AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 9, 2004, Vol.304


致命的な不整脈を防ぐ(Preventing Fatal Arrythmias)

心臓の不整脈を引き起こす正確なメカニズムを突き止めるのは難しいことであっ た。Wehrensたちは、1,4-ベンゾチアゼピンの誘導体である実験的薬剤JTV519の効果 について記述している(p. 292)。この薬剤は、タンパク質calstabin2のリアノジン 受容体への結合を増大させるものである。リアノジン受容体は筋収縮に貢献するカ ルシウム遊離チャネルである。calstabinが結合すると、このチャネルは閉鎖状態に 保たれたままになり、カルシウムは遊離されない。calstabin2の量が減少したマウ スは不整脈に陥りがちである。JTV519を処置するとマウスは致命的な不整脈から守 られるが、この薬剤はcalstabin2タンパク質を完全に欠いているマウスには効果が なかった。つまり、JTV519は、calstabinとリアノジン受容体との会合を増加させる ことによって、生命を脅かす異常な収縮を引き起こすと考えられているカルシウム の漏出に栓をすることで、不整脈を防いでいるらしい。(KF)
Protection from Cardiac Arrhythmia Through Ryanodine Receptor-Stabilizing Protein Calstabin2
   Xander H. T. Wehrens, Stephan E. Lehnart, Steven R. Reiken, Shi-Xian Deng, John A. Vest, Daniel Cervantes, James Coromilas, Donald W. Landry, and Andrew R. Marks
p. 292-296.

軟体動物のシェルの修復(Fixing a Molluscan Shell)

軟体動物におけるシェル(貝殻)の形成は、外套上皮から分泌される細胞外の有機的 基質によって仲介されると通常考えられている。Mountたちは、免疫細胞の一つのク ラスである顆粒球血球(granulocytic hemocytes)が,方解石結晶を凝集させ、その 結晶をシェル形成の部位へと移送するということを報告している(p. 297)。カキの シェルの縁に刻み目を入れると、炭酸カルシウムを、循環する顆粒球中に認めるこ とができた。その結晶はミネラル化する先端で遊離され、再び形となって、再生さ れるシェルを生み出したのである。(KF)
Hemocyte-Mediated Shell Mineralization in the Eastern Oyster
   Andrew S. Mount, A. P. Wheeler, Rajesh P. Paradkar, and D. Snider
p. 297-300.

歪みの転位を取り除く(Deleting Deformation Dislocations)

純金属の粒径がナノメートルの大きさに近づくと、金属の強さが増大する。これは 変形による新たな欠陥形成に対する通常のメカニズムが、もはや当てはまらないた めである。Budrovicたち(p. 273:Hamkerによる展望記事を参照p. 221)は、ナノ結晶 のニッケルにおいて、試料を引き伸ばしたさいに生じる塑性変形が元に戻り、張力 を取り除いても新たな欠陥形成が生じていないことを見出した。彼らが開発したそ の場観察技術では、変形した試料と未変形の試料を観察することが可能であり、変 形した後での解析方法を用いたときに生じる曖昧さを除くことができる。(KU)
MATERIALS SCIENCE:
Understanding How Nanocrystalline Metals Deform

   Kevin J. Hemker
p. 221-223.
Plastic Deformation with Reversible Peak Broadening in Nanocrystalline Nickel
   Zeljka Budrovic, Helena Van Swygenhoven, Peter M. Derlet, Steven Van Petegem, and Bernd Schmitt
p. 273-276.

差異が差異を招く(Differences Beget differences)

生態学者は、一般に種の多様性と資源の多様性との間の正の相関は、それぞれの種 がそれぞれの資源に特化する結果であると推測してきた。熱帯地方の農業生態 系(agroecosystem)における小枝を巣とするアリ(twig-nesting ant)の種を用い て、Armbrechtたち(p. 284)は、個々の資源への特化が明瞭に見られない場合でも、 それでも資源の多様性がその資源の消費者や、或いは利用者の多様性を促進してい ることを見出した。このように、一つのレベルにおける多様性が、あるニッチな特 異性に無関係に他のレベルにおける多様性を促進している可能性がある。資源の多 様性は、いまだ未解明の創発的作用を通じて、資源利用者の多様化に働きかけるよ うである。(KU,nk)
Enigmatic Biodiversity Correlations: Ant Diversity Responds to Diverse Resources
   Inge Armbrecht, Ivette Perfecto, and John Vandermeer
p. 284-286.

