AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 13, 2004, Vol.303


細胞間コミュニケーションの経路?(Intercellular Communication Route?)

哺乳類の細胞は、さまざまな方法で互いに相互作用する。たとえば、ホルモンや成 長因子などの拡散性のメッセンジャーの分泌と結合によったり、くっついた細胞同 士の間でギャップ接合を介して、などである。Rustomたちはこのたび、細胞-細胞コ ミュニケーションの独立した形態を表す可能性のある、トンネル効果ナノチューブ と彼ら自身が名付けたものについて記述している(p. 1007)。さまざまなタイプの細 胞から得られる細胞培養物において、彼らは細胞間を結びつける細い小管の形成を 観察した。この脆弱なアクチンに富んだ構造は、一つの細胞から別の細胞に一方向 に、膜の要素を輸送していることが観察された。この小管はエンドサイトーシス由 来の小胞(vesicles)の通過は許したが、ミトコンドリアのようなそれ以外の細胞小 器官は締め出し、またサイトゾル性タンパク質のかなりの伝達を許しているように は見えなかった。(KF)
Nanotubular Highways for Intercellular Organelle Transport
   Amin Rustom, Rainer Saffrich, Ivanka Markovic, Paul Walther, and Hans-Hermann Gerdes
p. 1007-1010.

薄い断熱層 (Thin Thermal Barriers)

断熱材は材料や精巧な機械を熱損傷から守る為に用いられたり、また急峻な温度勾 配を利用した熱起電技術への利用が検討されている。Costescu (p. 989)らは、数ナ ノメートル厚のタングステン層、およびアルミナ層からなる多層膜が高い断熱性を 示すことを見出した。高密度の界面が熱伝導を抑制しているものと考えられてお り、薄くて丈夫な断熱フィルムを実現する一手法になると期待される。(NK)
Ultra-Low Thermal Conductivity in W/Al2O3 Nanolaminates
   R. M. Costescu, D. G. Cahill, F. H. Fabreguette, Z. A. Sechrist, and S. M. George
p. 989-990.

矛盾と制御(Conflict and Control)

認知制御を行うさいに関与する脳のプロセスはどのように絡み合っているのだろう か?言い換えると、何が制御をコントロールしているのか?矛盾の仮説では、応答矛 盾に関するモニタリングが矛盾を克服して効率的に行うために必要な制御プロセス を行う信号として作用していることを述べている。心理学テストと機能的磁気共鳴 映像法の研究を結びつけることにより、Kernsたち(p. 1023:MatsumotoとTanakaによ る展望記事参照)は、前側帯状皮質における活性がパフォーマンスの変化と前頭葉前 部皮質の活性の変化を予測していることを見出した。この結果は前側帯状皮質が制 御の割付を担っているのではなく、むしろ不十分な制御が割り当てられたときその 後に続く矛盾のモニタリングを行っていることを示唆している。(KU)
NEUROSCIENCE:
Enhanced: Conflict and Cognitive Control

   Kenji Matsumoto and Keiji Tanaka
p. 969-970.
Anterior Cingulate Conflict Monitoring and Adjustments in Control
   John G. Kerns, Jonathan D. Cohen, Angus W. MacDonald III, Raymond Y. Cho, V. Andrew Stenger, and Cameron S. Carter
p. 1023-1026.

パッキングのリーダー(Leader of the Packing)

粒子のパッキングは、粒子形状や大きさとともに、パッキングが秩序だったもの か、無秩序なものかにも依存している。例えば、球状粒子は、結晶構造でパッキン グされると、最大空間の 74% を充填するが、もし、それらが無秩序状態にあると、 たった 64% しか埋めることしかできない。楕円体の結晶構造的なパッキングは、球 に対するものとほとんど同じ効率であるが、Donev たち (p.990; Weitz による展望 記事を参照のこと) は、無秩序に詰め込まれた状態に対しては、楕円体は球よりも より密にパッキングされ、結晶状態の密度に匹敵することを示している。その観察 結果は、シミュレーションと、M&M のキャンディーを用いた実験から得られたもの である。(Wt)
PHYSICS:
Packing in the Spheres

   David A. Weitz
p. 968-969.
Improving the Density of Jammed Disordered Packings Using Ellipsoids
   Aleksandar Donev, Ibrahim Cisse, David Sachs, Evan A. Variano, Frank H. Stillinger, Robert Connelly, Salvatore Torquato, and P. M. Chaikin
p. 990-993.

