AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 19, 2004, Vol.303


英国における動植物の種の多様性(Plant and Animal Diversity in the UK)

過去25年間、英国における草地、特に不毛な草地の植物種がその豊富さを急激に減 少させている(Pennisiによるニュース記事参照)。Stevensたち(p.1876)は、英国を 横切る草地群集(grassland community)の帯状標本地(transect)を調査した。植物の 種数の変化は、地中窒素量による分だけで半分以上が説明される。現在の窒素レベ ルは植物種の多様性を減少させつつあり、特に酸性草地では既に種の数の25%の 減少をもたらしている。Thomasたち(p.1879)は、British全島における全ての原生の 植物、蝶そして鳥類の種に関する過去40年間にわたる調査から得られたデータを分 析した。予想に反して、蝶の衰退は植物や鳥類の衰退よりも大きかった。こうした 結果は、全世界は生命の歴史の中で6番目の大きな絶滅を迎えているという仮説の正 しさを強めている。昆虫(調べられた種の50%以上を構成する)は、より目立つ集団 と比べ、少なくとも同程度に影響を受け易いという強い証拠を示している。(TO,nk)
Comparative Losses of British Butterflies, Birds, and Plants and the Global Extinction Crisis
   J. A. Thomas, M. G. Telfer, D. B. Roy, C. D. Preston, J. J. D. Greenwood, J. Asher, R. Fox, R. T. Clarke, and J. H. Lawton
p. 1879-1881.
Impact of Nitrogen Deposition on the Species Richness of Grasslands
   Carly J. Stevens, Nancy B. Dise, J. Owen Mountford, and David J. Gowing
p. 1876-1879.
ECOLOGY:
Naturalists' Surveys Show That British Butterflies Are Going, Going ...

   Elizabeth Pennisi
p. 1747.

光の基準 (Standard Optics)

可視光周波数域で1オクターブ以上に渡る“光コム” (規則的に並んだ櫛の歯ような スペクトルを持った光)生成の最新の成果は、周波数標準、光学時計、光周波数計 測技術等の幅広い応用可能性を示している。Maらは(p.1843)周波数制御性や精度 の比較を数台のフェムト秒レーザーから得られた結果をもとに行い、フェムト秒 レーザーの種類や周辺環境に依存せず、10 -19にもおよぶ高い精度で周 波数が決定できることを見出した。このような安定した技術は周波数メトロロジー での幅ひろい応用が期待できる。(NK,nk)
Optical Frequency Synthesis and Comparison with Uncertainty at the 10-19 Level
   Long-Sheng Ma, Zhiyi Bi, Albrecht Bartels, Lennart Robertsson, Massimo Zucco, Robert S. Windeler, Guido Wilpers, Chris Oates, Leo Hollberg, and Scott A. Diddams
p. 1843-1845.

黒ずんだ境模様の陰影(A Darker Shade of Pale)

明暗の縞模様における羽毛の変異は数多くの鳥の種に存在している。この起源と進 化に関しては、色の変化が連れ合いの選択に影響することが知られているが故に関 心がもたれている。Mundyたち(p. 1870;HoekstraとPriceによる展望記事を参照)は この変異の遺伝的な基礎を見出し、ハクガンと北極トウゾクカモメという無関係な 二種の鳥で同じものであることを見つけた。彼らはこの変異を用いて、羽毛タイプ の起源に関する年代を推定し、このような形質が淘汰というよりむしろ突然変異に よってもたらされた進化であり、比較的新しいものであることを見出した。このよ うな結果は、単一の遺伝子がさまざまな紋様への影響をもたらしていることを示し ている。(KU)
EVOLUTION:
Parallel Evolution Is in the Genes

   Hopi E. Hoekstra and Trevor Price
p. 1779-1781.
Conserved Genetic Basis of a Quantitative Plumage Trait Involved in Mate Choice
   Nicholas I. Mundy, Nichola S. Badcock, Tom Hart, Kim Scribner, Kirstin Janssen, and Nicola J. Nadeau
p. 1870-1873.

超剪断(Supershear)を見る(Seeing Supershear)

超剪断(Supershear)では、破壊は物質の剪断波の速度よりも早く伝播する。この超 剪断は大きな地震で観測されてきており、予想外の様子で地面の運動を強めること がある。Xia たち (p.1859; Ohnaka による展望記事を参照のこと) は、巨大地震を 模擬して、遠方場応力にさらされた非粘着性で摩擦を有する界面での衝撃剪 断(supershearrupture)の室内実験を行い、自然発生的な核形成と衝撃剪断の伝播を 直接観察することに成功した。その実験では、超剪断への遷移はこれまでのモデル が示唆してきたものよりは、単方向性応力により強く依存していることが示唆され ている。地震に対しては、破壊長さは比較的長いことが必要で、超剪断を発生させ るには、地殻の応力レベルは、静的断層の強さに近い必要がある。(Wt,og,nk)
GEOPHYSICS:
Rupture in the Laboratory

   Mitiyasu Ohnaka
p. 1788-1789.
Laboratory Earthquakes: The Sub-Rayleigh-to-Supershear Rupture Transition
   Kaiwen Xia, Ares J. Rosakis, and Hiroo Kanamori
p. 1859-1861.

