AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 6, 2004, Vol.305


メタ物質のレビュー(Metamaterials in Review)

自然界では見出されていない望ましい磁気と電気的応答を持つ人工的に構造化され た物質、或いはメタ物質を作ることが出来れば、新しい効果を利用できる可能性が 開けるーその幾つかは直観に逆らうものであるがー。Smithたち(p. 788)は、このよ うなメタ物質に関する最近の理論的、及び実験上の進展をレビューしている。磁気 的、及び電気的応答を調整することで、人工的な磁性体、或いは有効な負の屈折率 を持つ物質を作ることが出来る。この負の屈折率をもつ物質は「完全レンズ」の開発 において興味あるものである。(KU)
Metamaterials and Negative Refractive Index
   D. R. Smith, J. B. Pendry, and M. C. K. Wiltshire
p. 788-792.

光制御のための構造化の方法(A Structured Route to Light Control)

波長以下の長さで光を制御することは、光とナノテクノロジーとの合体にとって、 ひとつの重要な目的である。プラズモンは入射した光と金属内部の電子との相互作 用から発生する金属表面での励起であるが、光を間接的に制御し、操作するための 一つの可能な方法である。しかしながら、表面プラズモン相互作用を生み出すよう な適切な特性をもつ物質を見いだすことは困難である。Pendry たち(p.847) は、通 常の金属と構造化された表面における表面プラズモンを理論的に記述している。両 者の間には共通のつながりがあることを示している。構造化された表面を設計する ことができるようになると、望みどおりのプラズモン特性を有する物質を全く容易 に製作することが可能となるであろう。(Wt)
Mimicking Surface Plasmons with Structured Surfaces
   J. B. Pendry, L. Martín-Moreno, and F. J. Garcia-Vidal
p. 847-848.
PHYSICS:
Only Skin Deep

   William Barnes and Roy Sambles
p. 785-786.

安定なシリコンのカチオン(Stable Silicon Cation)

シリコン原子上に一つの孤立電子対と二つの空軌道を持つ反応性の高い化合 物、HSi+は気相中での研究や太陽スペクトル中で見出されてい る。Jutziたち(p. 849)は、空気や水分の存在下で「マスクされた」siliumylidenの合 成に関して報告している。Decamethylsilicocene化合物(MeC)Si、ここでMeはプロト ントランスファー基をもつメチル基である、の反応により 塩(MeC)Si+B(CF) -が生じる。この化合物により、シリコン 化学における多様な合成物の可能性が開け、著者たちはこれを用いてdisilene化合 物を合成した。(KU)
The (Me5C5)Si+ Cation: A Stable Derivative of HSi+
   Peter Jutzi, Andreas Mix, Britta Rummel, Wolfgang W. Schoeller, Beate Neumann, and Hans-Georg Stammler
p. 849-851.
CHEMISTRY:
The Modest Undressing of a Silicon Center

   Guy Bertrand
p. 783-785.

共通のファマコフォアはどこ?(No Common Pharmacore)

タキソールは抗癌剤として非常に成功した薬剤であり、現在はタキソールの薬学的 特性を向上させ、かつタキソールに対する薬剤耐性の問題を克服できる可能性があ るエポチロンといった他の微小管安定化薬剤に大きな興味が持たれている。Nettles たち(p. 866)はここで、2.89Åの解像度の電子結晶学に基づく立体構造解析と、核 磁気共鳴に基づく立体構造解析とを組み合わせて、亜鉛-安定化チューブリンシート のαss-チューブリンに結合したエポチロンAの構造を決定した。エポチロンとタキ ソールについての予想されていた"共通ファマコフォア"の代わりに、これら2種のリ ガンドのそれぞれのチューブリン結合ポケットとの相互作用が、殆ど重複しないこ とが示された。この結果から、エポチロン誘導体の活性の概要が示され、そしてタ キソールおよびエポチロンについて見られる後天的な耐性変異が独特のものである ことが示される。(NF)
The Binding Mode of Epothilone A on α,ß-Tubulin by Electron Crystallography
   James H. Nettles, Huilin Li, Ben Cornett, Joseph M. Krahn, James P. Snyder, and Kenneth H. Downing
p. 866-869.

成長と衰退(Growth and Decay)

234Uの前駆元素238Uに対する活性の割 合(234U/238U)は、河川によっては3倍もの変動がある が、その理由はよくわかってない。しかし、この比はサンゴの年代測定値の品質の 良否を判定する指標として利用されている。海水中でのこの値は、何が決め手に なっているのか、また、地質年代を通じて、この値がどのように変動してきたかを 解明することによって、地球化学データの代替値となりうる。Robinson たち(p. 851) は、降雨と侵食のパターンが系統的に変化するニュージーランドでのデータを 使って、13,000年前に氷河が前進した原因は、寒冷化によるものではなく、降雨に よって前進したものであると結論付けた。彼らによると、海水中で の234U/238U比の変動は、一般的にさんご礁が海水中のウ ラニウムによって汚染されたかどうかを判定するために利用されている範囲よりも 大きいことが解った。(Ej)
Climatic Control of Riverine and Seawater Uranium-Isotope Ratios
   Laura F. Robinson, Gideon M. Henderson, Lisa Hall, and Iain Matthews
p. 851-854.

