AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 18, 2004, Vol.304


表面エネルギーのエコーの位置(Echo-Location of Surface Potentials)

ヘリウム散乱は長い間、表面ポテンシャルの状況を測定するのに用いられてきた。 この方法はビームを短く断続させて(chopping)、タイムオブフライト(TOF)質量分析 によりエネルギーを測定する。Jardineたち(p. 1790)はヘリウムの「スピンエコー」 法により著しくエネルギー分解能を改善できることを示している。彼らはヘリウム -3のスピン分極ビームを作り、核スピンの歳差運動を用いて散乱原子のエネルギー スペクトルを決定した。この手法を二つのものに応用した。選択的吸収共鳴による 表面ポテンシャルの引力部分とヘリウムとの相互作用によってLiF(100)の表面バン ド構造を測定し、又擬-弾性散乱を用いてCu(001)表面でのCO拡散の挙動を測定して いる。(KU)
Ultrahigh-Resolution Spin-Echo Measurement of Surface Potential Energy Landscapes
   Andrew P. Jardine, Shechar Dworski, Peter Fouquet, Gil Alexandrowicz, David J. Riley, Gabriel Y. H. Lee, John Ellis, and William Allison
p. 1790-1793.

金の棘つきのナノロッド(Nanorods with Gold Stickers)

単一のナノスケールの対象物に半導体と金属物質の両方を結合させることは、いま だ合成における挑戦である。Mokari たち (p.1787) は、セレン化カドミウムのナノ ロッドおよびテトラポッド上に、異方性のかつ制御可能な金のチップを付着させ る、ある簡単な化学的方法を開発した。二つの物質の間に強い結合が存在するた め、金の添加により、そのロッドの光学的特性が変化する。金のチップの付加によ り、その伝導性をも向上し、ロッドを電子デバイスに結び付ける新しい方法を切り 開くものである。(Wt)
Selective Growth of Metal Tips onto Semiconductor Quantum Rods and Tetrapods
   Taleb Mokari, Eli Rothenberg, Inna Popov, Ronny Costi, and Uri Banin
p. 1787-1790.

ヴィルト2彗星との間近な遭遇(Close Encounter of Comet Wild 2)

2004年1月、スターダスト彗星探査機はゆっくりとヴィルト2彗星(Wild 2)の236キロ メートル以内にゆっくりと移動した。その第一のミッションは彗星のチリ(dust)を 採取し、それを分析のため地球に持ちかえることである。間近に遭遇する間に、ナ ビゲーションカメラは彗星の核の写真72枚を撮り、それによりBrownleeた ち(p.1764)は、予想していたより強い凝集力(cohesive strength)を持っているに違 いない奇妙な形状のあばたのある構造を見出した。チリ流量モニタは粒子の破裂を 幾度か計数し、それによりTuzzolinoたち(p. 1776)は,こうしたチリの流れを大きな 集合物(aggregates)の破片であるとして解釈した。Kisselたち(p.1774)は、幾つか の粒子のスペクトルを分析し、有機物に富む物質だけでなく窒素や硫黄も富んでい る化合物(species)であることを発見した。これらの粒子の多くは、ガス状のジェッ ト中で、彗星から離れ探査機に向かって加速されている。Sekaninaたち(p.1769)は こうしたジェットを分析し、その発進源は小さな領域であること、そして探査機に ぶつかる粒子は幅の狭いシートであることを示した。間近に遭遇することで、これ まで想像していた以上により構造的に化学的に複雑な彗星の姿を明らかにす る。(TO)
Surface of Young Jupiter Family Comet 81P/Wild 2: View from the Stardust Spacecraft
   Donald E. Brownlee, Friedrich Horz, Ray L. Newburn, Michael Zolensky, Thomas C. Duxbury, Scott Sandford, Zdenek Sekanina, Peter Tsou, Martha S. Hanner, Benton C. Clark, Simon F. Green, and Jochen Kissel
p. 1764-1769.
The Cometary and Interstellar Dust Analyzer at Comet 81P /Wild 2
   J. Kissel, F. R. Krueger, J. Silén, and B. C. Clark
p. 1774-1776.
Dust Measurements in the Coma of Comet 81P/Wild 2 by the Dust Flux Monitor Instrument
   Anthony J. Tuzzolino, Thanasis E. Economou, Ben C. Clark, Peter Tsou, Donald E. Brownlee, Simon F. Green, J. A. M. McDonnell, Neil McBride, and Melusine T. S. H. Colwell
p. 1776-1780.
Modeling the Nucleus and Jets of Comet 81P/Wild 2 Based on the Stardust Encounter Data
   Zdenek Sekanina, Donald E. Brownlee, Thanasis E. Economou, Anthony J. Tuzzolino, and Simon F. Green
p. 1769-1774.

