AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 27, 2004, Vol.305


深いところの地震群(Deep Seismic Swarm)

カリフォルニア州東部からネバダ州西部にまたがるタホ湖盆地は、西の方ではシエ ラネバダ山脈、東の方ではカーソン山脈の二つの隆起山地の間の地殻の落ちこみに より形成された。テクトニクスに関連した火山活動とその後に続く氷河作用によ り、高い山脈連峰に囲まれた北アメリカでもっとも深い湖の一つがその後に生じ た。Smithたち(p. 1277)はTahoe湖の下のきわめて深い所の(25〜35km)地震群を測 定し、地震群近傍のある一箇所で測定された測地学的変位と一致することを示して いる。彼らは、二つの観測が極度に深い所のマグマの貫入と関連しており、このこ とが湖の下の火山活動の状態と歪みの状態に関する情報を与えるものと推定してい る。(KU,Ej,nk)
Evidence for Deep Magma Injection Beneath Lake Tahoe, Nevada-California
   Kenneth D. Smith, David von Seggern, Geoffrey Blewitt, Leiph Preston, John G. Anderson, Brian P. Wernicke, and James L. Davis
p. 1277-1280.

重力レンズをテストする(Testing a Gravity Lens)

恒星密度が沢山存在する領域を横切って、多数の観測を行うと背景の星と前景の星 が一直線上に揃う例に当たる可能性がある。そのような時には、手前の星の重力マ イクロレンズにより背景の星からの光をが拡大、屈曲されて円環状の像ができ る。Abe たち(p.1264) は、MOA 2003-BLG-32/OGLE 2003-BLG-219 というマイクロレ ンズの事象を用いて、背景の星の周りの軌道を回る太陽系外惑星によって生み出さ れた可能性のある環状の像において、でこぼこを探索した。彼らは太陽系外惑星を 見出すことはできなかったが、この方法が惑星探索には、精密で有用であることを 示した。(Wt,nk)
Search for Low-Mass Exoplanets by Gravitational Microlensing at High Magnification
   F. Abe, D. P. Bennett, I. A. Bond, S. Eguchi, Y. Furuta, J. B. Hearnshaw, K. Kamiya, P. M. Kilmartin, Y. Kurata, K. Masuda, Y. Matsubara, Y. Muraki, S. Noda, K. Okajima, A. Rakich, N. J. Rattenbury, T. Sako, T. Sekiguchi, D. J. Sullivan, T. Sumi, P. J. Tristram, T. Yanagisawa, P. C. M. Yock, A. Gal-Yam, Y. Lipkin, D. Maoz, E. O. Ofek, A. Udalski, O. Szewczyk, K. Zebrun, I. Soszynski, M. K. Szymanski, M. Kubiak, G. Pietrzynski, and L. Wyrzykowski
p. 1264-1266.

光波に乗ること(Riding the Light Waves)

光の場とパルスの特性を示すための既存の測定技術は、一般に周波数、波長、ある いはエンベロープ振幅のような1サイクルで平均化された特性を提供する。しかし ながら、電場は可視光では毎秒約1015 サイクルで振動するために、 キャリア・エンベロープ下でのその電場振動の性質の確定には少なからず重要な問 題を含んでいる。テスト電荷に働く力の計測によって電場を決定するという古典的 方法を拡大して、Goulielmakisたち(p. 1267)は、プローブとして250アト秒の極紫 外パルスによって生成される電子束を用いて、数サイクルのフェムト秒レーザパル ス電場の動的な放出を確定し特性づけている。利用可能な光波の電場の力と時間的 変化が分かれば、固体内の超高速電子のダイナミックスを探るための有用な分光学 的ツールとなるであろう。(hk)
Direct Measurement of Light Waves
   E. Goulielmakis, M. Uiberacker, R. Kienberger, A. Baltuska, V. Yakovlev, A. Scrinzi, Th. Westerwalbesloh, U. Kleineberg, U. Heinzmann, M. Drescher, and F. Krausz
p. 1267-1269.

大きな膜を作る(Caught on Large Films)

単層のカーボンナノチューブ(SWNTs)の特性として、大きな比表面積や高い固有伝導 率、及び高い側面比等がある。このような特質により、又、高い導電性と、かつ透 明性の高いそれ自身で保持できるSWNT膜を形成することが出来る。大きな課題は大 面積の膜を作ることである。Wuたち(p. 1273)は、はるかに大きなサイズへ拡張でき るような方法により80平方センチメートルの大きさの高い導電性と光学的に透明な 膜が出来ることを示している。この膜はメンブラン上にSWNT希薄溶液の真空ろ過に より調整される。膜が当初は厚かった領域で、ろ過速度が減少し、自然の成り行き で均一な厚さの膜が形成される。著者たちはこの膜を用いて、電界効果トランジス ターの光学的類似体としての電界ー活性光変調器を考案している。(KU,Ej)
Transparent, Conductive Carbon Nanotube Films
   Zhuangchun Wu, Zhihong Chen, Xu Du, Jonathan M. Logan, Jennifer Sippel, Maria Nikolou, Katalin Kamaras, John R. Reynolds, David B. Tanner, Arthur F. Hebard, and Andrew G. Rinzler
p. 1273-1276.

