AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 1, 2004, Vol.306


珪藻のゲノムを描く(Delineating the Diatom Genome)

珪藻は珪土を沈殿させ、また光合成を通じて有機炭素一次生産量を不釣合いなほど 大きな比率(地球全体の炭素固定の20%程度)で占めている。これらは新生代の化 石記録としてよく保存されている。Armbrust たち (p.79; Pennisi によるニュース 記事を参照のこと)は、Thalassiosira pseudonana の二倍体ゲノムの24個の染色 体配列を決定して、異常な代謝レパートリ(尿素サイクルを含めて)、独特の制御因 子やシグナル伝達成分、及び代謝中間生成物と同様にエネルギーとして脂質を利用 出来る証拠を明らかにした。このゲノムは色素体ゲノムやミトコンドリアのゲノム 同様、豪華に飾り立てられたシリカで出来た細胞壁を合成することに特化した一連 のゲノムを含んでいる。(Wt,Ej,hE,nk)
The Genome of the Diatom Thalassiosira Pseudonana: Ecology, Evolution, and Metabolism
   E. Virginia Armbrust, John A. Berges, Chris Bowler, Beverley R. Green, Diego Martinez, Nicholas H. Putnam, Shiguo Zhou, Andrew E. Allen, Kirk E. Apt, Michael Bechner, Mark A. Brzezinski, Balbir K. Chaal, Anthony Chiovitti, Aubrey K. Davis, Mark S. Demarest, J. Chris Detter, Tijana Glavina, David Goodstein, Masood Z. Hadi, Uffe Hellsten, Mark Hildebrand, Bethany D. Jenkins, Jerzy Jurka, Vladimir V. Kapitonov, Nils Kröger, Winnie W. Y. Lau, Todd W. Lane, Frank W. Larimer, J. Casey Lippmeier, Susan Lucas, Mónica Medina, Anton Montsant, Miroslav Obornik, Micaela Schnitzler Parker, Brian Palenik, Gregory J. Pazour, Paul M. Richardson, Tatiana A. Rynearson, Mak A. Saito, David C. Schwartz, Kimberlee Thamatrakoln, Klaus Valentin, Assaf Vardi, Frances P. Wilkerson, and Daniel S. Rokhsar
p. 79-86.

強磁性と近藤効果( Ferromagnetism and the Kondo Effect)

近藤効果において、局在スピンが周囲の伝導電子の海と相互作用して、ゼロバイア スで高伝導性を生じるダイナミックなスピン-一重項状態を形成する。磁気基底状態 において、スピン縮退の崩壊により近藤効果が抑制され、このような強磁性と近藤 効果の2つの効果は両立しないと見られていた。Pasupathyたち(p. 86; Strunkによ る展望記事参照)は、強磁性体電極によってC(炭素)分子中の局在スピンを接触さ せる実験研究について発表している。近藤効果は依然として保持されているが、電 極の磁化方向に依存している。さらに、二つのの効果の存在により接合部の磁気抵 抗が高まる。この発見はトンネル接合デバイスの改良に利用されるであろう.(hk)
The Kondo Effect in the Presence of Ferromagnetism
   Abhay N. Pasupathy, Radoslaw C. Bialczak, Jan Martinek, Jacob E. Grose, Luke A. K. Donev, Paul L. McEuen, and Daniel C. Ralph
p. 86-89.
APPLIED PHYSICS:
Boosting Magnetoresistance in Molecular Devices

   Christoph Strunk
p. 63-64.

プルームからの鉄分還流に関する議論( Ironing Out the Plume Debate)

ホットスポットプルームが存在するのか、そしてこのプルームがコア-マントル境界 から上昇してくる物質に由来するのかということは、長い間議論されてき た。Humayunたち(p.91;Leeによる展望記事参照)は、ハワイの溶岩中の鉄-マンガン 比率を計測し、Fe濃縮は液状のFeコア(liquid Fe core)と珪酸塩マントル(silicate mantle)との相互作用によって起こることが判った。著者らは、ハワイのホットス ポットプリームはコア-マントル境界まで拡がっていること、そしてコア-マントル 境界の化学的、かつ力学的な相互作用は地表の火山活動と同様にその組成に影響を 与えていると結論付けている。(TO,Ej,nk)
Geochemical Evidence for Excess Iron in the Mantle Beneath Hawaii
   Munir Humayun, Liping Qin, and Marc D. Norman
p. 91-94.
GEOPHYSICS:
Are Earth's Core and Mantle on Speaking Terms?

