AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 13, 2004, Vol.305


熱波の将来予測(Forecasting the Heat)

熱波は気候の温暖化が最も激しく表現される現象の一つである。MeehlとTabaldi(p. 994)は地球気候モデルを用いて、21世紀における熱波は今日よりも、もっと強烈 で、もっと頻繁に、そしてもっと長く続くであろうことを示している。更に、将来 発生する熱波は、それどころか温室ガスの増加と関係した平均的気候変化に直接関 係して地域によりはっきりと特徴的なパターンを示すであろう。ヨーロッパと北ア メリカのある地域は、特に強い影響を受けるであろう。(KU,nk)
More Intense, More Frequent, and Longer Lasting Heat Waves in the 21st Century
   Gerald A. Meehl and Claudia Tebaldi
p. 994-997.

ブラックホールのジェット(Black Hole Jets)

ブラックホールの候補天体は、周囲の降着円盤から引き込まれた物質から形成さ れ、ブラックホールの極から加速されて出て行く相対論的なプラズマジェットに よって同定され、そして、特徴付けることができる。残念ながら、これまで、理論 家やモデル作成者たちは、回転するブラックホールからジェットを生成することに 苦労してきている。Semenov たち (p.978;Irion によるニュース解説を参照のこと) は、Kerr ブラックホールの周りに、非直線状の紐(プラズマのフラックスチューブ) が巻きついたモデルを提出している。慣性系の引きずり(frame dragging) (Lens-Thirring 効果) に由来するプラズマの微分回転のため、プラズマはコイル状 になって、ブラックホールの極において放出される相対論的ジェットとなる。この モデルは、ジェットに対するエネルギー源が降着円盤ではなく、ブラックホールで あると結論づけることになろう。(Wt)
Simulations of Jets Driven by Black Hole Rotation
   Vladimir Semenov, Sergey Dyadechkin, and Brian Punsly
p. 978-980.
QUANTUM INFORMATION THEORY:
A General Surrenders the Field, But Black Hole Battle Rages On

   Charles Seife
p. 934-936.

DNAのヘアピンを通ってより速く(Faster Through the DNA Hairpins)

特定のDNA配列の透過を容易にする膜が作られた。Kohliたち(p. 984)はポリカーボ ネートの膜に金を電気めっきして、内径12nmのナノチューブのアレイを作った。こ のナノチューブは、その後30塩基のDNA鎖でもって機能化し、その5’末端には金のナ ノチューブと共有結合するチオール誘導体含んでいる。このDNA鎖の両末端の6塩基 は互いに相補的な関係を持っており、中心には18-塩基のDNAヘアピンを含んでい る。内部にあるヘアピンの存在により、ヘアピンのないチューブに比べて5倍ほど DNAの流れが速くなったが、しかし一塩基の配列ミスマッチがあるDNA鎖の流れは僅 かしか増加しなかった。(KU,NF)
DNA-Functionalized Nanotube Membranes with Single-Base Mismatch Selectivity
   Punit Kohli, C. Chad Harrell, Zehui Cao, Rahela Gasparac, Weihong Tan, and Charles R. Martin
p. 984-986.

分数電荷を可視化する(Imaging Fractional Charge)

磁場に曝された二次元電子気体の振舞いを記述する上で、電荷の局所化は中心的な 役割を果たしている。分数量子ホール効果では、ホール抵抗は、電子の電荷 e の何 分の一しか有していない擬似粒子の形成によって発生する一連の電流のプラトーを 示す。分数的にしか電荷を有していない粒子については、輸送に関する測定により 検証されてきたが、局在化した擬似粒子は、よりいっそう捕まえづらいものであっ た。走査型単一電子トランジスターを用いて、Martin たち (p.980) は、e/3 の電 荷の 擬似粒子を直接的に可視化し、それらがサブミクロンの領域に局在化している ことを見いだした。(Wt)
Localization of Fractionally Charged Quasi-Particles
   Jens Martin, Shahal Ilani, Basile Verdene, Jurgen Smet, Vladimir Umansky, Diana Mahalu, Dieter Schuh, Gerhard Abstreiter, and Amir Yacoby
p. 980-983.

小さいということは相対的なものである(Small Is Relative)

ある粒子が、その粒子表面が、バルクの原子の力学特性に影響を与えるに十分なほ ど小さいといえるのは、どのような点であろうか?試料がナノスケールに近づくま では何の変化もないと予想するのはもっともなことであろう。しかし、Uchic た ち(p. 986) は、ニッケルといくつかのニッケル合金の変形では、試料の大きさと形 状が数十μm スケールでサンプルの強度と可塑性が変わることを示している。一般的 に言えば、金属の強度と可塑性の測定を議論する時は、すべての試料の大きさを指 定することが重要である。(Wt)
Sample Dimensions Influence Strength and Crystal Plasticity
   Michael D. Uchic, Dennis M. Dimiduk, Jeffrey N. Florando, and William D. Nix
p. 986-989.

