AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 28, 2004, Vol.304


ヒトのインシュリンシグナル伝達経路(Human Insulin Signaling)

最も一般的なU型糖尿病は数多くの様々な遺伝子と生活要因の相互作用に起因すると 考えられている。他の複雑性疾患においてそうであったように、糖尿病の病原発生 に寄与する遺伝的な因子は、この病に関する稀有な一遺伝子的形態を研究すること によりもっと容易に確認することが出来る。Georgeたち(p. 1925)は、重症のイン シュリン抵抗性と糖尿病に関する常染色体優性遺伝を示すある家族がセリン-スレオ ニンキナーゼAKT2に変異を持っていることを見つけた。この変異体はAKT2の機能を 不活性化している。マウスを用いた初期の研究では、AKT2はインシュリンのシグナ ル伝達経路を左右するものとして同定されていた。この新たな遺伝的データはヒト 糖尿病においてこのタンパク質の重要なる役割を強調するものである。(KU,NF)
A Family with Severe Insulin Resistance and Diabetes Due to a Mutation in AKT2
   Stella George, Justin J. Rochford, Christian Wolfrum, Sarah L. Gray, Sven Schinner, Jenny C. Wilson, Maria A. Soos, Peter R. Murgatroyd, Rachel M. Williams, Carlo L. Acerini, David B. Dunger, David Barford, A. Margot Umpleby, Nicholas J. Wareham, Huw Alban Davies, Alan J. Schafer, Markus Stoffel, Stephen O'Rahilly, and Inês Barroso
p. 1325-1328.

励起された Kondo システム(An Excited Kondo System)

メゾスコピックデバイスが調整できると、それらを多体量子力学的現象の研究のテ ストベッドとして用いることができる。そのような現象の一つは、Kondo 効果であ る。この効果においては、量子ドット中での不対電子は、磁気的挙動を模擬でき、 周囲の電子と相互作用をすることができる。しかしながら、今日までの測定は、平 衡状態にある系に集中していた。Kogan たち (p.1293; Wingreen による展望記事を 参照のこと) は、マイクロ波励起に曝された単一電子トランジスターにおける電気 伝導度の測定を行った。それに続く Kondo サテライトの発展は、長いあいだ支持さ れてきた理論的予測を立証することと、また、非平衡(すなわち、操作可能な)条件 下での多体量子力学的効果の研究を可能とすることであろう。(Wt)
Photon-Induced Kondo Satellites in a Single-Electron Transistor
   Andrei Kogan, Sami Amasha, and M. A. Kastner
p. 1293-1295.

マイクロ流体工学による還元(Microfluidic Reduction)

化学におけるマイクロ流体工学の応用の殆どが分離や分析に目が向けられている が、大きな接触面積や急速混合の可能性は合成に対して、特に複数の相を接触させ る必要のある場合にも同様の利点を持つと思われる。Kobayashiたち(p. 1305)は、 触媒を用いた水素化反応を行うマイクロ流体反応器を開発した。それは有機相が担 体に保持されたパラジウム触媒粒子と接触しており、その触媒はガラス側壁に固定 されている。十分に速い流速において、水素が流路の中心を通って流れ、それによ り反応速度が大きくなる。脱保護基反応と同様に、二重結合の還元が定量的に二分 で完了する。(KU)
A Microfluidic Device for Conducting Gas-Liquid-Solid Hydrogenation Reactions
   Juta Kobayashi, Yuichiro Mori, Kuniaki Okamoto, Ryo Akiyama, Masaharu Ueno, Takehiko Kitamori, and Shu Kobayashi
p. 1305-1308.

分子の環をつなぐ(Linking Molecular Rings)

有機合成において、分子の中に環を閉じることはかなり挑戦的課題であるが、化学 者たちは現在のところ他の分子にある環を通して一つの環を閉じることは出来てい る。二つの報告は超分子の相互作用を利用して極端なまでに環をつなげ、その組み 立てプロセスを紹介している(Siegelによる展望記事を参照)。Chichakたち(p. 1308)は分子Borromean環を作ったが、そこでは3つの環がつながり、交差する一つの 連結が他の二つを分離している。Wangたち(p 1312)は二つの分子をつないでおり、 各々の分子は4つの環を持っており、4つの環が他の4つの環を通してつながってい る。(KU)
Molecular Borromean Rings
   Kelly S. Chichak, Stuart J. Cantrill, Anthony R. Pease, Sheng-Hsien Chiu, Gareth W. V. Cave, Jerry L. Atwood, and J. Fraser Stoddart
p. 1308-1312.
Multiple Catenanes Derived from Calix[4]arenes
   Leyong Wang, Myroslav O. Vysotsky, Anca Bogdan, Michael Bolte, and Volker Böhmer
p. 1312-1314.

