AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 19, 2004, Vol.306


ナノチューブの糸とナノチューブの森(Nanotube Yarns and Forests)

繊維を紡いで強度の強い糸やロープにする技術は古くからある。この方法の基本原 理を考察し、ナノメートルサイズの径の繊維にまでスケールダウンした。Zhang た ち(p.1358)は、マット状に成長したカーボンナノチューブからナノチューブの糸を 紡ぐ方法を開発した。捩り合わされた糸には高分子を染み込ませ、強度を改善して いる。より太い径の物質と異なり、結び目を作っても強度は落ちなかった。単層 カーボンナノチューブを作る方法は沢山開発されてきたが、大量に、しかも、不純 物のない、残渣の触媒を含まない方法は、極めて限られている。Hata たち(p. 1362; Serviceによるニュース記事も参照) は、標準的な化学蒸着合成法に、少量の 水を加えることで触媒粒子に由来する残渣炭素を除き、より長期間触媒の化学的活 性を保つことができるように改良した。ナノチューブの林立する林床を敷き詰めた 触媒の化学的活性を保持できた結果、引き続きナノチューブの成長を継続すること が可能となり、超高密度のナノチューブを成長させた。その長さは最大2.5mmにも達 し、残渣は容易に除去できた結果99.98%の純度のナノチューブが得られた。(Ej,hE)
Multifunctional Carbon Nanotube Yarns by Downsizing an Ancient Technology
   Mei Zhang, Ken R. Atkinson, and Ray H. Baughman
p. 1358-1361.
Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes
   Kenji Hata, Don N. Futaba, Kohei Mizuno, Tatsunori Namai, Motoo Yumura, and Sumio Iijima
p. 1362-1364.

光学的メタ物質に向かって(Toward Optical Metamaterials )

負の屈折率を示すような人工的に作り出されるメタ物質は、たとえば「完全」レン ズといった光学分野で多大な利点をもたらす。周波数をさらに上げて光の波長領域 で負の屈折率を得るために、多くの努力が向けるれている。Lindenたち(p. 1351)は ナノファブリケーション技術を用いて、メタ物質を作る金のナノ構造の寸法を縮小 し、磁気応答性が100THz(テラヘルツ)まで向上することを示している。一方、理 論的なアプローチにおいて、Pendry(p. 1353)は、電気応答性と磁気応答性のチュー ニングを基本としている現在の構造よりも簡単に作成できる“負の屈折率を示すメタ 物質”を設計する別の方法を紹介している。。提案された構造はキラリティに依存 し、一連の螺旋的に折り重ねられた金属性の箔からなっている。設計者は磁場と電 場の両者を用いることなく、どちらか一つの分極を用いて作ることが可能であ る.(hk)
Magnetic Response of Metamaterials at 100 Terahertz
   Stefan Linden, Christian Enkrich, Martin Wegener, Jiangfeng Zhou, Thomas Koschny, and Costas M. Soukoulis
p. 1351-1353.
A Chiral Route to Negative Refraction
   J. B. Pendry
p. 1353-1355.

光学的な時計を改良する(Improving Optical Clocks)

周波数安定化レーザー放射源の発達により、光学領域における付随する周波数サイ クルのカップリングとを一緒に考慮すると、より低周波数のマイクロ波領域で作動 する原子標準器の精度を越える可能性がある。Margolis たち(p.1355) は、トラッ プされたストロンチウムイオンの遷移周波数の測定に基づく光学的な周波数標準器 を開発した。遷移周波数は、10の15乗の周波数領域でほとんど 1 Hz に至るまで決 定できる。その周波数精度はセシウム1次周波数標準器の3倍以内のわずかな不確 定さに相当している。(Wt)
Hertz-Level Measurement of the Optical Clock Frequency in a Single 88Sr+ Ion
   H. S. Margolis, G. P. Barwood, G. Huang, H. A. Klein, S. N. Lea, K. Szymaniec, and P. Gill
p. 1355-1358.