プリオンを作ったり壊したり(Making and Breaking Prions)

シャペロンやタンパク質アミロイドはプリオン病やタンパク質に基づく遺伝要素、 及び学習や記憶のメカニズムに関与している。ShorterとLindquist(p. 1793)は、 シャペロンタンパク質Hsp104が酵母のプリオン表現型〔PSI+〕の遺伝を支配してい る複数のメカニズムを詳細に記述している。Hsp104は一つの反応だけでなく複数の 反応メカニズムを持っている。プリオンとHsp104の相互作用の特性は、両者の相対 的な濃度とHsp104と相互作用する際のプリオンタンパク質の物理的な状態、及びア デノシン三リン酸(ATP)の加水分解が生じているかどうかという三っの事象に依存し ている。プリオンオリゴマーはアミロイドの形成経路だけでなく、アミロイドの核 形成において必須のものであり、これがHsp104によって厳密に制御されてい る。(KU)
Hsp104 Catalyzes Formation and Elimination of Self-Replicating Sup35 Prion Conformers
   James Shorter and Susan Lindquist
p. 1793-1797.

ゲーム、セット、マッチ(Game, Set, Match)

サルは絵合わせゲームにおいて、統計的に見て、履歴に依存した選択をさせること によって報酬が変化するような条件化では、驚くべき熟達を示す。それは、彼らは 理想的観察者(ideal observer)として行動し、報酬比率が変化すれば直ちに選択比 率を変化させることができるからである。Sugrueたち(p.1784)は、側頭頂間領 域(lateralintraparietal area)中のニューロンの活動や分別値(fractional value)のコーディングがどのように選択に影響するのかを調査するために、この行 動セッティングを使用した。平均的なニューロン活動は、行動実行を追跡しそして 報酬が変化した時シフトした。今までより価値の低いターゲットを対象にした場合 でも、サルはこれらの変化が起こったときに正確に検知することが出来た。 (TO)  
Matching Behavior and the Representation of Value in the Parietal Cortex
   Leo P. Sugrue, Greg S. Corrado, and William T. Newsome
p.1782-1787.

分泌タンパク質Hedgehogの作用(Putting Hedgehog to Work)

分泌タンパク質Hedgehog(Hh)は発生や腫瘍形成において多くの役割を持ってい る。Hhのシグナル伝達経路に関与する数多くの成分は種を越えて保存されている。 しかしながら、これらの相互作用が細胞表面から細胞質や核へどのようにしてシグ ナルを伝えているのかはそれほど明瞭にはなっていない。LumとBeachy(p. 1755) は、ショウジョウバエにおける最近の遺伝子的研究から示唆される複合体Hhの応答 メカニズムをレビュしている。そこでは、骨格タンパク質が膜にあるセンサーから 直接に転写エフェクターへとHhシグナルを伝えている。ショウジョウバエやマウス を用いて、最近解析された付加的なHh経路の成分も紹介されている。(KU)
The Hedgehog Response Network: Sensors, Switches, and Routers
   Lawrence Lum and Philip A. Beachy
Science 18 June 2004: 1755-1759.

内部に安全な天国を形成して(Forming Safe Havens Within)

