AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 27, 2004, Vol.303


抗原決定基の密度を増加させる(Increasing Epitope Densities)

ラミニンなどのタンパク質は、細胞の増殖と分化を増強することのできる特異的ペ プチド抗原決定基を呈示する。Silvaたちは、希釈された水溶液中で自己集合して、 もともとのタンパク質よりもずっと高密度(およそ1000倍)のラミニンの神経突起-促 進抗原決定基を呈示するナノファイバーを形成する分子を合成した(p. 1352)。この 高密度におかげで、マウスの神経の前駆体細胞の神経突起への試験管内での分化 は、星状細胞の形成を抑えながらほんの1日で促進されるのである。このナノファイ バー構造はまた、組織への注入部位から抗原決定基が受動拡散してしまうのを妨げ ている。(KF)
Selective Differentiation of Neural Progenitor Cells by High-Epitope Density Nanofibers
   Gabriel A. Silva, Catherine Czeisler, Krista L. Niece, Elia Beniash, Daniel A. Harrington, John A. Kessler, and Samuel I. Stupp
p. 1352-1355.

アマゾンにおける雲と煙(Clouds and Smoke in Amazonia)

バイオマスの燃焼は、主として熱帯や亜熱帯で生じるが、これはエアロゾル粒子を 発生する(Grafによる展望記事参照のこと)ことによって、雲の特性や気候に影響を 与える。Andreaeたちは、アマゾンにおけるバイオマスの燃焼によって作り出された エアロゾルがそこでの水循環にいかに影響を与えているかを明らかにする大気中で の直接測定の結果を報告している(p. 1337)。エアロゾルが高レベルだと、低高度で の降雨作用や洗い落とし効果が抑制され、煙の粒子は雲を超えて上昇して、自由対 流圏にまで到ることになる。このプロセスは雲に「煙っている」ような外観を与え る。こうした煙のようなエアロゾルとその雲量への影響によって、熱射量は変化 し、広い範囲への煙の移動が促進され、強い上昇気流や強い雷雨が引き起こされる のである。こうした効果による雲中の熱の再分配によって、その地域の大気の循環 は変化しうるのである。バイオマスの燃焼からくる煙の放熱効果の複雑さに関する より深い洞察は、Korenたちによって提供されている(p. 1342)。彼らはアマゾン流 域におけるtrade-cumulus雲、すなわちバイオマスの燃焼時期にこの領域でもっとも 普通に見られるはずの雲、の量の変化について衛星データを分析した。彼ら は、trade-cumulusの覆う範囲が、きれいな空気の場合での平均38%から、煙が多い 時期には0になることと、その結果雲が覆う領域が減ることによって、バイオマスの 燃焼でできる煙による日射の散乱が圧倒され、局所的な熱の出入りの差し引きが逆 になってしまうことを見出した。このことは、エアロゾルによる熱の排出が、蓄積 していく大気の温室ガスの効果にどうして対抗できないのか、また地球の平均表面 温度が過去1世紀にわたってどうして増加しているかを説明する助けになる可能性が ある。(KF,Ej,nk)
Measurement of the Effect of Amazon Smoke on Inhibition of Cloud Formation
   Ilan Koren, Yoram J. Kaufman, Lorraine A. Remer, and Jose V. Martins
p. 1342-1345.
Smoking Rain Clouds over the Amazon
   M. O. Andreae, D. Rosenfeld, P. Artaxo, A. A. Costa, G. P. Frank, K. M. Longo, and M. A. F. Silva-Dias
p. 1337-1342.
ATMOSPHERIC SCIENCE:
The Complex Interaction of Aerosols and Clouds

   Hans-F. Graf
p. 1309-1311.