火星のアルゴンの回転(The Spin on Martian Argon )

火星の大気のアルゴン濃度は、惑星の回転運動や季節的なパターンを明らかにする ために使用できる。Spragueたち(p.1364,2004年10月7日のオンライン出版; Forget による展望記事参照)は、火星探査機オデッセイに搭載されたガンマ線分光器により 計測を行い、二酸化炭素は大気中から出て南半球の極冠(polar cap)に凝縮されるに も関わらず、非凝縮アルゴン(non-condensible)は夏の間は中緯度で増大し、初秋に は極地に近い緯度で減少することを示唆している。そのデータは、南北方向の混ざ り合い(meridional mixing)が発生していることを示唆しており、このことは、惑星 の自転により、特に極地では、それぞれが孤立した大気の渦巻きが引き起こされる という考えと相反している。(TO,nk)
Mars' South Polar Ar Enhancement: A Tracer for South Polar Seasonal Meridional Mixing
   A. L. Sprague, W. V. Boynton, K. E. Kerry, D. M. Janes, D. M. Hunten, K. J. Kim, R. C. Reedy, and A. E. Metzger
p. 1364-1367.
PLANETARY SCIENCE:
Alien Weather at the Poles of Mars

   Francois Forget
p. 1298-1299.

類人猿と別れる前(Before the Divide with the Great Apes)

類人猿や人間を含むグループはテナガザル(gibbon)のようなサルから、1000〜1500 万年前の中期中新世に分離したと思われている。この時期の完全な化石は少数しか 得られてないが、これら少数のものはすべて後の大型のユーラシアのサルに関係し ていると考えられている。Moy`a-Sol`a たち(p. 1339; Culottaによるニュース記事 参照) は驚くほどよく保存された新種の化石をスペインで見つけ、これを約1300万 年前のものと同定した。この頭蓋はほぼ完全でほとんど変形が無く、手関節や胸郭 を含む骨は、原始性と現代性の両方の特徴を兼ねている。この骨格の顕著な特徴か ら、類人猿がこの時期に進化したことを示している。この化石は、類人猿と人類の 最後の共通先祖に近いものと思われる。(Ej,hE,og)
Pierolapithecus catalaunicus, a New Middle Miocene Great Ape from Spain
   Salvador Moyà-Solà, Meike Köhler, David M. Alba, Isaac Casanovas-Vilar, and Jordi Galindo
p. 1339-1344.

Mimiの解析(Understanding Mimi)

Mimivirusは、アメーバの中で増殖する、極めて大きなDNAウィルスであ。Raoultた ち(p. 1344、2004年10月14日のオンライン出版)は、Mimivirusのゲノムを配列決 定しそして解析した。このゲノムは、1.2メガ塩基の長さがあり、これまでに配列決 定されたどのウイルスゲノムよりも、3倍以上は大型なものである。1200個のオープ ンリーディングフレームの中には、トランスファーRNA(tRNA)、翻訳開始因子、多 糖体合成酵素、tRNA合成酵素、そして核酸代謝に関与する様々な酵素などに相同性 を有する遺伝子が含まれていることから、これらの遺伝子はウイルスレパートリの 古典的な定義におさまらないもののようである。このような知見から、DNAウィルス の起源とMimivirusが真核生物の初期進化において果たした役割について、新しい可 能性を生みだす可能性がある。(NF)
The 1.2-Megabase Genome Sequence of Mimivirus
   Didier Raoult, Stéphane Audic, Catherine Robert, Chantal Abergel, Patricia Renesto, Hiroyuki Ogata, Bernard La Scola, Marie Suzan, and Jean-Michel Claverie
p. 1344-1350.

選ばれし鎖を特定(Identifying the Chosen Strand)

干渉性小型(si)RNAは、RNA-誘導サイレンシング複合体(RISC)が標的となるメッ センジャーRNAを破壊できるような配列情報をもたらす。酵素、Dicerにより生成さ れるsiRNAは二本鎖(ds)であるが、RISCにより使用される"ガイド"RNAは、一本鎖 であることが必要である。siRNA鎖の両方の鎖の5'末端における塩基対の安定性は、 これらを区別する際に重要な役割を果たしているようである。Tomariたち(p. 1377)はここで、このような選択がどのようにして行われるのかについての検討を 行った。RISC loading 複合体は、DicerそのものとdsRNA-結合タンパク質、R2D2と が組み合わされて構成されているが、この複合体は、R2D2が最も二本鎖の特性を有 する末端と結合することにより、siRNAの5'末端安定性の状態を検出しそして区別す ることができる。siRNAがほどけている場合、ガイド鎖はR2D2からRISCへと移行し、 一方で、もう一方の鎖は破壊される。(NF)
A Protein Sensor for siRNA Asymmetry
   Yukihide Tomari, Christian Matranga, Benjamin Haley, Natalia Martinez, and Phillip D. Zamore
p. 1377-1380.