ナノリボンの光導波路(Nanoribbon Optical Waveguides)

光部品を小型化し、これを光チップやネットワークに集積するには、光部品間の光 伝達効率の効率化が求められる。Lawたち(p.1269) は、典型的には断面が数百ナノ メートル、長さが数ミリメートルの酸化物ナノリボンは光導波路として利用でき、 ナノスケールの光部品を結合できることを示した。このナノリボンの物理的強度や 柔軟性は、複雑な光ネットワークの構成をも可能にしている。(Ej)
Nanoribbon Waveguides for Subwavelength Photonics Integration
   Matt Law, Donald J. Sirbuly, Justin C. Johnson, Josh Goldberger, Richard J. Saykally, and Peidong Yang
p. 1269-1273.

COを好む燃料電池(Fuel Cells That Like CO)

燃料電池に利用するために炭化水素から水素を生成すると、COやCO2も 産出される。とくにCOは燃料電池の触媒に対する毒性があるため問題である。これ はCO2と、余分な水素を作る、水-ガスシフト反応によって、取り除くこ とができるが、反応は遅い。Kimたち(p. 1280および、serviceのニュース記事参 照)によって、H3PMo12O40のような polyoxometalate (POM)化合物は、金のナノチューブの存在下のCOを含む水溶液で反 応することを示した。還元されたPOM化合物は、次に燃料電池陽極で再酸化され電気 を生成する。(Ej,hE)
Powering Fuel Cells with CO via Aqueous Polyoxometalates and Gold Catalysts
   Won Bae Kim, T. Voitl, G. J. Rodriguez-Rivera, and J. A. Dumesic
p. 1280-1283.

投資の見返り(A Return on Investment)

人間はしばしば協同的活動に取り組む。家族や友人とばかりではなく、見知らぬ人 と行うこともある。そうしたことを行うのは、寛容な行動はお互いさまであって、 相互にとって利益となること、また受け取るだけで与えない人は制裁されるであろ うことを期待してのことである。そうした行動が進化によってどのように生じてき たかは、これまで議論されてきたが、それは罰を割り当てる役目の個人が、通常直 接の利益なしにコストを背負い込むことになるためである。De Quervainたちは、脳 イメージング法を用いて、あるゲームの状況下で、罰を与える人間が、実は違背者 の文化的規範を正すのに満足を覚えている、ということを示している(p.1254; また 表紙とGutscherによる展望記事参照のこと)。より大きな満足感を経験した個人は、 犯罪者を罰するためにより多くのお金を喜んで使おうとしたのである。(KF)
The Neural Basis of Altruistic Punishment
   Dominique J.-F. de Quervain, Urs Fischbacher, Valerie Treyer, Melanie Schellhammer, Ulrich Schnyder, Alfred Buck, and Ernst Fehr
p. 1254-1258.
GEOSCIENCE:
What Caused the Great Lisbon Earthquake?

   Marc-Andr? Gutscher
p. 1247-1248.

記憶の場所と方法(The Wheres and Hows of Memory)

海馬は、エピソード記憶および意味記憶をコード化し、整理し、そして取り出す際 に、根本的な役割を果たす(Bilkeyによる展望記事を参照)。Fyhnたち(p. 1258) は、内側嗅領皮質のこれまで調べられていなかった背尾側領域における海馬の上流 のニューロン活性において精密な空間的情報が存在しそして生じること、更にこの 情報がこの領域内で解析されていることを示した。このように、内側嗅領皮質は、 位置を解析しそして示すというプロセッシング能力を有するようである。海馬内部 のニューロン連結性パターンにおいて構造的差異を引き起こす機能的な分化を理解 するため、Leutgebたち(p. 1295;2004年7月22日にオンラインで公開された記事) は、ラットを別々の記録室の中で様々な状況の中において飼育した場合の海馬領 域、CA1およびCA3における総体的な記録を行った。CA3における総体的なコードは独 立的に組織化されるが、その一方でCA1におけるコードは、特に動物を見慣れた環境 の中で飼育した場合に、互いに重複していた。CA1は、より一般的な特徴を記録する ように見えるが、一方CA3は、最小の干渉(minimal interference)と重複はする が、しかしそれとは異なる記憶を保存するようである。(NF)
NEUROSCIENCE:
In the Place Space

   David K. Bilkey
p. 1245-1246.
Spatial Representation in the Entorhinal Cortex
   Marianne Fyhn, Sturla Molden, Menno P. Witter, Edvard I. Moser, and May-Britt Moser
p. 1258-1264.
Distinct Ensemble Codes in Hippocampal Areas CA3 and CA1
   Stefan Leutgeb, Jill K. Leutgeb, Alessandro Treves, May-Britt Moser, and Edvard I. Moser
p. 1295-1298.

