AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 10, 2004, Vol.305


樹状の二元ブロックコポリマー(Dendrimeric Diblock Copolymer)

二元ブロックコポリマーは相分離により数多くの形状を示し、一方樹状ポリマーは 高度に枝分かれした密な分子に様々な異なる機能を持たせることが出来る。Choた ち(p.1598)は、この二つの構成体を一個の分子内に結合させて、線形の長鎖セグメ ントにグラフト化されたデンドロン(dendron)の相の挙動を調べた。この分子は通常 の二元コポリマーで見られるのと同じ球状や円筒状、及びラメラ構造を示すだけで なく、異常につながった立方構造をも示す。このポリマーの力学的、及びチャージ トランスファー特性は観測された構造と関係付けることが出来る。(KU,nk)
Mesophase Structure-Mechanical and Ionic Transport Correlations in Extended Amphiphilic Dendrons
   B.-K. Cho, A. Jain, S. M. Gruner, and U. Wiesner
p. 1598-1601.

木星大気の組成(Composition of Jupiter's Atmosphere)

Cassini 宇宙船が土星へ向かう途中で木星により スウィング バイ(軌道修正)した 際に、複合赤外分光計(Composite Infrared Spectrometer CIRS) により木星の上層 大気の測定が行なわれた。Kunde たち (p.1582, オンライン上で 2004年8月19日に 公開された)は、温度と磁場の効果に関連したオーロラ中に幾つかの炭化水素の増加 を見いだした。Shoemaker-Levy 9 彗星による衝突によって成層圏に付与された二酸 化炭素とシアン化水素は、移動することも、拡散することも殆どなかった。これ は、おそらくは、極の渦がこれらの化学種を高緯度方向に拡散するのを妨げている ためであろう。(Wt)
Jupiter's Atmospheric Composition from the Cassini Thermal Infrared Spectroscopy Experiment
   V. G. Kunde, F. M. Flasar, D. E. Jennings, B. Bézard, D. F. Strobel, B. J. Conrath, C. A. Nixon, G. L. Bjoraker, P. N. Romani, R. K. Achterberg, A. A. Simon-Miller, P. Irwin, J. C. Brasunas, J. C. Pearl, M. D. Smith, G. S. Orton, P. J. Gierasch, L. J. Spilker, R. C. Carlson, A. A. Mamoutkine, S. B. Calcutt, P. L. Read, F. W. Taylor, T. Fouchet, P. Parrish, A. Barucci, R. Courtin, A. Coustenis, D. Gautier, E. Lellouch, A. Marten, R. Prangé, Y. Biraud, C. Ferrari, T. C. Owen, M. M. Abbas, R. E. Samuelson, F. Raulin, P. Ade, C. J. Césarsky, K. U. Grossman, and A. Coradini
p. 1582-1586.

DNA鋳型による大環状化合物のライブラリ(Macrocyclic Libraries via DNA)

DNAの認識を用いた幾つかの方法が、大環状化合物のライブラリを合成するのに利用 されている。Cartnerたち(p. 1601、2004年8月19日のオンラインで発表)は、一本鎖 DNAを大員環のペプチド様構築ブロックに結合させた。相補鎖をDNAが認識すること により環の成分が近づいて、そこで環の閉鎖反応が行われる。特異的な大員環化合 物がその後タンパク質への親和性や酵素反応疎外に対して選択され、次にそのDNAタ グの増幅により同定される。このような65個の化合物ライブラリが構築され た。(KU,hE)
DNA-Templated Organic Synthesis and Selection of a Library of Macrocycles
   Zev J. Gartner, Brian N. Tse, Rozalina Grubina, Jeffrey B. Doyon, Thomas M. Snyder, and David R. Liu
p. 1601-1605.