消えますよ・・・ほら消えた(Now You See It, Now You Don't)

現在の蛍光タンパク質ハイライト技術は不可逆的であり、同一のタンパク質を繰り 返しモニタリングしてその時間的な制御を研究することは不可能である。細胞内に おけるタンパク質の動きは、多数の様々な因子により制御されており、細胞の状態 変化により、その動きも変化する可能性がある。タンパク質動態の測定は、細胞と ハイライト領域の双方の幾何学的性質により影響を受け、そして動きに何らかの変 化がある場合、理想的には、その変化を一個の細胞から得られたデータを使用して 評価できるだろう。Andoたち(p. 1370)は、「ドロン」と消えて「パ」と光る蛍光 タンパク質、ドロンパ(Dronpa)を開発し、そのタンパク質を可逆的に光らせて、 生細胞中での時空間的なタンパク質動態を研究することができるように応用したこ とを記載している。著者たちは、細胞内シグナル伝達の重要な制御因子であるマイ トジェン-活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)の核の中への流入と核からの流出の双 方とも、細胞増殖因子の刺激に伴い亢進することを直接的に可視化した。(NF)
Regulated Fast Nucleocytoplasmic Shuttling Observed by Reversible Protein Highlighting
   Ryoko Ando, Hideaki Mizuno, and Atsushi Miyawaki
p. 1370-1373.

セロトニン受容体を利用するウイルス(Virus Exploits a Serotonin Receptor)

JCウイルス(JCV)は免疫無防備の人における致命的な脱髄性の病気、即ち進行性の多 巣性白質脳症(PML)--エイズ患者の5%程度が今日このような治療不能な致死性の病 にかかっている―を引き起こすヒトポリオーマウイルスである。代表的な、及び特殊 な抗精神病薬剤はグリア細胞のJCV感染を阻止する。Elphickたち(p. 1380)は、グリ ア細胞上のJCVに対する細胞受容体がセレトニン受容体であることを見出した。この 発見はエイズ患者におけるRML病原性に関する理解に役立ち、現存するセレトニン受 容体の阻害剤に基づいた治療法の可能性を示唆している。(KU)
The Human Polyomavirus, JCV, Uses Serotonin Receptors to Infect Cells
   Gwendolyn F. Elphick, William Querbes, Joslynn A. Jordan, Gretchen V. Gee, Sylvia Eash, Kate Manley, Aisling Dugan, Megan Stanifer, Anushree Bhatnagar, Wesley K. Kroeze, Bryan L. Roth, and Walter J. Atwood
p. 1380-1383.

私を開放して(Please Release Me)

食物の欠乏やエネルギーの必要性が高まるときに、ほ乳動物は最初のエネルギー源 として脂肪組織に蓄えた細胞内トリグリセリドを使い始める。このような貯蔵され た脂質の移動には脂質を分解して脂肪酸を遊離する酵素の活性を必要とする。この 脂肪酸は血液中に流れて組織全体へエネルギーを供給する。Zimmermannたち(p. 1383)は、ほ乳動物の脂肪組織中で高レベルに発現し、トリグリセリド分解の初期段 階を触媒する新たな酵素、アディポーズトリグリセリドリパーゼ(ATGL)を同定し た。脂質代謝の異常が、しばしば肥満や2型の糖尿病と関連しており、ATGLがこのよ うな状態の人に対する重要なる新たな薬剤ターゲットとなるであろう。(KU)
Fat Mobilization in Adipose Tissue Is Promoted by Adipose Triglyceride Lipase
   Robert Zimmermann, Juliane G. Strauss, Guenter Haemmerle, Gabriele Schoiswohl, Ruth Birner-Gruenberger, Monika Riederer, Achim Lass, Georg Neuberger, Frank Eisenhaber, Albin Hermetter, and Rudolf Zechner
p. 1383-1386.

