AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 26, 2004, Vol.306


デンドリマーの鋳型(Dendrimer Templates)

有機デンドリマーは、木の枝のように外に向かって伸びている一連の枝や腕で囲ま れた中心核構造からなっている。LandskronとOzin(p. 1529)は、デンドリマーの末 端をシロキサン基でもって機能化し、有機界面活性剤を用いて鋳型を作った。この デンドリマーを組織化して、明瞭なミクロポーラスな流路壁と規則的に配列したメ ソポーラスな流路を持った階層的な構造を作った。(KU)
Periodic Mesoporous Dendrisilicas
   Kai Landskron and Geoffrey A. Ozin
p. 1529-1532.

悶える石の物語り(Romancing the Shaken Stone)

小惑星433 のエロス(Eros)表面はクレーターにびっしり覆われており、ゆるく結 合したガサガサの表土であり、岩石がごろごろしている。表土の証拠から滑落斜面 と思われ、小さな谷を堰きとめているし、直系100メートル以下の小クレーターの存 在が不明確になっている。小惑星が微小重力しか持ってないことを考えると不思議 なことだ。Richardson たち(p. 1526; およびErik Asphaugによる展望記事参照) は、この表土の動きは、衝突後の残響振動地震によって生じていることを示した。 彼らのモデルでは、エロスでの観測されたクレーター数と埋もれたクレーター数 は、主小惑星帯中のエロスの衝突モデルに整合するものである。(Ej)
Impact-Induced Seismic Activity on Asteroid 433 Eros: A Surface Modification Process
   James E. Richardson, H. Jay Melosh, and Richard Greenberg
p. 1526-1529.
PLANETARY SCIENCE:
Nothing Simple About Asteroids

   Erik Asphaug
p. 1489-1492.

ダイヤモンド中の水素分布の画像化(Imaging Hydrogen in Diamond)

イヤモンドの熱的、機械的、電気的性質はハイパワーエレクトロニクスに適した素 材と言える。しかし、合成によって満足できる品質の薄膜ダイヤモンドを大量に作 ろうとすると、必然的にダイヤモンド構造中に多くの水素を取り込む。Reichartた ち(p. 1537) はプロトンープロトン散乱に基づく方法でダイヤモンド中の水素位置 を画像化した。水素の存在位置と存在量を知ることは化学蒸着(CVD)によるダイヤモ ンド合成法の最適化に役立つであろう。(Ej,hE)
Three-Dimensional Hydrogen Microscopy in Diamond
   P. Reichart, G. Datzmann, A. Hauptner, R. Hertenberger, C. Wild, and G. Dollinger
p. 1537-1540.

逆向きもできる合成モーター(Synthetic Motors That Reverse)

FF-アデノシン3リン酸モーターなどの生物学的モーターは可逆的な動きを示す。可 逆的な指向性をもつた動きを示す化学的な合成回転モーターが、Hernandezたち(p. 1532)により報告された。このモーターは、より小さなリングがより大きなリング に沿って定められる位置の間を動くものである。試薬を段階的に付加することによ り、より大きなリング上の一つの部位での非共有結合が不安定化し、それにより小 さなリングが移動することができるが、脱保護化の段階と再保護化の段階の後にだ け、その小さなリングがより好ましい認識部位に到達することができる。小さなリ ングは、同様な段階的な試薬の付加により、その最初の位置に戻ることができる。 著者たちは、部位間でのランダムな動きとは異なり、化学的エネルギーが本来的に 定められた動きに対して使われているに違いないと注釈している。(NF)
A Reversible Synthetic Rotary Molecular Motor
   José V. Hernández, Euan R. Kay, and David A. Leigh
p. 1532-1537.

噴火の前兆;この波か、あの波か?(Eruption Precursors: This Wave or That)

地震波はせん断波が高速と低速の2つに別れるが、これは並んだ鉱物結晶の異方性 や整列した割れ目の異方性などに依存している。これを利用して火山下の歪状態を 測定するのに使えそうだ。Gerstたち(p. 1543) は、ニュージーランドRuapehu火山 地下の異方性が、マグマの噴出するときと、その後、マグマが火道(conduit)を充填 するときで、圧力分布が変化することを見つけた。これは噴火の予測に役立つと思 われる。(Ej)
Seismic Anisotropy Beneath Ruapehu Volcano: A Possible Eruption Forecasting Tool
   Alexander Gerst and Martha K. Savage
p. 1543-1547.