賄い付きの部屋(Room and Board)

コウウチョウ(Cowbirds)、カッコウ(cuckoos)や他の托卵性の鳥は、自身の親ではな く親役の鳥によって育てられる。このような鳥の種類の中には、寄生しているヒナ が彼らの親役の子をいつも殺してしまうわけではなく、しばしば巣の中で親役の子 の存在を許している。Kilnerたち(p.877)は、コウウチョウ(brown-headed cowbird) を使って、托卵性の鳥が巣を共有することで利益が得られるのかどうかを調べた。 逆説的だが、コウウチョウが育ての親からより多くの物資を引き出すことができる のは、彼らが同じ巣の仲間(nestmate)に対する 利己的な振る舞いを抑制したとき であり、より多くの餌の供給率を請い求める際に、実はその巣仲間(すなわち、育て の鳥のヒナ)がコウウチョウを手助けしている。育ての鳥のヒナと共に育てられたコ ウウチョウは、単独で育てられるよりも巣立ちの前に早く成長し十分な体重に達す る。(TO,NF)
Brood Parasitic Cowbird Nestlings Use Host Young to Procure Resources
   Rebecca M. Kilner, Joah R. Madden, and Mark E. Hauber
p. 877-879.

植物のプログラム細胞死(Programming Cell Death in Plants)

プログラム細胞死は多くの有用な機能を果たしている--例えば、発生中の組織再構 築を行う際に役に立ち、生物が環境からの攻撃に対して対応する際に役に立つ。 ウィルス感染した植物において、感染した細胞は過敏性反応のあいだにプログラム 細胞死により殺される。しかしながら、動物の細胞において見られるプログラム細 胞死を促進する特徴的なカスパーゼ類は、植物においては見られない。Hatsugaiた ち(p. 855)はここで、タバコ植物におけるプログラム細胞死の必須構成要素とし て、VPE、すなわち液胞プロセッシング酵 素を同定した。タバコではVPEが欠損して いると、ウィルス誘導性過敏性細 胞死が阻害された。強固な細胞壁内部に囲まれた それぞれの植物細胞は、細胞自身の液胞内部に自己分解のための原因を内包してい る様である。(NF)
A Plant Vacuolar Protease, VPE, Mediates Virus-Induced Hypersensitive Cell Death
   Noriyuki Hatsugai, Miwa Kuroyanagi, Kenji Yamada, Tetsuo Meshi, Shinya Tsuda, Maki Kondo, Mikio Nishimura, and Ikuko Hara-Nishimura
p. 855-858.

腕の長さのところで(Held at Arm's Length)

真核細胞の膜結合性発電所であるミトコンドリアは、融合と分裂のプロセスを頻繁 に行っている。Koshibaたち(p. 858)は、融合に必要とされるミトコンドリア外膜 タンパク質、マイトフュージン(mitofusin)の一部についての結晶構造を報告して いる。マイトフュージンのC-末端ドメインは外側を向いており、そして別のマイト フュージン分子の対応するドメインとの間で逆並行型のコイルドコイルを形成し、 このコイルドコイルを重合させることにより、7連子(heptad)繰り返し領 域(HR2)はマイトフュージンの重合化を媒介している。著者たちは、マイトフュー ジンが約10ナノメートルの距離にある2個のミトコンドリアを、長い領域に渡ってつ なぎ留める機能を促進することにより、融合の初期段階を媒介することを示唆し た。(NF,NF)
Structural Basis of Mitochondrial Tethering by Mitofusin Complexes
   Takumi Koshiba, Scott A. Detmer, Jens T. Kaiser, Hsiuchen Chen, J. Michael McCaffery, and David C. Chan
p. 858-862.

