AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 5, 2004, Vol.306


細菌Deinococcus radioduransの生存に関する金属の秘密(The Metallic Secret of Deinococcus radiodurans ’Success)

細菌D.radioduransは電離放射線や乾燥の双方に対して極端に強い。個々の細胞は 4〜8個のゲノムのコピーを含んでおり、かつその染色体は異常なリング状の構造体 を持っているが、この細菌がこの厳しい環境を生き延びるメカニズムは知られてい ない。Delyたち(p. 1025, 2004年9月30日のオンライン発行版)は、染色体のリング 状構造体は放射線耐性に関する役割を担っていないことを示している。その代わ り、重要な点は鉄に比べて細胞内のMnイオン濃度が非常に高いことである。高度の 細胞内Mn濃度は最初の放射線被曝に対する防御ではなく、放射線損傷からの回復過 程における損傷性の反応性酸素の急激な増加を抑える働きをしている。(KU,Ej)
Accumulation of Mn(II) in Deinococcus radiodurans Facilitates Gamma-Radiation Resistance
   M. J. Daly, E. K. Gaidamakova, V. Y. Matrosova, A. Vasilenko, M. Zhai, A. Venkateswaran, M. Hess, M. V. Omelchenko, H. M. Kostandarithes, K. S. Makarova, L. P. Wackett, J. K. Fredrickson, and D. Ghosal
p. 1025-1028.

解読されたブラックホールのノイズ(Black Hole Noise Deciphered)

活動的な銀河中心核(Active Galactic Nucleus :AGN) は回転ブラックホールとし てモデル化することができ、そこでは物質が降着し、重力的に捕捉された物質でで きた円盤から自らのエネルギーを満たしている。あるAGN は、その中心核から噴出 する相対論的なジェットによって発生するらしい電波放射が存在する場合、電波的 に騒々しい(radio-loud)タイプとして特徴づけられる。Grandi と Palumbo (p.998) は、円盤からの輻射とジェットからの輻射とを識別するために、radio-loud AGN の 一つである 3C273 のスペクトル変動を6年間に渡って調べた。全フラックスに比べ て、両方の成分とも、顕著な量的変化を示している。ジェット成分は、高エネル ギー領域の輻射において勝っている。(Wt)
Jet and Accretion-Disk Emission Untangled in 3C 273
   Paola Grandi and Giorgio G. C. Palumbo
p. 998-1002.

離れた距離での分子間のエネルギー移動(Distant Energy Transfer Between Molecules)

ドナー分子からアクセプター分子へのエネルギー移動は、通常は短距離効果として 考えられている。典型的には、無放射のエネルギー移動では分子間距離が10nm以下 である。放射性のエネルギー移動距離はもっと長いが、そのエネルギーに指向性を 与えて制御できないと、特殊な部位での光子の放出や吸収には効果的なプロセスで はない。AndrewとBames(p.1002、Van Duyneによる展望記事参照)は、表面-プラズ モンポラリトンが銀薄膜の両サイドにある分子間のエネルギー移動に関する効果的 な伝達媒体であること、そのエネルギー移動距離は100nmを越えて移動することを示 している。この効果はナノフォトニクスにおいて有用であり、そこでは光エネル ギーが回路を回って次々と伝達されていく。(KU)
Energy Transfer Across a Metal Film Mediated by Surface Plasmon Polaritons
   P. Andrew and W. L. Barnes
p. 1002-1005.
PHYSICS:
Molecular Plasmonics

   Richard P. Van Duyne
p. 985-986.

ひずみの改良(Straining to Improve)

強誘電性の転移温度や残留分極を持つひずみのあるBaTiO3膜が作られた が、この膜は純粋のBaTiO3に比べて性能が向上し、普通用いられている 鉛ベースのBaTiO3に近い。Choiたち(p. 1005)は、基板上に BaTiO3の格子のミスマッチが最適化された膜を形成した。この膜のひず みにより、強誘電性の特性を高くしたり低くするのに用いることが出来る。この方 法は強誘電性のランダムーアクセスメモリを設計する上で有用となるであろ う。(KU)
Enhancement of Ferroelectricity in Strained BaTiO3 Thin Films
   K. J. Choi, M. Biegalski, Y. L. Li, A. Sharan, J. Schubert, R. Uecker, P. Reiche, Y. B. Chen, X. Q. Pan, V. Gopalan, L.-Q. Chen, D. G. Schlom, and C. B. Eom
p. 1005-1009.