急な乱れ(Suddenly Turbulent)

100年以上も研究されていたにもかかわらず、管内での層流から乱流への変化は解明 されていない。他の幾何学形状では不安定性が最初に起きる根源を同定することが できるが、理論によればパイプの中の流れは、どんな流速に対しても層流のままで あることが予測されている。流れが乱れるのは進行波が原因であるかもしれないと いうことを最近の数値計算は示した。Hofらの仮説(p. 1594;Busseによる展望記事参 照)が今回、実験的観察によって証明された.(hk,Ej,nk)
Experimental Observation of Nonlinear Traveling Waves in Turbulent Pipe Flow
   Björn Hof, Casimir W. H. van Doorne, Jerry Westerweel, Frans T. M. Nieuwstadt, Holger Faisst, Bruno Eckhardt, Hakan Wedin, Richard R. Kerswell, and Fabian Waleffe
p. 1594-1598.
PHYSICS:
Visualizing the Dynamics of the Onset of Turbulence

   Friedrich H. Busse
p. 1574-1575.

滑りやすいがいくらか湿っぽい(Slippery But Still Wet)

疎水性の効果(分子の無極性部分の貧溶媒和)は、タンパク質の折りたたみにおいて 重要な役割を果たしていると考えられている。大きな無極性の側鎖により疎水性の 領域が集まると、殆ど水の無い層が出来るであろう。しかしながら、この状態は溶 質と水の間のファンデルワールスの相互作用を主とした考察に基づいている。Zhou たち(p. 1605)は、BphC酵素に関する分子の動力学的シミュレーションを行った。こ の酵素は疎水性の面が相補的に整列すると、球状構造へと崩壊する2領域タンパク質 である。バルクの状態よりも水の密度が10〜15%程低下した弱水分域が疎水性の領 域間で形成された。著者たちはそのシミュレーションにおいて故意に静電的効果を 無視すると、脱水状態への転移が再び出現して、崩壊への転移がはるかに速く起こ ることを見出した。(KU)
Hydrophobic Collapse in Multidomain Protein Folding
   Ruhong Zhou, Xuhui Huang, Claudio J. Margulis, and Bruce J. Berne
p. 1605-1609.

植物プランクトンも暑いと感じている(Phytoplankton Feel the Heat)

大洋における生態系は地球上で最大のものであるが、これに与える地球温暖化の影 響はほとんど知られていない。海洋の食物連鎖の基礎をなし、これより大きな全て の生物を支えるものは植物プランクトンである。Richardson and Schoeman (p. 1609;Stokstadによるニュース記事も参照)は、北東大西洋において、空間的にも時 間的にも大規模な調査を行い、海洋プランクトン食物連鎖の大きさへの気候の影響 を調べた。45年以上にわたる100,000個の試料に及ぶ彼らの解析によると温暖化の影 響は寒冷水域での植物プランクトンの量を増加させ、温暖水域での量を減少させて いる。(Ej,hE)
Climate Impact on Plankton Ecosystems in the Northeast Atlantic
   Anthony J. Richardson and David S. Schoeman
p. 1609-1612.

適切なガス供給を確保する(Ensuring Adequate Gas Supplies)

不確かな世界において、生存するということは、何も変化させないで済ませられる かどうかにかかっている。これを生化学的に言えば、自発的プロセスを制御できる 方法とは、反応を触媒する酵素を作ることでもある。生物学的膜は酸素のようなガ スに本来浸透性を持っているが、Khademiたち(p. 1587;Knepper and Agreによる表 紙と展望記事を参照)は、アンモニアチャンネルとして機能する細菌性タンパク質の 構造について報告している。AmtBの結晶構造から、水溶性の NH4+が脱プロトン化し、疎水性の管がNH3の膜 通過を可能にしている場所があることが明らかになった。AmtBのヒト類似体は、有 名なアカゲザル因子、すなわち Rh 因子である。(Ej,hE)
Mechanism of Ammonia Transport by Amt/MEP/Rh: Structure of AmtB at 1.35 Å
   Shahram Khademi, Joseph O'Connell, III, Jonathan Remis, Yaneth Robles-Colmenares, Larry J. W. Miercke, and Robert M. Stroud
p. 1587-1594.
STRUCTURAL BIOLOGY:
The Atomic Architecture of a Gas Channel

   Mark A. Knepper and Peter Agre
p. 1573-1574.