融合細孔を特定(Pinning Down Fusion Pores)

小胞と細胞膜との間をつなぐエキソサイトーシスのための融合細孔(fusion pore) は、生物物理学的に定義することができ、シナプス小胞上にみられるタンパク質で あるシナプトタグミンにより修飾することができる。しかしながら、エキソサイ トーシスの重要な中間構造であるこの融合細孔それ自体の性質は、未だ明らかに なっていない。融合細孔が脂質から構成されているのか,それともタンパク質から 構成されているのかさえも明らかになっていない。Hanたち(p. 289)は、融合細孔 の物理学的部分として、特異的な細胞膜タンパク質であるシンタキシンを、Ca2+-依 存性エキソサイトーシスの間のラット神経内分泌細胞株から同定した。シンタキシ ンの膜貫通部分中の変異は、融合細孔を介した神経伝達物質流量と、細孔のコンダ クタンスとの両方ともを変化させる。融合細孔の流量に影響を及ぼす残基は、α-ヘ リックスモデルの一つの面に沿って存在し、そして融合細孔は、膜中に5〜8個のシ ンタキシン膜貫通領域が環状に配置されることにより、少なくとも一部分が形成さ れる。(NF)
Transmembrane Segments of Syntaxin Line the Fusion Pore of Ca2+-Triggered Exocytosis
   Xue Han, Chih-Tien Wang, Jihong Bai, Edwin R. Chapman, and Meyer B. Jackson
p. 289-292.

動機付けと報酬(Motivation and Reward)

"報酬"と"動機付け"との間で、神経の発火パターンに相違点はあるのだろうか?神 経反応における相違は、細胞が報酬の大きさを示しているため(または報酬値に 従って細胞の活性が調節されるため)か、または細胞が報酬から生じる動機付けの 増大に反応するために生じる可能性がある。RoeschとOlson(p. 307)は、マカク属 のサルにおいてニューロンからの記録を取り、失敗に対する罰を増加させることに より、それらの動機付けを無関係に増大させた。彼らは、眼窩前頭ニューロンが実 際に報酬値を示しており、報酬が増大すると細胞の反応も増大することを見いだし た。しかし、罰の脅威を増大させても、すなわち動機付けを増大させても、これら の細胞は細胞の反応を増大させない。前運動皮質の細胞は対照的に、報酬と動機付 けとの両方に対して細胞の反応性を増大させた。(NF)
Neuronal Activity Related to Reward Value and Motivation in Primate Frontal Cortex
   Matthew R. Roesch and Carl R. Olson
p. 307-310.

真菌ファミリーの履歴(Fungal Family History)

糸状子嚢菌、Ashbya gossypiiのゲノムはわずか9.2メガ塩基サイズを有し、4718個 のタンパク質をコードする遺伝子をもつ。これは、これまでに特定されている非寄 生性真核生物の中では、もっとも小さいものである。2種類の真菌のゲノム、すなわ ちA. gossypiiのものとSaccharomyces cerevisiaeのものとを対比したところ、A. gossypiiの90%以上の遺伝子はS. cerevisiaeの遺伝子と相同性を有し、これらのゲ ノムはシンテニーの再構築が可能なくらい十分に保存されていた。しかしながら、 このパターンを解析したところ、これらの2種が分岐した後に生じた300個の逆位お よび転座が存在することが示された。S. cerevisiaeは全ゲノムを重複させたり,二 つの関連する種を融合することにより進化したという証拠は存在していたが、新た に配列決定されたA. gossypiiは、その重複が起こるよりも前の原種に似ているよう である。2種のゲノムの対比により、Dietrichたち(p. 304)は、古い配列から新し い配列を導く変化の履歴を推論することができた。(NF)
The Ashbya gossypii Genome as a Tool for Mapping the Ancient Saccharomyces cerevisiae Genome
   Fred S. Dietrich, Sylvia Voegeli, Sophie Brachat, Anita Lerch, Krista Gates, Sabine Steiner, Christine Mohr, Rainer Pöhlmann, Philippe Luedi, Sangdun Choi, Rod A. Wing, Albert Flavier, Thomas D. Gaffney, and Peter Philippsen
p. 304-307.