エタノールからの水素(Hydrogen from Ethanol)

エタノールは新たに見直されたエネルギー源であるが、バイオマスソースからのエ タノールを燃焼用燃料として用いるには、エネルギー的に高くつく過剰な水の除去 が必要となる。Deluga たち (p.993; Cho によるニュース解説を参照のこと) は、 ロジウム、あるいは ロジウム-セリウム 触媒上の高速部分酸化により、水分を含む エタノールから水素を生成する方法を記述している。その反応は、およそ 700℃ で 作動するが、そのプロセスは発熱反応であるため、反応を進めるためには、開始混 合物のみ、およそ 140℃ まで熱することが必要である。副生成物 は、CO2のみで、H2の一部は、実際のところは水に由来して いる。このような、「搭載」液体燃料のH2への変換の利用は、燃料電池 車の H2貯蔵のひとつの代替手段となりうる。(Wt)
RENEWABLE ENERGY:
Hydrogen From Ethanol Goes Portable

   Adrian Cho
p. 942-943.
Renewable Hydrogen from Ethanol by Autothermal Reforming
   G. A. Deluga, J. R. Salge, L. D. Schmidt, and X. E. Verykios
p. 993-997.

所詮は大差なし(Not So Different After All)

植物学者と動物学者は生殖系の進化に関して同じような基本的問題を追及してお り、受精や受粉の後に起こる事象の多くは似たような進化の面での結果を引き起こ す。生命のサイクルにおけるこの段階において、様々な進化の上での利点を持った プレーヤたち(競い合う雄、雌親、配偶体、配偶子、及び接合子)は接触し、協力や 闘争の機会が増す。Bernasconiたち(p. 971)は、動物と顕花植物の間の潜在的な類 似性と差異を確かめ、近年の大きな進歩に関して要約し、両分野における当面の大 きな課題に関しての概要を記述している。(KU)
Evolutionary Ecology of the Prezygotic Stage
   G. Bernasconi, T.-L. Ashman, T. R. Birkhead, J. D. D. Bishop, U. Grossniklaus, E. Kubli, D. L. Marshall, B. Schmid, I. Skogsmyr, R. R. Snook, D. Taylor, I. Till-Bottraud, P. I. Ward, D. W. Zeh, and B. Hellriegel
p. 971-975.

地上の風(Winds Below)

海洋表面の風に関する詳細な観察は、天気予報の改善や海洋上層部プロセスの理解 に役立つものである。しかしながら、海洋で行われている海洋表面風の直接的測定 は比較的に乏しい。直接的な測定に代わるものが衛星による海洋表面のレーダ測定 であり、それによって海洋表面を吹く風の速さと方向を計算することが出来る。こ の方法は空間的、及び時間的に優れた分解能のある解析--全世界の90パーセントを 空間分解能25 kmで24時間毎にカバーする--を提供し、ブイを用いて測定されたもの と同等の優れた風の速さと方向に関する推定を与えている。Cheltonたち(p. 978:Kellyによる展望記事参照)は、QuikSCAT satellite radar scatterometer に よって集められた3年間に及ぶデータ解析を提供している。彼らは大陸近傍の山岳の 影響や海洋における海の表面温度の差から生じる微細な規模での特徴を見出してい る。(KU,nk)
ATMOSPHERIC SCIENCE:
Wind Data: A Promise in Peril

   Kathryn A. Kelly
p. 962-963.
Satellite Measurements Reveal Persistent Small-Scale Features in Ocean Winds
   Dudley B. Chelton, Michael G. Schlax, Michael H. Freilich, and Ralph F. Milliff
p. 978-983.

率直に見た転写(Transcription in Plain View)