GASを制御(Controlling GAS)

肉食バクテリア"であるA型ストレプトコッカス(GAS、S. pyogenes)は、咽頭炎、 リウマチ熱と糸球体腎炎の合併症、および壊死性筋膜炎の原因である。ほとんどの 微生物病原体と同様に、特定のGASにより感染を受ける可能性のある宿主の種の範囲 は非常に限定的である。Sunたち(p. 1283)はここで、この様な宿主による標的の 限定は、細菌のストレプトキナーゼと宿主のプラスミノーゲンとの間の非常に特異 的な相互作用に依存していることを見出した。ヒトプラスミノーゲンの導入遺伝子 を発現するマウスは、ヒトGAS病原体に対する感受性および致死性を増大することが 示された。これらのマウスにおいては、ヒト由来プラスミノーゲンのストレプトキ ナーゼ活性化により血餅の溶解が促進され、細菌の拡散が増強される。(NF)
Plasminogen Is a Critical Host Pathogenicity Factor for Group A Streptococcal Infection
   Hongmin Sun, Ulrika Ringdahl, Jonathon W. Homeister, William P. Fay, N. Cary Engleberg, Angela Y. Yang, Laura S. Rozek, Xixi Wang, Ulf Sjöbring, and David Ginsburg
p. 1283-1286.

白血病での遺伝子サイレンシングとは?(Gene Silencing in Leukemia?)

急性骨髄球性白血病の約15%が、白血病誘発性AML1-ETO融合タンパク質の高度発現 に伴う染色体の転位置を示している。AML1-ETOは保存されたTAF4相同性領域(TAFH) を含むが、このTAFHの生体内で機能は知られていない。他の転写制御因子と複合す ることが予想されている。Zhangたち(p 1286)は、TAFH領域AML1-ETOと非白血病因子 ETOがHEBタンパク質と関連していることを示している。HEBはEタンパク質ファミ リーの転写制御因子である。ETOがEタンパク質と相互作用する領域は、p300/CBPヒ ストンアセチル基転移酵素による標的部位と一致する。HEBとETOの結びつきが、生 体内でのp300/CBPの補充を立体的に防御し、白血病性細胞においてHEB応答性プロ モータの遺伝子サイレンシングのためのHDACsといった負の補助因子を補充している 可能性がある。(An)
E Protein Silencing by the Leukemogenic AML1-ETO Fusion Protein
   Jinsong Zhang, Markus Kalkum, Soichiro Yamamura, Brian T. Chait, and Robert G. Roeder
p. 1286-1289.

自己消化とパーキンソン病(Autophagy and Parkinson's Disease)

神経変性障害としては2番目に多いパーキンソン病の原因は、いまだ未知である。 神経細胞内のパーキンソン病のサインであり、恐らくはニューロン死であるLewy body(レビ小体)はsynucleinの異常な分解により引き起こされると思われてい る。synucleinはパーキンソン病の病理発生において役割を果たすタンパク質として 知られている。Cuervoたち(p 1292)は、リソソームにおいて野生型synucleinがシャ ペロン仲介の自己消化によって分解されることを示している。一方、病原性 synuclein変異体は分解されないで、実際にはシャペロン仲介の自己消化を防御す る。この結果は、変異体synucleinがどのように家族性パーキンソン病を引き起こす かを説明するものかも知れない。(An,hE)
Impaired Degradation of Mutant α-Synuclein by Chaperone-Mediated Autophagy
   Ana Maria Cuervo, Leonidas Stefanis, Ross Fredenburg, Peter T. Lansbury, and David Sulzer
p. 1292-1295.

ゲノムの防衛?(Protecting the Genome?)

植物、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)及びショウジョウバエでは、RNA干渉 プロセスの一部によって産生される小さな干渉(si)RNAが、転写後に相同的標的RNA を切断することによって、あるいは、転写の際に相同的DNA配列のメチル化およ び/または異質染色質の形成を引き起こすことによって、遺伝子発現を沈黙させる ことがある。Morrisたちはこのたび、siRNAが、それ自身が核に伝達されたときにヒ ト細胞中で転写性遺伝子サイレンシングを仲介できる、ということを示している(p. 1289, 2004年8月5日にオンライン出版)。siRNAが遺伝子プロモータ配列に向かう と、その結果DNAのメチル化にいたることになる。転写性遺伝子サイレンシングは、 おそらくトランスポゾンや反復配列からゲノムを防御する役割を担っているのであ る。(KF,hE)
Small Interfering RNA-Induced Transcriptional Gene Silencing in Human Cells
   Kevin V. Morris, Simon W.-L. Chan, Steven E. Jacobsen, and David J. Looney
p. 1289-1292.

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