一方通行を守る(Maintaining One Way Traffic)

細胞における異なる膜結合区画の間の連絡は小胞によって行なわれる。小胞はド ナー区画から生成され、受容体の細胞小器官に移動して、そこでドッキングし融合 する。KamenaとSpang(p 286)は、新しく形成した小胞とドナー膜との逆戻りの融合 を防ぐ活動的機構が細胞に存在することを示している。この機構は小胞輸送の方向 性を提供する。酵母S. cerevisiaeにおいて、TIP20というタンパク質が小胞体(ER) 由来の小胞の逆戻りの融合を防いでおり、これによりERにおいて、入ってくる小胞 と出て行く小胞を識別する機構として作用しているのかも知れない。(An)
Tip20p Prohibits Back-Fusion of COPII Vesicles with the Endoplasmic Reticulum
   Faustin Kamena and Anne Spang
p. 286-289.

喘息の遺伝力についての手がかり(Clue to Asthma Heritability)

喘息は増加しつつあるが、環境の影響と遺伝的影響の両方を持っている。直接に関 与する遺伝子として同定した候補遺伝子は非常に少ないが、その中でも病態生理学 を明確にするような手がかりになるのは、更に少なかった。フィンランドとカナダ からの喘息やアレルギーの症状を示した3つの無関係な患者の同齢集団の研究におい て、Laitinenたち(p 300;Couzinによるニュース記事参照)は、染色体7pの領域にお ける遺伝性の単一ヌクレオチド多形性(SNP)ハプロタイプを同定した。この危険-関 与のハプロタイプの遺伝子型により、GPRAというGタンパク質共役受容体をコードす る候補遺伝子の同定に導いていた。この遺伝子におけるコーディングSNPは、喘息や アレルギーの表現型と強く関与し、タンパク質発現の変化と、おそらくはタンパク 質の機能変化をもたらすものかも知れない。(An)   
GENETICS:
Two New Asthma Genes Uncovered

   Jennifer Couzin
p. 185-187.
Characterization of a Common Susceptibility Locus for Asthma-Related Traits
   Tarja Laitinen, Anne Polvi, Pia Rydman, Johanna Vendelin, Ville Pulkkinen, Paula Salmikangas, Siru Mäkelä, Marko Rehn, Asta Pirskanen, Anna Rautanen, Marco Zucchelli, Harriet Gullstén, Marina Leino, Harri Alenius, Tuula Petäys, Tari Haahtela, Annika Laitinen, Catherine Laprise, Thomas J. Hudson, Lauri A. Laitinen, and Juha Kere
p. 300-304.

カーボンナノチューブのファイバーをらせん状に巻く(Twinsting Up CarbonNanotube Fibers)

単壁や多壁のカーボンナノチューブを合成する数多くの方法が開発されてきたが、 しかしながら最も優れた条件においても、ファイバーの長さは1メートル以下であ る。回転巻上げ棒の付与と注意深い反応条件の選定により、Liたち(p. 276 ) は、連続的に繋がったらせん状のロープをつくった。このプロセスは様々な酸素含 有のカーボン供給原料を用いて行われ、単壁と多壁のカーボンナノチューブの選択 は操作温度とガスの流速により制御される。(KU)
Direct Spinning of Carbon Nanotube Fibers from Chemical Vapor Deposition Synthesis
   Ya-Li Li, Ian A. Kinloch, and Alan H. Windle
p. 276-278.

様々なサイズ領域におけるキラリティー(Chirality at Multiple Size Scales)

単一分子のみならず、アキラル(非対掌)な分子からなる集合体もキラリティー (対掌性)を持つ。De Jongら(p. 278)は、分子レベルや集合体レベルでキラリ ティーを示し、それらを熱あるいは光によって変化させることのできる分子システ ムの創製に成功した。集合体はゲル状であり、光照射により安定状態から準安定状 態を可逆的に変化させることも可能である。(NK)
Reversible Optical Transcription of Supramolecular Chirality into Molecular Chirality
   Jaap J. D. de Jong, Linda N. Lucas, Richard M. Kellogg, Jan H. van Esch, and Ben L. Feringa
p. 278-281.