より速い交換(Faster Trading)

ナノサイズの粒子はそのバルクな対応物より反応性が高いが、この差異は表面物性 によると考えられている。Sonたち(p. 1009)は、1価の銀イオンのイオン交換反応が カドニウムセレン化合物のナノ粒子全般にわたって可逆的に生じていることを示し ている。ナノ粒子の反応速度はバルク中のものより何桁も早い。驚くことには、結 晶構造は変化しているが、この粒子の全体的な形状は複雑な幾何学的形状を有する ものでさえ変化していない。(KU,Ej)
Cation Exchange Reactions in Ionic Nanocrystals
   Dong Hee Son, Steven M. Hughes, Yadong Yin, and A. Paul Alivisatos
p. 1009-1012.

どのくらい乾燥したのか(How Dry It Has Been)

アメリカ合衆国西部の広範囲で、何年も続けて干ばつを経験している。行政 官(planners)は人口拡大による水需要の増加を満たすため、適切な水が確保できる かどうか悩んでいる。こうした干ばつはどのくらい異常なことなのか?Cookた ち(p.1015;2004年10月7日にオンライン公開)は、過去1200年に渡る大量の年輪デー タを用いて、合衆国西部における地域的な夏季干ばつの再構築を行った。現在の乾 期は、過去1000年に渡って繰り返し起こった干ばつに比べてその厳しさは遥かに及 ばない。西暦900年頃に始まり、長期にわたり極端に乾燥した400年間は、中世温暖 期( Medieval Warm Period)とおおよそ時を同じくしており、このことは、現在の乾 燥(aridity)が近い将来の地球温暖化による高温による自然な結果であると思われ る。(TO,Ej)
Long-Term Aridity Changes in the Western United States
   Edward R. Cook, Connie A. Woodhouse, C. Mark Eakin, David M. Meko, and David W. Stahle
p. 1015-1018.

水素貯蔵における水素の出し入れ(Ins and Outs of Hydrogen Storage)

水素貯蔵は長年の取り組みにもかかわらず、まだまだ困難な材料科学上の課題であ る。Zhao たち(p. 1012, オンライン版サイエンスの2004年10月14日号)は、比較的 微細なチャネル構造の金属・有機物で、その中には-196℃で水素の吸着脱離にヒステ レシスを有する物質のあることを述べらている。彼らは、このヒステレシスが有機 配位子 (4,4'-bipyridine)の可動性による気体の力学的なトラップによって生じて いるのではないかと議論している。このような物質が得られると、高圧下での水素 吸着の後で、低圧の貯蔵が可能となる。これを水素燃料自動車に応用するには、単 位重量当たりの水素貯蔵量を改善する必要がある。(Ej,hE)
Hysteretic Adsorption and Desorption of Hydrogen by Nanoporous Metal-Organic Frameworks
   Xuebo Zhao, Bo Xiao, Ashleigh J. Fletcher, K. Mark Thomas, Darren Bradshaw, and Matthew J. Rosseinsky
p. 1012-1015.

機能的多様性とコンポスト(Functional Diversity and Composting)

種の多様性と生態系の働きの関連についての激しい議論が続いている。種の絶対数 と相対量のみならず、これらの種のコミュニティ中における機能的な相違が、1つ の生態系中の全体の機能に影響を与えるようだ。Heemsbergen たち(p. 1019) は、 チューブに土壌を詰め、その上にハン(alder)の木の葉を載せ、さらに種々の組合せ の数の環形動物(annelid)、等脚類(isopod), および ヤスデ(millipede)を混入し、 これら3つの生態系の働きを何週間かに渡り追跡した。その結果、種の数そのもの は全体の効率に影響を与えないが、機能全体の組合せが鍵となっているようだ。す なわち、構成員の機能の違いが大きいほど、全体としての葉の分解は効率的にな る。(Ej,hE)
Biodiversity Effects on Soil Processes Explained by Interspecific Functional Dissimilarity
   D. A. Heemsbergen, M. P. Berg, M. Loreau, J. R. van Hal, J. H. Faber, and H. A. Verhoef
p. 1019-1020.