ハエにおける多様性を数える(Counting Diversity in the Fly)

近年、無脊椎動物、特にショウジョウバエに存在する先天性の免疫経路に関して多 くのことが知られるようになり、これらの結果はほ乳動物で浮上している先天性の 免疫経路の解明に役立っている。先天性の免疫とは別に、ほ乳動物は適応性の免疫 系を持っており、幾つかのタンパク質の高度な多形性と病原菌を処理する手段とし ての多様な受容体を作る能力が進化してきた。Lazzaroたち(p. 1873)は野生型のキ イロショウジョウバエの集団において、先天性の免疫系タンパク質をコードしてい る特殊な遺伝子も多形性であることを観察している。この発見はある種の細菌感染 を処理するハエの異質能力と関係している。(KU)
Genetic Basis of Natural Variation in D. melanogaster Antibacterial Immunity
   Brian P. Lazzaro, Bonnielin K. Sceurman, and Andrew G. Clark
p. 1873-1876.

射出戦略(Exit Strategies)

光励起後の分子解離時、そのフラグメントは好ましい反跳角度を取りやすい。配向 性を持たない分子の研究によって、分子フラグメントが分子軸に対して平行か、あ るいは垂直に飛んで行くとき,その解離プロセスに関する洞察が可能となるが、よ り一般的な中間的角度の場合ではあいまいな推察となりやすい。Rakitzis たち(p. 1852)は、6極子(hexapole)のトラップ中にOCS分子の方向を揃え,フラグメント の映像化によりCOフラグメントの符号とふれ角を決定した。彼らは、COフラグメン トがレーザーの偏光方向に優先的に飛び出すことを示している。これはOCS分子の永 久双極子方位(概略炭素原子から硫黄原子への方向)から135度外れている。(hk)
Directional Dynamics in the Photodissociation of Oriented Molecules
   T. Peter Rakitzis, Alrik J. van den Brom, and Maurice H. M. Janssen
p. 1852-1854.

砂塵と海洋(Dust and Seas)

1930年代に砂塵あらしに見舞われた米国中西部の「黄塵地帯(Dust Bowl)」旱魃にお けるひどい乾燥条件が、非常に広範な領域でそんなにも長く続いたのはどうしてだ ろうか? Schubertたちは、大気-陸上の一般循環モデルを用いて、主たる原因が、 当時広まっていた異常な熱帯性海洋表面温度(SSTs: sea surfacetemperatures)の組 み合わせ、つまり大西洋が温かく太平洋が冷たいという状態、であったことを示し ている(p. 1855)。おおむね樹木の年輪から得られる代用指標は、これと似た苛酷な 乾燥が、過去400年にわたって、1世紀に一度か二度起きていたことを示している。 同様の現象がまもなく起きるかどうかは不透明である、と著者たちは言っている が、それは気候モデルではいまだに今後1年かそこら程度しか、SSTの詳細な予測が できないからである。(KF)
On the Cause of the 1930s Dust Bowl
   Siegfried D. Schubert, Max J. Suarez, Philip J. Pegion, Randal D. Koster, and Julio T. Bacmeister
p. 1855-1859.

5人組(A Gang of Five)

地球上の生命は、太陽エネルギーを光合成の過程で化学エネルギーに転換すること によって支えられている。光子は、炭素を含む二酸化炭素などの化合物を、水から 抽出された電子を付加することで還元して糖にするのに利用される。その結果とし て、副生物として酸素が遊離されるのである。(その後、これらの糖を「燃やす」 ことによってエネルギーが取り出され、二酸化炭素と水が生み出されることで、こ のサイクルは完了することになる。)光合成系II(Photosystem II)は、水の分解を 触媒する巨大な、膜に埋め込まれたタンパク質複合体である。この酵素の中心に は、4つのMn原子と1つのCa分子を含む金属クラスターがある。Ferreiraたちは、こ のクラスターの構造を記述しているが、そこではMn分子のうち3個とCa分子が1つの 立方体の隣接しない角に配置されていて、それら原子を橋渡ししているオキシ・リ ガンドのうちの1つを介して、4番目のMn分子がその立方体に結びついているのであ る(p. 1831; またRutherfordとBoussacによる展望記事参照のこと) 。(KF)
BIOCHEMISTRY:
Water Photolysis in Biology

   A. W. Rutherford and A. Boussac
p. 1782-1784.
Architecture of the Photosynthetic Oxygen-Evolving Center
   Kristina N. Ferreira, Tina M. Iverson, Karim Maghlaoui, James Barber, and So Iwata
p. 1831-1838.

