AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 15, 2004, Vol.306


特殊な東洋の真珠(Distinctive Pearl of the Orient)

スリランカは、過去50万年の間で5回、幅広い陸橋(land bridge)によってインド南 部とつながった。このことが動物層と植物相の分散や混合の機会をもたらした。そ の結果、スリランカとインド南部の動物相は統合された生物地理的ユニットとみな されてきた。Bossuytたち(p.479)は、両方の地域の脊椎動物と非脊椎動物グループ のDNAの配列比較を行い、スリランカは実際には特異な動物層の多い地域であること を示した。調査したすべてのグループにおけるスリランカとインド南部の動物相と の間に、高い遺伝子の乖離(divergence)が観測された。(TO,Ej)
Local Endemism Within the Western Ghats-Sri Lanka Biodiversity Hotspot
   Franky Bossuyt, Madhava Meegaskumbura, Natalie Beenaerts, David J. Gower, Rohan Pethiyagoda, Kim Roelants, An Mannaert, Mark Wilkinson, Mohomed M. Bahir, Kelum Manamendra-Arachchi, Peter K. L. Ng, Christopher J. Schneider, Oommen V. Oommen, and Michel C. Milinkovitch
p. 479-481.

真実を語っているか?(Truth Be Told?)

専門家あるいは一般の人々から、主観を交えた判断や判定が、投資対効果評価手法 のような、多くの調査や公共政策決定をする場合の基礎となっている。しかし、 ちょっと答えにくい、個人的な性に関する履歴調査のような多くの調査において は、“いわゆる正解(さしさわりの無い答え)”と思われる回答に反するような本音 をの回答を得ることは困難である。Prelec(p.462)は、回答者が答えを選ぶだけでな く、どのぐらいの割合の人が回答者の答えに同意しているかを予測するアプローチ を開発した。この手法によるスコアは、最も一般的な回答に高得点を与えるのでは なく、同一集団の予測集合から期待される回答よりも、もっと一般的(common)であ る回答には、それがマイナーな視点を表わしていても、最大のスコアをつけ る。(TO)
A Bayesian Truth Serum for Subjective Data
   Drazen Prelec
p. 462-466.

水素貯蔵法における炭素の役割(Organic Boost for Hydrogen Storage)

クラスレート(包接)化合物を利用した水素燃料貯蔵法があるが、これは、水素分 子を取り囲む大きな緩い籠状の水ー氷構造を利用する。しかし、純粋の水素クラス レートは高圧下でしか安定ではないため、合成法や貯蔵法が複雑になる。Florusse たち(p. 469)は、テトラヒドロフランというゲスト分子を大きな籠状分子中に置く ことで、大気圧レベルまで安定に水素分子をクラスレート中に閉じ込めることがで きることを示した。X線回折とラマン分光分析、および核磁気共鳴によれば、低圧で は水素分子はsII2元クラスレート中に取り込まれている。(Ej,hE)
Stable Low-Pressure Hydrogen Clusters Stored in a Binary Clathrate Hydrate
   Louw J. Florusse, Cor J. Peters, Joop Schoonman, Keith C. Hester, Carolyn A. Koh, Steven F. Dec, Kenneth N. Marsh, and E. Dendy Sloan
p. 469-471.

原子の磁性を探索する(Probing Atomic Magnetism)

低温走査トンネル顕微鏡は、金属や酸化物表面に吸着された単一のマンガン原子の 磁気励起スペクトルを探査するのに用いられてきた。Heinrich たち(p.466, 2004年 9月9日のオンライン発行版; Bode による展望記事を参照のこと) は、この技法が単 一原子の磁気モーメントの反転に必要なエネルギーを決定できるだけでなく、原子 の極く近傍の環境がそれらの磁気特性にどのような影響を与えているかも調べるう ることを示している。(Wt)
Single-Atom Spin-Flip Spectroscopy
   A. J. Heinrich, J. A. Gupta, C. P. Lutz, and D. M. Eigler
p. 466-469.
PHYSICS:
The Environment Matters--Even on the Atomic Scale

   Matthias Bode
p. 423-425.