   Cin-Ty Aeolus Lee
p. 64-65.

多成分系ミセル(Multicomponent Micelles)

ブロックコポリマーは、主として二つの異なるポリマーの化学結合からなってお り、相分離により様々な形態をとる。三つの異なるセグメントを用いると、お互い に寛容できる二つのポリマーが好ましからざる表面を最小化しようとして中心と中 と殻の形態が生じる。Liたち(p. 98)は、3本の腕のポリマーを考案し、そのポリ マーではフッ素系相の付与により、3本の腕の総てがお互いに混じりあわない。こ のようなポリマーは、水の中で多成分系のミセルを形成し、同時に多種の薬剤を運 ぶ輸送体として有用となるであろう。Pochanたち(p. 94)は、三元ブロックコポリ マーがトロイダル状の構造を作ることを示している。このような異常な形状を作る 重要なポイントは、分子内力と分子間力のバランスを取る2価の有機カウンターイオ ンの付加である。(KU)
Multicompartment Micelles from ABC Miktoarm Stars in Water
   Zhibo Li, Ellina Kesselman, Yeshayahu Talmon, Marc A. Hillmyer, and Timothy P. Lodge
p. 98-101.
Toroidal Triblock Copolymer Assemblies
   Darrin J. Pochan, Zhiyun Chen, Honggang Cui, Kelly Hales, Kai Qi, and Karen L. Wooley
p. 94-97.

細胞表面シグナル伝達の感作(Sensitizing Cell-Surface Signaling)

細胞表面におけるシグナル伝達は、細胞表面受容体と細胞外リガンドとの間の相互 作用に関わるものであり、リガンドの継続的な存在下において、シグナル伝達を弱 めるような受容体の内部移行プロセスにより、しばしば制御される。Partridgeた ち(p. 120)は、ある受容体の糖質形成の状態が、受容体の内部移行に影響するた めに、リガンドに対する受容体の反応を制御する中心的な役割を果たしている証拠 を提示している。細胞表面受容体に対して特定の糖を付加するGolgi酵素が、癌腫細 胞中で上方制御されている場合、様々な成長因子やサイトカインに対する感受性は 上昇する。受容体は内在性のレクチン、Gal-3に対する結合部位の発現を介して細胞 表面で互いに架橋され、この細胞表面の受容体ネットワークにより内部移行が困難 になり、それにより成長因子に対する反応性が延長されるようである。(NF)
Regulation of Cytokine Receptors by Golgi N-Glycan Processing and Endocytosis
   Emily A. Partridge, Christine Le Roy, Gianni M. Di Guglielmo, Judy Pawling, Pam Cheung, Maria Granovsky, Ivan R. Nabi, Jeffrey L. Wrana, and James W. Dennis
p. 120-124.

2つのRNase P構造の一致点と相違点(Differences and Similarities in RNase P Structures)

エンドヌクレアーゼRNase Pは、すべての生命の界で保存されており、そしてトラン スファーRNAの成熟に必要とされる。細菌のRNAse Pは、実質的に異なる配列を有す るものの、機能は類似する2つの型に分類することができる。Krasilnikovたち(p. 104;WesthofおよびMassireによる展望記事を参照)は以前に、B型RNase Pの特異性 ドメインの構造を報告したのだが、今回は、A型RNase Pの構造を2.9オングストロー ムの解像度で決定した。2つのドメインの間では、二次構造と三次構造が顕しく相違 しているが、類似するコア構造が基質と相互作用している。RNA構造物は異なる末梢 性要素を使用して、不変のコア部分を安定化させることができる。(NF)
Basis for Structural Diversity in Homologous RNAs
   Andrey S. Krasilnikov, Yinghua Xiao, Tao Pan, and Alfonso Mondragón
p. 104-107.
STRUCTURAL BIOLOGY:
Evolution of RNA Architecture

   Eric Westhof and Christian Massire
p. 62-63.

大きければ良いという訳ではないの?(Bigger But Not Better?)

個体の特性(traits)や特徴(characteristics)、または特殊化の選択は直ちに有益と なることが、最終的にはクレード(clade:共通の祖先から進化した生物群)にとって 不利益となる。Van Valkenburghたち(p.101)は、このことが、恐らく多くの大きな 捕食動物(predator)や哺乳動物と同様に、canid(犬科の動物)において過去 5000万 年の間にしばしば繰り返し起こったことを示している。体のサイズが最大級に増加 し、そして大きな餌動物を攻撃するために歯のサイズや形態が特殊化したCanid ク レードは、僅か600万年程度の期間で絶滅している。より小型の個体やより多様に食 餌するクレードよりも遥かに短い。(TO)
Cope's Rule, Hypercarnivory, and Extinction in North American Canids
   Blaire Van Valkenburgh, Xiaoming Wang, and John Damuth
p. 101-104.