散乱する星の光を再構成する(Organizing Scattered Starlight)

太陽とほぼ同じ質量を持つ T Tauri 星(およそ太陽質量と同じ質量)や、それらのよ り大きな兄弟である太陽の約10倍の質量をもつHerbig Ae/Be星(太陽の約10倍の質 量をもつ) のような若い恒星系はガスや塵に覆われているため、どのように形成さ れ発展するのかを知ることは困難である。Perrinたち(p. 1345)は、大気の揺らぎを 補正するレーザーガイド星補償光学系(LGSAO:laser guide star adaptive optics) を用いて、Herbig Ae/Be 星であるLkH198、LkH198-IR、及びLkH 233の周囲の塵やガ スの構造の画像を作成した。彼らは、双円錐星雲(biconical nebula)、ジェッ ト(jets)、及び星周円盤(circumstellar disk)に関して円盤モデルと一致する証拠 を見つけた。そのモデルでは、降着ガスエンベロープが角運動量保存則により回転 しつつ平らになっていく。このように、より質量が大きいHerbig Ae/Be星も、おそ らく低質量のT Tauri星(そして太陽)と同じようなプロセスで形成されているらし い。(TO,nk)
Laser Guide Star Adaptive Optics Imaging Polarimetry of Herbig Ae/Be Stars
   Marshall D. Perrin, James R. Graham, Paul Kalas, James P. Lloyd, Claire E. Max, Donald T. Gavel, Deanna M. Pennington, and Elinor L. Gates
p. 1345-1348.

生死の転写因子(Life or Death Transcription Factors)

転写因子とプロトオンコジーン c-Jun のレベルを厳密な制御により、細胞に対する その結果が、生存であったり、プログラム細胞死(アポトーシス)であるかをある程 度決定する。二つの独立なグループが、哺乳類の細胞中で、c-Jun の代謝回転を制 御するc-Jun に特異的なユビキチンリガーゼを同定した。Nateri たち (p.1374) は、ユビキチンリガーゼ複合体 SCFFbw7 により刺激された c-Jun の分解のキャラ クタリゼーションを行った。c-Jun の分解促進における SCFFbw7 経路の活動によ り、ニューロンは、それがなくては細胞死に至るであろう条件下でも生き残ること が可能となる。Wertz たち (p.1371)は、DCXhDET1-hCOP1 ユビキチンリガーゼ複合 体がc-Jun の分解をも促進し、それによって哺乳類の細胞がアポトーシスから保護 されうることを報告している。c-Junは多数の細胞のプロセスを制御しているため、 一つ以上のユビキチンリガーゼがc-Jun のレベルを制御していることは別に驚くに はあたらない。(Wt)
Human De-Etiolated-1 Regulates c-Jun by Assembling a CUL4A Ubiquitin Ligase
   Ingrid E. Wertz, Karen M. O'Rourke, Zemin Zhang, David Dornan, David Arnott, Raymond J. Deshaies, and Vishva M. Dixit
p. 1371-1374.
The Ubiquitin Ligase SCFFbw7 Antagonizes Apoptotic JNK Signaling
   Abdolrahman S. Nateri, Lluís Riera-Sans, Clive Da Costa, and Axel Behrens
p. 1374-1378.

最も小さな転写開始装置(Minimal Transcription Initiation Machinery)

転写の開始において、RNAポリメラーゼホロ酵素(RNAP)が鋳型のDNA鎖に近づけるよ うに、プロモータが「融解」する。このプロモータ融解のメカニズムは不明である --しかしながら、DNAの捩れ、DNAの屈曲、及び/或いは塩基のflipping(DNAへリック スから突き出た非鋳型の塩基の捕獲)という三つのモデルが提唱されてはいる --。Youngたち(p. 1382:deHasethとMilsenによる展望記事を参照)は、今回ごく小さ な部分が--大腸菌のコアポリメラーゼ分子の1/5の大きさよりも小さい--細菌の開始 因子と共にプロモータの融解を引き起こすことを示している。融解した状態の捕獲 と同時に、DNA結合が融解プロセスにおいて必須であった。塩基のflippingが最初の プロモータ融解に対して大きな役割を担っていることが明らかになった。原核生物 と真核生物の両者で、かつDNAの複製や修復において、似たようなプロセスが起こっ ている。(KU)
MOLECULAR BIOLOGY:
When a Part Is as Good as the Whole

   Pieter L. deHaseth and Timothy W. Nilsen
p. 1307-1308.
Minimal Machinery of RNA Polymerase Holoenzyme Sufficient for Promoter Melting
   Brian A. Young, Tanja M. Gruber, and Carol A. Gross
p. 1382-1384.