あの銅を捕まえろ(Take That Copper)

メタン酸化細菌(methanotrophic bacteria)は、メタンを酸化するが、その際の生物 代謝において銅が中心的働きをする。しかし、この銅の輸送機構は、充分解明され ている訳ではない。Kim たち(p. 1612) は、銅とキレート形成するメタン酸化性小 分子である、Methylosinus trichosporium OB3b由来のmethanobactinの構造を決定 した。この構造は鉄シデロホア(ironsiderophore)に似ていることから、この分子は 銅を細胞外で結合させ、細胞内部へ銅の輸送を仲介する銅-シデロホアとしての機能 を持つものと推測される。(Ej,hE)
Methanobactin, a Copper-Acquisition Compound from Methane-Oxidizing Bacteria
   Hyung J. Kim, David W. Graham, Alan A. DiSpirito, Michail A. Alterman, Nadezhda Galeva, Cynthia K. Larive, Dan Asunskis, and Peter M. A. Sherwood
p. 1612-1615.

融合せずに心臓形成(Forming Hearts sans Fusion)

初期発生中の脊椎動物の心臓において、両側性の心臓中胚葉が腹側正中に移動し、 その後融合して心臓管原基を形成する。それに引き続いて、ループ状の形態発生と 房室の明確化が観察される。ループ状の形態発生と房室の明確化といった現象を生 じさせるために、融合現象は必ず生じるものと一般的に考えられてきた。しかしな がら、Liたち(p. 1619)はここで、融合をおこさずに2つの完全な心臓を形成する Foxp4変異胚において見られるような心臓融合が起こらない場合にも、ループ状化と 中隔形成が生じる可能性があることを示した。初期の両側性心臓前部中胚葉は複数 の細胞種に分化すること、そして成熟した4つの房室を有する心臓を形成するために 必要とされる複雑な形態発生工程を行うことが、予めプログラムされてい る。(NF)
Advanced Cardiac Morphogenesis Does Not Require Heart Tube Fusion
   Shanru Li, Deying Zhou, Min Min Lu, and Edward E. Morrisey
p. 1619-1622.

細菌の生存と抗生物質耐性(Bacterial Persistence and Antibiotic Resistance)

抗生物質またはその他のストレスに暴露した後の細菌個体群の特有な生存は、事実 としてはよく知られているものの、その機構はよくわかっていない。そのような生 存は、後天性の抗生物質耐性とは異なるものであり、そして再び増殖させると、そ のような細菌は未だ抗生物質感受性のままである(Levinによる展望記事を参 照)。Balabanたち(p. 1622、2004年8月12日にオンライン上で公表)は、様々な変 異型大腸菌(Escherichia coli)と野生型大腸菌の増殖のダイナミクスをマイクロ 流体デバイスを使用して、個々の大腸菌を追跡した。少なくとも3種の異なる表現型 が明らかになった。増殖速度が正常なものは、細胞死をおこす。I型の生存生物は、 非常にゆっくりと、栄養を補った後数分ではなく数時間後に、静止期から抜け出 す。II型の生存生物は増殖条件に関わらず、正常な増殖速度から自発的にスイッチ を切り替え、よりゆっくりとした一定速度にて増殖することにより生じるものであ り、そして稀に、正常な増殖速度にスイッチを戻すことができる。多くの病原体 は、ペニシリンの場合と同様に、ペニシリン-結合タンパク質遺伝子の変異、β-ラク タマーゼによる抗生物質の分解を含む様々なメカニズムにより、または細菌細胞に よる取り込みの抑制により、β-ラクタム系抗生物質に耐性となる。Millerたち(p. 1629、2004年8月12日にオンライン上で公表;Levinによる展望記事を参照)は、抗 生物質の致死的作用を回避するための別のメカニズムを記載している。ペニシリン 結合タンパク質3の損傷により、DpiBAの2成分シグナル伝達カスケードが活性化さ れ、実質的にSOS DNA修復反応が誘導される。SOSが作動すると、新しい細胞壁の合 成が中断されるため、細胞分裂は停止し、細菌は少なくとも短期的な抗生物質に対 する暴露からの致死的ダメージを回避する。(NF)
MICROBIOLOGY:
Noninherited Resistance to Antibiotics