質量分析器の試料を大気圧中で用意(Ambient Sampling for Mass Spectrometry)

最新の質量分析器の能力にも制約がある。質量と荷電の比を決定する必要があるた め真空中でイオン化しなければならない。そのため、金属、ポリマーや鉱物表面に 付着したペプチドやタンパク質は測定が難しかった。Takats たち(p. 471; Choによ るニュース記事も参照)は、大気圧下で荷電した水の微小滴と溶剤イオンとを一緒に 対象物表面に電気噴霧し、これが表面上にもともと存在している物質のガス状イオ ンを生成する。この手法(脱離エレクトロスプレーイオン化:DESI)による質量分 析結果は通常のESIと類似しており、単電荷かあるいは複数電荷を持っている。この 手法は、絶縁表面でも導電表面でも適用可能であり、植物の幹や人の表皮上の試料 も得られた。また、試料表面上で化学反応を行って、化合物の同定をするための誘 導体を作ることも可能である(Ej,hE)
Mass Spectrometry Sampling Under Ambient Conditions with Desorption Electrospray Ionization
   Zoltán Takáts, Justin M. Wiseman, Bogdan Gologan, and R. Graham Cooks
p. 471-473.

移動する重力(Gravity on the Move)

地震によって地球内部の物質が移動するが、この移動による局地的加速度の変化が 地表でも生じるはずである。この変化は極めて微小であるが、Imanishi たち(p. 476)は、2003年9月25日の瞬間マグニチュード8の十勝沖地震で生じた加速度1マイク ロガリレオ(地表の重力加速度の10-9倍)の変化を測定した。これには日 本の3つの超伝導重力計が利用された。このように重力計は地震の動力学のモデル 化や解釈にも使えるほどの精度を有している。(Ej)
A Network of Superconducting Gravimeters Detects Submicrogal Coseismic Gravity Changes
   Yuichi Imanishi, Tadahiro Sato, Toshihiro Higashi, Wenke Sun, and Shuhei Okubo
p. 476-478.

肥満、ストレス、糖尿病(Obesity, Stress, and Diabetes)

肥満は2型糖尿病の主要なリスク因子であるが、しかしながら、この二つの症状がど のように関連しているかは完全にはわかっていない。Oezcanたち(p. 457; Muoio とNewgardによる展望記事を参照)は、可能性のある関係として小胞体(ER)ストレ スを見いだした。ERは膜タンパク質や分泌性タンパク質の合成およびプロセッシン グに関与する細胞内の膜のネットワークであり、その機能は栄養レベルの変化など の病理学的ストレスに敏感である。肥満は肝臓および脂肪細胞でのERストレスを引 き起こし、続いてこのストレスがインシュリンのシグナル伝達を破壊する。高脂肪 食のもとにある場合、ERストレスのレベルを高くした遺伝子操作されたマウスは、 対照と比較して、末梢性のインスリン耐性をより高い頻度で発症した。ERストレス のシグナル伝達経路は2型糖尿病の新しい治療方法開発のための有用な標的となるだ ろう。(NF)
Endoplasmic Reticulum Stress Links Obesity, Insulin Action, and Type 2 Diabetes
   Umut Özcan, Qiong Cao, Erkan Yilmaz, Ann-Hwee Lee, Neal N. Iwakoshi, Esra Özdelen, Gürol Tuncman, Cem Görgün, Laurie H. Glimcher, and Gökhan S. Hotamisligil
p. 457-461.
BIOMEDICINE:
Insulin Resistance Takes a Trip Through the ER

   Deborah M. Muoio and Christopher B. Newgard
p. 425-426.