ナノベルトがリングに(Nanobelts Come Full Circle)

酸化亜鉛(ZnO)のような酸化物半導体からなるナノベルト(厚さ10〜30 nm,幅100 nm)が合 成されている。最近の研究で、ナノベルト表面は帯電しており、その静電 相互作用により自発的にばねのような螺旋状に成長することが明らかとなっ た。Kong等(p. 1348; Korgelの展望記事参照)は成長条件を制御することで、ZnO ナノスプリングの螺旋ピッチが密になったナノリングが合成可能であることを示し た。透過型電子顕微鏡を用いてこの成長メカニズムを解析した結果、成長する結晶 軸の違いによって説明できることを明らかにした。(NK)
MATERIALS SCIENCE:
Self-Assembled Nanocoils

   Brian A. Korgel
p. 1308-1309.
Single-Crystal Nanorings Formed by Epitaxial Self-Coiling of Polar Nanobelts
   Xiang Yang Kong, Yong Ding, Rusen Yang, and Zhong Lin Wang
p. 1348-1351.

カルシウム依存の窒素固定法(How Nitrogen Fixation Depends on Calcium)

マメ科の植物は根粒菌の窒素固定細菌と菌根の菌と共生関係を形成している。これ らの菌は宿主植物の根の小結節に棲みついている。結節形成は、Nod因子と呼ばれる 根粒菌の信号により豆類の根に誘発される信号伝達経路に起因している。Aneた ち(p. 1364)とLevyたち(p. 1361)による二つのレポートは、マメ科植物である Medicago truncatulaからの結節形成の最も早い段階に関与する遺伝子を明らかにし ている。この遺伝子の一つはカルシウムとカルモジュリン依存性のタンパク質キ ナーゼをコードしており、もう一つはリガンド制御型カチオンチャネルをコードし ている。このように、カルシウム信号伝達が植物ー微生物の良き共生確立のために 重要であることが明らかである。(KU,)
A Putative Ca2+ and Calmodulin-Dependent Protein Kinase Required for Bacterial and Fungal Symbioses
   Julien Lévy, Cécile Bres, René Geurts, Boulos Chalhoub, Olga Kulikova, Gérard Duc, Etienne-Pascal Journet, Jean-Michel Ané, Emmanuelle Lauber, Ton Bisseling, Jean Dénarié, Charles Rosenberg, and Frédéric Debellé
p. 1361-1364.
Medicago truncatula DMI1 Required for Bacterial and Fungal Symbioses in Legumes
   Jean-Michel Ané, György B. Kiss, Brendan K. Riely, R. Varma Penmetsa, Giles E. D. Oldroyd, Céline Ayax, Julien Lévy, Frédéric Debellé, Jong-Min Baek, Peter Kalo, Charles Rosenberg, Bruce A. Roe, Sharon R. Long, Jean Dénarié, and Douglas R. Cook
p. 1364-1367.

はるか遠くの有機塵(Distant Organic Dust)

星間空間における低温分子雲(cold molecular cloud)内で有機物質が生じ、水素、 炭素、窒素の特徴的な同位体分別(isotopic fractionations)を行っている可能性が ある。水素と窒素の同位体異常は惑星間塵粒子(interplanetary dust particle)中 に見つかっているが、これと対応する炭素同位体異常はまだ掴まえられていな い。Floss たち(p.1355)は、このほど無水(anhydrous)の惑星間塵粒子中 で13Cの減少を伴う15Nの濃縮を計測した。この結果は、こ うした有機物質が星間空間の星雲から発生したことを示唆している。(TO,nk)
Carbon and Nitrogen Isotopic Anomalies in an Anhydrous Interplanetary Dust Particle
   Christine Floss, Frank J. Stadermann, John Bradley, Zu Rong Dai, Sasa Bajt, and Giles Graham
p. 1355-1358.