自分自身を身奇麗にして(Making Oneself Presentable)

細胞障害性 CD8+ T細胞は一旦活性化すると、ウイルスに感染したり形 質転換した細胞のタンパク質の中身を変化させるように反応する。プロテアソーム によって作られる分解したタンパク質フラグメントは小胞体中のクラスI主要組織適 合性タンパク質と結びついて、細胞表面に移動し、そこで応答性T細胞に調べられ る。しかし、ナイーブT細胞を初回抗原刺激するためには、ペプチドと最初に会合す るものは多数の活性シグナルを伴っている必要がある。このシグナルは、通常プロ フェッショナル抗原提示細胞(APC) によってのみ供給される。このAPCは、自分自身 は感染も形質転換もせずにペプチドを何らかの方法で確保する必要がある(Ploeghに よる展望記事参照)。Wolkers たち (p. 1314)、および、Norbury たち(p. 1318)に よる研究によると、“cross-priming”と呼ばれているこのプロセスは親タンパク質内 部のペプチドの場所の影響が極めて強い。シグナル配列(シグナルペプチド)の中心 近くの基部あるいは、内部由来のペプチドは、より末端部のペプチドに比べて極め てT細胞の活性化効率が悪い。これはシグナル配列が急速に分解されるため細胞内に は極めて少量しか存在しないからであろう。交差提示(Cross-presentation)の効率 を決定するための重要パラメータは、APCによる無傷のタンパク質かペプチドの入手 であり、プロテアソーム由来の生成物の入手ではない。(Ej,hE,NF)
Antigen Bias in T Cell Cross-Priming
   Monika C. Wolkers, Nathalie Brouwenstijn, Arnold H. Bakker, Mireille Toebes, and Ton N. M. Schumacher
p. 1314-1317.
CD8+ T Cell Cross-Priming via Transfer of Proteasome Substrates
   Christopher C. Norbury, Sameh Basta, Keri B. Donohue, David C. Tscharke, Michael F. Princiotta, Peter Berglund, James Gibbs, Jack R. Bennink, and Jonathan W. Yewdell
p. 1318-1321.

地震のスリップを起こす液体源(Fluid Source for Seismic Slip)

フィリピン海プレートのユーラシアプレートの下への沈み込みは、日本の沖合いに 南海トラフを形成し、さらにいくつかの大地震の原因となってきた。この南海トラ フの北端部分では未だに地震が起きていない。その代わりに、そこでは地震を伴わ ずにプレートが相互にずれるサイレント地震現象を引き起こしている。Kodaira た ち(p.1295) は、高圧の多孔性流動体領域が沈み込んでいく海山の下降側に溜まり、 この領域が滑っていると結論付けた。(Ej,nk)
High Pore Fluid Pressure May Cause Silent Slip in the Nankai Trough
   Shuichi Kodaira, Takashi Iidaka, Aitaro Kato, Jin-Oh Park, Takaya Iwasaki, and Yoshiyuki Kaneda
p. 1295-1298.

ホルモン補充治療の見直し(Reviewing Hormone Replacement Therapy)

多くの女性は閉経期に伴う症状を軽減するためホルモン補充治療を受けている。こ の利点は、ステロイドホルモンが冠血管心臓疾患のリスクを軽減し、女性の骨量減 少を防ぐと考えられている。Women's Health Initiative(WHI)と名付けられた大規 模な臨床試験は、ホルモン補充治療のリスクと利点解明が目的とされた。得られた WHIデータは、関係者の間で大きな議論を巻き起こしたが,Turgeonたち(p. 1269)は これを,分子的相互作用と補充ホルモンの薬理学の知識に基づいて見直した。WHIの 研究により示されたこの相対的リスクと利点は実験計画を踏まえて考慮されるべき であろう。(Ej,hE,NF)
Hormone Therapy: Physiological Complexity Belies Therapeutic Simplicity
   Judith L. Turgeon, Donald P. McDonnell, Kathryn A. Martin, a nd Phyllis M. Wise
p. 1269-1273.