真核生物における転写の開始には、遺伝子プロモータにおける、RNAポリメラーゼ II(pol II)と5つの一般的転写制御因子によって構成された大きな複合体の組み立て が関わっている。そのうち、転写制御因子TFIIBは、プロモータDNAとpol IIとの間 を橋渡しする際に役割を果たしている。Bushnellたちは、10-サブユニット酵母RNA のpol IIとTFIIBの複合体の構造を4.5オングストロームの分解能で決定し た(p.983)。他の4つの転写制御因子、TFIIDとTFIIE、TFIIF、TFIIHに関する入手可 能な構造情報を用いることで、彼らは、転写開始複合体についてのほとんど完全な モデルを提唱している。Westoverたちは、合成DNAとRNAオリゴヌクレオチドとの複 合体中にあるpol IIの3.6オングストロームでの構造を介して、転写そのものについ ての新しい洞察を提示している(p. 1014)。その構造は、転写中にRNA転写物がDNAテ ンプレートからどのようにして分離しているかを明らかにしているのである。(KF)
Structural Basis of Transcription: Separation of RNA from DNA by RNA Polymerase II
   Kenneth D. Westover, David A. Bushnell, and Roger D. Kornberg
p. 1014-1016.
Structural Basis of Transcription: An RNA Polymerase II-TFIIB Cocrystal at 4.5 Angstroms
   David A. Bushnell, Kenneth D. Westover, Ralph E. Davis, and Roger D. Kornberg
p. 983-988.

熱帯雨林は保護されているのか?(Protecting the Rain Forest?)

フィールド調査や空中視察、及びリモートセンシング調査を組み合せることによ り、Curranたち(p.1000)は、インドネシアのボルネオ(Kalimantna)保護地域に残さ れている低地熱帯雨林の空間的な拡がりと分布の量を測った。数百万ヘクタールの 低地森林の保全林地域は、主に国家の方針による伐採により、1985年より減少を続 けている。Kalimantanの保全林地域は、近年とみに激しく伐採されているため、こ の生物の多様なホットスポットは、取り返しのつかない生態環境の破壊を被ってい る。(TO)   
Lowland Forest Loss in Protected Areas of Indonesian Borneo
   L. M. Curran, S. N. Trigg, A. K. McDonald, D. Astiani, Y. M. Hardiono, P. Siregar, I. Caniago, and E. Kasischke
p. 1000-1003.

開花時期の調節(Controlling Flowering Time)

植物が、どのようにして日長をはかるか、そしてどのようにしてそれを使用して開 花を季節の変わり目に同調させるか、という問題は、1920年代に光周性が初めて記 載されて以来、幅広い興味の対象である。最近、シロイヌナズナ(Arabidopsis) およびコメをモデルとして使用することにより、裏付けとなるメカニズムを理解す る上での大きな前進がなされた。シロイヌナズナにおいて、CONSTANS転写因子は、 長日に特異的に反応して開花を促進する。Valverdeたち(p. 1003;KlejnotとLin により展望記事を参照)は、光受容体がCONSTANS転写因子の産生を調節し、それに よりCONSTANSレベルがタンパク質分解により夜間のあいだに減少し、そして昼間の あいだはこの転写因子が安定するため増加することを示した。このように、彼ら は、転写後レベルでのCONSTANSの制御を研究することにより、ある新しい階層の調 節メカニズムを同定した。(NF)
PLANT SCIENCES:
A CONSTANS Experience Brought to Light

   John Klejnot and Chentao Lin
p. 965-966.
Photoreceptor Regulation of CONSTANS Protein in Photoperiodic Flowering
   Federico Valverde, Aidyn Mouradov, Wim Soppe, Dean Ravenscroft, Alon Samach, and George Coupland
p. 1003-1006.

原始凝集物(Primordial Condensates)

太陽系星雲に出来た最初の固体粒子は、多分1500ケルビン以上の高温ガスから直接 凝集したものと考えられている。Packたち(p. 997)は、2つの普通コンドライト中 に希土類元素の組成比異常を見つけた。この組成比異常は多分凝縮過程で均一な元 素分化が生じたためであろう。この希土類の量から、粒子は酸素に比べて炭素の元 素比の方が高い還元性ガスから生成したことが推察される。これら初期の凝集物か ら、太陽系星雲は不均一であり、ある時期には、星間物質に由来すると思われる炭 素濃度が高いガスや塵を含んでいた。(Ej,nk,tk)
Chondrules with Peculiar REE Patterns: Implications for Solar Nebular Condensation at High C/O
   Andreas Pack, J. Michael G. Shelley, and Herbert Palme
p. 997-1000.

