracking Langmuir Supercells)

ラングミュア循環(Langmuir Circulation)は、湖や海洋表面において風や波により 引き起こされる並行かつ逆回転する渦である。これが上下方向に水を移動させ、垂 直方向の混ざり合いを理解するために重要である。海洋のラングミュア循環に対す るほとんどの観測調査や理論的研究は、その循環流のスケールよりも水深が大きい 場所のケースに対して行われてきた。ラングミュア・セルが海床まで達してスー パーセルが形成されるような場合にはほとんど注意が向けられていない。Gargettた ち(p.1925)は、広大な海岸棚領域の典型的な環境である、ニュージャージ海岸沖の 浅い水深(15メートル)におけるラングミュア循環についての詳細な観測結果を報告 する。 ラングミュア・スーパーセルは、堆積物を巻き上げて移動させる重要なメカ ニズムであり、 浅い海洋棚底の生態系に重大な影響も与えているかもしれな い。(TO,Ej,nk)
Langmuir Supercells: A Mechanism for Sediment Resuspension and Transport in Shallow Seas
p. 1925-1928.

ウェルナー症候群の解明(Unraveling Werner Syndrome)

ウェルナー症候群(WS)の患者は、皺皺の皮膚、白髪や脱毛、骨粗鬆症、心疾患、白 内障など数々の早老の症状を蒙る。WS患者の細胞は、早く老化に入り、ゲノムの不 安定性の比率が増え、染色体末端を保護しているテロメアが急速に失なわれてい く。WSで変異するWRNヘリカーゼが、「結び目のようになった」(G-四重)DNAを解き ほぐすことによってテロメアの維持に関与している。Crabbeたちは、このWRNヘリ カーゼが細胞周期のS期においてテロメアのDNAと関わっていることを示している(p. 1951)。WRNヘリカーゼ活性の損失は単一シスター染色分体のテロメア損失を導く が、ラギング鎖DNA合成によって複製されたテロメアだけが影響を受けるのであ る。(KF)
Defective Telomere Lagging Strand Synthesis in Cells Lacking WRN Helicase Activity
p. 1951-1953.

植物の病原体抵抗性を駆動する遺伝的多型(Polymorphisms Drive Plant Pathogen Resistance)

植物はある種の病原体に対して、特定の病原体系統に対するに特異的防御タンパク 質を用意して、遺伝子に対して遺伝子、というやり方で防御している。病原体が進 化すると防御側も進化しなければいけない。植物側の最大の可変性は、タンパク 質-タンパク質相互作用に関わる防御的応答タンパク質の領域にある。急速に分化す る防御的対立遺伝子が侵入者の病原性エフェクターにおける急速に分化する対立遺 伝子に対決しているということが、このたびAllenたちによって示された(p. 1957)。植物の応答遺伝子と病原体のエフェクターの遺伝子の双方が、選択をバラン スすることによって引き起こされる遺伝的多型を示すのである。(KF)
Host-Parasite Coevolutionary Conflict Between Arabidopsis and Downy Mildew
p. 1957-1960.

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