減数分裂変異体ライブラリー(Meiosis Mutant Library)

減数分裂(すなわち半数体配偶子の生成)を、正常な有糸細胞分裂のプロセスと区 別するメカニズムを調べるため、Marstonたち(p. 1367)は、染色体分離の欠損を 示した出芽酵母の変異体について大規模スクリーニングを行った。スクリーニング において同定された3つの遺伝子、Sgo1、Chl4、およびIml3は動原体で娘染色分体を まとめ、それにより減数分裂第Iの間に不適切な染色分体分離が生じることを防止 し、後期IIの開始まで動原体凝集を保持するために重要であった。スクリーニング からその他の変異体を解析することにより、減数分裂細胞分裂周期の制御への洞察 がさらにもたらされるだろう。(NF)   
A Genome-Wide Screen Identifies Genes Required for Centromeric Cohesion
   Adele L. Marston, Wai-Hong Tham, Hiral Shah, and Angelika Amon
p. 1367-1370.

ここから出してくれ(Let Me Ou

在郷軍人病は、維持・管理が不完全な水、および空気調整システムと関連した恐ろ しい呼吸器感染である。レジオネラの天然の宿主が水生アメーバであるため、その ような劣悪な環境中で存続することができ、ヒトは汚染されたエアロゾルと接触す る場合に感染する。分散してヒト細胞に感染するために、バクテリア、Legionella pneumophilaは、宿主アメーバから脱出しなければならない。これまでは、L. pneumophilaがほ乳動物・原生動物宿主細胞中の特殊化小胞中で増殖すること、そし てIV型Icm/Dot分泌システムがこの特殊化小胞の形成・維持に必須であることしか知 られていなかった。Chenたち(p. 1358)は、L. pneumophilaゲノム中で、いわゆる エフェクター遺伝子を探した。この遺伝子の産物は、感染・拡散経路に関与してい る可能性がある。バクテリアにおける2種類の推定エフェクター、lepAおよびlepB は、膜トラフィッキングにおいて重要なほ乳動物SNAREタンパク質と類似していた。 特殊化分泌システムは、Lepタンパク質をバクテリアが存在する細胞内小胞から外に 出し、そして宿主細胞細胞質中へ輸送する。次いで、これらのエフェクターは原生 動物の細胞外排出(エキソサイトーシス)膜トラフィッキング経路を奪い取り、バ クテリアを放出するようである。(NF)
Legionella Effectors That Promote Nonlytic Release from Protozoa
   John Chen, Karim Suwwan de Felipe, Margaret Clarke, Hao Lu, O. Roger Anderson, Gil Segal, and Howard A. Shuman
p. 1358-1361.

膵臓を特定(Specifying Pancreas of Liver)

組織特異性がどのようにして確立され、そして維持されるかを理解するため に、Odomたち(p. 1378;KulkarniとKahnによる展望記事を参照)は、ヒト肝細胞お よび膵島細胞において転写因子HNF1、HNF4、およびHNF6により制御される遺伝子を 調べた。マイクロアレイ、および免疫沈降解析を使用して、HNF4が活発に転写され ている遺伝子のうちのほぼ半数と結合することを明らかにした。HNF6は、持続的入 力に対する感受性に関与する制御モチーフと関連した。これらのHNF転写制御因子が 存在しないと、ある種の糖尿病が生じる可能性があり、したがってこれらの回路を 理解することにより、この疾患を将来治療することの補助となる可能性があ る。(NF)
MOLECULAR BIOLOGY:
HNFs--Linking the Liver and Pancreatic Islets in Diabetes

   Rohit N. Kulkarni and C. Ronald Kahn
p. 1311-1312.
Control of Pancreas and Liver Gene Expression by HNF Transcription Factors
   Duncan T. Odom, Nora Zizlsperger, D. Benjamin Gordon, George W. Bell, Nicola J. Rinaldi, Heather L. Murray, Tom L. Volkert, Jörg Schreiber, P. Alexander Rolfe, David K. Gifford, Ernest Fraenkel, Graeme I. Bell, and Richard A. Young
p. 1378-1381.

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