上下に動いたり、軸の周りを動いたり(Moving Up, Down, and Around)

分子シャトルは、pHといった条件の変化に応じて棒状分子に沿って環状成分が二つ の認識サイト間を動くことによって作られる。Badjicたち(p. 1845)は、分子シャ トルにより上下に動くような分子プラットフォームを創った。認識サイトを含む三 つの棒状分子が中心のコアから足のように拡がっており、芳香族コアについた三つ の大環状の環を含む分子が個々の足に一つの環が滑り込んで、可動性のプラット フォームを作る。酸-塩基の条件を変えると、段階的な形で二セットの認識サイト間 を環が動き回る。サイト間のこのような往復運動は無限に繰り返すことが可能であ る。この可動性のプラットフォームは、各々のディメンジョンにおいて僅か数ナノ メートルぐらいの広がりであり、このプラットフォームが7オングストローム動く際 に、酸-塩基反応のエネルギーに基づくと、200ピコニュートンに匹敵する力を発生 する。回転運動に対する分子制御の研究において、Hawthorneたち(p. 1849)は金属 錯体を再調査して、電子伝達や光励起プロセスによりこの金属錯体が段階的な回転 運動を行っていることを示している。ニッケル原子が二つのジカルボリ ド(B9C2H112−)配位子でサンド イッチされており、各々は金属に対して3個のホウ素原子と2個の炭素原子からなる5 角形の面を向けている。炭素原子へのアルキル基の導入によエネルギー障壁ができ て、配位子の自由な回転を妨げ、その相対的な回転角を144度に制限している(それ 故に、時間に関する配位子の正味の回転は存在しない)。回転障壁に関する理論計算 により、この光励起のエネルギーを用いるとより大きな構造体を動かすことができ る。(KU)   
Electrical or Photocontrol of the Rotary Motion of a Metallacarborane
   M. Frederick Hawthorne, Jeffrey I. Zink, Johnny M. Skelton, Michael J. Bayer, Chris Liu, Ester Livshits, Roi Baer, and Daniel Neuhauser
p. 1849-1851.
A Molecular Elevator
   Jovica D. Badjic, Vincenzo Balzani, Alberto Credi, Serena Silvi, and J. Fraser Stoddart
p. 1845-1849.

1918年のインフルエンザ成分の構造(Structure of 1918 Flu Components)

第一次世界大戦の末に起こったインフルエンザの世界的な流行により、死者が2000 万人を越えた。ウイルス感染の第一段階、つまり受容体結合と内部移行と細胞内膜 融合は赤血球凝集素(HA)というウイルスの膜糖タンパク質によって仲介される。最 近、1918年のインフルエンザウイルスゲノムのセグメントの核酸配列が、アラスカ の永久凍土層によって保存されていた試料から同定され、この配列を用いて1918年 のHAタンパク質を再現することが可能となった。Gamblinたち(p 1838)は、1918年の ウイルスからのHAの結晶構造、および2つの関連しているHAの結晶構造を発表した。 この関連しているHAは受容体の類似体との複合体である。Stevensたち(p 1866) は、1918年のHAの非切断前駆物質の構造を記述している。このタンパク質は、以前 に主に鳥インフルエンザのウイルスにおいて観察された構造上の特徴を示す。特に 注目すべきは、受容体の結合部位は鳥インフルエンザのウイルスのアミノ酸配列の 特徴を保持しており、ヒトの受容体と相互作用できるので、何故トリウイルスがヒ トで伝染しうるのかを説明するのである(Holmesによる展望記事参照)。(An)
VIROLOGY:
Enhanced: 1918 and All That

   Edward C. Holmes
p. 1787-1788.
Structure of the Uncleaved Human H1 Hemagglutinin from the Extinct 1918 Influenza Virus
   James Stevens, Adam L. Corper, Christopher F. Basler, Jeffery K. Taubenberger, Peter Palese, and Ian A. Wilson
p. 1866-1870.
The Structure and Receptor Binding Properties of the 1918 Influenza Hemagglutinin
   S. J. Gamblin, L. F. Haire, R. J. Russell, D. J. Stevens, B. Xiao, Y. Ha, N. Vasisht, D. A. Steinhauer, R. S. Daniels, A. Elliot, D. C. Wiley, and J. J. Skehel
p. 1838-1842.

機能的勾配を明確に(Functional Gradients Revealed)

細胞運動性から細胞分裂時の染色体の分配に至るまでの多様な生理学的プロセス は、機能的に活性なタンパク質勾配の推定された存在によって説明されてき た。Niethammerたち(p 1862)は、チューブリン結合タンパク質stathminにおける定 常状態でのリン酸化勾配の存在を観察した。この勾配は、間期には運動性細胞の膜 状仮足に存在し、有糸分裂時には凝縮した染色体の周りに存在していた。両者の場 合において、勾配は局在化したリン酸化酵素と拡散性ホスファターゼの活性の結果 であるらしく、分極した微小管構造の生成に関与する。(An)
Stathmin-Tubulin Interaction Gradients in Motile and Mitotic Cells
   Philipp Niethammer, Philippe Bastiaens, and Eric Karsenti
p. 1862-1866.

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