HIV-1の進化の過程での積極的なエピスタシス(Positive Epistasis in HIV-1 Evolution)

組換えや有性生殖の進化面での利点はなんだろうか?ある種の理論では、エピスタ シス(上位性)の相互作用に対するその影響--1つの遺伝子座における遺伝子が別の 遺伝子座における遺伝子の発現に影響を与える--により、組換えが選択にとってよ り好ましいことを示唆している。1型ヒト免疫不全ウィルス(HIV-1)などのレトロ ウィルスは、統計的に有意なサンプルサイズを与えるほどの十分に大きい組換え率 を示すため、このような理論を試験する機会を与えてくれる。Bonhoefferたち(p. 1547;MichalakisとRozeによる展望記事を参照)は、1回の完全な複製後の後代ウィ ルスの全体的な産生を測定するアッセイに基づいて、適応度を正確に推定すること により、ほぼ10,000個のHIV-1の配列からなるデータの組み合わせを解析した。彼ら は積極的なエピスタシスに関する証拠を見出した。その証拠は消極的なエピスタシ スに基づく理論に疑問を呈するものである。さらに、組換えはHIV-1における薬剤耐 性の進化の速度を加速するのではなく、その速度を低下するようである。(NF)
Evidence for Positive Epistasis in HIV-1
   Sebastian Bonhoeffer, Colombe Chappey, Neil T. Parkin, Jeanette M. Whitcomb, and Christos J. Petropoulos
p. 1547-1550.
EVOLUTION:
Epistasis in RNA Viruses

   Yannis Michalakis and Denis Roze
p. 1492-1493.

NOといえる細菌(A Bacterial Nose for NO)

一酸化窒素は哺乳動物における重要なシグナル伝達分子であり、ヘムタンパク質の 一つである可溶性グアニル酸シクラーゼにより感知される場合に部分的に作用す る。Niocheたち(p. 1550、2004年10月7日のオンライン出版)は、細菌Clostridium botulinum において、関連するNO-結合性ヘムドメインを有する原型となるタンパク 質を探索した。NOはC. botulinumにとっては毒性であり、この細菌は亜硝酸塩で保 存した肉から積極的に逃げるように移動する。著者たちは、NOに対してきわめて高 い(フェムトモルオーダーの)結合親和性を有する細菌のタンパク質を同定 し、Thermoanaerobacter tengcongensis由来の関連する分子の結晶構造を解析し た。その結果、NO-結合ドメインは、原核生物に対してNOに対する高い感度のセン サーを提供する。(NF)
Femtomolar Sensitivity of a NO Sensor from Clostridium botulinum
   Pierre Nioche, Vladimir Berka, Julia Vipond, Nigel Minton, Ah-Lim Tsai, and C. S. Raman
p. 1550-1553.

補償による進化(Evolution Through Compensation)

ショウジョウバエのD.malanogasterとその同類のD.pseudoobscureに関する以前配列 決定されたゲノムの比較により、Kulathinalたち(p. 1553,2004年10月21日のオンラ イン出版)は、タンパク質進化の概要を調べた。D.malanogasterにとって有害となる アミノ酸の置換が、D.pseudoobscureの野生型としてしばしば見出されていた。似た ような結果がより遠い関係のハマダラカ(Anopheles)gambiaeでも見出された。この ように、変異の補償が集団の中で頻繁に生じ、固定されている。(KU)
Compensated Deleterious Mutations in Insect Genomes
   Rob J. Kulathinal, Brian R. Bettencourt, and Daniel L. Hartl
p. 1553-1554.

遺伝子相互作用のデータを統合する(Integrating Gene Interaction Data)

遺伝子はタンパク質-タンパク質の関係を通してよりもより多様な方法で相互作用し ている。Leeたち(p. 1555)は、データの質に従って重み付けした様々な種類のデー タの統合化が可能な統一的なスコアリング表を開発した。酵母(S.cerevisiae)遺伝 子の統合的ネットワークが、物理的及び遺伝子的相互作用のデータセットと同様に 同時発現、系統発生、遺伝子融合のデータセットから構築された。異なる種類の データの追加はより高い正確さをもたらし、作られた関連が修正されて、遺伝子相 互作用の予測がより容易となる。(KU)
A Probabilistic Functional Network of Yeast Genes
   Insuk Lee, Shailesh V. Date, Alex T. Adai, and Edward M. Marcotte
p. 1555-1558.