ガニメデの質量異常(Ganymeda Mass Anomalies)

木星の衛星ガニメデへの接近中に、ガリレオ宇宙船によって集められたラジオドッ プラーデータは二つの質量異常を示している。Andersonたち(p. 989)は、深さ約 800kmの所に表面の地殻均衡補償と関連した異常であることを突き止めた。彼らは、 この異常が岩石ーアイス界面近傍で、その岩石内部にあると推測している。した がって、岩石の密度と、それ故に成分がこの領域では周りと異なっている。この異 常性を示す深さは、ほぼ800kmと推定されているアイスの厚さと一致する。(KU,nk)
Discovery of Mass Anomalies on Ganymede
   John D. Anderson, Gerald Schubert, Robert A. Jacobson, Eunice L. Lau, William B. Moore, and Jennifer L. Palguta
p. 989-991.

マグマの記憶(Magmatic Memories)

スマトラのTobaの火山噴火は、おそらく過去2百万年のうちで地球で最大のもので あっただろう。全部で2800立方キロメートルのマグマが74,000年前に噴出した。こ のような巨大な量のマグマがどのようにして形成され、蓄積され、噴出したのかと いう記録は、部分的には噴出したマグマの中で、噴火の前に成長した鉱物の中に含 まれている。VazquezとReid(p. 991)はイオンプローブ法を用いて、Tobaの噴火から の個々のアラナイト結晶中に保存されている一連の化学変化の年代を推定した。そ れらの鉱物は複雑な層構造を示しており、年代推定と合わせると、最初のマグマは その噴火の約150,000年前に作られていたことを示している。その噴火の約35,000年 前に、別のマグマが作られ、合体して巨大なマグマの塊を形成した。(KU,TO,nk)
Probing the Accumulation History of the Voluminous Toba Magma
   Jorge A. Vazquez and Mary R. Reid
p. 991-994.

天然色、"生"中継(Live and in Full Color)

発生中の胚などの無傷な生物試料中の内部構造の画像化には、今でも技術的な未開 拓分野が存在する。Huiskenたち(p. 1007)は、選択的平面照明顕微鏡法(SPIM) という顕微鏡装置に関して記載している。このシステムは、二次元的(平面的)な 照明と、その照明光に直交するカメラで検出することを組み合わせて、光による損 傷は最小にしつつ一過性の生物学的現象を画像取り込みできるスピードで、サンプ ル全体にわたって高解像度の光学的断面イメージングができる。この方法により、 無傷な生きている試料の高解像度の多次元的イメージングが可能になる。彼ら は、SPIMを使用して、ショウジョウバエ(Dros ophila melanogaster)の胚内部の 発生に伴う変化を観察し、そして無傷なメダカ(Medaka fish)胚における拍動して いる心臓の内部機構をモニターすることができた。(NF)
Optical Sectioning Deep Inside Live Embryos by Selective Plane Illumination Microscopy
   Jan Huisken, Jim Swoger, Filippo Del Bene, Joachim Wittbrodt, and Ernst H. K. Stelzer
p. 1007-1009.

幹細胞ホーミングの効率アップ(Enhancing Stem Cell Homing)

造血幹細胞(HSC)が骨髄にホーミングする効率は、移植の臨床結果を決定づける重 要な因子である。Christopherson IIたち(p. 1000)は、タンパク質のアミノ末端 からジペプチドを取り除くペプチダーゼ、CD26(DPPIV/ジペプチジルペプチダーゼ IV)のドナー細胞表面に対する活性を阻害することにより、幹細胞ホーミングの効 率を有意に上昇させることができることを示した。正常環境下では、CD26はケモカ インCXCL12を切断することにより、HSCホーミングについて負の制御を行い、それに よりその受容体がHSCの表面に結合しないようにしているようである。HSCホーミン グの効率を上昇させる潜在的能力の方が、多数の幹細胞を単離しなければならない ことよりも、骨髄移植の役に立つだろう。(NF)
Modulation of Hematopoietic Stem Cell Homing and Engraftment by CD26
   Kent W. Christopherson, II, Giao Hangoc, Charlie R. Mantel, and Hal E. Broxmeyer
p. 1000-1003.

ピロリ菌感染を腹にしまって(Stomaching Helicobacter pylori Infection)

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、ほぼ2人に1人感染し、胃ガンや胃潰瘍を引き 起こす可能性がある。しかしながら、ピロリ菌に感染した大個体群において、重症 の病態を示す個体が少数であることから、胃内の粘膜防御により、通常ピロリ菌の 病原性活性が抑制されていることが示唆される。Kawakuboたち(p. 1003)は、胃の ムチンの構成要素の一つ、ムチン-O型-グリカンが胃粘膜のより深層領域で生じ、そ して細胞壁の主要成分であるコレステリル-α-D-グルコピラノシドの生合成を阻害す ることにより、培養中でピロリ菌の成長と移動を阻害していることを見いだした。 このように、胃粘膜の細胞は強力な抗微生物活性を有するO-グリカンを分泌するこ とにより、ピロリ菌感染から自己を防御している様である。(NF)
Natural Antibiotic Function of a Human Gastric Mucin Against Helicobacter pylori Infection
   Masatomo Kawakubo, Yuki Ito, Yukie Okimura, Motohiro Kobayashi, Kyoko Sakura, Susumu Kasama, Michiko N. Fukuda, Minoru Fukuda, Tsutomu Katsuyama, and Jun Nakayama
p. 1003-1006.