稀な形質が共通形質に見つかる(A Rare Find for a Common Trait)

一般的な個体集団中における多くの共通形質や病気は、環境と遺伝的因子の両方の 組み合わせから生じる。最新のモデルによると、遺伝的成分は多くの共通なDNAの配 列変異が累積して現れており、個々の変異の影響は小さい、という仮説を支持して いる。Cohen たち(p. 869) は、共通の形質が表現型への強い影響を持つ稀な配列変 異からも現れることを示唆している。一般的な固体集団において、血漿内に高密度 リボタンパク質−コレステロール(つまり、HDL-C、或いは「善玉」コレステロー ル)が例外的に高いレベルの個体と低いレベルの個体を調べた結果、低いレベルの 方が高いレベルよりも有害変異を遺伝子中に保有していた。この遺伝子は極度の家 族性HDL-C欠乏症を起こす。(Ej,hE,NF)
Multiple Rare Alleles Contribute to Low Plasma Levels of HDL Cholesterol
   Jonathan C. Cohen, Robert S. Kiss, Alexander Pertsemlidis, Yves L. Marcel, Ruth McPherson, and Helen H. Hobbs
p. 869-872.

ナチュラルなパートナー(Natural Partners)

ナチュラル・キラー(NK)細胞は、ウィルスに感染した細胞を除去するのに重要な役 割を果たしている。それはNK細胞表面の活性化受容体と抑制性の受容体によって伝 達されるシグナルのバランスを介して緊密に制御される活性である。NK 受容体遺伝 子のさまざまな組み合わせを含むハプロタイプが存在しており、所与のNK受容体に 対して適切な複数のリガンドを保持する個体間にはかなりの変異が存在している。 こういったわけで、NK依存的免疫は、集団内においてもかなり異なっている可能性 がある。Khakooたちは、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)と主要組織適合複 合体(MHC)リガンドの特定の組み合わせが、C型肝炎 ウイルスによる感染を自発的 に解消する能力に強く関連していたことを観察している(p. 872)。この効果はおそ らく、その受容体-リガンドの組み合わせによる不十分なNK抑制の結果であり、NK活 性を増進するものだったのである。(KF,NF)
HLA and NK Cell Inhibitory Receptor Genes in Resolving Hepatitis C Virus Infection
   Salim I. Khakoo, Chloe L. Thio, Maureen P. Martin, Collin R. Brooks, Xiaojiang Gao, Jacquie Astemborski, Jie Cheng, James J. Goedert, David Vlahov, Margaret Hilgartner, Steven Cox, Ann-Margeret Little, Graeme J. Alexander, Matthew E. Cramp, Stephen J. O'Brien, William M. C. Rosenberg, David L. Thomas, and Mary Carrington
p. 872-874.
IMMUNOLOGY:
NK Cells Lose Their Inhibition

   Peter Parham
p. 786-787.

これは誰の手?(Whose Hand Is This?)

ヒトは、自分の(視野の外にある)手をブラシで擦られながら、同時にゴム製の手が ブラシで擦られるのを見ていると、ゴム製の手が自分の手であるかのように感じ る。このよく知られた「ゴム製の手」錯覚の基礎をなしている脳の回路はどのよう なものなのだろう? 磁気共鳴脳イメージング法を用いて、Ehrssonたちは、この錯 覚に関連するいくつかの領域を同定した(p. 875)。それには、運動前野や 頭頂間領 域、小脳領域が含まれている。そのうち運動前野だけが錯覚の強度と相関してい て、その経時的変化は錯覚の進展と一致していた。体の部分を所有しているという 意識体験は、つまりこの運動前野に帰しうるわけだが、他の領域はおそらく、感覚 性シグナルや固有受容性シグナルなどの多様なモードの統合に関わっているのであ る。(KF,NF)
That's My Hand! Activity in Premotor Cortex Reflects Feeling of Ownership of a Limb
   H. Henrik Ehrsson, Charles Spence, and Richard E. Passingham
p. 875-877.
NEUROSCIENCE:
Probing the Neural Basis of Body Ownership

   Matthew Botvinick
p. 782-783.

反発的なシグナル伝達(Repulsive Signaling)

Plexin(プレキシン)とはガイダンス分子(guidance molecules)である semaphorin(セマフォリン)ファミリーの細胞表面受容体である。semaphorinは元 来、発達する神経系における反発的な軸索ガイダンス分子として同定されたものだ が、それはまた形態形成や血管形成、免疫応答、さらには種々の組織における腫瘍 転移にも関わっている。Oinumaたちは、semaphorinの1つ、semaphorin4D(Sema4D) の膜貫通型受容体であるPlexin-B1によって仲介されるシグナル伝達回路について記 述している(p.862)。Plexin-B1は、細胞接着の主要な制御装置であるRasファミリー に属する小さなGTPase R-Rasに向けたグアノシン・トリフォスターゼ(GTP加水分解 酵素)-活性化タンパク質として働き、Plexin-B1による反発的なシグナル伝達を促進 するのである。(KF,NF)
The Semaphorin 4D Receptor Plexin-B1 Is a GTPase Activating Protein for R-Ras
   Izumi Oinuma, Yukio Ishikawa, Hironori Katoh, and Manabu Negishi
p. 862-865.

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