一人二役(Doing Double Duty)

真核細胞における遺伝子発現は、通常は、構造タンパク質および酵素をコードする 遺伝子の発現を活性化する転写制御因子により調節されていると考えられてい る。Hallたち(p. 482)は、プロテオームチップとクロマチン免疫沈降を使用し て、DNAに結合し、遺伝子発現を直接的に制御する代謝酵素、Arg5,6を同定し た。Arg 5,6は、酵母における2工程のアルギニン生合成を触媒するだけではなく、 いくつかの遺伝子に直接的に結合する。この酵素のノックアウトをおこなうと、核 およびミトコンドリアの標的遺伝子の転写レベルが変化した。(NF)
Regulation of Gene Expression by a Metabolic Enzyme
   David A. Hall, Heng Zhu, Xiaowei Zhu, Thomas Royce, Mark Gerstein, and Michael Snyder
p. 482-484.

局所的HIV予防?(Topical HIV Prevention?)

現在まで、サルまたはヒト免疫不全ウィルス(HIV)の膣での感染を完全に防御する 殺菌剤の候補は全く提供されていない。Ledermanたち(p. 485)は、ケモカイン RANTESの修飾型を試験した。RANTESは、細胞に感染するためにHIVにより使用される 特徴的な共受容体、ケモカイン受容体CCR5の発現を抑制制御することにより、培養 細胞へのHIVの進入をブロックすることが知られている。アカゲザルにおいて RANTES-含有製剤を局所的に膣投与すると、その後の雑種の研究室系ウィルスの感染 から膣を防御することができた。(NF)
Prevention of Vaginal SHIV Transmission in Rhesus Macaques Through Inhibition of CCR5
   Michael M. Lederman, Ronald S. Veazey, Robin Offord, Donald E. Mosier, Jason Dufour, Megan Mefford, Michael Piatak, Jr., Jeffrey D. Lifson, Janelle R. Salkowitz, Benigno Rodriguez, Andrew Blauvelt, and Oliver Hartley
p. 485-487.

タンパク質分解酵素、ニューロトロフィン、記憶(Proteases, Neurotrophins and Memory)

脳由来神経栄養因子(BDNF)依存の神経系可塑性は、発生時と学習時のシナプス成長 に必須であると考えられている。組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)およびBDNF は、長期増強(LTP)を含む活性依存性の可塑性に関与することが既に明確であ る。Pangたち(p 487; Couzinによるニュース記事参照)は、tPAとBDNFの間の機械的 な連結を発見した。LTPの遅延相は、tPAとプラスミンというタンパク質分解酵素と BDNFを含む一連の細胞外タンパク分解プロセスに依存する。tPAの活性化によりプラ スミノーゲンが切断されてプラスミンが生成されるが、そのプラスミンがproBDNFを 成熟BDNFに変換する。この一連の経路における段階のいずれかに干渉すると、遅延 相LTPが遮断される。その後の経路中で生じるエレメントを再挿入すると、この遮断 を解決することができる。(An,hE)
Cleavage of proBDNF by tPA/Plasmin Is Essential for Long-Term Hippocampal Plasticity
   Petti T. Pang, Henry K. Teng, Eugene Zaitsev, Newton T. Woo, Kazuko Sakata, Shushuang Zhen, Kenneth K. Teng, Wing-Ho Yung, Barbara L. Hempstead, and Bai Lu
p. 487-491.
DRUG SAFETY:
Withdrawal of Vioxx Casts a Shadow Over COX-2 Inhibitors

   Jennifer Couzin
p. 384-385.

チャネル・ゲーティングの機構(The Nuts and Bolts of Channel Gating)

電位依存の陽イオンチャネルはセンサー領域を持っており、このセンサーにより膜 貫通の電位変化に応じてチャネル・ゲートの高次構造を変化させる。しかし、この 制御がどのように行なわれているかは討論のネタである。Cuelloたち(p. 491)は部 位特異的スピン標識と電子常磁性共鳴分光学を用いて、KvAPという原核生物の電位 依存性 K+チャネルの局所的な構造と動力学を分析した。その結果は、チャネ ル・ゲーティングに関する最近のモデルのいずれとも完全に一致するものではない が、対照モデルとの間の共通点を発見し、将来の分析で利用できる重要な点を提供 している。(An)
Molecular Architecture of the KvAP Voltage-Dependent K+ Channel in a Lipid Bilayer
   Luis G. Cuello, D. Marien Cortes, and Eduardo Perozo
p. 491-495.