アテローム性動脈硬化症へのJnkの作用(Jnking Atherosclerosis)

アテローム性動脈硬化症はヨーロッパや北米における最も一般的な循環器病であ る。C-jun-NH2-末端 キナーゼのファミリーがアテローム発生に関与し ている。Ricciたち(p. 1558)は、アテローム性動脈硬化症をもたらすアポタンパク 質(ApoE)欠損と、同時にJnk1あるいはJnk2のいずれかを欠損しているマウスを用い て、アテローム性動脈硬化症におけるJNKの作用に注目した。Jnk2欠損により、ApoE 欠損のマウスにおいてプラーク形成が著しく減少した。しかしながら、Jnk1の欠損 はアテローム形成に僅かな影響しか示さない。全体的なJnk活性に関する薬理的抑制 はApoE欠損マウスにおいて実質的にアテローム性動脈硬化症を抑制した。JNK2活性 の特異的な抑制がアテローム性動脈硬化症を治す治療法の一つとなる可能性があ る。(KU,hE)
Requirement of JNK2 for Scavenger Receptor A-Mediated Foam Cell Formation in Atherogenesis
   Romeo Ricci, Grzegorz Sumara, Izabela Sumara, Izabela Rozenberg, Michael Kurrer, Alexander Akhmedov, Martin Hersberger, Urs Eriksson, Franz R. Eberli, Burkhard Becher, Jan Borén, Mian Chen, Myron I. Cybulsky, Kathryn J. Moore, Mason W. Freeman, Erwin F. Wagner, Christian M. Matter, and Thomas F. Lüscher
p. 1558-1561.

胃がんへの骨髄の寄与(Bone Marrow Contribution to Gastric Cancers)

ピロリ菌(H.pylori)感染によって誘発される胃がんといった上皮性がんの細胞起源 はいまだ明瞭ではないが、有力な仮説の一つは常在性の上皮幹細胞に由来するとい うものである。この説とは対照的に、Houghtonたち(p. 1568: Marxによるニュース 記事参照)は、実験的にピコリ菌に感染させたマウスに発生した胃がんが上皮細胞起 源ではなく骨髄細胞起源であることを見出した。ドナーマウスからの骨髄由来の細 胞を慢性的な感染マウスで追跡を行い、胃の粘膜中で拡がっていた。そこでは腫瘍 進行の特徴を示しており、最終的には悪性のがんを形成した。上皮性がんへの骨髄 由来の細胞の同じ関与がヒトにおいても成立すると、この発見は悪性腫瘍の起源と 進行に関する我々の理解を大きく見直すものとなるであろう。(KU)
Gastric Cancer Originating from Bone Marrow-Derived Cells
   JeanMarie Houghton, Calin Stoicov, Sachiyo Nomura, Arlin B. Rogers, Jane Carlson, Hanchen Li, Xun Cai, James G. Fox, James R. Goldenring, and Timothy C. Wang
p. 1568-1571.

コンパクトなDNAと遺伝子制御(Compact DNA and Gene Regulation)

すべての真核生物のDNAは染色質に詰め込まれているが、その主要な単位はヌクレオ ソームである。DNAに結びついているヌクレオソームの核の構造は原子レベルの分解 能で知られているが、より高次の染色質の詰め込み構造(compacted structures) や、遺伝子発現の制御におけるこの緻密化(compaction)の役割はそれほど明らか になっていない(Mohd-SaripとVerrijzerによる展望記事参照)。Dorigoたちは、高次 染色質組織化の最初のレベルである30ナノメートルの線維を、安定性確保のために 架橋された試験管内で再構成したヌクレオソーム配列を用いて、解析した(p. 1571)。30ナノメートルの線維に関して、それが「one-startらせん体」を形成する という古典的なソレノイド・モデルとは違って、その線維はヌクレオソーム の「two-startらせん体」であるらしい。Polycombグループ(PcG)遺伝子は、後生動 物発生と発生パターニングの維持にとって決定的な役割を果たしている。PcGタンパ ク質は濃縮された染色質構造を凝集させることによって、遺伝子を抑制していると いうことが示唆されてきた。Francisたちはこのたび、PcGタンパク質を染色質に添 加することにより、ヌクレオソーム配列の緻密化を確認している(p. 1574)。(KF,hE)
MOLECULAR BIOLOGY:
A Higher Order of Silence

   Adone Mohd-Sarip and C. Peter Verrijzer
p. 1484-1485.
Nucleosome Arrays Reveal the Two-Start Organization of the Chromatin Fiber
   Benedetta Dorigo, Thomas Schalch, Alexandra Kulangara, Sylwia Duda, Rasmus R. Schroeder, and Timothy J. Richmond
p. 1571-1573.
Chromatin Compaction by a Polycomb Group Protein Complex
   Nicole J. Francis, Robert E. Kingston, and Christopher L. Woodcock
p. 1574-1577.