巨大動物群の絶滅に関する論争(Missing Megafauna Melee)

過去数年間、人類学、気候学、考古学び生態学の分野において、更新世後期の大陸 に生存していた巨大動物群絶滅の原因を探ることに多くの研究がなされてき た。Barnoskyたち(p. 70)は、この研究をレビューし、最終的な解明は未だ出来てい ないが、更新世後期の絶滅のタイミングは気候変化とヒトの影響の結びつきによっ てもたらされた可能性が明らかであると示唆している。(KU,Ej)
Assessing the Causes of Late Pleistocene Extinctions on the Continents
   Anthony D. Barnosky, Paul L. Koch, Robert S. Feranec, Scott L. Wing, and Alan B. Shabel
p. 70-75.

椎動物における光受容器(Photoreceptors in Vertebrates)

シトクロム(cryptochrome)は、昆虫や植物における概日周期同調化のための光受 容器として機能する。Tuたちは、cryptochromeが脊椎動物においても同様に機能し ていることを示す証拠を提示している(p. 129)。ニワトリから分離された虹彩括約 筋は、光が当たると強く速やかに狭まり、外因性の神経入力がない暗闇では再び広 がる。この活性の根底にある感光色素の特徴は、オプシン光受容器の鋳型には当て はまらないが、その代わり、cryptochromeの既知の吸収スペクトルにぴったり合っ ている。melanopsinではなくcryptochromeのアンチセンス・ノックダウンは、それ に見合った内因性の虹彩感光性の損失を引き起こした。(KF)
Nonvisual Photoreception in the Chick Iris
   Daniel C. Tu, Matthew L. Batten, Krzysztof Palczewski, and Russell N. Van Gelder
p. 129-131.

コラーゲンに沿って動く処理酵素(Processive Enzyme Movement Along Collagen)

脊椎動物において、細胞外基質(ECM)は、よく組織化されている巨大分子構造物であ り、その最大の構成物はコラーゲンである。細胞外基質の破壊は生理学的および病 態生理学な多くのプロセスにおいて重要なことであり、これは、基質のメタロプロ テアーゼ(metalloproteases :MMP)によって達成される。Saffarian たち(p. 108)は コラゲナーゼのMMP-1が、ブラウン運動と歯止め機構による、拡散の偏り効果によっ て、コラーゲンに沿って動くことを示した。この前進運動はアデノシン三リン酸の 加水分解とは無関係であり、コラーゲン-鎖の加水分解のエネルギーと結合して行わ れる。これは歯止め機構を利用しているので逆方向に動くことはできない。(Ej,hE)
Interstitial Collagenase Is a Brownian Ratchet Driven by Proteolysis of Collagen
   Saveez Saffarian, Ivan E. Collier, Barry L. Marmer, Elliot L. Elson, and Gregory Goldberg
p. 108-111.

細胞周期の進行とプロテアソームを抑制(Inhibiting Cell Cycle Progression and the Proteasome)

プロテアソームは、細胞質においてユビキチンでタグされたタンパク質を分解す る。Vermaたち(p. 117;BellowsとTyersによる展望記事参照)は、アフリカツメガエ ルの抽出物における化学的な遺伝子スクリーニングを行ない、細胞周期の進行に関 する小さな分子抑制因子を同定した。ユビスタチンと呼ぶ抑制因子の一つのクラス は、サイクリンB分解を抑制することによって、細胞周期の進行を抑制した。ユビス タチンは精製したプロテアソームとユビキチン化基質の相互作用をも妨げた。ユビ スタチンは、既知の治療的に重要なユビキチン結合タンパク質が認識するユビキチ ンインターフェースを標的とする。 (An)
Ubistatins Inhibit Proteasome-Dependent Degradation by Binding the Ubiquitin Chain
   Rati Verma, Noel R. Peters, Mariapina D'Onofrio, Gregory P. Tochtrop, Kathleen M. Sakamoto, Ranjani Varadan, Mingsheng Zhang, Philip Coffino, David Fushman, Raymond J. Deshaies, and Randall W. King
p. 117-120.
CELL BIOLOGY:
Chemical Genetics Hits "Reality"

   David S. Bellows and Mike Tyers
p. 67-68.