不確定性を改善する(Improving Uncertainty)

Heisenberg の不確定性原理は、実験的なパラメーターを決定できる正確さの限界を 定める。二つの直交するパラメーターでは、一方の正確さの向上は他方に関する情 報を失うことによってのみ可能である。どの程度までそのような量子状態のスク イージングが可能かは、これまで一般的には受身的なものであった。Geremia たち (p.270) は、スクイージング量を制御できる実時間フィードバック技術を与えてい る。これによれば、その正確さを観察者によって決定論的に設定することが可能と なる。(Wt)
Real-Time Quantum Feedback Control of Atomic Spin-Squeezing
   JM Geremia, John K. Stockton, and Hideo Mabuchi
p. 270-273.

膜が与えるイオンチャネル機能への影響(Membrane Effects on Ion Channel Function)

イオンチャネル機能へ与える膜の環境の影響にはどんなものがあるだろう。この チャネルの性質は、チャネルのサブユニットだけで決まるのだろうか、あるいは、 脂質がカリウムチャネルの開閉を変化させることがあるのだろうか?Oliverたち(p. 265; Hilgemannによる展望記事参照)は、膜の脂質がA型カリウムチャネルを遅延整 流型カリウムチャネルに変化させることがあるし、その逆もあると報告してい る。PIP2のようなPhosphoinositidesは不活性領域を固定化するし、そ の結果A型カリウムチャネルからのN型不活性化を除去することができる。逆に、脂 肪酸のアラキドン酸(arachidonic acid)やアナンダミド(anandamide)は、高速応答 の電位依存性不活性化による遅延整流型チャネルを装備していることにな る。(Ej,hE)
BIOCHEMISTRY:
Oily Barbarians Breach Ion Channel Gates

   Donald W. Hilgemann
p. 223-224.
Functional Conversion Between A-Type and Delayed Rectifier K+ Channels by Membrane Lipids
   Dominik Oliver, Cheng-Chang Lien, Malle Soom, Thomas Baukrowitz, Peter Jonas, and Bernd Fakler
p. 265-270.

まずC60に荷電して (C60 Charges Ahead )

フラーレンC60( fullerene C60)は、良い電子受容体であ り、C60結晶をカリウムのようなアルカリ金属でドープすることによっ てフラーレン化合物(fulleride)が形成される。Yamachikaたち(p. 281)は、部分的 にカリウム原子で覆われた銀表面に吸着されたC60分子のアルカリ金属 ドーピングを実施した。この試料は、熱運動を抑えるため、極低温(7ケルビン) に保たれたまま処理された。このC60分子は、走査型トンネル顕微鏡の チップによってカリウム原子の上を動かすことができ、KC60が合成でき たし、同様な処理を継続して、K4 C60も合成した。彼らは また、K4C60分子から表面の不純物上にカリウム原子が失わ れる現象も観察することが出来た。C60分子の荷電は、走査型トンネル 分光分析によって確認された。(Ej,hE)
Controlled Atomic Doping of a Single C60 Molecule
   R. Yamachika, M. Grobis, A. Wachowiak, and M. F. Crommie
p. 281-284.

上から来るオゾン(Ozone from Above)

対流圏上部にあるオゾンは気象に対して重大な影響を与えるが、その重要な、しか しながらいまだはっきりしていない供給源の一つは成層圏である。Marcyた ち(p.261)は、成層圏から対流圏上部に混入する大気に含まれるオゾンの移動量を計 量するために、亜熱帯地方での飛行機から測定されたHClの解析結果を示す。その領 域はオゾンの収支(ozone budget)と関係する放射強度(associated radiative forcing)に顕著な食い違いがある。彼らのアプローチは、対流圏上部には特別なHCl の供給源が存在せず、成層圏で生成されるHCl の量がそこでのオゾン生成量に比例 するという事実を利用している。これにより、対流圏上部におけるHCl 濃度の測定 量は、上層からどれだけの量のオゾンが移動してくるのかを計算するのに使用する ことができる。(TO)
Quantifying Stratospheric Ozone in the Upper Troposphere with in Situ Measurements of HCl
   T. P. Marcy, D. W. Fahey, R. S. Gao, P. J. Popp, E. C. Richard, T. L. Thompson, K. H. Rosenlof, E. A. Ray, R. J. Salawitch, C. S. Atherton, D. J. Bergmann, B. A. Ridley, A. J. Weinheimer, M. Loewenstein, E. M. Weinstock, and M. J. Mahoney
p. 261-265.

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