損傷軸索の保護化(Protecting Damaged Axons)

ニューロン細胞体から切断されてしまった軸索の変性は、その後ウォラーの変性と 呼ばれる進行性の断片化の特異的な経過をたどる場合がある。様々な神経変性性疾 患は、軸索変性によって特徴づけられている。Arakiたち(p. 1010; Bedalovと Simonによる展望記事を参照)は、何が組織化された軸索変性の経過を決定づけてい るかについての新しい知見を提示している。ウォラーの変性を遅らせる変 異(wlds)に基づいて、ユビキチン鎖の伸長に関与するタンパク質Ufd2aとニコチン アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)生合成酵素Nmnat1からなる融合タンパク 質(Wlds)を解析することにより、このタイプの軸索変性において、ニコチンアミ ドアデニンジヌクレオチド生合成経路が関与していることがわかった。(NF)
Increased Nuclear NAD Biosynthesis and SIRT1 Activation Prevent Axonal Degeneration
   Toshiyuki Araki, Yo Sasaki, and Jeffrey Milbrandt
p. 1010-1013.
NEUROSCIENCE:
NAD to the Rescue

   Antonio Bedalov and Julian A. Simon
p. 954-955.

使用から濫用へ(From Use to Abuse)

潜在的に習慣性のドラッグを使用している人のなかのごく少数の人が常用者とな る。自己投与への反対もあって(Robinsonによる展望記事参照)、習慣性に関する 健全な動物モデルの不足により、習慣性に関する生物学的な基礎へのより深い理解 が阻まれている。Deroche-Gamonetたち(p. 1014)は行動モデルを開発して、ラット における習慣性の行動を調べた。著者たちはドラッグの量と、投与された個体にお ける溺れ易さの度合いの二つが習慣性になるかどうかの鍵であることを見出し た。VandersdhurenとEveritt(p. 1017)は、ラットにおけるコカイン探求行動が、嫌 悪刺激により抑制されることを示している。しかしながら、長期的にコカインを自 己投与した後では、嫌悪刺激にあってもドラッグ探求行動を止めようとしない。長 期にわたってショ糖を与えると、このような影響は生じない。このように、長期的 なコカインの自己投与が、ドラッグ探求への柔軟性のない強迫性の様相へと導 く。(KU,NF)
NEUROSCIENCE:
Addicted Rats

   Terry E. Robinson
p. 951-953.
Evidence for Addiction-like Behavior in the Rat
   Véronique Deroche-Gamonet, David Belin, and Pier Vincenzo Piazza
p. 1014-1017.
Drug Seeking Becomes Compulsive After Prolonged Cocaine Self-Administration
   Louk J. M. J. Vanderschuren and Barry J. Everitt
p. 1017-1019.

ハエと眼と複雑なパターン(The Fly, the Eye, and the Complex Pattern)

ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の小さな神経系にある視覚処理の仕組 みは、霊長類において見いだされているようなより高次の知覚メカニズムと類似し ているのだろうか? Tangたちは、特定の目的で作られた飛行シミュレータでのハ エの行動を測定した(p. 1020)。より複雑な動物と同じように、ショウジョウバエ は、さまざまなパターン弁別をテストするためにとくに選定された一定不変に位置 する視覚的手がかりと罰とを連合させることができた。このハエは、その概念を、 視覚野を横切る同様の刺激と将来的に遭遇する場合のために、一般化することがで きたのである。この能力には、選択的注意と眼球間記憶伝達とが必要であ る。(KF,NF)
Visual Pattern Recognition in Drosophila Is Invariant for Retinal Position
   Shiming Tang, Reinhard Wolf, Shuping Xu, and Martin Heisenberg
p. 1020-1022.

サンゴの昼間発光(Coral's Daytime Glow)

カリブ海の硬質のサンゴ、Montastraea covernoseは相利共生の渦鞭毛 虫(dinoflagellates)をもっているだけでなく、細胞内相利共生のラン藻類をも内部 に住まわせている。Lesserたちは、この知見を、このサンゴに特徴的なオレンジ色 の昼間蛍光を研究する中で確認している(p. 997)。関係している色素は光防護性の サンゴの色素のいずれでもなく、ラン藻タンパク質であるフィコエリトリンであ る。さらに分析を行うと、そのラン藻の共生体はニトロゲナーゼ酵素複合体の構成 要素を発現しており、おそらくサンゴ宿主の利益になるであろう窒素を固定する潜 在能力を有していることが、明らかになった。(KF,NF)
Discovery of Symbiotic Nitrogen-Fixing Cyanobacteria in Corals
   Michael P. Lesser, Charles H. Mazel, Maxim Y. Gorbunov, and Paul G. Falkowski
p. 997-1000.

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