すい星の尾部に乗る(Riding the Comet Tail)

ワクシニアウイルス(vaccinia virus:予防用ワクチン)は、すい星のようなアクチ ン尾部によって推進されて、感染細胞の周りに移動する。Newsomeたち(p. 124;2004 年8月5日オンライン出版;Hallによる展望記事参照)は、細胞外のワクシニアウイル ス粒子によって誘発される外から中へのシグナル伝達機構を明らかにした。この機 構は、最終的には原形質膜におけるSrcの局所的な増加と活性化によるワクシニアウ イルスのアクチンに基づく運動性を刺激することにある。このシグナル伝達回路の 高度な局在化は、何故にアクチン尾部が原形質膜においてのみ形成されるかを説明 するものであり、、ワクシニアのアクチンに基づく運動性が、遊走細胞の先端にお ける受容体キナーゼのシグナル伝達を模倣しているという仮設を強く支持するもの である。著者たちは、細胞先端において微小管に基づく運動性からアクチン基づく 運動性へのスイッチを制御するSrcの役割をも見出した。(An)
Src Mediates a Switch from Microtubule- to Actin-Based Motility of Vaccinia Virus
   Timothy P. Newsome, Niki Scaplehorn, and Michael Way
p. 124-129.
VIROLOGY:
Enhanced: Src Launches Vaccinia

   Alan Hall
p. 65-67.

キセノンの半減期決定(Making a Date with Xenon)

地球の起源や地球進化初期の状態は希ガスの初期量とか濃度の変化を決定すること によって、もっと精密になるはずである。Turnerたち(p. 89)は、40億年昔のジルコ ン粒子中の244Pu/238Uの分裂によって作られたキセノン同 位体濃度を精密に測定した。これらの測定によ る244Pu/238Uの値から、変成に伴なってキセノンが逃げて いること、また、最初の変成作用が生じた時期が推定された。(Ej,hE)
Extinct 244Pu in Ancient Zircons
   Grenville Turner, T. Mark Harrison, Greg Holland, Stephen J. Mojzsis, and Jamie Gilmour
p. 89-91.

多様性の起源とその維持のモデル化(Modeling Generation and Maintenance of Diversity)

生態系における種の多様性がどのようにして生じ、これが維持されてきたのかは、 ずっと生態学の中心的な研究テーマであり続けている。Bonsallたちは、生活史理論 を組み込んだモデルを定式化することで、ある捕食者‐獲物系における生物多様性が 生まれたことを説明している(p. 111)。たった一つの資源を求めて争う多種の捕食 者がどのようにして共存できるかを理解することによって、必然的に獲得される ニッチの幅と類似性に一定の形式が生じる。連続的に変化しているさまざまな種の 集まりが、生態学的プロセスと進化プ ロセスの相互作用によって、多種共存状態を 生じるかを示すことができる。重要なのは、そうした集まりが、限られた資源をめ ぐる競合を介して、またニッチ内におけるほぼ中立的な競合を介して、複数のニッ チへと構造化されることである。この知見は、古典的な生態学理論と、中立的生態 学的プロセスという考え方に基づいて進歩したより新しい理論とを和解させる可能 性をもつものである。(KF)
Life History Trade-Offs Assemble Ecological Guilds
   Michael B. Bonsall, Vincent A. A. Jansen, and Michael P. Hassell
p. 111-114.

Dapper2と中胚葉形成(Dapper2 and Making Mesoderm)

Nodalなどのトランスフォーミング成長因子(TGF)スーパーファミリーのメンバー は、脊椎動物の中胚葉形成の誘導物質として作用する。特に、Nodalは正常な胚発生 にとって必要であり、そのシグナル伝達はきちんと制御されなければならな い。Zhangたちは、ゼブラフィッシュの胚におけるNodalのシグナル伝達活性を Dapper2が調節していると報告している(p. 114)。Dapper2の損失は初期の原腸胚に おけるNodal-応答遺伝子の上方制御を引き起こし、逆にDapper2の過剰発現はNodal- 応答遺伝子の下方制御を生じさせるのである。Dapper2はTGFシグナル伝達経路の要 素と共沈して、その相互作用を妨害し、リソソームのTGF受容体分解を促進するので ある。(KF)
Zebrafish Dpr2 Inhibits Mesoderm Induction by Promoting Degradation of Nodal Receptors
   Lixia Zhang, Hu Zhou, Ying Su, Zhihui Sun, Haiwen Zhang, Long Zhang, Yu Zhang, Yuanheng Ning, Ye-Guang Chen, and Anming Meng
p. 114-117.

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