数だけでなく、型も(Not Only How Many, But What Type)

中枢神経系の前駆細胞において、Wntシグナル伝達が、細胞増殖に影響を与えること が報告された。Leeたち(p. 1020;Bronner-Fraserによる展望記事を参照)はここ で、マウスの神経堤細胞において、本質的に活性なβ-カテニン遺伝子の条件付き発 現を調べた。以前に見いだされた細胞増殖作用とは対照的に、変異体マウスの解析 により、神経堤細胞は適切に移動するが、他の神経堤細胞型を犠牲にして、感覚 ニューロンに分化することが示された。この研究から、Wntシグナル伝達に関して、 感覚ニューロンの運命を助長する上で予期しなかった役割が示唆される。(NF)
DEVELOPMENT:
Making Sense of the Sensory Lineage

   Marianne Bronner-Fraser
p. 966-968.
Instructive Role of Wnt/ß-Catenin in Sensory Fate Specification in Neural Crest Stem Cells
   Hye-Youn Lee, Maurice Kléber, Lisette Hari, Véronique Brault, Ueli Suter, Makoto M. Taketo, Rolf Kemler, and Lukas Sommer
p. 1020-1023.

成長期の軸索はAPCが必要(Growing Axons Need APC)

核分裂後期-促進性複合体(APC)は、有糸分裂のサイクリン類の分解を促進するユ ビキチンリガーゼとして作用するため、細胞が有糸分裂を終了する際に重要な働き をしている。それでは、なぜAPCが、細胞周期を二度と起こさない細胞であるニュー ロンにおいて非常に発現されているのだろうか?Konishiたち(p. 1026)は、 ニューロンにおけるAPCの機能を調べ、そして軸索成長を促進するが、樹状細胞増殖 は促進しないことを見いだした。発生中のラット小脳においてAPCのレベルが減少す ると、軸索の成長および平行繊維のパターン形成が影響を受けた。ミエリンは通常 は軸索成長を阻害する物質であるが、APCが欠失すると、初期ニューロンがミエリン 上に軸索を進展させることができる。従って、ニューロン中のAPCは、発生および軸 索成長に重要であり、そして成人脳における損傷軸索の成長を抑制する際にも重要 である可能性がある。(NF)
Cdh1-APC Controls Axonal Growth and Patterning in the Mammalian Brain
   Yoshiyuki Konishi, Judith Stegmüller, Takahiko Matsuda, Shirin Bonni, and Azad Bonni
p. 1026-1030.

p53のサイトゾルへの役割(Cytosolic Role of p53)

p53という腫瘍サプレッサーのタンパク質は、腫瘍細胞のアポトーシスを促進す る。p53は転写制御因子として機能するが、核内での影響に無関係な重要なサイトゾ ルへの影響も与えているようである。Chipukたち(p 1010)は、p53がプロアポトーシ スのタンパク質Baxを用いて、ミトコンドリアの透過化処理を直接的に増強すること を発見した。試験管内、あるいは形質移入した細胞でも、p53がプロアポトーシスの タンパク質を遊離させる。通常、このタンパク質はアンチアポトーシスのタンパク 質Bcl-xLに結合することによって隔離されている。p53のサイトゾルへの影響は、機 能的に重要なようである。なぜなら、p53の核輸送とそれによる転写調節が遮断され た細胞においても、なおp53がアポトーシスを促進していた。(An)
Direct Activation of Bax by p53 Mediates Mitochondrial Membrane Permeabilization and Apoptosis
   Jerry E. Chipuk, Tomomi Kuwana, Lisa Bouchier-Hayes, Nathalie M. Droin, Donald D. Newmeyer, Martin Schuler, and Douglas R. Green
p. 1010-1014.

Forkheadと自己免疫(Forkhead and Autoimmunity)

転写制御因子のforkheadファミリは、多様なシステムに関与する。Foxj1という forkheadファミリーメンバーは、免疫系において役割を果たしていると考えられて いるが、この因子の遺伝的欠失は致死的なので、直接的な生体内分析は困難であ る。この問題を超えるために、Linたち(p 1017)は、Foxj1欠失の影響を研究できる ようなマウスのキメラ系をつくった。このキメラでは、Foxj1-/- T細胞の炎症性サ イトカイン発現が異常に多くなり、最終的には全身の自己免疫を引き起こす。Foxj1 によるサイトカイン生成の正常な抑制は、NFκBという転写活性化因子の抑制による が、これはIκBという抑制性NFκB補助因子の上方制御によるのかも知れない。(An)
Modulation of Th1 Activation and Inflammation by the NF-kappa B Repressor Foxj1
   Ling Lin, Melanie S. Spoor, Andrea J. Gerth, Steven L. Brody, and Stanford L. Peng
p. 1017-1020.

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