健康および疾患における自食作用の働き(Autophagy in Health and Disease)

自食作用は、細胞がストレスを受けたときにオルガネラと細胞質を隔離して分解す るプロセスであるが、この自食作用が、様々な疾患プロセスにおいて役割を果たす 作用として認識されつつある。ShintaniとKlionsky(p. 990;表紙を参照)は、ヒ トの健康、疾患、および加齢における、時には逆説的な自食作用の役割について概 説している。Nakagawaたち(p. 1037)は、非食細胞中に侵入した後、細胞質中に逃 げ込んだ病原体、A群ストレプトコッカス(GAS)を細胞の自食作用装置により取り囲 み、リソゾームとこの装置とを融合させることにより、細胞が侵入したサイトゾル 細菌病原体を除去する方法を記載している。(NF)
Autophagy in Health and Disease: A Double-Edged Sword
   Takahiro Shintani and Daniel J. Klionsky
p. 990-995.
Autophagy Defends Cells Against Invading Group A Streptococcus
   Ichiro Nakagawa, Atsuo Amano, Noboru Mizushima, Akitsugu Yamamoto, Hitomi Yamaguchi, Takahiro Kamimoto, Atsuki Nara, Junko Funao, Masanobu Nakata, Kayoko Tsuda, Shigeyuki Hamada, and Tamotsu Yoshimori
p. 1037-1040.

ニコチン中毒の陰に潜む分子(The Molecules Behind Nicotine Addiction)

ニコチン依存症に極めて重要な働きをするニコチン様アセチルコリン受容 体(nicotinic acetylcholine receptor;nAChR)サブタイプを同定することは、中 毒のメカニズムを理解する上での手掛かりを与え、そして喫煙中断をもたらす可能 性のある標的を同定する助けにもなるはずである。Tapperたち(p. 1029;Hoggと Bertrandによる展望記事を参照)は、ニコチンα4受容体がニコチンに対して過敏な 遺伝子改変マウスを作り出した。一連の細胞アッセイおよび単純な行動に関する処 置により、α4 nAChRをニコチンにより活性化することが、感作と寛容の発生やニコ チンの有益な作用をも十分に説明できることが示された。(NF)
Nicotine Activation of α4* Receptors: Sufficient for Reward, Tolerance, and Sensitization
   Andrew R. Tapper, Sheri L. McKinney, Raad Nashmi, Johannes Schwarz, Purnima Deshpande, Cesar Labarca, Paul Whiteaker, Michael J. Marks, Allan C. Collins, and Henry A. Lester
p. 1029-1032.
NEUROSCIENCE:
Enhanced: What Genes Tell Us About Nicotine Addiction

   R. C. Hogg and D. Bertrand
p. 983-985.

免疫と嗅覚(Immunology and Olfaction)

鋤鼻器(VNO)は、ヒトには存在しない器官であるが、多くの動物においては繁殖行 動および社会行動を制御するための中心的な役割を果たしている。鋤鼻感覚ニュー ロンは、フェロモンや、性別、性的状態や社会的状態、順位、および個体識別に関 する情報を持つその他の分子を検出するが、これらのシグナルの分子的な性質を定 義することは非常に困難なことであった。Leinders-Zufallたち(p. 1033)は、ク ラスI主要組織適合性複合体(MHC)ペプチドが、VNO上皮基底層中のVNOニューロン を選択的に活性化することを示した。鋤鼻感覚ニューロンによるペプチドの認識 は、MHCハプロタイプとは関係がない。異なるMHC分子に対する特異的なペプチドは 特有な神経の活性化パターンを生み出しており、このことから構造的に多様なこの 一群の化学的シグナル物質を神経的に説明するための根拠が提供される。(NF)
MHC Class I Peptides as Chemosensory Signals in the Vomeronasal Organ
   Trese Leinders-Zufall, Peter Brennan, Patricia Widmayer, Prashanth Chandramani S., Andrea Maul-Pavicic, Martina Jäger, Xiao-Hong Li, Heinz Breer, Frank Zufall, and Thomas Boehm
p. 1033-1037.