後からの報酬(Delaying Gratification)

すぐさま手に入る小さな喜びを選ぶのではなく、貯金箱にお金を貯めることを学ぶ ように、後になってより大きな報酬が見込めることを思い描いてそれに価値を置く ことは、「自然な」行動ではなく、学習されて身につくものである。大学生たちに その場での報酬と後になってからの報酬を選択させることで、McClureたちは、2つ の別々の神経系が違った形で関与していることをはっきりさせた(p. 503; また Ainslie とMonterossoによる展望記事参照のこと)。辺縁系領域は即時的な利得を評 価しており、一方前頭葉前部領域は遅れて得られる価値について抜け目のない計算 をしているのである。(KF)
Separate Neural Systems Value Immediate and Delayed Monetary Rewards
   Samuel M. McClure, David I. Laibson, George Loewenstein, and Jonathan D. Cohen
p. 503-507.
BEHAVIOR:
A Marketplace in the Brain?

   George Ainslie and John Monterosso
p. 421-423.

名前のない数(Numbers Without Names)

「1つ」という語を、1個のものに対してだけでなく、少数のものに対しても用いる としたら、われわれは数を数えられるのだろうか(GelmanとGallistelによる視点を 参照のこと)? Gordonは、アマゾンの種族Pirahaの数的能力について調べた(p. 496;2004年8月19日のオンライン発行版)。彼らの言語は1つ、2つ、そしてたくさん を表わす語だけを含んでおり、しかもそれらは、数を表わす語がより多くあってよ り正確に定義されている、われわれが使うのと同じような使い方にはなっていな い。この種族の成員は、3以上の数量が関わる場合には、数のタスクをうまく行えな い。これとは別の研究で、Picaたちは、アマゾンに居住しているMunduruku語を話す 人たちのグループに、絵で表現された比較や加算、減算の一連のタスクを用いて質 問した(p. 499)。この言語もまた5以上を表わす語を欠いており、そのために5を超 える数量が関わる算術計算を正確に行うことはサポートされない。それにも関わら ず彼らは、正確な語が用意されていない大きな数量についてさえ、近似的な比較や 加算を行うことができるのである。(KF)
Language and the Origin of Numerical Concepts
   Rochel Gelman and C. R. Gallistel
p. 441-443.
Numerical Cognition Without Words: Evidence from Amazonia
   Peter Gordon
p. 496-499.
Exact and Approximate Arithmetic in an Amazonian Indigene Group
   Pierre Pica, Cathy Lemer, Véronique Izard, and Stanislas Dehaene
p. 499-503.

ミセル緩和の観察(Watching Micelles Relax)

エネルギーが、レーザー励起などによって特異的分子振動に注入されると、それは 急速に隣接する結合や分子に伝播し、最終的に熱が生じる。この散逸過程の詳細 は、界面においてまた溶液中でかなり複雑である可能性がある。De`akたちは、逆ミ セルを介したエネルギーの流れを研究した(p. 473;2004年9月のオンライン発行 版)。逆ミセルとは、無極性液体中の界面活性剤によって支えられた水でできたポ ケットのことである。赤外線によって水の振動を励起し、ピコ秒レベルの時間分解 能のラマン・プローブ技法を用いることで、彼らは、水から界面活性物質層を通っ て四塩化炭素溶媒に至る高度に詳細なフレーム単位のエネルギー伝播ステップをま とめあげた。この技法は、界面活性物質の極性頭部グループにおける振動とその無 極性の尾部における振動とが区別できるほど感度がよい。驚いたことに、溶媒への エネルギー移動は、頭部グループからのほうがより近い尾部からよりも速いのであ る。(KF)
Vibrational Energy Transfer Across a Reverse Micelle Surfactant Layer
   John C. Deàk, Yoonsoo Pang, Timothy D. Sechler, Zhaohui Wang, and Dana D. Dlott
p. 473-476.

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