ストレスと変性(Stress and Degeneration)

タンパク質のユビキチン化に関与するE3ユビキチンリガーゼ、parkin中の変異は、 黒質線状体ドーパミンニューロンの変性の原因となり、そして家族性のパーキンソ ン病(PD)を引き起こす。Chungたち(p. 1328、2004年4月22日にオンラインでの発 表)は、parkinがin vitroおよびin vivoの両方でS-ニトロシル化され得るものであ り、そしてS-ニトロシル化がユビキチンE3-リガーゼ活性並びにその保護的作用をブ ロックすることを示した。活性窒素ストレスがparkinの機能を低下させることがで きるという知見は、活性窒素ストレスおよび活性酸素ストレスが病原性の重要な因 子であると考えられているもっと一般的な散在型のPDに対して、家族性のPDを関 連づける。(NF)
S-Nitrosylation of Parkin Regulates Ubiquitination and Compromises Parkin's Protective Function
   Kenny K. K. Chung, Bobby Thomas, Xiaojie Li, Olga Pletnikova, Juan C. Troncoso, Laura Marsh, Valina L. Dawson, and Ted M. Dawson
p. 1328-1331.

失われた生殖系列幹細胞は再生する(Regenerating Lost Germline Stem Cells)

無脊椎動物の生殖細胞系は、幹細胞生物学を評価するためのすばらしいモデルシス テムである。Jak-STATシグナル伝達は、ショウジョウバエ(Drosophil a)の精巣に おける生殖細胞系幹細胞の自己複製を維持する。BrawleyとMatunis (p. 1331、2004年5月13日にオンラインでの発表)はここで、このシステムか ら Jak-STATシグナル伝達を取り除き、その後回復させると、失われた生殖細胞系幹細 胞が結果として再生されることを見いだした。これらの幹細胞は、相互に連絡され た精原細胞のクラスターが分化することから生じる。このように、精子形成の分化 が開始された後であっても、適切な条件下であれば、それらが生殖細胞系幹細胞に 脱分化することができる。(NF)   
Regeneration of Male Germline Stem Cells by Spermatogonial Dedifferentiation in Vivo
   Crista Brawley and Erika Matunis
p. 1331-1334.

神経幹細胞を維持する(Maintaining Neural Stemness)

培養神経幹細胞を増殖させる能力は、培養中でそれらが"成熟する"という傾向によ り阻害され、それによりグリア細胞を生成する能力ではなくニューロンを生成する 能力が減少した。Shenたち(p. 1338、2004年4月1日にオンラインでの発 表;Wurmserたちの展望記事を参照)はここで、内皮細胞は自己複製を促進しそして 神経幹細胞の分化を阻害するが、血管平滑筋細胞はそのような作用を有さないこと を示し、それにより幹細胞の大型平板シートの生成を可能にすることも示した。内 皮細胞を取り除いた場合、その細胞シートは分化し、そして初期胚において通常形 成される投射型ニューロン並びにグリアを含むニューロンを形成する能力はそのま ま維持する。 内皮細胞とともに増殖させることにより、多分化能を維持しながら神 経幹細胞が増殖することが可能になる。(NF)
Endothelial Cells Stimulate Self-Renewal and Expand Neurogenesis of Neural Stem Cells
   Qin Shen, Susan K. Goderie, Li Jin, Nithin Karanth, Yu Sun, Natalia Abramova, Peter Vincent, Kevin Pumiglia, and Sally Temple
p. 1338-1340.

進化の過程における左右相称と放射相称(Bilateral Versus Radial Symmetry During Evolution)

前後軸と背側-腹側軸に沿って対称性を示す左右相称の生き物は、現代の刺胞動物に 似た生物体から進化した可能性がある。刺胞動物というのは、イソギンチャクやサ ンゴ、ヒドラ、クラゲなどを含む。刺胞動物は一般に放射状に対称的な動物と信じ られているが、そのうちのあるもの、たとえばイソギンチャクNematostellaは口側- 反口側軸と、それに対して直交する方向軸とについて左右相称を示している。刺胞 動物と左右相称の生き物における両側性対称性が類似する起源を有するものである のか、異なる起源のものが収束しているものであるのかを決定するため に、Finnertyたちは、イソギンチャクの軸を確立するのに関わっている遺伝子の発 現パターンを調べた(p. 1335, 2004年5月6日にオンラインの発表、またHollandによ る展望記事参照のこと)。彼らは、両側性対称性は、左右相称の生き物と刺胞動物が 分岐する前に進化した、類似する起源を有するものであると結論付けてい る。(KF,NF)
Origins of Bilateral Symmetry: Hox and Dpp Expression in a Sea Anemone
   John R. Finnerty, Kevin Pang, Pat Burton, Dave Paulson, and Mark Q. Martindale
p. 1335-1337.