   Bruce R. Levin
p. 1578-1579.
Bacterial Persistence as a Phenotypic Switch
   Nathalie Q. Balaban, Jack Merrin, Remy Chait, Lukasz Kowalik, and Stanislas Leibler
p. 1622-1625.
SOS Response Induction by ß-Lactams and Bacterial Defense Against Antibiotic Lethality
   Christine Miller, Line Elnif Thomsen, Carina Gaggero, Ronen Mosseri, Hanne Ingmer, and Stanley N. Cohen
p. 1629-1631.
MICROBIOLOGY:
Noninherited Resistance to Antibiotics

   Bruce R. Levin
p. 1578-1579.

病原性細菌の鉄の源の追跡(Tracking Iron Sources of Pathogenic Bacteria)

地球化学では、元素の源を追跡するために、さまざまの同位体が伝統的に用いられ てきた。Skaarたちは、生命系で用いるために、安定同位体標識化と計算的ゲノム分 析を組み合わせた技法を編み出した(p. 1626; またRouaultによる展望記事参照のこ と)。彼らは、鉄がヘムに由来するものか、それとも病原性細菌である黄色ブドウ球 菌のトランスフェリンに由来するものかを区別することができ、従来知られていな かったヘム取り込み系の存在を発見した。この系における変異は、線虫(C.elegans) およびマウスでのモデル感染における病原性を弱めるものである。この系を標的に する薬剤は、ヒトにおける感染の治療にも有用であることがわかった。(KF)
Iron-Source Preference of Staphylococcus aureus Infections
   Eric P. Skaar, Munir Humayun, Taeok Bae, Kristin L. DeBord, and Olaf Schneewind
p. 1626-1628.
MICROBIOLOGY:
Enhanced: Pathogenic Bacteria Prefer Heme

   Tracey A. Rouault
p. 1577-1578.

共に滅び行く(Falling Together)

共進化によって、多くの種の緊密な相互依存が生じてきたのだが、ある種の消滅が もう1つ別の種の消滅を引き起こすというイベントの頻度については、ほとんど知ら れていない。Kohたちは、広い範囲の共進化システムにわたっての共消滅イベントの 数を見積もる、経験的データで裏打ちされた確率モデルを提示している(p. 1632)。 この分析から彼らは、絶滅の危機に瀕した分類群での種損失に関するカスケード効 果について定量的な推定を導き出している。この成果は生物多様性の保存について だけでなく、歴史的な絶滅や共進化を理解するうえで意味のあるものである。(KF)
Species Coextinctions and the Biodiversity Crisis
   Lian Pin Koh, Robert R. Dunn, Navjot S. Sodhi, Robert K. Colwell, Heather C. Proctor, and Vincent S. Smith
p. 1632-1634.

Cdc42よ、君は見張られている(Cdc42: You Are Being Watched)

イメージング研究の目標の1つは生きている個々の細胞中のタンパク質活性を観察す ることである。Nalbantたちは、小さなグアノシン三リン酸-結合タンパク質、Cdc42 用のバイオセンサーの製作について記述している(p. 1615)。そのバイオセンサー は、高感度で内在性タンパク質の活性を研究するのに用いることができる。Cdc42は 正確な時と場所で活性化されて、細胞の突出(protrusion)を制御する。バイオセン サーによる高い感受性によって、高分解能での動力学的研究が可能になり、そのこ とから、Cdc42活性化の動力学が、細胞突起と細胞収縮の割合の重要な決定要因と なっていることが示されたのである。(KF,hE)
Activation of Endogenous Cdc42 Visualized in Living Cells
   Perihan Nalbant, Louis Hodgson, Vadim Kraynov, Alexei Toutchkine, and Klaus M. Hahn
p. 1615-1619.

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