侵入性の細菌と放線菌の増殖は、細胞の分解性分画であるリソソームへ輸送されな いように抵抗する能力と密接に関連している。Walburgerたち(p. 1800, 2004年5月 20日、オンライン出版)は、放線菌タンパク質が食胞-リソソーム輸送の調節に関 わっていることを突き止めた。病原性放線菌のM.tuberculosisからの真核生物様セ リン/スレオニンキナーゼであるタンパク質キナーゼG(リン酸化酵素 G)が、マク ロファージ内部で食胞−リソソームの融合を阻止し,放線菌の生存を可能にしてい る。Hernandezたち(p. 1805)は、食中毒や腸チフス発熱細菌であるサルモネラが、 ホスホイノシチド脱リン酸酵素であるSopBを経由するホスホイノシチド代謝の変更 によって小胞の輸送を変調していることを見つけた。SopBは侵入に伴う特殊化した 分泌系によってホスト細胞内に取り込まれ、非常に特徴的である巨大な食胞の形成 の仲介をする。この食胞内では内部移行したサルモネラが長期間生存する。SopBが 存在しないときは、侵入したサルモネラは強固な食胞内に存在し、膜輸送欠陥を示 し、細菌の細胞内成長を弱めている。(Ej,hE)
Protein Kinase G from Pathogenic Mycobacteria Promotes Survival Within Macrophages
   Anne Walburger, Anil Koul, Giorgio Ferrari, Liem Nguyen, Cristina Prescianotto-Baschong, Kris Huygen, Bert Klebl, Charles Thompson, Gerald Bacher, and Jean Pieters
p. 1800-1804.
Salmonella Modulates Vesicular Traffic by Altering Phosphoinositide Metabolism
   Lorraine D. Hernandez, Karsten Hueffer, Markus R. Wenk, and Jorge E. Galán
p. 1805-1807.

メッセンジャーRNAの移動について(Messenger RNA on the Move)

メッセンジャーRNAが(mRNA)タンパク質合成のための鋳型となるためには、核の合成 部位から、細胞質へアクセスするための核の出口である核膜孔への道を見つける必 要がある。mRNAタンパク質複合体(mRNPs)は核を通ってランダムに移動して到達する のか、それとも何かのメカニズムで方向づけられて到達するのかは今まで意見が分 かれていた。蛍光性レポーター遺伝子技術と経時的な画像撮影によって、Shav-Tal たち(p.1797)は、生きた哺乳類細胞の核内の単一のmRNPsの動きを転写の瞬間からモ ニタリングすることに成功した。mRNPsは核内では単純な拡散に従って動いてい た。(Ej,hE)
Dynamics of Single mRNPs in Nuclei of Living Cells
   Yaron Shav-Tal, Xavier Darzacq, Shailesh M. Shenoy, Dahlene Fusco, Susan M. Janicki, David L. Spector, and Robert H. Singer
p. 1797-1800.

助けてあげます(We're Here to Help)

抗体生成への任務に向けて、B細胞のほとんどは抗原特異性ヘルパーT細胞によって 送られるサポート信号に対して感受性になっていないといけない。Jordanたち(p. 1808)は、プライミング(準備刺激)と呼ばれているこの応答能の誘導が第三の細胞 クラスを必要とすることを明らかにしている。この第三クラスが包括的にプライミ ングの合図を提供する。この補助集団の起源は骨髄球性であり、マウスにミョウバ ンを注射するとマウス脾臓に蓄積した。ミョウバンは、よく知られているアジュバ ントである。しかし、この補助集団がない時やその集団が生成するサイトカイン信 号がない時には、B細胞のプライミングが行われていなかった。アジュバントは生得 的免疫シグナルを模倣するが、その信号と同様に、B細胞の応答性に直接に影響す る。(An,hE)   
Promotion of B Cell Immune Responses via an Alum-Induced Myeloid Cell Population
   Michael B. Jordan, David M. Mills, John Kappler, Philippa Marrack, and John C. Cambier
p. 1808-1810.

シナプスの遊離部位を識別(Distinguishing Synaptic Release Sites)

グルタミン酸という主要な興奮性神経伝達物質の遊離は、小胞のグルタミン酸輸送 を行うタンパク質ファミリによるシナプス小胞への輸送に依存する。小胞のグルタ ミン酸輸送体(VGLUT)1と2は、成人の脳において、互いに相いれないように分布して いる。Fremeauたち(p. 1815, 2004年4月29日にオンライン出版された;Schuskeと Jorgensenによる展望記事参照)は、より早い発生期には、その分布がオーバーラッ プし、同じニューロンで作られている異なるシナプス部位からのグルタミン酸遊離 を仲介することを示している。2つのイソ型によって仲介される遊離も反復性刺激に 対して応答が異なり、このことは2つの遊離部位は機能的に異なることを示唆す る。VGLUT1の損失はシナプス小胞の貯蔵プールを選択的に減少させる神経終末にお ける膜輸送において役割を果たしているのかも知れない。(An,hE)
Vesicular Glutamate Transporters 1 and 2 Target to Functionally Distinct Synaptic Release Sites
   Robert T. Fremeau, Jr., Kaiwen Kam, Tayyaba Qureshi, Juliette Johnson, David R. Copenhagen, Jon Storm-Mathisen, Farrukh A. Chaudhry, Roger A. Nicoll, and Robert H. Edwards
p. 1815-1819.