地球の気候を反映して(Reflecting on Earth's Climate)

地球のアルベド、すなわち太陽からの入射光のうち、宇宙空間へ反射される短波長 を主体とする光の割合は、大気温度の制御パラメータの1つである。地球のアルベド を推定する1つの方法は、雲量(cloud coverage)と地表に植生が占める割合や鉱物 的な特性とを分析し、その結果からどの程度太陽光を反射するのかを計算する方法 である。しかし、このプロセスは複雑でそして異なるアプローチをすると異なる結 果が出てしまっていた。他の方法は地球照(earthshine)、すなわち地球から反射さ れる太陽光が月の暗い部分を照らして再度反射される太陽光の全量を測定すること である。Palleたち(p.1299)は両方の分析方法を実施して、二つの技法を比較評価 し、さらに人工衛星による雲量の調査が利用できない期間における地球のアルベド を地球照から推定した。彼らは、1984年から2000年までの間に地球の反射 率(reflectance)が定常的に減少していること、そして2000年からはその減退を完全 に打ち消す反射率の反転が続いていることを発見した。これらの10年間の変化が意 味する放射強制力(Radiative forcing)は気候に影響を与えてきたかもしれな い。(TO,Ej,nk)
Changes in Earth's Reflectance over the Past Two Decades
   E. Pallé, P. R. Goode, P. Montañ és-Rodríguez, and S. E. Koonin
p. 1299-1301.

弾性のあるアクチン・ネットワーク(Elastic Actin Networks)

タンパク質アクチンは、細胞内の細胞骨格ネットワークの主要な部分を形成し、こ れが細胞の形を組織化し維持するのである。架橋によるネットワークを形成できる そのタンパク質の機械的特性は知られていないが、この特性は機械的変形に細胞が いかに応答するかを理解するには重要なものである。結合タンパク質のほとんどは また、架橋によるネットワークに柔軟性をもたらすので、このためアクチンの寄与 だけを分離するのは難しいのである。Gardelたちは、柔軟性がなくかつ永続的な結 合を 形成するアクチン-結合タンパク質であるscruinを用いて、アクチンフィラメントを 架橋しかつ束にすることで、アクチン・ネットワークの機械的特性を他から分離し て説明付けている(p. 1301)。彼らは、ある量のscruin濃度でネットワークが形成さ れると、弾性モジュールにおいて突然何桁もの変化が生じ、流体力学的特性に著し い変化の起きることを見出した。(KF,NF)
Elastic Behavior of Cross-Linked and Bundled Actin Networks
   M. L. Gardel, J. H. Shin, F. C. MacKintosh, L. Mahadevan, P. Matsudaira, and D. A. Weitz
p. 1301-1305.

いくら変わっても変わらない(Plus ca Change?)

一般的にいうと、ゲノムの非コーディング部分はコーディング領域より急速に変化 する。Bejeranoたちはこのたび、3億年から4億年にわたって保存されてきたヒトゲ ノム中のある短い遺伝的要素(>200塩基対)のクラスについて記述している(p. 1321, 2004年5月6日にオンラインでの発表)。オルソログorthologは、ヒトとマウス、ラッ トの配列について100%同一であり、ニワトリとイヌについてはほんの少し低い数値 で、ある程度の類似が魚類についても観察できた。これらの超保存的な要素のそば には、RNA結合遺伝子と転写レギュレータがしばしば見出された。これらの要素の機 能(およびそれらを保存してきた仕組み)はいまだに決定されていないが、作業仮説 としては、脊椎動物の進化においてそれらは重要だったということになる。(KF,NF)
Ultraconserved Elements in the Human Genome
   Gill Bejerano, Michael Pheasant, Igor Makunin, Stuart Stephen, W. James Kent, John S. Mattick, and David Haussler
p. 1321-1325.

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