バイソン(野牛)の前史が明らかに(Bison Prehistory Revealed)

15以上もの博物館の国際的共同活動において、Shapiroたちは、350以上もの後期更 新世および完新世のバイソンの骨から得られたミトコンドリアのDNA配列を用いて、 後期更新世を通じてのリアルタイムでの進化の過程を記録した(p. 1561; Pennisiに よるニュース記事参照)。Beringianバイソン集団の遺伝的多様性は、最終氷期極大 期(Last Glacial Maximum)の直前、ヒトが新世界に登場するずっと前に、破局的に 減少している。旧世界のステップ・バイソンはおよそ9万年前から12万年前の新世界 からの再侵入の子孫であり、新世界のバイソンは氷河境界の南に孤立したバイソン の小集団の血を引くものなのである。(KF)
Rise and Fall of the Beringian Steppe Bison
   Beth Shapiro, Alexei J. Drummond, Andrew Rambaut, Michael C. Wilson, Paul E. Matheus, Andrei V. Sher, Oliver G. Pybus, M. Thomas P. Gilbert, Ian Barnes, Jonas Binladen, Eske Willerslev, Anders J. Hansen, Gennady F. Baryshnikov, James A. Burns, Sergei Davydov, Jonathan C. Driver, Duane G. Froese, C. Richard Harington, Grant Keddie, Pavel Kosintsev, Michael L. Kunz, Larry D. Martin, Robert O. Stephenson, John Storer, Richard Tedford, Sergei Zimov, and Alan Cooper
p. 1561-1565.
EVOLUTION:
Ice Ages May Explain Ancient Bison's Boom-Bust History

   Elizabeth Pennisi
p. 1454.

セミが森を養う(Cicadas Feed the Forests)

セミはその一生の大半を地中での幼生として費やし、同期して成虫として地上に現 われ、ほんの数週間の間、鳴き、繁殖する。このライフサイクルは、北米のセミ Magicicada sppにおいて最も極端なものになっている。このセミは17年毎に、ごく 最近では2004年の夏に出現した。Yangは、発生した年の何百万ものセミの死骸の分 解が森林にとって重要な資源面でのピークになっている、ということを報告してい る(p. 1565; OstfeldとKeesingによる展望記事参照)。実験的森林区画にセミの死骸 を撒くと、森林土壌中の細菌や菌類、さらには土壌中の窒素が有意に増加したが、 これによって、セミの増加後の何ヶ月間に木々が有意な成長の増分を示すことを説 明できるかもしれない。広大な景観スケールでの森林のダイナミクスが、このよう に単一の草食性の種の生活史によって影響されているのかもしれない。(KF)
Periodical Cicadas as Resource Pulses in North American Forests
   Louie H. Yang
p. 1565-1567.
ECOLOGY:
Enhanced: Oh the Locusts Sang, Then They Dropped Dead

   Richard S. Ostfeld and Felicia Keesing
p. 1488-1489.

ナノスケール物体のキャラクタリゼーション(Characterization of Nanoscale Objects)

白色の超連続光源を用いたレイリー散乱は、ナノスケール物体のキャラクタリゼー ションに用いられている。Sfeir たち (p.1540, 2004年10月28日のオンライン出版) は、彼らの実験における出力信号がルミネッセンスのような特別なサンプリングの ための信号を必ずしも必要としてはおらず、そのため、普遍的なキャラクタリゼー ション手法といえる。例えば、カーボンナノチューブは、通常、複雑な混合物とし て合成されるが、超連続白色光による散乱法を用いれば、全ての試料を同時に調べ ることができる。個々のナノチューブの特徴は、他の相補的で、個別のナノチュー ブを対象としたキャラクタリゼーションツールと共に用いることによりいっそうの 精査が可能である。(Wt)
Probing Electronic Transitions in Individual Carbon Nanotubes by Rayleigh Scattering
   Matthew Y. Sfeir, Feng Wang, Limin Huang, Chia-Chin Chuang, J. Hone, Stephen P. O'Brien, Tony F. Heinz, and Louis E. Brus
p. 1540-1543.

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