DNA損傷と長期記憶(DNA Damage and Long-Term Memory)

学習におけるタンパク質合成の要求を裏打ちする分子的メカニズムは何なの か?Cohen-Armonたち(p. 1820)は、アメフラシAplysiaにおいて、ポリADP-リボー ス-ポリメラーゼ-1が長期記憶の形成のあいだ活性化されることを見いだした。核タ ンパク質のポリADP-リボシル化は、事実上全ての真核細胞におけるDNA損傷に対する 反応であるため、ポリメラーゼの活性化が、学習の間に生じておりそして長期記憶 のために必要とされることは、驚くべきことである。活性化は、単離された胸膜-足 神経節において、繰り返しセロトニンを投与することに応じて生じるだけでなく、 引込み反射の長期感作と摂食行動のオペラント条件付けのあいだにも生じる。ポリ ADP-リボシル化を阻害することにより、長期記憶が阻害されるが、短期記憶に対し ては何の作用も有さなかった。阻害は、訓練の間は有効であったが、それに引き続 く強化期間のあいだは有効ではなかった。記憶に対する作用は、ヒストンH1を介し て媒介されうるものであり、これが長期記憶の形成のあいだにポリADP-リボシル化 されることを著者らは示した。(NF)
Long-Term Memory Requires PolyADP-ribosylation
   Malka Cohen-Armon, Leonid Visochek, Ayelet Katzoff, David Levitan, Abraham J. Susswein, Rodika Klein, Mireille Valbrun, and James H. Schwartz
p. 1820-1822.

遺伝子発現のノイズって、何?(Understanding Noise in Gene Expression)

表現型変異性は、種の進化に寄与する可能性がある。RaserとO'Shea(p. 1811)は ここで、酵母において、場合によりノイズもしくはランダムなゆらぎとしても知ら れる遺伝子発現の変異性を測定した。ノイズは遺伝子特異的なものであり、そして プロモータ活性と転写との間のバランスによりmRNAレベルでの変異性が影響を受け る。2種のタイプのノイズ:すなわち二倍体細胞の2つの対立遺伝子の発現の間に生 じる内因性のノイズ、および細胞の不均質性またはシグナル伝達現象により生じう る外因性のノイズ、を調べた。その結果、ノイズは、真核細胞の遺伝子発現におい て適合度と多様性のバランスをとる用に最適化することができる、進化可能な形質 であることが示された。(NF)
Control of Stochasticity in Eukaryotic Gene Expression
   Jonathan M. Raser and Erin K. O'Shea
p. 1811-1814.

DNAの損傷修復にHolliday接合複合体の役割(Going on Holliday?)

相同的組換え (HR)はDNAの損傷-修復に不可欠な経路である。HRの共通の中継物質は Holliday接合複合体であり、この構造は減数分裂や有糸分裂の最中にも生じ る。Mus81はHolliday接合部の分解や、酵母中で膠着した複製フォークの処理に関与 するエンドヌクレアーゼである。哺乳類のMus81の機能を探索するため に、McPherson たち(p. 1822)は、これらの遺伝子を欠損するマウスを作った。驚い たことにこれらのマウスは生存可能で,繁殖性も保っており、リンパ球の正常な発 生と活性化が可能であることが実証され、プログラム化されたDNAの破損の修復や減 数分裂組換えにおけるMus81の役割が免除されている。しかし、ヘテロ接合性やホモ 接合性マウスでは染色体異常や色々なタイプの悪性異常の発生率が上昇することか ら、Mus81はhaploinsufficient(haploinsufficient遺伝子:遺伝子1個のコピーだ けでは充分な発生を活性化出来ないような遺伝子)な腫瘍抑制タンパク質であるこ とがわかる。(Ej,hE)  
Involvement of Mammalian Mus81 in Genome Integrity and Tumor Suppression
   John Peter McPherson, Bénédicte Lemmers, Richard Chahwan, Ashwin Pamidi, Eva Migon, Elzbieta Matysiak-Zablocki, Mary Ellen Moynahan, Jeroen Essers, Katsuhiro Hanada, Anuradha Poonepalli, Otto Sanchez-Sweatman, Rama Khokha, Roland Kanaar, Maria Jasin, M. Prakash Hande, and Razqallah Hakem
p. 1822-1826.

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