本来的な姿での核膜孔(The Nuclear Pore, Up Close and Personal)

無傷の細胞や細胞小器官の低温電子断層撮影法が開発され、構成成分の損失を伴う ような単離や精製手段に影響されずに本来の生きた環境での分子構造を研究するこ とができる。Beckたち(p. 1387, 2004年10月28日のオンライン出版)は核膜孔複合体 の構造に焦点を合わせて、低温電子断層撮影法によりタマホコロカ ビ(Dictyoslellium)discoideumからの無傷の核を研究した。この画像により、細孔 の成分が詳細となり、推定されていた輸送基質を明らかにしている。(KU)
Nuclear Pore Complex Structure and Dynamics Revealed by Cryoelectron Tomography
   Martin Beck, Friedrich Förster, Mary Ecke, Jürgen M. Plitzko, Frauke Melchior, Günther Gerisch, Wolfgang Baumeister, and Ohad Medalia
p. 1387-1390.

振動性カルシウム信号の制御(Regulating Oscillatory Calcium Signals)

細胞内カルシウム信号の強度と頻度の変化は、数々のカルシウム依存性の細胞の応 答に影響を与えているが、振動性のカルシウムシグナル伝達を制御する根底にある 機構は完全には解明されていない。Launayたちは、刺激を受けたT細胞におけるサイ トカイン・インターロイキン-2の産生を制御しているカルシウム振動の誘発と維持 には、TRPM4と呼ばれるカルシウム-活性化の非選択的陽イオンチャネルが関与して いると報告している(p. 1374)。細胞内カルシウムの増加に応答して、TRPM4は活性 化され、膜電位の脱分極に貢献することになり、それがさらなるカルシウム流入を 抑制するのである。それに引き続いての再分極によってTRPM4チャネルは閉じ、さら なるカルシウム流入のための条件が再び確立されるのである。(KF)
TRPM4 Regulates Calcium Oscillations After T Cell Activation
   Pierre Launay, Henrique Cheng, Subhashini Srivatsan, Reinhold Penner, Andrea Fleig, and Jean-Pierre Kinet
p. 1374-1377.

遺伝子重複イベントの生起率を見積もる(Assessing the Rate of Gene Duplication Events)

遺伝子重複はゲノムにおける新規なものの進化において意義ある役割を果たしてい ると考えられているが、遺伝子重複の比率はいまだに不明確である。新しい遺伝子 重複の発生比率に関する分子時計モデルを用いた従来の見積もりは、非常に高く、 およそ10億年につき1回というものである。GaoとInnanは、非常に近い関係にある6 つの酵母種と酵母(S.cerevisiae)のゲノムを比較して、分子時計モデルに頼らず、 また遺伝子変換や複製された遺伝子の協調進化(これは、時計に基づく推定を混乱さ せるものである)を勘定に入れて、遺伝子重複の比率を計算している(p. 1367)。遺 伝子重複の比率に関する新しい見積もりは、2桁ほど小さなものになっていて、10億 年につきおよそ0.01から0.06回というものである。(KF)
Very Low Gene Duplication Rate in the Yeast Genome
   Li-zhi Gao and Hideki Innan
p. 1367-1370.

光測定器に光を当てる(Shedding Light on a Light Meter)

微生物は、一般に太陽光からの隠れ家を探すことに苦労するものであって、光に よって引き起こされるダメージから自分自身を守るために、変化する明かりの状況 を感じ取り、それに合わせて生きていかねばならない。感覚性ロドプシンは、古細 菌性および真正細菌性ロドプシンからなる大きなファミリーのサブ セットである。 イオン-ポンピング性の兄弟たちとは違って、それらは不可欠な発色団の1つである レチナール誘導体を用いて出くわした光の波長を感じ取り、その情報をタンパク 質-タンパク質相互作用を介して伝達している。Vogeleyたちは、ラン藻(Anabaena) の感覚性ロドプシンの結晶構造を記述している(p.1390、2004年9月30日のオンライ ン出版)。これは2つの光活動性の安定状態を持つという、普通にはない性質のもの である。ほとんどのロドプシンは暗さに適応した状態において安定であり、光が当 たると一連の立体配置の変化の周期を経るのである。このオレンジと青に感受性の ある2つの状態によって、Anabaena は周囲の光の質(色の組成)を評価し、それ自身 の集光性複合体のレパートリを調節できるのであろう。(KF)
Anabaena Sensory Rhodopsin: A Photochromic Color Sensor at 2.0 Å
   Lutz Vogeley, Oleg A. Sineshchekov, Vishwa D. Trivedi, Jun Sasaki, John L. Spudich, and Hartmut Luecke
p. 1390-1393.

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