針を調査(Examining the Needle)

III型分泌システム(TTSS)は、標的細胞に細菌のエフェクタータンパク質を打ち込 むために、細菌病原体により使用されている。これらのシステムの中心的な構成要 素は、細菌のエンベロープ中に固定化されている複数の環状構造からなる基部と、 エフェクタータンパク質輸送を促進する導管として機能すると考えられている突出 した針状構造とからなる針状複合体である。Marlovitsたち(p. 1040)は、凍結電 子顕微鏡解析により、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)から単離したTTSS 針状複合体の詳細な構造を17Åの解像度で示した。(NF)
Structural Insights into the Assembly of the Type III Secretion Needle Complex
   Thomas C. Marlovits, Tomoko Kubori, Anand Sukhan, Dennis R. Thomas, Jorge E. Galán, and Vinzenz M. Unger
p. 1040-1042.

分泌を隠し撮り(Candid Camera on Secretion)

SNAP25、シンタキシン、またはシナプトブレビンなどのSNAREタンパク質の相互作用 は、制御下にある分泌に際して分泌小胞が細胞膜と融合する場合など、細胞内の膜 の融合の際の重要な現象である。AnとAlmers(p. 1042)は、SNAREが生細胞中で相 互作用する場合に色変化する性質を持つ一揃えの蛍光SNAP25類似体を調製した。時 間分解的に記録すると、一つ一つの細胞が分泌をするように刺激された場合 に、SNARE複合体が集合と分解とを行うことを観察することができた。(NF)
Tracking SNARE Complex Formation in Live Endocrine Cells
   Seong J. An and Wolfhard Almers
p. 1042-1046.

プラスミド分離の動的不安定性(Dynamic Instability in Plasmid Segregation)

微小管が示す動的不安定性が染色体分離に際して重要な働きをしている。最近、原 核生物の染色体分離にはアクチン関連タンパク質が関与することが示唆されてい る。Garner たち(p. 1021; Mo/ller-Jensen and Gerdesによる展望記事参照) は、 原核生物アクチン相同体の ParMが、動的不安定性を有し、双方向性の重合を行うこ とを示した。多くの腸内病原体に見つかる、大型でコピー数の少ない薬剤耐性プラ スミドを分離するには、ParMが組立てられることが必要である。両端にプラスミド を有するフィラメントはこのようにして破局的分解から保護される結果、双方向的 伸張によるプラスミド分離が実現する。(Ej,hE,NF)
Dynamic Instability in a DNA-Segregating Prokaryotic Actin Homolog
   Ethan C. Garner, Christopher S. Campbell, and R. Dyche Mullins
p. 1021-1025.
MICROBIOLOGY:
Dynamic Instability of a Bacterial Engine

   Jakob Moller-Jensen and Kenn Gerdes
p. 987-989.

RNA干渉の引き金(Triggering RNA Interference)

RNA干渉(RNAi)の多くの事例において、サイレンシング シグナルは二本鎖 RNA((ds)RNA)であるが、これは自己相補的配列、または、アンチセンス転写物のど ちらかによって生成される。1コピーの導入遺伝子にとって、転写物自体の欠陥 が、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を誘導して、RNAiに必要なdsRNAを生成するの ではないかと考えられていた。しかしながら、in vivoでのRNAi反応においてRdRpが 用いる「異常」転写物の性質については知られていなかった。Gazzani たち(p. 1046) はシロイヌナズナ(Arabidopsis)中のRdRpは、脱キャッピングされたmRNAから dsRNA を生成できる証拠を示した。メッセンジャーRNA代謝回転に関与するRNaseに よるキャップ化mRNAの除去によって、いくつかの導入遺伝子のRdRp-依存性の共抑制 効率が低下する。(Ej,hE,NF)
A Link Between mRNA Turnover and RNA Interference in Arabidopsis
   S. Gazzani, T. Lawrenson, C. Woodward, D. Headon, and R. Sablowski
p. 1046-1048.

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